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4巻

4-2

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 美しい森を黒く染めたものがなんだったか理解し、たまらず叫んだ。
 俺を再び押さえようとした四人とチビ共を振り切り、鉄パイプを握って走りだす。
 向かう先は黒い穴。
 飛び上がり、両手で握った鉄パイプを思いっ切り振り下ろそうとする。
 だが、俺の腹に何かが当たって吹き飛ばされた。

「ごほっ。……あぁ!?」

 腹を押さえながら、突っ込んできたものを睨みつける。
 目の前にいたのは闇よりも深い色をした、犬のような獣だった。
 犬のような、というのはそう表現するしかないからだ。
 黒いもやに包まれてゆらゆらと揺らめいており、形は犬だが明らかに普通の奴とは違う。
 その紅い眼は、怒りに満ちている俺をさらにあおった。
 俺とチビ共の居場所を。こいつがこんなにしたんだ。
 絶対に、絶対に許せねぇ! 
 思いっ切り睨みつけ、もう一度飛び掛かろうとする。
 だがそれよりも早く、俺の背から赤と青と黄のせんこうが犬っころにはしった。

「体勢を立て直せ! こいつの相手は私たちがする。零は穴を叩け!」
「……おう!」

 そうだ、アマ公の言う通り、元凶は黒い穴だ。
 息を大きく吸って感情を抑え込み、クソ犬っころをアマ公たちに任せて穴の前に走る。
 しかし、援護の魔法は急に軌道を変えて、黒い穴に吸い込まれていった。
 本当にこの穴は厄介だな!
 魔法だけに頼ってここまでやってきたわけじゃないが、面倒なことには変わりない。
 けどよ、先に穴を壊しちまえば、こいつだって大人しくなんだろ!
 この穴と犬っころは何か関係があるという確信を持ち、俺は穴へ走る。
 ――だが、そう簡単にはいかない。
 犬っころは四人には目もくれず、俺の方に飛び掛かった。大きく口を開き、喉元目掛けて。
 一瞬の間に必死で考える。
 鉄パイプでぶん殴るか? いや、間に合わねぇ。
 左腕をませるか? それじゃ黒い穴に辿たどり着けない。
 ……駄目だ、一度下がるしかねぇ!
 慌ててブレーキを掛けようとしたその時、俺の背中が強く押された。
 俺の背を押しつつ後方から飛び出してきたのは、アマ公だ。
 剣を高く構え、上から下に。犬っころ目掛けて縦いっせんに振り下ろした。
 しかし、犬っころは空中で体をひねり、そのまま剣にみつく。
 ギラリと光る紅い眼は確実にアマ公をとらえていた。

「アマ公!」
「ぐっ」

 アマ公の短いうめき声。手を引こうと伸ばしたのだが、俺たちの間をうように何かが通る。
 弾丸のような速度で動く赤黒い生き物――それはディーラだった。
 ディーラは大きくあごを開き、黒い犬にみつく。
 そしてそのままディーラの口に吸い込まれていき、黒い犬は完全に姿を消した。
 ……今だ!
 あの黒い犬はなんだったのか。そんなことを考えるよりも早く動き、黒い穴目掛けて鉄パイプを全力で振り下ろす。
 パキリッと割れるような音。手応えありだ!
 手に確かな感触が残り、黒い穴は砕け散る。
 そうして、森には静寂が戻った。
 俺は親指で鼻をこすり、にやりと笑った。


 穴があった場所、そして周囲の森をくまなくチビ共と確認する。
 しかし、黒く染まった森が戻ることはなく、ここに残って暮らしていたチビ共も見つけることができなかった。

「くそっ!」

 鉄パイプで地面を叩く。
 間に合わなかったという事実が胸を締めつけ、暗い感情と悲しみだけが湧き上がってきた。
 もっと早く来られたら、もっと早く気づいていれば――後悔ばかりが出てしまう。
 チビ共が顔を押さえうつむいているのも、俺の心を重くする。
 胸に手を当てて渦巻く感情にじっと耐えていると、ふと聞き覚えのある声がした。

「精霊は無事がな」

 まさか……なぜこいつが? そう思いつつも顔を上げる。
 いつの間にか目の間に立っていたのは、土の大精霊。その足元にはたくさんのチビ共がいた。
 無事だったのか!?
 俺は嬉しさのあまり、岩の着ぐるみをつかんで揺する。
 土の大精霊は「がながな」言いながら、俺の手を振り払った。

「落ち着くがな! 零が地上に戻ってから不安に思って、ちょくちょく精霊の森を見に来てたがな! で、異変に気づいて精霊たちを逃がしたがな!」
「そう、か。……良かった」

 力が抜け、地面に座り込む。チビ共が飛びついてきたが、顔を上げて力なく笑うことしかできなかった。
 そんな俺の前に手が現れる。にっこりと笑って差し出しているのは坊ちゃんだ。俺はその手をつかみ、立ち上がった。

「僕は大丈夫だと思っていました」
「……ひざ、震えてんぞ」
「気のせいですよ」

 精霊が消えたと思っていたのは、たぶん坊ちゃんだけでなく他の奴らも同じだったんだろう。皆の安堵した表情からも、それはすぐに分かった。
 少し落ち着いたので土の大精霊に礼を言おうと思ったのだが、見るとディーラと二人で渋い顔をしていた。
 その様子を見て、また胸にあせりが浮かぶ。
 ――まだ何も終わってねぇ。むしろ、今始まったんだ。
 頭の中にそんな言葉がよぎり、ごくりと唾をみ込んだ。

「どうした?」
「精霊の森は世界で一番魔力が満ちていた場所がな。でも、今はそれが残っていないがな。ここにある魔力のざんから考えるに……」
「あぁ、我も確信した。あいつの仕業だ」
「あいつ? 何が分かったんだ、説明しろ」

 そう聞いたにもかかわらず、土の大精霊もディーラも黙ったまま何も言わねぇ。
 しびれを切らした俺が、もう一度聞こうとしたときだ。土の大精霊が、いつもとは違う真剣な表情で告げた。

「朝になったら、城の地下にある祭壇へ向かうがな。全ての説明はそこで行うがな」
「ここですりゃいいだろ」
「全員一緒にしたほうがいい」

 さっさと話せよと思ってそう言ったんだが、ディーラに止められた。
 全員ってのが誰を指しているのかは分からねぇが、何か理由があるようだ。
 他の奴らに目を向けると、俺と同じく首を傾げていた。どうやらこいつらにも分かってねぇらしい。
 黒幕が分かったというのに、話さない。
 なんだか嫌な気分になっていると、ディーラが続けた。

「もう我々だけの問題ではない。人、大精霊、この地上に生きるもの全てが力を合わせなければならない」
「――そんなやべぇことになってんのか?」

 俺の言葉に対し、無言で土の大精霊とディーラが頷く。それだけで、想像以上に深刻な事態なのだと分かった。
 今からでも城に向かいたいところだが、もう真夜中だ。
 土の大精霊の言う通りにひとまず休んで、日が昇ったらすぐに出発だな。
 妙なあせりがある中、俺たちは朝を待つことにした。


 を囲み、横になって朝を待つ。
 だが眠気が押し寄せて来ることはなく、目をつむっているだけだった。
 あいつらに教えてもらえないせいで、色々と想像してしまう。
 ディーラたちは、何かを知っているようだった。気になるのは、その一点に尽きる。
 なぜ教えない? ここで教えない理由は?
 考えても分かるはずがないのに、考えずにはいられない。
 ――駄目だ、少し歩こう。
 気をまぎらわそうと、俺は立ち上がった。

「零さん?」

 グス公の声がして振り返ると、四人が俺に目を向けている。
 眠れなかったのは自分だけではなかったと分かり、苦笑しちまった。
 軽く手を振り、散歩だと告げる。四人はついてこようとはせず、静かに頷いた。
 空を眺めつつチビ共と歩く。なんとはなしに目の前の黒い葉に触れると、カサついた葉が崩れて散った。怒りとともに、悲しみが湧いてくる。
 とても綺麗な森だったのに、その面影はない。
 チビ共が無事だったことは嬉しいが……一体何が起こってるんだ?
 くそっ、あせりと不安しかねぇな。

「はぁ……」

 ため息交じりの声が出る。周囲をとてとてと歩くチビ共も俺の様子を見て、しょんぼりしていた。
 考えるまでもなく、俺よりも長く暮らしていたこいつらのほうが悲しいだろう。そう思うと、自分の情けなさが腹立たしかった。
 暗い闇の中、黒い森を歩く。気をまぎらわそうと思い立った散歩は、俺の気持ちをより重くしていた。
 これじゃ意味がねぇ、戻るか。
 そう思って立ち止まったとき、かすかな話し声が耳に入った。
 いや、人の話を盗み聞きするのは良くねぇ。
 すぐにきびすを返したが、足を踏み出せなかった。
 また聞こえてきた声が、ディーラと土の大精霊のものだったからだ。
 俺の胸がモヤモヤしている理由は、この二人が話してくれないこと。
 話さない理由が何かあるんだろうとは思うし、だからこそ聞いてはいけないと分かってる。
 なのに、二人の声は耳に入ってしまった。

「魔……ふくしゅう……我らが……」
「しかし……助け……責任……がな」

 はっきりとは聞こえない。耳を澄まそうかとも思ったが、それは何か違う気がする。
 俺は物音をわざと立てつつ、二人に近づいた。
 現れた俺を見て、口をつぐむ二人。堂々と近づく俺に対し、二人は目をらした。

「こそこそ何話してんだ」
「……どこまで聞いた?」
「大して聞いてねぇよ。わざわざ隠れて話してるのに、こっそり聞き耳立てるような真似はしたくなかったからな。ふくしゅうとか責任とか、そんな言葉だけだ。……まぁ、気になってたこともあって、少しだけ聞いちまったことは勘弁してくれ」

 素直に謝罪して聞こえた単語を告げると、渋い顔をしていた二人は、ほっとした表情に変わった。どうやら本気で聞かれたくない話だったらしい。
 ならこんなところで話すなよとも思うが、たまたま俺が通りがからなければ、こいつらも困らなかったんだろう。
 気まずそうな顔をしている二人に気づき、俺は背を向けた。

「どうせ城に行きゃ話してくれるんだろ? それでも、もうちょっと話す場所は考えたほうがいいぜ」

 返答を待たず、その場を立ち去る。
 なんとなく悪いことをしたという思いが、胸に残った。
 ……戻って休むか。またさっきみたいな状況にぶち当たったら、余計気が沈んじまう。
 頭をきつつ戻ろうとしたら、チビ共の様子がおかしいことに気づいた。
 うつむいて、顔を見せてくれない。表情が見えず、悲しんでいるのかも分からねぇ。
 ただ、決して楽しそうではないことだけは理解できた。

「どうしたチビ共?」

 チビ共は、うつむいたまま首を振る。
 何度聞いても理由を教えてくれず、こっちまで悲しくなってきた。
 ずーんと気持ちが重くなって肩を落としていると、チビ共が俺のことをちらちらと見始める。そして何かを告げようとして、だがまたうつむいてしまった。

「なぁ、なんか困ってるなら教えてくれないか? 俺がなんとかしてやるからよ」

 いつもと違って、俺の言葉にも勢いがねぇ。こんな様子のチビ共は初めてで、戸惑っていた。
 なんて言ってやればいいのか分からねぇが、元気にしてやりたい。何か言わなきゃいけねぇと必死になっていたら、チビ共が俺の体をきゅっとつかんだ。
 チビの背を指先で優しくでると、体が震えているのが分かる。
 ……しかし、怖くて震えているのとは何か違う。
 その理由が分からない俺は、ただ背中をで続けてやるしかなかった。
 ただ、一つだけ気づいたことがある。チビ共はちらちらと、城のある方角の空を確認するように見ていた。
 木々の切れ間から、俺も城のある方角の空へ目を向ける。
 だが視界は悪く、木の枝葉と夜の闇しか見えない。
 それでも、その先にある空を見ようと目を細めた。
 美しいはずの夜空に星は少なく、雲が立ち込めている。雨が降るのかもしれないと思ったが、すぐに考えが変わった。
 雲は城を目指すように動いている――それに気づいて、悪寒が走った。
 渦巻くように集まる暗雲は俺の心をさらに重くし、何かが起こることを予感させた。



 第三話 俺のこと言えないじゃねぇか……


 明朝、精霊の森を出た俺たちは、巨大化したディーラの背に乗り込んだ。

「竜の背に乗るのは久しぶりがな!」
「乗ったことがあるのか?」
「ふふん、伊達だてに大精霊をやってないがな」

 岩の着ぐるみをかぶったすね毛丸出しの変質者のくせに、胸を張ってやがる。イラッとしたから睨みつけてやった。

「まぁ我と大精霊は旧知の仲でな。その理由もじきに分かる」

 またこれだ。昨日からずっとこいつらは事情を話してくれない。じきに分かる、祭壇に辿たどり着いてから。この繰り返しだった。
 だが、ディーラの背に乗って移動すれば城まではすぐ。俺たちのもやもやっとした気持ちも、解消されるまで後わずかだ。

「意味ありげに格好つけなくていいですから、座ってください!」
「別に格好つけてるわけじゃねぇ!」

 服のすそを引っ張ってきたグス公に言い返す。
 腕を組んで立ってるだけなのに、見ていると落ちそうで怖いらしい。その後も、グス公に何度かツッコまれる。
 だが、そうこうしている間に城に辿たどり着いた。
 王都の手前で降り、中に入ろう。それでも大騒ぎになるだろうが、仕方ねぇ。
 ディーラに告げようとしたのだが、それより先に速度が上がった。
 ディーラはぐに城へ飛び、広い中庭の上で一度せんかいする。地上はざわついていて、大ごとになっていることは見なくても分かった。
 翼を羽ばたかせ、ゆっくりと降りるディーラ。周囲には、武器を構えた大量の兵士。頭いてぇが、すでに手遅れだな。
 ドスンッと大きな音とともに地を揺らして降り立つと、すぐに兵士たちに取り囲まれた。
 ……まぁこっちには王女が二人いるんだ、どうにでもなるか。
 ちらりと二人に目配せする。頷いた二人は同時に立ち上がり、これ見よがしにポーズをとりながら告げた。

「下がりなさい! 第二王女、グレイス=オルフェンです!」
「あ、ずるいぞグレイス。ここは姉が先だろう。第一王女、アマリス=オルフェンだ! この竜は味方である!」

 ディーラの背に立ち、なんとも自慢げな表情の二人。人には立つな立つなと言っていたのに、なんかおかしくねぇか?
 呆れを込めて二人を見る。馬鹿姉妹は二人揃って腰に手を当て、胸を張りやがった。

「一度やってみたかった」
「一度やってみたかったんです」
「俺のこと言えないじゃねぇか……」

 ひたいに手を当て、俺は小さく首を横に振った。


 俺たちが背から降り、ディーラの体が小さくなったときだ。兵士たちが突如道を開け、王様おっさんが前に出てきた。

「やれやれ、竜が攻め込んで来たと聞いたが、違ったらしいな」
「申し訳ありません、父上。ですが、緊急事態であることに違いありません」

 アマ公が一礼すると、王様おっさんは頷いた。

「で、あろうな。話を聞こう。ついて来るが良い」
「待ってほしいがな。話は地下の祭壇でしたいがな」

 いきなり一歩出てそう言ったのは、岩の着ぐるみをかぶった土の大精霊だ。
 王様おっさんはその姿を見て、目を真ん丸に見開いた。気持ちは分かるぜ。
 しかし、さすがは国王ってところか。一つ咳払いをしただけで、すぐに冷静になった。

「……そなたは?」
「土の大精霊がな。それだけで火急の用件だと分かってもらえるがな?」

 王様おっさんはちらりと俺と坊ちゃんの方を見た。たぶん、俺らの反応を見て本当かどうか確かめたんだろう。こんな変質者に土の大精霊だと言われても、そりゃ疑うってもんだ。
 だが、俺と坊ちゃんが何も言わないのを見て、本物だと判断したらしい。

「……なるほど、ただならぬことが起きているようだ。すぐに地下の祭壇へ向かおう」
「ほらほら見るがな零! これが大人の対応がな! 怪しくないって分かったがな?」

 普段の俺の態度に不平不満を言う土の大精霊。
 ちっ、十分怪しまれてたぞ。
 俺は無言で岩の着ぐるみを蹴り飛ばした。


 ――地下の祭壇のある真っ白な空間は、一年前と変わっていなかった。
 当時の騎士団長ゴムラスの野郎をぶっ飛ばしたのが、つい最近のことのようだ。当時を思い出すと、懐かしくなる。
 土の大精霊はぐ祭壇へ近づき、そっと手を触れた。直後に祭壇が光りだし、それが収まると残り三人の水・風・火の大精霊の姿があった。

「そんな便利機能がついてたのか」
「いざというときの備えがな。でも使うのは初めてがな」
「なるほど。それだけ平和だったということだ」

 うんうんと頷くアマ公。
 しかし、俺は釈然としねぇ。
 なら、一年前もこの前の情報収集のときもここに来て、こいつらを呼び出せば良かったんじゃねぇか? いや、旅をしたことが悪かったとは思ってねぇよ? でもなぁ……。
 腕を組みつつ難しい顔をしていたのだが、俺と同じことを考えていた奴が躊躇ためらわず疑問を口にした。

「僕たちが旅をした意味はなんだったんだろう」
「おいリルリ!」
「いや、だって……」
「よく言った!」

 アマ公はリルリを止めようとしたが、俺は頭をがしがしとでてやった。
 リルリはふふんと鼻を鳴らし、嬉しそうにしている。
 で、どうしてなんだ?
 俺たちが視線を送ると、風の大精霊が大きく息を吸い込んだ。
 あ、やべぇ。これ来るな。
 察した俺たちは、すぐに両耳を手で塞いだ。

「このたわけどもが! 大精霊が四方に散っているのには意味がある! 一ヵ所に集まるということが異例の事態だと分からんのか! 零! わしの説教はうんざりという顔じゃな! 耳を塞ぎおって!」
「こういうのは学習したって言うんだぜ」

 俺は自慢げに言ったんだが、風の大精霊はばばあらしからぬ速さで動き、俺の手をつかんで耳元に口を寄せた。

「馬鹿もんが!」
「だぁっ! うるせぇ!」

 み、耳がキーンとしやがる。こんのクソばばあ、覚えてろよ。
 じろりと睨みつけてやったが、ばばあは杖で俺のふとももを叩いた。くそが!


 本当に下らねぇやり取りが終わり、俺たちの話し合いが始まる。
 俺、グス公、リルリ、アマ公、坊ちゃん。ディーラに王様おっさん、四人の大精霊。自分で言うのもなんだが、すごいめんが集まったもんだ。
 だが空気は重く、誰もが神妙な面持ちでじっとしている。
 そんな中、最初に口を開いたのは土の大精霊だった。

「まず、ここで話し合わなければならなかった理由がな。言うまでもないが、大精霊が集まれる場所だったからがな」
「他に理由はありませんね」

 坊ちゃんの言葉に、土の大精霊が頷く。今は非常事態で大切な話をするからなのだろう、土の大精霊はいつもと違い、顔は真剣そのものだった。
 昨日から気になっていたことが、ようやく明かされる。
 少しだけ緊張し、無意識に背筋が伸びた。チビ共も俺の様子に気づき、同じようにピシッと姿勢を正す。
 土の大精霊は周囲を見回した後、わずかに口を震わせながら話し始めた。

「魔王が復活するがな。……いや、すでにしているかもしれないがな」
「魔王? あのなぁ、そんなゲームみてぇなこと……」
「やはりそうだったか」
わらわたちが倒したはずだったのに……」
「実際は何らかの方法で生き延びていたということじゃ。あの時に弱体化はしたが、魔力を吸うことで力を取り戻したんじゃろう。……ん? どうした、零」
「い、いや、なんでもねぇ」

 あ、あれ? なんかさも当然みたいに大精霊たちは話してやがる。俺からしたら、魔王とかどこぞのゲームのあれで、冗談も大概にしろって感じだ。
 しかし、他の奴らの反応で分かった。これは冗談でもなんでもなく、本気で言っている。
 魔王、魔王か。つまり、そいつをぶっ倒せば全て終わるんだろ? で、魔力を吸収する力をディーラが魔王から得れば、チビ共が増えすぎた問題も解決。やることが分かっちまえば単純なことだ。

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