悪魔の消しゴム

桂木 京

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死ぬ前に、片付けることは全て片付けた。
自分の持ち物はすべて捨て、スマホの電話帳は全て削除した。
何故か綺麗に部屋を掃除し、床まで磨いた。

遺書は用意しなかった。
どうせ、俺の遺書など読んだところで、誰の足しにもなりはしないし、気持ちを乱す者もいないだろう。
遺書の代わりに、丁寧に書いた会社の退職願を封筒に入れ、テーブルの上に置いた。


死に場所も、自分のことを誰も知らない街の、静かな山奥に決めた。
自分のことを知る人がいない場所なら、山奥に向かったところで、観光か探検に来た若者だろうと思われるだろうし、山奥であれば、そんな場所の住民の人にも迷惑をかけることもない。

そして、山奥を選んだ理由はもうひとつ。

今回俺は、向精神薬と一緒に睡眠薬も飲むつもりだ。
テレビでそんな薬での自殺の話題があったので決めたのだが、もしその向精神薬で死ねなかったとしても、睡眠薬で深い眠りに落ちている間に、野犬なり熊なりの野生動物が、俺のことを喰らってくれるだろう。
そう考えてのことだ。


迷いはなかった。
心も乱れることはなかった。

俺は、決めておいた地点に、躊躇することなく向かった。


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