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こっそり鍛え直す私

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 少しずつ体を動かすようにしている私。
 まずは、柔軟を始める話をウィルとしていたところ、レオも一緒にしたいと言い始めた。
 一人で柔軟をするよりかは……と思い、了承し、今からウィルの部屋へと向かう。
 ここに親子三人が済んでいるのだが……聞いた話、三人が同じベッドで寝ているという。
 狭くないのかな……?レオもだいぶ大きくなってきたのだが、それでも、一緒がいいらしい。


 コンコンと部屋の扉を叩くと、既に支度が出来ているのかレオが出てきた。
 お寝坊なのは、ミアだけのようで、ウィルも制服に着替えて何事か書類を読んでいる。


「おはよう!」
「おはよございます、アンナ様!」
「はよ!姫さん」


 部屋に入るとウィルはまた手紙に目を落としている。
 なんだろう……そんなに読み込まないといけないこと?と首を傾げていると、突然ウィルと目が合った。


「あぁ、姫さん。後で執務室行くわ!今日も軽くは執務するんだろ?」
「えぇ、もちろんよ!私が休んでいた間に滞っている案件もあるのよね……せっかく、みんながやる気に
 なってくれているのに、なんだか、申し訳ないわ」
「いいんだよ。みんな、待ってるんだから。アンナリーゼが動かないと領地全体は動かないぜ?
 個別には、バンバン指示出しているんだろ?」
「えぇ、それは……」
「街道整備もリリーたちがすっげぇー気合入れて頑張ってるってさ。俺、昼から差し入れ持って行って
 くるつもり」
「そうなんだ?私も春になったら、石切の皆に行くって言っといて?」
「わかった。じゃあ、レオをよろしく!二人とも無理はするなよ?」


 すっかり父親になったウィルに頭をクシャッとされて嬉しそうにしているレオは、見ていて微笑ましい。


「じゃあ、行こうか?」
「はい、お願いします!」


 私とレオは、ダンスホールがある元領主の館まで馬に揺られて行くことにしている。
 まず、馬に乗ることも体幹を鍛えるのに必要で、レナンテなんて……運動不足の私を拒絶したくらいだった。
 1週間くらいは違う馬で散歩程度を繰り返し、軽く走ったりするうちに筋肉痛に襲われながら、だいぶ感覚が戻ってきた。
 すると、仕方がないとうちのじゃじゃ馬が背に乗せてくれるようになった。
 馬の背に揺られながら、レオを見る。まだ、背が小さいので一人で乗れるのはポニーなのだが、なかなか仲良くしているらしい。
 馬から、信用されるって、なかなかだなと見ていると、目が合った。


「どうかされましたか?」
「うーん、成長著しいなって……もう、ポニーにまで乗れるんだもんね」
「馬にはまだ乗れません……父様が、危ないからダメだと」
「そうね、もう少し背丈も欲しいし、子どもだから圧倒的に筋力が足りない。運動不足の私が言えた
 ことじゃないけどね……」
「アンナ様は、いつから乗っていたのですか?」
「私は10歳くらいかな?お母様にいいと言ってもらうまでは、絶対乗らなかった。
 自身の命に関わることもあるけど、私の勝手な乗り方で馬を傷つけてしまうこともあるし、最悪、
 安楽死をさせないといけなくなることもあるの。
 こうして、移動手段だけでなくて、寄り添うことを考えると、とてもじゃないけど……無茶はできない
 でしょ?」
「そうなのですね。僕は、早く馬に乗りたい!とだけ、思っていました。今もポニーに乗ることが嫌で
 仕方なかった。でも、そうですか……僕は、何も考えてませんでした。父様に近づきたくて……」
「前も言ったけど、焦らなくていいのよ!時間が経てば成長もするから。
 レオにはちゃんと、そういうふうに育つようウィルが考えてくれているし。
 子どもの成長は早いんだから、のんびりしていても大丈夫よ!私たちがちゃんと導くから、信じて
 ちょうだい」
「はい……前も言われました……僕は、焦り過ぎて……」
「大丈夫。ちゃんと成長したいと願っていることは、みんな知っているから!
 私たちは、レオの成長を止めるようなことはしないわ!」


 ニッコリ笑いかけると、力強く頷いた。


 しばらくして、前領主の館に着いたら、ここに残ってくれている侍従たちが出迎えてくれる。
 なんだか、申し訳ない……


「今日は、2時間程ここのダンスホールを使わせてもらうわね!私たちのことは気にせず仕事してくれて
 いいから!ちょっと、借りるわね!」
「借りるだなんて……奥様のお屋敷ですから……そのように言わないでください」
「そう、じゃあ、適当に体を動かして帰るわ!しばらく、通うけど、気にしないでね!」


 ひらひらと侍従たちにお願いをしてダンスホールへと入っていく。


「レオって、朝はどんな運動をしているの?」
「柔軟とあとは5キロ程走ってます。体力は、何をするにも必要だからって」
「そっか。じゃあ、いつもやってる柔軟をやってこうか?」
「アンナ様に合わせなくていいんですか?」
「うん、ウィルがどんなふうにしているか興味あるな」
「父様の柔軟は、すごく念入りですよ?1時間くらいしてます。僕は、そこまでできないので……」
「体力の問題かな?」
「聞いていいですか?」
「うん、何?」
「柔軟ってけがをしないようにするためって父様が言ってたんですけど……」
「そうね、体は堅いより柔らかい方がいいのよ。例えば、殴ってみて!」
「アンナ様をですか?」
「そう、遠慮なく!」


 そう言って間合いに入ってきたレオ。
 思いっきり振りかぶっているが、動作が大きすぎて簡単に見切れてしまう。
 私を殴ろうと突き出した拳を絡めとるようにすると、きゅっと後ろ手に締め上げてしまった。軽くしているので痛くないはずだけど……うめき声ひとつあげないレオには脱帽だ。
 まだ、1桁の子ども。捻りあげられたら、泣くかわめくかはするだろう。


「大丈夫だった?」
「今のなんですか?にゅってなって、いつの間にか絡めとられてた……」


 私は手品でも見たのではないかと言うほどの興奮をしているレオを見て笑ってしまう。


「ふふ、体が柔らかいとね、こういうこともできたりするのよ。ちなみに、さっきのレオのような場合
 でも、抜けることができるわよ!
 とっさの動きをするときに、堅いからだでは何処か傷めたりする場合があるから……
 筋肉はつけていいけど、その筋肉もしなやかなもののほうが、レオを体つきならいいと思うわよ!
 ウィルも鍛えているけど、どちらかと言えばどっしりしたノクトみたいな感じはしないでしょ?」
「はい、どちらかと言えば……」
「私でもないけど……ウィルも昔から柔軟をしているとは言っていたから、自分の体につく筋肉の質を
 見分けていった結果が、今の状態なんだと思うよ!
 大きなケガをしないのは、腕がたつのももちろんだけど、そういう基本的になところを疎かにしない
 からだとも思うわ!レオも基本程手を抜かずにコツコツと続けることが大事ね」


 じゃあ、始めようかとレオを見ながら私も倣って柔軟をしていく。
 確かにウィルが考えた柔軟は体にとても心地よい。レオの成長を止めるようなものはないようだ。
 一通りすると、30分程であった。
 じっくりすると、結構いい運動になるようで、汗がじんわり体をつたう。


「アンナ様、こんな感じです」
「うん、なかなかいいね!これ……3セットくらいしたら、頑なった体が悲鳴上げるかも」
「えっ?」
「あと、2セットやろうか?」
「えぇー!これをですか?」
「うん、覚えたから、意識してほしいところを言っていくから、そのようにしていって!」


 それから1時間半、休憩もはさみながら柔軟を徹底的にしていく。
 すると、私の体はかなりくたっとなったけど、子どもことを思って考えられているこの柔軟は私にとってもとても身になった。
 私の目の前では、レオが疲れたのか汗だくになり寝転んでいる。


「大丈夫?」
「はい、でも、床が気持ちいいです」
「本当ね、ひんやりして気持ちいい。しっかり意識をして取り組むと結構な運動量になったわね?
 これ、毎朝3セットやりましょうか。慣れれば、それほどきつくなくなってくると思うけど、その頃
 にはウィルが追加で何か違うものを入れてくるでしょうね」
「僕、こんなに柔軟で汗をかいたことなかったです……」
「ほら、タオルで拭いて着替えないと、風邪を引くわ!水分補給だけして、着替えて帰りましょうか?」


 それぞれ着替えて、馬に跨り領主の屋敷まで帰るのだった。
 レオは、新しい発見にウキウキと私に今日の話をしてくれる。
 私との時間は、レオにとっても貴重な時間となったようであった。
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