ヤンキーは異世界で精霊に愛されます。

黒井 へいほ

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2巻

2-3

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 駄々っ子のようにグス公が暴れ出した。確かにこいつの体力じゃ、どんだけ時間がかかるか分からねぇ。
 だが馬車で移動しようにも、こいつはすぐに酔う。そもそも、立ち入り禁止区域に馬車なんか出てねぇだろ。なんであの乗り心地のいい王族専用の馬車を持ってこなかったんだ、こいつは。
 ……いや、今からでも遅くないんじゃねぇか?

「おい、グス公。俺は先に歩いて向かってるからよぉ、お前は一度城に戻って馬車とってこいよ。それで解決じゃねぇか?」
「……」

 黙った。急に黙って、そっぽを向いた。何やってんだ、こいつは?
 もしかして、俺が帰らせようとしてると思ってんのか?
 いや、確かにどうせなら巻き込みたくねぇから帰らせたい。
 だが、それもできねぇしな。こいつは絶対についてくるつもりだ、間違いねぇ。なら、少しでも楽をさせねぇと、おりをする俺まで大変だ。
 ……あれ? そういやこいつ、どうやってリルリを納得させたんだ? 一人で来たんだよな?

「グス公、聞いてんのか?」
「き、聞いてますよ? 馬車……馬車ですよね? えぇ、あれはちょっと整備中でして。後からリルリが持ってきてくれるはずです。それまでは徒歩でもしょうがないですね、はい」
「いや、お前ついさっき移動方法がって……」
「うっかり忘れていただけです! それまでは頑張るしかありません!」

 言うだけ言って、グス公は先に歩きだしやがった。なんか汗かいてたように見えたが……気のせいか?
 後からリルリも来るんだな。あれだけ心配してたくせに、結局グス公には甘いってところか。
 まぁリルリも来るんなら大丈夫だろう。グス公のことをしっかり考えてる奴だからな。
 それまではゆっくり進んで行くしかねぇ。
 俺のためじゃなく、グス公のためにな……。


 ――小一時間、俺たちは爽やかな陽気を楽しみながら散歩気分で進んでいた。
 いい天気じゃねぇか。気分までよくなるってもんだ。

「疲れました……」

 どうやら気分がよくねぇ奴もいたようだ。
 段々ペースが落ちてきてるとは思ったんだがな。グス公は顔を真っ赤にして息を必死に整えている。
 どうやら、俺にぜぇぜぇ言ってるのを聞かれないために我慢していたらしい。真っ赤でタコみたいだ。

「分かった。なら休むぞ」
「え? 今日は零さんやさし……」

 グス公はそこまで言って、よろよろと森の木の陰に入っていった。
 なんか木の陰から嫌な音がする。俺は無言で水を用意した。チビ共は薬みたいなのを俺に差し出してきた。うん、わりぃなお前ら。
 少し待っていると、赤い顔から青い顔になったグス公が戻ってきた。

「もう大丈夫です。行きましょうか」
「いや、行かねぇから少し横になれ」
「ううう……」

 こいつは何をムキになってんだか。俺はグス公に水と薬を飲ませた後、ちょうどいいし、エルジジィにもらった干し肉で昼飯にすることにした。
 うん、これだけじゃ足りねぇかもな。……っと、チビ共がどんどん草やらきのこやらを持ってくる。ついでに鍋を叩いていた。これでスープでも作れってことらしい。昼飯には十分だな。


 俺が昼飯を済ませた後も、グス公は水と薬を飲んでぐったりだ。だが、さっきより顔色が良くなってきている。
 休んだのもあるだろうが、チビ共の薬が効いてんのか? 酸欠に効く薬ってなんだ?
 俺の元いた世界では、スプレー缶みたいなのに入った酸素ボンベを使うんじゃなかったか? ……だが実際、グス公は落ち着いてきている。不思議なもんだ。

「零さん、すいません。足手まといになって……」
「いつものことだろ」
「ううう……しょうがないんです! 箱入り娘なんです! 悪いですか!?」
「いや、何も言ってねぇだろうが。大人しく寝てろや」
「はい……」

 一息ついて腹もこなれてきたときだった。
 ガサガサッという物音が森の中から聞こえた。



 第五話 鉈買うぞ


 俺はいつでもボコれるように、手元に置いといた鉄パイプをつかんで物音のした方に構える。
 ……だが、何も出てこない。俺はゆっくりと立ち上った。

「グス公、少し下がるぞ。お前は俺より前に出るな」
「はい。分かりました」

 グス公も音には気づいていたらしい。スッと俺の斜め後ろに下がる。
 俺たちは前を警戒しながら、ゆっくりとあと退ずさった。いきなり森の中から何かが飛び出してきたら困るからな。
 音は、確実に俺たちのいる方へ迫ってきていた。
 一体、何が出てくるんだ?
 音のする方向を注視していると、森からい出てきたのは、でっかい花だった。

「はぁ? なんで花が出てくんだ?」
「零さん近づいたら駄目です! それはりょうばなです。でも、このモンスターは動物などの死骸を養分にしてるはずなのに、なんで私たちの方に……」
「やべぇのか?」

 俺が聞くと、グス公はあごに手を当てて考え出す。
 少しして考えがまとまったのか、一つ頷き答えた。

「モンスターが活性化していることと関係があるのかもしれません。燃やしましょう!」

 それだけ言うと、即断即決。グス公はすぐに手を森へ向けて構えた。
 グス公の手の周りを炎が舞いだす。
 いや待て。お前どこにぶっ放す気だ!?

「零さん下がってください!」
「馬鹿か! 待て!」

 前に飛び出したグス公を、俺は腕を引っ張って下がらせた。
 突然だったからか、グス公はそのまま尻もちをつく。強く引っ張りすぎたか。

「もう! 零さん何をするんですか!」
「こんなとこで炎を撃ったらどうなると思ってんだ!」
「えっと……燃えます!」
「あぁそうだな、森はすげぇ燃えるだろうな!」
「あっ」

 グス公は今気づいたかのように、魔法を消して口を押さえた。あざとく手を頭にコツンとやってやがる。ちっ、腹立つな。
 まぁグス公のことはいい。森が燃やされなかっただけで十分だ。
 だが、参ったな。花の向こうに森がある以上、グス公の魔法をぶっ放すわけにはいかねぇ。
 殴るか? しょせんは花だ。なんか周りをつるみたいのがウネウネしてるが、どうってことはないだろう。
 ん……? いや、そもそもなんで俺はやる気になってんだ?

「どうしますか、零さん。距離を取りつつおびき出して、魔法で倒しますか?」
「いや、逃げっぞ」
「ふぇ?」
「よく考えたら倒す必要もねぇ。まだ襲われたわけでもねぇしな。逃げっぞ、走れ」

 俺はグス公の手をつかんで走りだした。グス公はなぜだか顔を少し赤くしながら、「うふふ、二人の逃避行ですね」とか、わけの分からないことを言っている。
 また変になってるんだろう。後で頭にチョップを入れるか。
 ため息をつきつつ走っていたのだが、不意に何かに引っかかって転んじまった。

いてぇ! くっそ、なんだ?」
「零さん! 足です!」
「足だぁ?」

 慌てて足元を見ると、俺の足にはあの花のつるがしっかりと巻きついていた。
 やべぇ!
 すぐさま俺はそのつるを鉄パイプで殴りつけた。だが全然効果がないようで、俺の体はじりじりと花の方に引きずられていく。
 落ち着け。鉄パイプじゃ駄目なんだ、刃物かなんかなら……石斧か!
 俺は焦りながらも、腰に差してあった石斧を左手に持って振り上げる。これでつるなんてぶった切ってやらぁ!
 ガンッと、左手に握った石斧から強い衝撃が伝わってくる。その衝撃とともに、握っていた石斧が後方に吹っ飛んだ。
 前を見ると、何本もあるつるのうちの数本が石をつかんでいた。どうやらあれを石斧に当てて吹っ飛ばしたみてぇだ。
 ほんの一瞬だ。一瞬、石斧のこともあって、俺は力を抜いちまった。その隙をあの花は逃さなかった。

「ちょ、てめぇ! くそが!」

 俺の体は、花の上で逆さに持ち上げられた。あの細いつるのどこにそんな力があんだ!?
 鉄パイプを振り回したが、上手いこと俺の体に巻きついたつるを動かされて花に当てることができねぇ。花についている目(?)みてぇなところを睨みつけると、にたりと笑ったように見えた。
 花びらに囲まれた中心部分が割れるように開く。現れたのは、口のようなものだった。それを大きく広げている。それが何を意味するのかは、すぐに分かった。
 俺をこのまま食うつもりだ。なら、腹の中で暴れてやるか? いや、動けるとも限らねぇ。じゃあ、どうする?
 一つしか、俺には方法が浮かばなかった。

「グス公! 魔法でこいつをぶっ飛ばせ!」
「え? で、でも森が燃えちゃいますよ?」
「調整してこいつだけ燃やせ! てめぇならできる!」
「私ならできる……。分かりました! 任せてください!」

 グス公は杖を持ったまま両手を前に突き出した。その両手に火が集まって火球となる。
 炎を普通に放てば、森まで燃えちまう。だが、火球ならこいつだけを燃やせるかもしれねぇ。
 グス公にしては考えたじゃねぇか! 後はうまく調整できるかだが、そこはグス公を信じるしかねぇ。

「やれ!」
「いきます!」

 グス公の魔法は、真っ直ぐにりょうばなに向かっていった。
 これなら当たる! 威力は強そうだが、森が燃えないことを祈るばかりだ。
 だがこの花は、予想外の行動をとりやがった。持ち上げていた俺の体を、火球の軌道上に動かす。つまりは、俺を盾にしようってんだ。

「やべっ……」

 身動きが取れない俺は逆らうこともできない。すぐさま、背中に強い衝撃が……あちぃ!
 俺に当てちまったグス公を気遣い、叫び声を出さないよう必死に耐える。
 くそ! ふざけやがって花が!
 だが熱さにもだえる俺のことを、花は不思議そうに見てやがった。何見てんだこいつは、熱いに決まってんだろうが!

「零さん!? あわわわ。私、零さんを殺しちゃいました! もう夫の後を追うしか……その前にあなたは許しません! 燃えろ!」
「ちょ、待て」

 制止の言葉は届かず、グス公はさっきと同じ火球をりょうばなに向けて撃った。そりゃもう、ばんばん撃ちやがった。
 俺のことを見ていたりょうばなはそれに気づかず、そのまま火球は何発も花に直撃する。そして盛大に燃え始めた。
 そりゃ当然か、花だからな。……だが待て、あちぃ! 俺も燃えるじゃねぇか! くそグス公が! あちちちち!
 吊るされた俺の下で、盛大にがおこる。だが花が燃やされているおかげで、俺をつかんでいたつるの力も弱まった。
 あちぃ! 放されても下は結局燃えてるじゃねぇか!
 俺は慌てながらも、火の中から転がって抜け出した。

「うぅっ、零さん待っていてください。私もすぐに後を追います」
「てめぇあちぃじゃねぇかグス公が!」
「え? 零さん!? なんで無事なんですか!?」

 何をどう見たら無事に見えるんだ、こいつは。すげぇ燃えそうになってただろうが。
 あぁくそ。まさか生きたままあぶりになる日が来るとはな……。

「あの、零さん? なんで大丈夫なんですか?」
「だから大丈夫じゃねぇって言ってんだろうが! 背中は少しいてぇし、体の色んなとこを火傷やけどしてんぞ!」
「いえ、そうじゃなくて……。あれ? 私、そんなに手加減したかな?」
「殺す気だったのかてめぇ!」
「いえいえ違いますよ? 誤解です本当です! あ、なんですかその指。デコピンはやめてくださ……痛い!」

 色々と言いたいことはあったが、とりあえず森が燃えずに済むように、俺は動かなくなってる花を蹴り飛ばして移動させた。まぁ、もう真っ黒になってるから大丈夫だとは思うんだがな。
 で、一応チビ共と一緒に水を辺りへいて消火作業だ。水はチビ共が持って来た。どこからかは分からねぇ。
 これだけやれば一安心だろ。


 作業を終えた俺は、マントと鎧を外して上着を脱いだ。

「零さん!? 急に脱がないでください!」
「うるせぇ! いいから見てくれ。赤くなってねぇか?」
「そんな結婚前の娘に無茶言わないでください!」

 面倒くせぇ……。俺は顔を赤くしてあわあわしているグス公に、もう一発デコピンをぶち込んだ。そして、チビ共に頼んで見てもらった。
 チビ共は変な塗り薬を、俺の背中と火傷やけどしたところに塗ってくれている。ミントのアイスを食べたときみてぇな感じっていうのか? なんかスーッとして、痛みがやわらいだ。
 ふぅ、チビ共がいて助かった……。
 それにしても、でかい花に襲われるとはな。この世界じゃ、色んなことがあるもんだ。

「あ、あの零さん……大丈夫ですか?」
「おう、もう大丈夫だ。助かった、ありがとな」
「いえ、私が外してしまったばかりに……」
「なんかへこんでると思ったらそれか。別に外したわけじゃねぇだろ。相手がうわだっただけだ。今後はこういうときのことも考えないといけねぇなぁ」
「はい、頑張ります」

 シューンとして、グス公は小さくなっている。なんだか昔のグス公みてぇだ。……いや、昔ってか元々こいつはこうだよな。
 とりあえずあれだな、刃物の必要性ってのを学んだ気がする。石斧も悪くねぇと思っていたが、切れ味を考えるとなぁ。もうちょっとしっかりしたのがあったほうがいいだろう。
 ぶった切るものか……。

「とりあえず、次の町では刃物も買っておいたほうがよさそうだな。鉄パイプや石斧だけじゃ、あぁいうのに困る」
「そうですね。やっぱり剣が必要ですね」
なただな」
「はい、剣があれば……え? なた? あの、剣は……」
なたがあれば、あんなの簡単にぶった切れるだろ」
「せ、せめて短剣とかのほうがいいんじゃないですか?」
「短剣なんてやわなもん、切れなくなったらどうすんだ? その点、なたなら丈夫だからな。戦う以外にも色々使えるぞ」

 グス公は釈然としないという顔をしていた。こいつは利便性ってやつが分かってねぇな。
 なるべく丈夫なもんが一番だ。短剣なんて頼りにならねぇ。何より俺は使ったことがねぇからな。

「まぁとりあえず怪我も落ち着いたしよ。町に向かうか」
「え? もう大丈夫なんですか? 後、やっぱり剣のほうがよくないですか?」
なただ、なたなた買うぞ」
「ううん……?」

 なんか難しい顔をしているグス公を引っ張って、俺たちはその場を後にした。
 いいなたを売ってるといいんだがなぁ……あ、そういえばマチェットってのもあったな。あれは昔、田舎のジジイの家で使ったが悪くなかった。だがなたより取り扱い注意とか言ってた気がする。
 危ないほうが戦う分には便利なのかもしれねぇけどなぁ。草とかばっかり切るわけじゃねぇし。
 ん? そういや田舎のジジイは、なんであんなに斧とかなたとか鎌とかマチェットを持ってたんだ? ……まぁどうでもいいか。田舎暮らしってのは、きっとそんなもんなんだろ。



 第六話 一体どういうことだ?


 あれから数日、途中でゴブリンに襲われたが、なんとか撃退して俺たちは南に進んでいた。
 南に行くにつれ、周囲から木や草花が減っていった。暑い。

「なんなんだ、この暑さは……」
「フュー火山の影響ですね。南は植物が少なくて、山岳が多くなっています。そして暑いです」

 なるほど、つまりそれで暑いってことか……。
 もうすぐ町に着くはずなんだが、とにかく暑い。日が射している暑さとは違い、こう、なんていうんだ? 下から、もわもわとくる暑さってのか? 不快感がすげぇ。
 俺がグス公と暑い暑いと言い続けながら歩いていると、前からチビ共が走って来た。火の被り物をしたチビ共だ。マッチとかのもいる。
 火の精霊ってやつだろう。南に来てからは火とか岩とかの精霊が増えた。岩って、属性的には土なんだっけか? まぁどっちでもいいか。とりあえずそいつらと、いつも通り契約をした。
 そういや契約数に上限とかってねぇのか?
 だが、今のところ契約したからといって問題は起きてねぇ。だから大丈夫なんだろ。
 納得したことにして、俺は契約を済ませて歩きだす。
 進めば進むほど、火の精霊たちは元気になってやがる気がする。飛び跳ねたりスキップしたりして、はしゃいでる姿が可愛い。
 ちなみに、グス公もわりと元気だ。
 どうやら炎の魔法を使える奴は、暑さに強いらしい。グス公いわく、俺が炎使いでもないくせに普通にしてることのほうが、むしろ違和感があるそうだ。
 いや、普通じゃなくてかなり参ってんだけどな。情けないところを見せねぇのは、男の意地みたいなもんだ。

「とりあえず岩陰で一度休むか」
「ですね、無理をしても仕方ないですからね」

 俺たちは街道を少し外れ、大きな岩の陰で休憩する。ここまでも何度かこういう風に休んだ。
 ちなみに岩には触れたらいけねぇ。熱いからだ。
 ついでに、日陰に入っても涼しいわけではない。陽射しとかじゃなくて、こう下からくる暑さのせいだ。それでも日陰は少しマシだけどな。

「あぁ、リルリがいれば氷を出してもらえるのに……」
「確かに。グス公の水魔法じゃ氷水を作るのが精々だからな。でもまぁ、それで助かってるぜ」
「うーん、自分の属性に合ってない魔法は、魔力がごりごり減っていくんですよね」

 ふぅん、色々決まり事みてぇのがあるんだなぁ。
 だが、それでもなんとかなってるだけいいだろ。無理をしなきゃ町まで行けそうだしな。
 ……正直、チビ共がいなかったらこうはいかなかっただろう。これだけ毎日歩いてれば、当然足の裏とかもズタボロになるし、体もぐったりだ。
 なのにチビ共のくれる不思議な薬を塗ると、次の日にはなんとか大丈夫になる。これがなかったら、とても毎日歩くことなんてできねぇ。

「ところで、町までは後どれくらいなんですかね?」

 グス公に言われて、俺は手元の地図を見る。ふむ、もうちょいってところか。

「このままいけば夕方には着くってとこだろうな」
「なるほど。いいダイエットになりそうですね!」
「いや、お前そんなに肉ついてねぇだろ」
「ちゃんとついてます! 失礼ですよ! こう見えても、胸は平均より上くらいはあるんですからね!? セクハラです!」
「いや、胸の話はしてねぇんだがな……」

 グス公はぷんぷん怒っている。でも、その理論でいくとダイエットで胸のぶんが減るんじゃねぇのか? だが、そう言ったら余計面倒なことになりそうだ。俺は適当に流すことにした。


 まだ体形や胸のことでぷりぷりしているグス公は放っておいて、俺は水で濡らした布を頭に載せて、また歩きだした。頭の上と首の後ろに布を当てると気持ちがいい。ここまでに学んだことの一つだ。……まぁ、すぐに温まっちまうんだけどな。
 それでも俺たちはおおむね予定通り進んでいた。視界に入るのは岩ばっかりでうんざりするが、確実に町へは近づいている。
 ついでに、左手側にはでかい山が見える。どうやらあれがフュー火山らしい。

「そろそろ町が見えてもいい頃ですね」
「思いっきり水の中にでも飛び込みてぇとこだな」
「あはは、それは同感ですね」

 汗をぬぐいながら、何度か休憩をとりつつ進むと町が見えてきた。よし、もうちょいだ。着いたら浴びるほど冷たい水を飲んでやらぁ!


 予定では夕方に到着予定だったんだが、辺りがほんのり暗くなる頃に町の東門に着いた。
 鉱山都市フューラ。まぁ想像通りの場所だった。町の中にはトロッコとかの道があり、住民もごつい奴がたくさんいる。
 グス公によれば、どうやらここには鉱脈を掘り当てて一攫千金いっかくせんきんを狙う奴とかもいるらしい。グス公は町の雰囲気が苦手だとか言ってたが、要はガテン系の兄ちゃんが集まってるってことだろ? 話してみれば案外いい奴なんじゃねぇか? いや、話したことはねぇけど。
 ともかく、町まで着いてしまえばこっちのもんだ。とりあえず宿だな。
 俺たちは重い体に鞭打って、町の中へ入った。もうすぐ休める……。
 しかし、すぐに止められた。

「止まれ!」
「あぁ?」
「アマリス様、見つけました!」
「ご苦労」

 町に入った俺たちの前に出てきたのは、アマ公と鎧を着た奴らだった。たぶん騎士団ってやつか? こんなとこで鎧着てて暑くねぇのかなぁ。
 ……それより、なんでアマ公がいるんだ?
 俺がグス公の方を見てみると、顔が青ざめていた。
 まさかこいつ、何かやらかしてきたのか? 確かに怪しいりはあった。どうせアマ公の反対を振り切って飛び出したとかだろ? ったく、あんまりグス公は成長してねぇな……。
 やれやれとため息をつきつつ、俺はアマ公へ軽く手を上げて話しかけた。

「おう、久しぶりだなアマ公。どうしたよ」
「黙れ、下郎が」
「その口調も久々だなぁ。で、どうした。何か用事か?」
「黙れと言っている!」

 俺はそこでやっと気づいた。穏やかじゃねぇ。アマ公の様子は明らかにおかしく、目がギラギラしてやがった。
 さらに騎士団の奴らは、俺たちを囲むように動いている。まるで逃げ場をなくすためみてぇに。

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