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薔薇のピアス

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 いつも耳元で揺れていた真紅の薔薇のチェーンピアスは、今は、揺れていない。


 真紅の薔薇のチェーンピアスは、ハリーが結婚祝いとしてくれたものだ。
 そして、青薔薇のピアスは、ジョージアの卒業式にくれたもの。
 お守りとして、いつも身につけていたが、子どもが生まれるまでは、宝石箱に大切に保管されている。

 妊娠中、なるべく装飾品を取っ払っているところである。
 せっかくだからと、デリアの提案で、今持っている宝飾類を全てティアに綺麗に手入れをお願いしたのだ。


 高価な宝飾品が多いため、私の信頼できる宝飾職人であるティアに白羽の矢がたったのだ。



 近々、ニコライと一緒に納品に来てくれると手紙が来ていたなぁと思い出す。


 ニコライは、最近、仕事も順調そうで、ローズディアだけでなく、トワイスやエルドアにひっきりなしに出かけているようだ。
 今度あったときに、エレーナと会ったときの話やエルドアでの話も聞きたいと思う。




 ティアから宝飾品の手入れが終わったと連絡が入ったので、都合のつく3日後にもらうことにした。


「アンナリーゼ様、お久しぶりです!」
「ティア、久しぶり!
 元気にしていたかしら?」


 もちろん!とにっこり答えてくれるティア。

 ふと、ティアの手に光るものを見つけて、聞いてみる。


「ティア、結婚したの?」


 すると、ティアは、両頬を押さえてもじもじとしながら、隣に座るニコライを見た。


「もしかしなくても、ニコライと?」


 コホンとニコライが咳ばらいをする。
 ニコライも顔が、赤い。


「あの、ご報告が遅れましたが、ティアとこの度結婚することになりました。
 それで、アンナリーゼ様からアメジストを頂戴してもいいといられていたので、
 作らせていただきました」


 目の前に私とジョージアの指輪に似たアメジストの入ったペアリングを見せてくれる。


「わぁ!ステキね!
 そんな風に使ってくれたのね!
 嬉しいし、あなたたち二人が結婚って……
 とても嬉しい!」


 私は、興奮してしまい、デリアに叱られる。


「アンナリーゼ様、大丈夫ですか?
 そんなに興奮して……」
「えぇ、大丈夫!
 興奮しないわけないわよ!」


 2人が見つめあって微笑んでいる姿を見ると、こちらまでほっこり幸せな気持ちなってきた。



 机の上にコトっとケースが置かれる。


「これ、注文があったピアスです。
 あんまり派手ではなく、シンプルにですが、アンナリーゼ様をきちんと連想できる
 ものにしました。
 気に入ってもらえるといいですね!!」


 私は、まず、ケースを開くと、アメジストの薔薇のピアスであった。
 そんなに大きな薔薇ではないので、悪目立ちせずにいいなって思える。


「デリア?」
「はい、アンナ様、何でしょうか?」
「手、出して!」


 私に言われ、渋々という感じで、デリアは手を出してくる。
 その手の上に、今、渡されたばかりの小箱を置く。
 デリアは、その小箱を穴が開くのではないか!っていうぐらい見つめている。


「デリア?開けてみて!」



 …………



 デリアからは、涙が次から次へと零れていく。


 私は、覗き込むようにしてその涙を両の親指で拭っていくが、追いつかない。
 ティアが、ハンカチを貸してくれたので、それで優しく拭っていく。



「ア……ナ……様……
 わ………しは………………」



 私は、デリアに向けてニッコリ笑う。



「それ、デリアのよ!
 気に入ってくれた?」



 デリアは、言葉にならないので、首を縦にぶんぶんと何回もふってくれる。



「貸して!」



 渡したばかりのアメジストの薔薇のピアスを私はデリアの耳につける。



「どう?」



 ニコライとティアに聞くと、とってもいいです!と二人も喜んでいる。
 私も似合ってるよ!って笑うと、デリアは、本当に嬉しそうに微笑んでくれた。
 贈ってよかったなぁーって思える。




「あと、これは、預かっていたものです。
 キラメキが戻りましたよ!
 また、出産後につけてあげてください!
 みんな、アンナリーゼ様のこと大好きみたいなので、つけてもらえる日を
 楽しみにしてますよ!」



 目の前に宝石箱を置かれ、一つずつ確認していくと、ピッカピカになった薔薇たちや宝石たちが笑いかけてくれるかの如く光り輝いている。
 ティアにお願いしてよかった!



「ティア、ありがとう!
 私も、つけられる日を楽しみにしているわ!」


 そういうと、真紅の薔薇のチェーンピアスと青薔薇のピアスが、より一層光ったように思えた。





「それと、この前言われたアンバー領の街道の石畳の試算です。
 結構な金額になりました……」


 ニコライからもたらされた試算は、やはり結構な額になった。
 セバスに提示された額よりは少ないので、ちょっとほっとしているところだ。


 石畳の試算は、3年後の私が改革するのに必要となる。
 今から試算してもらって、街道整備のいったんとして構想しているところだ。



「やっぱり、結構かかるわね。
 それで、この量の石畳は、用意できるかしら?今から3年の間に」
「それは可能だとのこと」
「ただ、お金ね。ちゃんと払ってもらえるのかの用意する方は、不安があるわね。
 わかったわ!
 毎月、一定の金額を払うわ!
 それなら、作業ってしてもらえるかしら?」
「はい。それなら交渉してみます!」



 請け負ってくれるニコライの信用あっての話になる。
 私は、その信用を裏切るつもりはないので、今後もこの話は詰める必要がある。
 謹慎中のセバスも呼んで構想を練れば、少しずつ私の計画も進んでいくかなぁ?と漠然とほくそ笑むのである。



 やりたいことは、たくさんあるので、ゆっくりゆっくりであるが進めていきたい。



「これは、セバスも含めて相談しましょう!」
「エレーナ様の協力があるともう少し、コストが下げられると思います。
 分担制にしてしまえば、もっと絞れるところがあるように思えるし、
 セバス様の発想が、欲しいところですね!」
「箱庭計画ね!」



 ニコライと二人で、心躍ると笑っていると……



「ジョージア様にも報告しないと、怒られますよ!」



 デリアに叱られるのだった。
 ただし、ジョージアには秘密の計画なので、デリアに向かってしぃーっと人差し指を立てるのであった。
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