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第3話:恨みの花火

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「はぁ、はぁ……!」


一方、辰川は娘・紗良が通う大学に着いたところだった。


「図書館……どこだ?」

まずは、大学敷地内を見まわし、状況を確認する。
特に目立ったところはない。
学生たちもいつも通りの生活を送っているようにも見える。


「うん……特に大袈裟な爆破予告などは無いようだな。」


辰川は安堵しつつも、爆弾の発見を急ぐ。


「紗良を狙うのであれば、ピンポイントでいる場所を狙ってくる。仕掛けるとすれば間違いなく図書館だ。寄り道はいらねぇ、図書館にまっすぐ向かうぞ。」


とはいえ、図書館の場所など分かるはずもない。


「すまない。警察の者だが、図書館はどこだ?」

ただ普通に中年男性が話しかけてもまともな返答が返ってくるか分からない。
仕方なく警察手帳を使い、手っ取り早く図書館の場所を訊ねることにした。


「え……警察?」


学生5人の集団。
突然、警察手帳を出されたことに戸惑いを隠せないでいる。


「あぁ。ちょっと調べたいことがあってな。図書館へ急ぎたい。場所だけ教えてくれないか?」

「え……あ、はい。このまままっすぐ進んだ、あの建物です……。」


戸惑いながらも素直に図書館の場所を教えてくれた学生たち。


「いちばん最初に話しかけたのが、素直な学生さんで良かったぜ……。ありがとう!!」


辰川は丁寧に学生たちに頭を下げると、全力で図書館に向かい走った。



「あれが図書館か……デケェな。」


市立図書館ほどもある、3階建ての大学図書館。
まずは、この建物の中に隠されている爆弾を発見しなければならない。


「こりゃ、骨が折れるぜ……。」


まずは1階。


「警察だ!!ここに爆弾が仕掛けられているという通報があった!調べるから大至急、ここから退避してくれ!!」


大きな声で辰川が叫ぶ。
静寂の中、勉強していた学生たちは、何事かと皆、辰川のことを見る。


「退避だ退避!!命が惜しければ大至急逃げろ~~~~!!!」


全力で声を上げる辰川の様子に、学生たちもただ事ではない様子を感じ取ったらしい。
急いで荷物をまとめると、一斉に図書館から出ていった。


「ちっ……思ったよりも学生が多いな。まずは学生たちの退避が先か……。」


1階から順に捜索しようと思っていたが、3階まで順に上がっていき、階ごとに学生たちを避難させ、3階から爆弾を捜索することに決めた。


「司ちゃん!大学に何人か寄越してくれ!図書館がもし爆破されたときのために、図書館近辺に厳戒態勢を敷いて欲しい!!」

「辰川さん……了解です!!」



学生を退避させてから爆弾の捜索、それから解除。
もしかしたら間に合わないかもしれない。
それを見越しての、司への依頼。

司もその辰川の気持ちが分かったからこそ、大至急警察官の応援を各部署に依頼するのであった。


1階、そして2階……。


「警察だ!!大至急ここから非難してくれ!危険物が隠されているという通報があった!安全が確認できるまで、申し訳ないが外に出ていてくれ!!」


学生たちを大声で避難させる辰川。
警察であることを告げると、学生たちは素直に退避してくれた。


「助かるぜ……。学生じゃなかったら、興味本位で近づいてきたかもしれないな。」


今の世の中、危機感というものを持つ大人は決して多くない。
危険だと必死に叫んでも、興味本位で近づいてくる大人の方が多いのが、現代の憂うべきところである。

その点、ここの学生たちは比較的素直に指示に従ってくれる。
それが辰川にとって、安心すべき点でもあった。


「あとは……3階だけだな。」


2階に人がいなくなったのを確認してから、辰川は3階に上がり、同じように大声を上げる。


「警察だ!!みんな今すぐここから退避してくれ!危険物の……」

「……パパ?」

「……え?」


不意に飛び込んできた、女性の声。
その声の主を見ると、それは辰川の娘・紗良だった。


「紗良……ここにいたのか。」

「パパ……どうしてここに?」

「通報があってな。此処に危険物が仕掛けられているらしい、大至急、ここから退避してくれ。」


最愛の娘が、いちばん非難しづらい場所にいる。
その事で、辰川の服の下は鳥肌だらけになっていた。
出来るだけ動揺を紗良に見せないよう努める辰川。


「危険物って……、パパが来たってことは、爆弾なの?」

「おうおう、さすがは刑事の子だ。察しが良いな。」

「ふざけてる場合じゃない!どうしてパパが来たの?もう爆弾処理班じゃないじゃない!!」


父の身を案じての、娘の言葉。
しかしそれが、辰川には嬉しかった。


「お前の大学だから、来たんだ。爆処理に居ようがいまいが、ここが犯行現場になるなら俺はどのみちここに来たさ。父親として、娘を守りたい。当然のことだろう?」

「パパ……。」


心配そうな表情を見せる紗良。
その背後では、紗良と共にいた友人たちが不安そうにその様子を見守っていた。


「さぁ、このままここに留まっていたら友達も危険だ。一緒に退避してくれ。なぁに、俺の爆弾処理の技術の高さは、お前も知っているだろう?」


出来るだけ早く全員を退避させて、爆弾の解除にあたりたい。
今回の爆弾は、正直どんなものか予想も出来ない。
10年前、この大学は犯行現場になっていないのだ。


「わかった。パパ……気を付けてね。危なくなったらすぐに逃げて。」

「あぁ、約束する。物わかりの良い娘で助かるぜ。」

「茶化さないで!……じゃぁ、逃げるね。」


紗良は、周囲の学生たちを連れて退避した。


(爆弾は間違いなくこの3階にあるはず。紗良がいたんだ……。)


刻一刻と時間は過ぎていく。
それはすなわち、解除の時間が減っていくという事。
故に、辰川は爆弾のありそうな場所をこの3階に絞った。
自分がいちばん精神的に苦痛を受けるとしたら、最愛の家族、娘を傷つけられること。

そして、その最愛の娘は、犯人=中山と顔見知りである。


(もし、ここで爆弾が見つかったら……。信じたくはないが、中山で決まり、なんだろうな……。)


本当は、ギリギリまで中山が犯人であるという断定は避けたかった。
中山も苦痛を抱えているのだ。10年前の事件で、家族を失っているいわば『被害者家族』なのだ。

それでも、自分に寄り添いともに生きてくれた。
恨めしいとは幾度となく思われたことだろう。
それでも、それを口に出すことなく今までやって来れた。
それは、ひとえに中山の人間性。


「……何で今、なんだよ……。」


辰川は歯を食いしばる。

10年前に罵られ、恨まれていた方が数百倍は気持ちが楽だったのに。
そう思うと同時に、


「10年も、お前だって苦悩してきたんだろうが……。何故俺にその時ぶつけてくれなかったんだよ……。」


ずっと親友として互いに接してきたはずなのに、自分の気持ちに蓋をされ続けてきた自分にも腹が立った。


3階はそれほど広くない。
そして……。


(中山の性格を考えると、あまり難解な場所に爆弾は隠さない。何故なら……。)


大きな空調機器。
辰川はその蓋をゆっくりと開ける。


「……中山よ、お前は根が優しいんだ。完全悪になり切れないところ、俺は知ってるぜ……。」


決して分かりづらい、絶対に見つからない場所に爆弾は隠さない。
隠したとしても、犯行声明などで何か知らのヒントを出す。
それが中山のやり方。


「畜生……結局、犯人はお前なのか、中山……。」


そこまで読み切れたからこそ、辰川は確信してしまった。
この一連の事件の犯人が、元同僚であり親友でもある中山であるという事を。


「……この爆弾を解除したら、思いっきり語り合おうじゃねぇか、中山……。」


ひとつ、またひとつ。
爆弾に極力刺激を与えないように、配線やタイマー周辺を観察する。
タイマーは6時間。


「6時間なんて、学生たちはみんな帰る時間になってるじゃねぇか。本当に紗良を狙って……あ……。」


爆弾の下を見たその時。
辰川は何かに気付いた。


「こ、この爆弾は……。」


爆弾の仕組みは、『爆発すれば甚大な被害を被るタイプ』の爆弾。
しかし、辰川はこの爆弾に仕掛けられた本当の目的を察してしまったのである。


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