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第5章 差し伸べるのは手だけじゃない。

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みらい音楽大学付属高校・文化祭。

音楽の道を志し、高みを目指すものが日々練習に励むこの学校。
そしてその実力を生徒に、教師に、あるいは外来の音楽関係者に披露する絶好の機会、それがこの文化祭である。

その文化祭の目玉のイベントとも言えるのが、講堂で行われる演奏会であった。
音楽関係者も多数訪れ、ここから将来を約束される者もいる。


そんな運命の講堂に、首席入学の天才は『観客』として訪れた。
その厳かな雰囲気に若干緊張しながら、最前列に座る。
奏の演奏順は最後だと知っていたが、友人たちの演奏を、歌を聞いておきたかった。

最前列に座って待つこと十数分。演奏会が始まった。


ギター、チェロ、バイオリン……様々な楽器の演奏が始まっては終わっていく。

声楽、歌の発表もあった。
歌った女子は、うたのことをライバル視していたらしい。歌い終わったあと、最前列に座っていたうたを見つけると、

「あんたの時代は終わりよ!!」

と勢いよく人差し指を突きつけた。周囲の注目が集まる中、うたは苦笑いで拍手をするしかなかった。

「私の時代なんて、もう終わってるよ。っていうか、そんな時代来てないよー」

苦笑いしながら呟くうた。なかなかその場に残っていることが憚られたため、ひざ掛けだけ席に残して、奏の待つ控え室へと向かった。

控え室の扉を少し開けて……

……うたはすぐに閉じた。
扉の隙間から見えた奏は、うたが驚くほど美しかった。そして、演奏家独特の雰囲気を出していた。

演奏前の、自分の領域。
それを感じ取ったがために、その領域は守らないといけない、乱してはいけないと、うたは思ったのだった。

奏に気付かれないようにそっと席に戻り、奏の出番を待つ。

「奏ちゃんなら……きっといい演奏ができる。そしてここからスゴい未来が待ってるよ……」

うたは、奏が怪我をしていることを知らない。

入学してからの奏の成長、飲み込みの早さ。
それを知るうただからこそ、うたは確信していた。

必ず、奏は大成するだろうと。


その後、何人かの演奏が終わり……



ついに、奏の出番がやって来た。


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