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2巻

2-2

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「まぁ分かった。一応信じた。で、何か用か」
「用? 用があるのは零のほうじゃないがな?」
「あぁ? 変質者に用はねぇ」
「本当にいいがな?」

 ……よくねぇな。こいつは何かを知ってんだろ。直感だが、そんな気がする。
 ちゃんと聞いておくべきなのかもしれねぇ。すげぇ聞きたくねぇけどな。

「俺の質問に答えてくれんのか?」
「答えられることだけになるがな」
「分かった。ならまず、精霊ってのはなんだ?」
「おぉ、いい質問だがな。精霊とはこの世界の維持に必要なものだがな」

 なるほど、分からねぇ。酸素みたいなもんか? さっぱり分からん。
 俺の心を読み取ってるからなのか、疑問が顔に出てるからなのかは分からないが、土の大精霊は偉そうな顔をして腕を組んだ。

「精霊がこの世界の魔力を生み出してるがな。これなら分かるがな?」
「は? 待て待て。精霊は魔法が使えねぇんだろ?」
「魔法は魔力がないと使えないがな。つまり精霊がいなくなれば、魔法は使えないがな」
「お、おう」

 やべぇ、どんどん分からなくなってる。
 精霊がいないと魔法が使えない? いや、グス公は精霊と契約してなくても使ってたよな。なら、いなくても使えるんじゃねぇか?

「まぁ今はなんとなく理解すればいいがな。この世界に魔力があるのは精霊のおかげ。精霊がいなくなったら魔力がなくなるから、魔法が使えなくなるがな。オッケーがな?」
「おう、オッケーがな」

 やべぇ移った。土の大精霊はニヤニヤ笑ってやがる。
 俺が鉄パイプを握ると、笑うのをすぐにやめた。最初から大人しくしてろ。

「で、今は世界の魔力が乱れてるがな。このままじゃ、世界から魔力が消えるがな」
「待て待て待て待て。今、一気に話が飛んだよな? なんで世界の魔力が乱れてんだ!」
「それは自分で調べるがな」
「お前が知らねぇだけだろ!」

 おい、なに溜息ついてんだ。この野郎、本当に俺に教える気があんのか?
 なんかイライラと……しねぇな。あれ、なんでだ?
 すぐに気分が落ち着いて、俺はこいつの話を聞こうって気になってる。信じてみてもいいかもしれねぇ……と思えてきた。こんなに怪しいのに、だ。わけが分からねぇ。

「零、いいがな? 残り三体の大精霊に会うがな。で、黒い石が何か、精霊解放軍がなぜあんなことをしているかを調べるがな。それから最後に一番大事なことを言うがな」
「おいおい、そんないきなり色々言われてもよぉ。……ん? 一番大事なことだ?」
「自分がを知るがな」

 ……自分が何者か? 俺は俺だろ? こいつは何を言ってんだ?
 それとも俺には何かがあるのか?

「よく考えるがな。今までも自分に人と違うことがあったはずだがな。それはなぜなのか、自分は何者なのか。それが分かったときに……決めるがな」
「決める? おい、何を言ってんだ! わけが分からねぇぞ!」
「東に土の大精霊、私がな。そして、南に火の大精霊、西に風の大精霊、北に水の大精霊。覚えておくがな?」
「いや、だからそれがなんだって……あれ? チビ共には木や花みてぇなの被ってる奴もいるし、氷とか雷とかの魔法もあるよな? それはなんなんだ?」
「それは全部四属性からの派生だがな。基本の四属性の大精霊が、派生したものも統括してるがな」

 んん? つまり氷は水の大精霊の仲間ってことか? 雷とかはどうなんだ? 分からねぇ。
 そんなことを考えているうちに、土の大精霊は、いつの間にか俺の目の前にいた。そして、そっと鉄パイプに触れる。
 おい、なに勝手に触ってんだ!
 振り払おうとした時、土の大精霊の指先から淡い光が出て、鉄パイプの先に四つの穴が空いた。
 俺が首を傾げて見ていると、土の大精霊が穴に触れる。すると、茶色い石が穴にはまった。
 なんだ、これ?

「精霊を救うために、大精霊の力が必要だがな。全ての大精霊の力を手に入れて、祭壇に捧げるがな」
「祭壇? いや、そこじゃねぇ。チビ共を救うってどういうことだ!?」

 俺の問いかけには答えず、土の大精霊はにっこりと笑った。いや、おっさんに優しく笑いかけられても嬉しくもなんともねぇんだが……。
 よく分からねぇから、俺は土の大精霊を睨みつける。だが、土の大精霊は見る見るうちに姿が薄くなっていった。

「お、おい! なんか薄くなってねぇか!? まだ話は終わってねぇだろ! 他のことはどうでもいいが、チビ共を助けるってことについて言え!」
「分かったがな? 大精霊に会うがな! そして自分が何者なのかを知るがな! また会える日を楽しみにしてるがな」
「待てって言ってんだろ!」

 ……消えた。そう、段々薄くなったかと思ったら、そのまま消えた。まるでそこには最初から何もいなかったみてぇに、だ。
 チビ共は消えたところをじっと見ている。
 俺が決める? 何をだ?
 この世界に来たのは偶然じゃなかったってことか? あのメガネも、何か隠してやがるのか?
 何も分からないまま、さらに分からないことが増える。
 俺はただ、呆然と立ち尽くすことしかできなかった。



 第三話 こんなとこで何してんだてめぇ!


 ……いや、立ち尽くしていても駄目だ。
 わけ分からねぇことはたくさんあったが、分かったことも多かったはずだ。とりあえず、分かったことをメモするべきだな。
 メモ帳とペンは、リルリが俺のために用意してくれた袋の中に入っていた。あいつはどんだけ便利なんだ。
 その日は洞窟に泊まることにして、色々とこれからのことをまとめてみた。
 ・黒い石のことを調べないといけない。だが、まだ情報はない。
 ・精霊解放軍の目的をしっかり知る必要がある。精霊を解放することに理由があるってことか。
 ・精霊ってのは何か大事なもんだ。いないと魔法が使えなくなる。
 ・世界の魔力が乱れてる。よく分かんねぇ。
 ・大精霊に会う必要がある。東西南北に一体ずついる。会うと何かが分かるってことなんだろう。
 ・チビ共に何があるのかは分からないが、やべぇらしい。助けるためには、大精霊に会う必要がある。
 ・俺には何かがあるらしい。俺のことを知らないといけない。今までにもヒントがあったみてぇだ。そして何かを決めないといけねぇ。
 ……こんなとこか。
 俺は茶色の石がついた鉄パイプを見たが、当然何も答えてはくれなかった。
 大体まとめ終わったので、次の目的地を決めることにした。動けばなんとかなるだろ。
 この精霊の森は、地図によれば大陸の南東に当たる。で、土の大精霊とかいう変質者は東の大精霊だった。なら次に近いのは南か。

「うっし。南に向かうか」

 そう決めて寝ることにした。今日はもう夜遅い。今から動くのは馬鹿のすることだ。
 南にも町があるみてぇだし、地図を見る限りだと山が多い感じか?
 ……まぁなんとかならぁ。


 ――朝、起きて身支度を整えた。
 チビ共もやる気満々だ。俺に目的があるのが嬉しいらしい。俺と同じように荷物を背負っているが、もしかして真似してるだけじゃねぇよな?
 段々、こいつらの考えてることが分かってきた……と思う。長く一緒にいるからだと思ってたが、もしかすると、これにも何か理由があるのかもしれねぇ。
 まぁとりあえずは南だ。俺は森を出て、昨日通った道をまた歩きだした。


 途中に分かれ道があるからそこまで戻って、南に向かう方角へ進めばいいだろう。
 ってことで、分かれ道まで歩いてたんだがな。
 なんか、聞き覚えのある声がこっちに向かってくる。前にもこんな展開があった。

「た、助けてください! 誰かぁ!」

 赤い髪に赤い目。セミロングっぽい髪に少し低めの身長。
 確認するまでもねぇ。顔を真っ赤にしてぜぇぜぇと息を上げて走って来ているのは、間違いなくグス公だった。

「ちょっと止まれや。こんなとこで何してんだてめぇ!」
「零さん!? ひっ! こっち見ないでください! 久々なので慣れてません! 後、助けてください!」

 グス公は息も絶え絶えという感じにもかかわらず、素早く俺の後ろに隠れた。
 こいつは……。
 俺は仕方なくグス公の来た方向を見る。ゴブリンが五体ほど意気揚々と追いかけてきていた。
 うん、この展開も知ってたな。

「おい! てめぇ精霊と契約して強くなったんだろ! なんで逃げてんだ! 焼いちまえばいいだろうが!」
「焼きました! すっごい焼いたんです! 十体以上倒したんです! でも魔力がほとんどなくなっちゃいました。えへへ」
「えへへ、じゃねぇ! もうちょっと考えて使えや!」

 もう、なんなんだこいつは……。
 俺は頭を抱えたい気持ちを抑え、とりあえずゴブリンをどうするか考えた。
 五体か。まぁなんとかできるだろ。どうぶっ飛ばすかが大事だな。さてまずは……。

「零さん! 何してるんですか!? もう来ちゃいます! 逃げるんですか!? そうですよね! 逃げましょう!」
「うるせぇ!」

 俺はグス公の頭を叩いた。この感じすら懐かしい。
 グス公は涙目になりながら、不服そうに俺を見ていた。知ったことか。
 で、なんだ? 俺が逃げる? ふざけやがって。

「逃げるわけねぇだろうが! ぶっ潰すに決まってる! てめぇは残った魔力で、できるだけよえぇ火を飛ばして援護しろ! 俺には当てんなよ!」
流石さすが、脳筋ですね! 分かりました!」

 てめぇに言われたくねぇ!
 俺はその言葉を返す時間すら惜しんで、ゴブリンに向かって走った。
 相手は五体。全員が斧やら剣やらを持ってる。だが、動きはそこまで速くねぇはずだ。何度かやりあって、奴らのことは分かってる。
 まずは……石斧をぶん投げる!

「ぐげっ!?」

 おし、一番前の奴の体勢が崩れた。追いかける側だからって、調子に乗って集まって走ってるからだ。
 前の奴が石斧を食らって後ろに倒れると、そいつのせいで他の奴の動きも止まる。
 で、次は……鉄パイプをぶん投げる!

「ぐぎゃっ!? ぐぎゃ! ぐぎゃっ!」

 いいぞ、グルグル横回転しながら向かっていた鉄パイプが二体をぶっ飛ばした。その間に距離を詰めた俺は、振り返って仲間の方を見ている馬鹿の顔面を拳でぶん殴る。
 さらに、俺に気づいて慌ててるもう一体も蹴り飛ばした。
 後はこいつらの石斧二本を拾って、一本は投げる! もう一本で倒れてる奴をタコ殴りだ!

「おらおら! どうしたさっきの威勢はよ! ははは! ぶっ殺すぞおらぁ! ……グス公! 援護はどうした!」
「ひっ! 今しますごめんなさい!」

 ちっ。喧嘩の雰囲気に呑まれて動けなくなる奴ってのはよくいるからな。声をかけてみれば案の定だ。
 さて、二体はボコボコにのした。残りは三体か。
 俺は足元に落ちていた鉄パイプを拾った。ボコりながら拾える位置に移動しておいて正解だ。
 肩に鉄パイプを乗せ、ゆらりと立ち上がった俺は三体のクソ共を見た。
 相手もやる気満々みてぇで、こっちを見てやがる。だが、俺はあえて視線をすぐにらした。
 それで俺がビビッてると思ったのか、三体は馬鹿みてぇに真っ直ぐ突っ込んでくる。計算通りだ。
 距離が縮まる、近づく、目の前まで……そして、俺は三体を見た。思い切り目に力を入れてガンつけてやると、ピタリ、と奴らの動きが止まった。今だ!

「グス公!」
「任せてください!」

 俺はグス公の魔法の射線から外れるように、横へ飛ぶ。
 その瞬間、後ろから火の球が飛んできた。その火球がゴブリン一体の顔面に当たり、ぶっ飛ばした。
 さて、残りは二体。俺は鉄パイプで自分の手をぽんぽんと叩きながら近づく。
 おいおい、なにビビッてんだ? 面白おもしれぇ顔してんじゃねぇよ! まずは手近にいる一体からボコボコにするかぁ!!


 ……まぁその後は消化試合みたいなもんだった。ボコボコにした一体を、もう一体にぶん投げて、抱き合って倒れてるとこを二体まとめてボコった。それで終わりだ。
 だが、一番の問題はこいつらのことじゃねぇ。

「えへへ、やりましたね零さん! チームワークの勝利です!」

 俺は何も言わずにグス公の頬をつねり上げた。何がチームワークだ、このドアホが!

「いひゃい! いひゃいです零さん! しゅっぎょくいひゃいです!」
「うるせぇ! なんでてめぇがここにいんだ!」
「いひゃいでしゅって! とりひゃえず放してくだしゃい!」

 ちっ、仕方ねぇ。話を聞かないとしょうがねぇしな。俺はグス公を解放してやった。
 グス公は半泣きで赤くなった頬をでている。口をとがらせて頬を膨らませているし、不服に思ってるのは明らかだ。

「で、もう一回聞くぞ。てめぇはここで何してんだ」
「零さんを追いかけてきました!」
「そうか、帰れ」
「ひどくないですか!?」

 こいつは一体何を考えてんだ。色々城で忙しくなるんじゃなかったのか?
 第一、俺がなんでこいつを置いて一人で出てきたと思ってんだ。
 アマ公も大騒ぎだろうし、リルリも真っ青になってんじゃねぇか? ……いや、リルリは顔色一つ変えてないかもしれねぇな。

「そもそも、なんで俺がいるところが分かったんだ」
「計算しました!」
「はぁ?」

 グス公は胸を張ってドヤ顔してる。うぜぇ。

「零さんは、この世界のことに詳しくないですよね? だから、まずは一度行ったことのある場所に向かう可能性が高いと考えられます。となると、城の南門を通ったはずです。南門辺りで聞き込みをしたら、零さんらしき人が王都を出たことが分かりました。やはり私と行ったカーラトの町を目指すことにしたのでしょう。エルジーさんがいますからね。知ってる人を頼るのは当然です。カーラトに立ち寄った後は、精霊の森にも行くはずだと思いました。ということで、零さんを探しに森まで向かっている途中で、今の状況になったんです」

 待て待て、長ぇ。つまりどういうことだ? 俺の行動を予測した? この馬鹿が?
 ……ありえねぇだろ。なんでそんなことをできる奴が、ホイホイと俺を追いかけて来てゴブリンに襲われてんだ? リルリにでも聞いた可能性がたけぇな。

「ところで零さん。なんでこんなところに一人でいるんですか?」
「あぁ?」
「もうやだなぁ、迷子ですか? まぁ私がいるからもう大丈夫ですね!」
「いやお前、何言ってんだ? 俺には俺で考えることとかがだな……」
「そうですよね、分かります。じゃあこれからどうしましょうか?」
「いや、だからお前は城に帰れって」
「そうですね。分かりました、行き先は零さんにお任せしますね。でもこれからはちゃんとから出かけてくださいね? 今回みたいに零さんが迷子になってしまうと困りますから」

 あれ? なんかおかしくねぇか? グス公は笑顔なんだが、目が笑ってねぇ。そもそも話が通じてねぇ気がする。
 俺は背筋にゾワッとしたものを感じた。やべぇ、なんかこれはやべぇ。どうする? 逃げるか? グス公から逃げる? なんで? いや、だがこれはやべぇ。

「お、落ち着けグス公。とりあえず俺たちには、話し合いが必要だと思わねぇか?」
「そうですね、今後のことも考えて私たちには話し合いが必要ですよね! 今後とか……もうやだ零さんったら!」
「お、おう。今後って言ったのはてめぇだけどな……」
「ふふふ、零さんったら零さんったら零さん零さん零さん零さん零さん」

 やべぇ。本当にやべぇ。誰か助けてくれ。チビ共はすでに周囲にいない。森の木の陰に隠れてる。俺もそっち側に入れて欲しい。
 この状況はどうしたらいいんだ? と、とりあえずだ……。そうだな、殴るか。
 俺はグス公の脳天にチョップを入れた。かなり強めにだ。

「おらぁ!」
「痛い! 何するんですか!?」

 お、目に光が戻った。なるほど、ゴブリンに襲われてテンパってたんだな。これでとりあえず一安心だ。

「まぁなんだ、お前は城に帰れ。俺にはちょっとやることができてな」
「殴ったことはスルーですか!? もう……私も零さんについて行きますよ」
「いや、それはまずいだろ。お前も城でやることとかがだな……」
「大丈夫です。許可はとってあります!」
「許可? あの陛下おっさんがよく許したな」
「……ほら、こないだのリザードマン討伐の功績が認められたんですよ!」
「あぁ、なるほどなぁ」

 なんか妙な間があったような……気のせいか? まぁ許可がとれてんならいいだろ。……いいのか?
 若干変な感じもするし、無駄な時間を使っちまった気もする。だがまぁ、考えても仕方ねぇ。
 俺はまたグス公と旅をすることになった。



 第四話 聞いてんのか?


 俺はグス公とチビ共を引き連れて南へと向かおうと思っていたんだが、グス公に言われて立ち止まっていた。

「カーラトの町まで戻って、乗合馬車で行ったほうがよくないですか?」
「てめぇがいなければそうしてたかもな」
「うっ……。だ、大丈夫です! 我慢します!」
「できねぇからやめとけ」

 グス公はすげぇ乗り物酔いをする。王族専用の馬車以外だとダメらしい。面倒くせぇ。
 なので当然のように、俺たちは徒歩で向かうことになった。チビ共に酔い止めの薬を作ってもらうっつぅ手もあるが、まぁのんびり行くのも悪くねぇ。というか、俺はわりと好きだ。
 道すがらグス公にこれからの目的を話すのも、他の奴がいないぶん、楽だしな。他人に聞かれたらまずそうな話題もあるからなぁ。

「おうグス公。今後の予定についてなんだが……」
「零さんについて行きます!」
「いや、そうじゃなくてだな。これからどこに行くかなんだが……」
「零さんについて行きます!」

 とりあえずぶっ叩いた。なんか、こいつおかしくなってねぇか? 妙に俺との距離もちけぇしな。正直暑苦しい。
 殴れば元に戻るが、段々その時間も短くなってきてる気がする。本当に大丈夫かこいつ?

「で、まぁ俺らは南に向かう。火の大精霊って奴を探すためだ」
「大精霊? 聞いたことがないですけど……」
「あぁ、俺の知る限りでは変質者だ。だが、かなりできる変質者だ」
「精霊じゃないんですか!?」

 いや、お前もあれを見たら間違いなくそう思うぞ。あれは紛れもなく土の大精霊へんしつしゃだった。正直、次の大精霊に会うのが心配になるくらいにな。
 グス公はころころと笑っていて、特に行き先に疑問はねぇみたいだ。物分かりのいい奴で助かる。

「で、精霊解放軍がなんであんなことをしてるかとか、黒い石のこととか。何かそっちで分かったことあんのか?」
「え? すぐに城を出た私が、そんなこと分かるわけないじゃないですか」
「使えねぇ……」
「でも大丈夫です! 私と零さんがいればなんとかなります!」
「やっぱ帰れ」
「ひどくないですか!?」

 なんか懐かしいやり取りだ。いや、懐かしいってほど長い時間離れてたわけじゃねぇんだけどな。
 さて、とりあえずグス公が何も情報を持ってねぇことは分かった。ってことは南の町に行って情報を集めつつ、黒い石や精霊解放軍についても調べていく感じになるか。
 俺が今後のことを考えていると、グス公がそでをクイックイッと引っ張りだした。なんか、あざとくてうぜぇ。

「南に向かうのは分かったんですが、その大精霊は南のどこにいるんですか?」
「あぁ? そりゃ……どこだ?」

 そういや、どこにいるんだ? 南としか言われなかったよな? あのがながな変質者、本当に大事なことは教えてくれてねぇな。
 俺が考えている間も、グス公はジトっとした目でこっちを見てやがる。やべぇ、俺の評価が不当に下がってる気がする。
 何か手がかりはねぇか? ……そうだ。土の大精霊は精霊の森にいたよな? なら、そういう感じのとこにいるんじゃねぇか?

「森を目指せばいいんじゃねぇか?」
「零さん、南に森はほとんどありません。活火山などの多い山岳地帯です。あるのは鉱石ばっかりです……」

 詰んだ。どうする、何か他に手がかりは……。
 えーっと……そうだ!
 俺はチビ共に地図を見せた。

「おい、なんかそれっぽいところ知らねぇか?」

 お? チビ共が集まって相談してやがる。可愛いな。
 だが、こう見るとチビ共も増えたもんだ。正直なところ数え切れてねぇ。数百? 数千? ……まぁたくさんいるほうがいいってもんだろ。
 ……そういやこいつらって、どうやってついてきてんだ? 気づくといるんだよなぁ。
 そんなことを考えていたら、チビ共が地図の一点を指差した。お、ここか。

「グス公、俺たちの目的地はここだ」
「え? えぇ!? ここってフュー火山ですよね!? 人の立ち入りが禁止されてる危険区域ですよ!?」
「おう、そこに行くぞ」
「いや、ですからそこは危険なんですって!」
「大丈夫だ、俺を信じろ」

 グス公は半泣きであうあうしている。
 いいからグス公は俺を信じてついてこいってんだ。俺はチビ共を信じて動くからな! これで間違いはねぇ。
 とりあえず俺たちの目的地はフュー火山に決まりだ。


 俺たちは目的地に向かって歩きだしたが、グス公はグスグス泣いていた。
 いつまで泣いてんだ? 今は泣くよりも、準備とかそっちのほうが大事だろうが。

「あの零さん」
「なんだ、目的地なら変えねぇぞ」
「あうあう……。いえ、そうではなくてですね。移動方法とかも考えたほうがよくないですか?」
「火山用の装備か? 俺もそれは考えてた。靴とかそういうのも必要かもしれねぇよな」
「そうじゃなくてですね! 火山に向かうまでの移動方法ですよ! まさか、歩いて行くんですか!?」
「あぁ? そのつもりだぞ」
「無理ですぅ!」
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