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第7話:破滅へのドライブ
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一方、司令室ほか特務課のメンバー達は、各自事件の解決に取りかかる。
「志乃さん、大至急一課に応援要請を。悠真くんはあさみ・辰川さんと連携してバスの移動経路を先読みして!」
「了解しました。」
「はーい。」
司令室内では、司の指揮のもと、志乃と悠真が応援要請およびバスの走行経路の割り出しにかかる。
「あさみ、辰川さん……聞こえてた?」
「あぁ、また面倒なことになったもんだぜ」
「虎のやつ……復帰そうそう足引っ張るなっての!」
「ふたりはそのままバスを追跡してちょうだい。下手に挑発や威嚇は行わないこと。乗客の安全を最優先とします。バスの燃料が尽きるまでが勝負よ。それまでは無線を活用しながら給油しつつバスの後を追いましょう。」
続いて、あさみと辰川にはバスの追跡の指示を出す。
そして、その頃……。
「バカ野郎!ガセネタ流して応援なんて要請するんじゃねぇよ特務課ぁ!」
司令室に怒鳴りこんでくる男が1名。
捜査一課長・稲取だった。
「稲取課長……」
「おい新堂!一課は事件解決のために香川を送ってるんだ!香川確保のための応援要請って、どう言うことだよ!」
血相を変えて司に詰め寄る稲取。
「かつての同僚だと思っておとなしく聞いてりゃぁおい……。」
「稲取さん、私も耳を疑いましたが……事実です。……悠真くん、捉えられた?」
「うーーん、ちょっとまだ遠いけど、『彼』が見えるくらいにはなったかな?」
「それじゃ、映して。同時に虎太郎くんの無線に入る音声も出来る限り拾って。」
興奮する稲取を前に、司は冷静に悠真に指示を出す。
「了解。出すよー」
悠真の返事と共に、上空からバスを捉えた画像が映し出される。
「これ、遠隔操作のドローン。上手くいったよ。ここまで操作できるようになるまで、もう3……」
「ドローンのことは良いから、早く映せ!」
悠真の自慢話を怒声で遮り、稲取は画面を食い入るように見つめる。
そこには、運転席側のバス側面を映した画像が映し出されていた。
「もっと寄れ!」
「わかってるー」
少しずつ、香川に気付かれない高度と角度でバスに近づいていくドローン。
そして……。
「どこまで向かうんですか?」
「それは僕が指示する。」
「私たちはどうなって……」
「お前たちに質問する権利はない。僕の指示に素直に従えば良い。それが生き残る唯一の術だ。」
車中での、運転手、ガイド、香川のやり取りが聞こえた。
「まさか……!」
同じ一課の部下の声を聞き間違えるわけがない。
香川の声を確認すると、稲取は落胆し、椅子に力無く座った。
「そろそろだな……。」
香川が時計を見る。
ツアーの浅草到着予定は19:00
その予定を大幅に過ぎ、時計の針は20:00を回ろうとしていた。
香川はイヤホンマイクをつけると、電話を発信する。
「……入電です!」
司令室のモニターに、入電を報せる表示が出る。
「音声、まわして!」
司の指示で、志乃は通信指令室と音声を共有する。
「いま、浅草周辺を走るバスをジャックした。」
入電は、香川からだった。
「香川刑事からの入電です!」
志乃が司令室内に聞こえるように伝える。
(わざわざ警視庁に電話……?香川くん、何を考えているんだ……?)
その様子を無線で聞いていた北条は首を傾げる。
個人の犯行であるならば、わざわざ通報しなくとも、自分のタイミングで目的を遂行すれば良い。
虎太郎の自由を奪い、外部にほとんど知られることなく、かつ知られたとしても迂闊に手出しが出来ないような人質……議員や会社社長たちを乗せているのだから。
「そうか……それが狙いか……。」
北条の表情が険しくなる。
「俺だ、稲取だ!電話を特務課にまわしてくれよ!香川と話がしたい!」
その頃、稲取は通信指令室に内線をかけていた。
自分の部署の部下による強行を、なんとか阻止したいと思ったのだ。
「稲取さん、気持ちは分かりますが、貴方が話しても逆効果……」
「いーや、その作戦でいこう。稲取くん、出来るだけ落ち着いて話をしてくれ。その間に特務課でなんとか状況を打開できるように頑張るから。」
稲取の申し出を断ろうとした司を、北条が制する。
「でも、北条さん……。」
しかし、司には不安が残る。
もし、稲取と言い争いになって逆上してしまったら……。
バスジャックの犯人の逃走率は極めて低い。
今こそ冷静な香川とて、精神状態によっては発狂し、最悪の事態を招く恐れだってあるのだ。
「……ここは、彼の犯罪の背景をもう少し深く探るべきだ。稲取くんが相手なら、きっと香川くんも口を滑らせるに違いないよ。だって、稲取くんを尊敬してはいるけど、いつか届く存在だと思っているからね、彼は。」
「それって、どういう……?」
北条の考えが、未だに理解できない司。
「それに、彼は単独犯ではないよ。組織の一員として、今回のバスジャック事件を起こしている。事件を起こすのに、時計をいちいち気にするなんて、なにか時間で警察への要求があるか、何かの時間稼ぎくらいだろう。」
北条が、ドローンの映像から香川の動きを見て予測する。
(まぁた、『神の国』かな……?)
「香川、何が目的なんだ!一課の刑事がバスジャックする意味なんてないだろう!」
稲取が香川に訴えかける。
「意味、ですか?ふふ……稲取さん、貴方はいつも面白いことを言う。」
香川が稲取を嘲笑う。
「そろそろ時間ですね……東京じゅうの大型ビジョンから、そろそろ僕がバスジャックをした意味が分かります。見逃さないように……。」
(大型ビジョンだって?)
虎太郎の無線から香川の話を聞いていた北条。
「この近くの大型ビジョン……!」
北条はスマホで大型ビジョンの位置を検索する。
「すぐ近く、駅ビルか!」
走ればすぐに着く場所。
北条は大型ビジョンの前に急いだ。
「あさみちゃんと辰さんはそのままバスを追跡して!悠真くん、どれでも良いから大型ビジョンの映像を映して各課に共有してくれるかな?」
北条は無線を使ってメンバー達に指示を出す。
「了解。」
「はいよ!」
「オッケー。いちばん映しやすいのは渋谷かな。スタンバイしとくよ!」
メンバー達も、今は北条の指示に従うのが最善と、言われた通りに動き出す。
「司ちゃん、たぶんだけど……これは僕の予想だけど、きっと警察に対して無理難題が要求される。上手いこと誤魔化しながら時間を稼いでほしい。きっと、警視庁の中でもその大役は君にしか出来ない!」
「どこまで出来るか分からないけど……了解です。」
司は交渉人として何度も犯人と交渉した経験がある。その実績は警視庁内部でも上々である。
北条は、その能力に賭けてみることにした。
「私が、香川と交渉すれば……?」
「いいや、君が交渉するのは、うちら警視庁のお偉いさん達だよ。」
「……え?」
自分の予想とは違う北条の答えに、司は戸惑う。そして……
「ほら、そろそろ始まるよ……」
これまでは各社の広告を映していた都内各所の大型ビジョンが、全て同じ映像を同時に映し出す。
「蠍のマーク……!」
「やっぱり、『神の国』か……」
蠍のマーク、ただそれだけが大型ビジョンに大きく映る。
「愚鈍なる日本国民達よ、ごきげんよう。我々は、『神の国』という組織の者だ。この日本を救い、新しい神の国にするための、至高の団体……。」
(この話し方は……!)
北条が、何かに気付いた。
「この話し方、集団自殺のときの!」
この声に、北条は覚えがあった。
目の前で多くの人が犠牲となった集団自殺事件。
その引き金を引いた男と、話し方の癖が良く似ていたのだ。
「いま、都内をあるバスが走っている。そのバスの乗客は、都の議員や会社の取締役などVIPばかり。今回はそんな彼ら、全員の命を人質として交渉させてもらおう……。」
「志乃さん、大至急一課に応援要請を。悠真くんはあさみ・辰川さんと連携してバスの移動経路を先読みして!」
「了解しました。」
「はーい。」
司令室内では、司の指揮のもと、志乃と悠真が応援要請およびバスの走行経路の割り出しにかかる。
「あさみ、辰川さん……聞こえてた?」
「あぁ、また面倒なことになったもんだぜ」
「虎のやつ……復帰そうそう足引っ張るなっての!」
「ふたりはそのままバスを追跡してちょうだい。下手に挑発や威嚇は行わないこと。乗客の安全を最優先とします。バスの燃料が尽きるまでが勝負よ。それまでは無線を活用しながら給油しつつバスの後を追いましょう。」
続いて、あさみと辰川にはバスの追跡の指示を出す。
そして、その頃……。
「バカ野郎!ガセネタ流して応援なんて要請するんじゃねぇよ特務課ぁ!」
司令室に怒鳴りこんでくる男が1名。
捜査一課長・稲取だった。
「稲取課長……」
「おい新堂!一課は事件解決のために香川を送ってるんだ!香川確保のための応援要請って、どう言うことだよ!」
血相を変えて司に詰め寄る稲取。
「かつての同僚だと思っておとなしく聞いてりゃぁおい……。」
「稲取さん、私も耳を疑いましたが……事実です。……悠真くん、捉えられた?」
「うーーん、ちょっとまだ遠いけど、『彼』が見えるくらいにはなったかな?」
「それじゃ、映して。同時に虎太郎くんの無線に入る音声も出来る限り拾って。」
興奮する稲取を前に、司は冷静に悠真に指示を出す。
「了解。出すよー」
悠真の返事と共に、上空からバスを捉えた画像が映し出される。
「これ、遠隔操作のドローン。上手くいったよ。ここまで操作できるようになるまで、もう3……」
「ドローンのことは良いから、早く映せ!」
悠真の自慢話を怒声で遮り、稲取は画面を食い入るように見つめる。
そこには、運転席側のバス側面を映した画像が映し出されていた。
「もっと寄れ!」
「わかってるー」
少しずつ、香川に気付かれない高度と角度でバスに近づいていくドローン。
そして……。
「どこまで向かうんですか?」
「それは僕が指示する。」
「私たちはどうなって……」
「お前たちに質問する権利はない。僕の指示に素直に従えば良い。それが生き残る唯一の術だ。」
車中での、運転手、ガイド、香川のやり取りが聞こえた。
「まさか……!」
同じ一課の部下の声を聞き間違えるわけがない。
香川の声を確認すると、稲取は落胆し、椅子に力無く座った。
「そろそろだな……。」
香川が時計を見る。
ツアーの浅草到着予定は19:00
その予定を大幅に過ぎ、時計の針は20:00を回ろうとしていた。
香川はイヤホンマイクをつけると、電話を発信する。
「……入電です!」
司令室のモニターに、入電を報せる表示が出る。
「音声、まわして!」
司の指示で、志乃は通信指令室と音声を共有する。
「いま、浅草周辺を走るバスをジャックした。」
入電は、香川からだった。
「香川刑事からの入電です!」
志乃が司令室内に聞こえるように伝える。
(わざわざ警視庁に電話……?香川くん、何を考えているんだ……?)
その様子を無線で聞いていた北条は首を傾げる。
個人の犯行であるならば、わざわざ通報しなくとも、自分のタイミングで目的を遂行すれば良い。
虎太郎の自由を奪い、外部にほとんど知られることなく、かつ知られたとしても迂闊に手出しが出来ないような人質……議員や会社社長たちを乗せているのだから。
「そうか……それが狙いか……。」
北条の表情が険しくなる。
「俺だ、稲取だ!電話を特務課にまわしてくれよ!香川と話がしたい!」
その頃、稲取は通信指令室に内線をかけていた。
自分の部署の部下による強行を、なんとか阻止したいと思ったのだ。
「稲取さん、気持ちは分かりますが、貴方が話しても逆効果……」
「いーや、その作戦でいこう。稲取くん、出来るだけ落ち着いて話をしてくれ。その間に特務課でなんとか状況を打開できるように頑張るから。」
稲取の申し出を断ろうとした司を、北条が制する。
「でも、北条さん……。」
しかし、司には不安が残る。
もし、稲取と言い争いになって逆上してしまったら……。
バスジャックの犯人の逃走率は極めて低い。
今こそ冷静な香川とて、精神状態によっては発狂し、最悪の事態を招く恐れだってあるのだ。
「……ここは、彼の犯罪の背景をもう少し深く探るべきだ。稲取くんが相手なら、きっと香川くんも口を滑らせるに違いないよ。だって、稲取くんを尊敬してはいるけど、いつか届く存在だと思っているからね、彼は。」
「それって、どういう……?」
北条の考えが、未だに理解できない司。
「それに、彼は単独犯ではないよ。組織の一員として、今回のバスジャック事件を起こしている。事件を起こすのに、時計をいちいち気にするなんて、なにか時間で警察への要求があるか、何かの時間稼ぎくらいだろう。」
北条が、ドローンの映像から香川の動きを見て予測する。
(まぁた、『神の国』かな……?)
「香川、何が目的なんだ!一課の刑事がバスジャックする意味なんてないだろう!」
稲取が香川に訴えかける。
「意味、ですか?ふふ……稲取さん、貴方はいつも面白いことを言う。」
香川が稲取を嘲笑う。
「そろそろ時間ですね……東京じゅうの大型ビジョンから、そろそろ僕がバスジャックをした意味が分かります。見逃さないように……。」
(大型ビジョンだって?)
虎太郎の無線から香川の話を聞いていた北条。
「この近くの大型ビジョン……!」
北条はスマホで大型ビジョンの位置を検索する。
「すぐ近く、駅ビルか!」
走ればすぐに着く場所。
北条は大型ビジョンの前に急いだ。
「あさみちゃんと辰さんはそのままバスを追跡して!悠真くん、どれでも良いから大型ビジョンの映像を映して各課に共有してくれるかな?」
北条は無線を使ってメンバー達に指示を出す。
「了解。」
「はいよ!」
「オッケー。いちばん映しやすいのは渋谷かな。スタンバイしとくよ!」
メンバー達も、今は北条の指示に従うのが最善と、言われた通りに動き出す。
「司ちゃん、たぶんだけど……これは僕の予想だけど、きっと警察に対して無理難題が要求される。上手いこと誤魔化しながら時間を稼いでほしい。きっと、警視庁の中でもその大役は君にしか出来ない!」
「どこまで出来るか分からないけど……了解です。」
司は交渉人として何度も犯人と交渉した経験がある。その実績は警視庁内部でも上々である。
北条は、その能力に賭けてみることにした。
「私が、香川と交渉すれば……?」
「いいや、君が交渉するのは、うちら警視庁のお偉いさん達だよ。」
「……え?」
自分の予想とは違う北条の答えに、司は戸惑う。そして……
「ほら、そろそろ始まるよ……」
これまでは各社の広告を映していた都内各所の大型ビジョンが、全て同じ映像を同時に映し出す。
「蠍のマーク……!」
「やっぱり、『神の国』か……」
蠍のマーク、ただそれだけが大型ビジョンに大きく映る。
「愚鈍なる日本国民達よ、ごきげんよう。我々は、『神の国』という組織の者だ。この日本を救い、新しい神の国にするための、至高の団体……。」
(この話し方は……!)
北条が、何かに気付いた。
「この話し方、集団自殺のときの!」
この声に、北条は覚えがあった。
目の前で多くの人が犠牲となった集団自殺事件。
その引き金を引いた男と、話し方の癖が良く似ていたのだ。
「いま、都内をあるバスが走っている。そのバスの乗客は、都の議員や会社の取締役などVIPばかり。今回はそんな彼ら、全員の命を人質として交渉させてもらおう……。」
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