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時間って?

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 私たちは、予定通りに事が運んだことで、今日は領地の屋敷で休むことにした。
 休むと言っても、屋敷や領地で問題はないかと侍従たちに聞くことにしたので、休みらしい休みにはならない。
 あと、探し物をする予定であったので、どれだけ睡眠時間が取れるか……と考えると、目頭を押さえてしまう。


「アンナリーゼ様、そろそろお休みください」
「うん、ありがとう。せっかく来たんだし……と思うと、あれもこれもしたくなるわね。
 そういえば、ココナ」
「何でしょうか?」
「社交時期が終わったら、少しこちらで滞在しようと思うの」
「えっ?屋敷には、近衛も受け入れるのです……こちらには……」
「いいわよ!それは私が無理を言っているのだし、気にしないわ!コーコナ領のことも知らないことが
 多いから、領地内をじっくり回りたいのよね」
「わかりました。それなら、ご用意いたします。どれくらい、滞在予定でしょうか?」


 うーんと考えていると、横から2ヶ月と声がかかる。
 私より先に答えを出したウィルに少しだけきつい視線を送るココナに苦笑いし、ウィルに理由を聞く。


「どうして、2ヶ月なの?」
「姫さん、他の領地も回って特産品も見たいって言ってたし、たぶん、間伐や土木工事も見たいって
 言うんだろ?」
「さっすが、よくわかってるね!」
「まぁ、だてに長い付き合いじゃないよね?」


 外を見ながら、ウィルは呟く。今日は満月に近いらしく、外が明るいようだ。
 そちらを私も見ると、大きな月ですねと呟くココナ。
 視線をココナに向けると、微妙な微笑みを返してきた。


「久しぶりに晴れたので……」
「ずっと雨とか曇りとかだったりしてる?」
「いえ、ここ1週間程は、雨が降ったりやんだりを繰り返していますが、ずっとではないです。
 アンバー領とは、少し気候が違うので、あちらとは天候は違うと思いますけど」
「確かに。アンバー領は、もう小春を通り越えて夏が来たかのようだったものね。この気候ってどこ
 から変わるかしら?」
「ちょうど、公都の前辺りで変わりますよ!気候というか、雲の流れる道が違う……そんな気もします
 が……」


 なるほどと思う。雲の流れが違うことで、アンバーとコーコナでは天気が違うようだ。
 ぼんやり眺める月の位置もだいぶ高くなっていることから、夜中なのだろう。
 ウィルに寝るよう促すことにした。


「ウィル、明日の朝は日が昇る前に出発するから、準備しておいて!今日は、しっかりベッドで眠って
 ちょうだい」
「はいはい、わかってるって。先に寝るよ。悪いんだけど、客間に案内してくれる?」
「でも、アンナリーゼ様が……」
「姫さんも程ほどにしとけよ!社交が終わってからでもいいことは、今日はしない。わかった?」
「わかったよ。私もそろそろ眠るわ!その前に、少しだけ、潜ってくる!」
「まぁ、それはいいんだけど……時間って?何時からなの?」
「謁見?」
「そう」


 私は腕を組んで、うーん、確か明日の21時からだったかな?とぼんやり言うとギョッとするウィル。
 明日のかなり詰め込まれた予定に、頭を抱えていた。


「そんなに深刻にならなくていいと思うよ?どうせ、待っているのは公だし。その前にジョージア様と
 セバスが話をつけてくれてあるから、今後の予定をどうするか伝えるだけでいいから……」
「それにしても、そんな時間?」
「本当にね?私には時間を選ぶことができるはずなんだけど……公から指定されたわ!たぶん、後に
 他の謁見があると、時間を押すから、1日の最後の謁見なんだろうけどね?」
「一応、一緒に行くのは、ノクト?」
「そのつもりだけど、ノクトもハニーアンバー店の事で動き回っているから、もしかしたら一人かも……」
「そしたら、俺が行くわ!おっさんいけないなら、言って。着替えてついて行く」
「ありがとう、そのときはよろしくね!今日は、もぅ、休んで!」


 私はおやすみというと、ココナに案内され執務室から出ていくウィルを見送る。


「ふぅ……いつもいつも、ウィルには助けられるな……私は、ウィルの役立つようなこと何もして
 いないのに、甘えすぎてるのは……自覚している」


 私はうんと頷くと、誰もいない執務室で、いつもありがとうと呟いた。
 ウィル本人には届かないかもしれないけど……ウィルだけじゃなく、ナタリーやセバスには本当に助けられている。
 私の我儘に付き合ってくれる友人たちに私は残りの人生で何を返せるのだろうか?満月に近い明るい月を見上げて、考えてみるけど……私に返せるものがあるのかは疑問であった。


「返せないかもしれないな……私。来世も生まれ変われないだろうから……永遠の借金ね!」


 ため息交じりに苦笑いをすると、私はダドリー男爵の隠し部屋へと向かった。
 意外と男爵とは、私は気があったのかもしれない。私も、隠し部屋に入っていくとホッとする。
 たくさんの書物の中から、男爵の手記をひとつ手に取ると、ソファに座って読み始めた。
 この本は、1度読んだことがある。災害に関することが書いてあるところで、独自に領地のことを調べたと書いてあった部分を読み返す。
 この部屋の何処かにある、その資料を漁りあてるための作業ではあるのだが、いつ読んでも思うことは、男爵は本当にこの領地のことを大切に思っていたことだ。


「本当に、違う出会い方をしていたら、いいお友達になれたと思うんだよね……敵対しないといけなく
 なったことが本当に残念ね。資料の位置は……っと」


 手記を閉じ元の場所に戻す。その代わりに、そこそこ分厚い本を取ると中を確認していく。
 アルカが見たら、喜びそうな調査内容が書かれていたので、探し求めていたものがあった。それを持って隠し部屋から出ていく。
 なんだか後ろ髪を引かれるようで、チラッと後ろを振り向き、閉じていく隠し扉が完全に閉まるのをただぼうっと見つめる。

 明日の朝、ココナにお願いしてアルカに渡してもらうよう手配する。
 少しでもリアノやアルカの計画に少しでも役に立つといいなと手紙を書き綴り、私も寝室へ向かう。
 あと数時間しかないが、ぐっすりねむるのであった。
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