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デリアさん、そろそろいいですか?

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 ネイトを出産してから、2ヶ月半。
 子どもたちとの時間がかなり長くとれ、ゆったり時間の流れる幸せを過ごしている。
 2年前は、アンジェラ一人に手を焼いていたのだが……今では五人の子どもの相手をしているのだ。
 私も成長しただろう!と胸をはると、デリアがボソッとこぼした。


「レオ様はもう手がかかりませんし、ミア様もアンジェラ様にはできるお姉さんだと思われたい一心で
 アンジェラ様の世話を小さいなりにしてますし……アンナ様が成長したのではなく、お子様たちが
 健やかに成長したのだと思いますよ!」


 ぐふ……痛い……痛い……デリアさん、痛いよ。私の成長も少しは……その目は、ないのね……肩をガクッと落として落ち込んでいますと表現すると、ため息が聞こえてきた。


「お母様、しゅき!」


 黒目黒髪の男の子だけが私を肯定してくれるようで、涙ぐましい。
 よいしょっと抱きおこすと、重くなったジョージにも成長を感じた。
 私がいなくても、こんなに成長するのか……と思うとやるせない。

 私は、領地の成長を見守る方で動き出した方がいいのかもしれない。
 それには、まず、体力作りからだ。
 最近、夜はレオとダンスのレッスンをしている。
 朝早くからウィルについて回っている日もあるので、時間的にはそれほど長い時間ではないので、全然体力が戻った!という感じはしていない。


 いつものように、アンジェラとジョージのお昼寝前の読み聞かせをする。
 アンジェラは、1冊読んだところでストンと眠りについてしまった。
 我が子ながら……いい昼寝っぷりだ。レオがまた抱えてベッドまで運んでくれている。
 ジョージとミアがもう1冊とせがむのでいつものように2冊目を読む。
 するとジョージはとろんと瞼を閉じ、私に寄りかかって寝てしまう。


 よほど、この時間が好きなのだろう。ずっと側から離れようとしない。
 その可愛らしい姿を見れば、自然と微笑みが溢れてくるようだ。

 そのあとは、レオとミアのマナーレッスンをする。
 まだ、ミアが小さいのでそれほど多くは教えられない。基本の基の字を教えるくらいしかできない。
 でも、ここが1番大事ではあるので、小さいころからマナーレッスンができる環境にあるのは、今後の社交界デビューに向かってかなり重要な時間ではあるのだ。
 ミアがお昼寝になってからが、レオとダンスレッスンとなり、本番といっていいほどだった。
 そうは言っても、まだ、ダンスの型を覚えるところで、組んで足を確認する程度しか練習ができないから正直物足りない。


「レオはさ、マナーレッスンのこと、どう思ってる?」
「マナーレッスンは、あんまり気が進みません。でも、父様は受けておいたほうがいいというので……」
「貴族には、こういった些細なものが、出世に繋がったりするからね。
 ウィルは1代限りの伯爵だからさ、養子であっても実子であってもレオには爵位がないのよ。
 だからこそ、自分の実力で爵位をとって欲しいと思っているのじゃない?」
「そうなのでしょうか?僕には、父様が何を考えているかわからないときがあります」
「うーん、経験値の違いね。私たちは、レオに比べれば、倍以上生きている。
 自分が困ったこととか、やっていて良かったことをウィルなりにレオやミアに伝えたい、そう思って
 いると思うわ!だからこそ、レオが興味ないマナーレッスンにも力を入れているのだと思うし。
 実際、社交の場やふとしたときに綺麗な所作は、人の目を引くのよ!」
「アンナ様にいわれても……って顔ですよ?レオ様」
「デリアさん……」
「レオ様もアンナ様と一緒に社交場へ出るようになればわかりますよ!公爵アンナリーゼがどれほど
 異質な存在かってことが。普段を知っていれば知っているほど、違和感を覚えると思います。
 それこそが、アンナ様の凄いところなのですから!」
「僕、アンナ様と社交場に出ることってあるのかな?」
「あるわよ!一番早くて、レオのデビュタントね!その頃には、誰かデビューする相手を決めないと
 いけないけど……一般的には、親戚の独身女性とかかな?」
「アンナ様とは、ダメですか?」
「私?デビュタントのパートナーなんて光栄ね!もし、そのときに決まっていなかったら、受けるわ!
 ただし、私のマナーレッスンがこなせてないと、断るから!」


 6年後のレオの社交界デビューの話で一頻り笑う私たち。
 そんな日を向かえるレオの成長がとても楽しみであった。


「あの、アンナ様」
「何かしら?」
「試合の話ですけど……」
「そういえば、レオと試合をするって話あったわね!」
「そろそろ……いいですか?」


 私はデリアの方を見ると、仕方なさげにしている。
 デリアのいいよと言質はとっておいた方がいいだろう。あとで叱られるのは、辛い。
 公爵であっても、手加減なしのお叱りをされるのだ。


「デリアさん、そろそろいいですか?体動かしても」
「何故、敬語なのです……もぅ、アンナ様はじっとしているのが苦手なのですね。
 近日中にヨハン教授に指示を仰ぎましょう。
 了承がえたら、体を少しずつ動かしていってもいいと思いますよ!」
「さっそく、ヨハンに連絡ね!」
「はい、こちらで連絡をとっておきますので……って、もう、目が輝いてますよ?」
「そ……そうかしら?」


 若干のソワソワした気持ちをそっと押し込めながら、頬を緩ませる。
 あぁ、早く体を動かしたいわ!全身でそう言っているようであった。
 そんな私をレオがクスクス笑っていたのである。



 ◇◆◇◆◇


 毎日の日課となりつつある読書とミアとレオのマナーレッスンを終えたころ、デリアにヨハンが来たことを告げられた。
 私室へともどると、不機嫌極まりないヨハンがこちらを見ていた。


「アンナリーゼ様、サクサク検診を終わらせてしまいましょう!私も忙しいので!」
「私も忙しいのでって……何かあったの?」
「新種の毒が発見されたらしく、さっそく研究に勤しみたい所存!」
「はぁ……まぁいいけど……で、どうかしら?」


 脈診やらなんやらで体中ベタベタと触りながらぶつくさ文句まで言いつつ診てくれている。
 最後に首のところに手をあてがい、空を見ているヨハン。


「どこにも問題ないですね。好きにしてください。まぁ、しばらく動いてなかったから、程ほどに
 しておかないと倒れますからね!言っておきますよ!程ほどに。忙しいから、呼ばれてもきません
 から!」
「えぇ……来てくれないの?」
「ある程度なら、デリアでも対処できるので任せてください。では!」


 颯爽と白衣を翻して帰っていくヨハンの後ろ姿をただただ見送る。
 私、公爵位なんですけど……めんどくさそうに対応するのって、ヨハンくらいよね。
 よそではしないでねと心で呟き、私はぐぅーっと伸びをした。
 ヨハンの許可も出た。デリアの許可も……でた!
 明日の朝から少しずつ体をほぐし開始しよう。まずは、冬場なので、柔軟から始めるのがいいだろう。
 使わなくなって久しい筋肉たちに戻ってきてもらう算段をつけていく。
 早く、明日にならないだろうか?小さな子どもが出かけるのを楽しみにしているような、ソワソワした夜を過ごすのであった。
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