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二、追ってくる過去
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◇
まるで鉛でも詰まっているかのように頭が酷く重かった。
それでも、無理矢理頭を上げると響くような痛みがこめかみに走る。
「あ……う…」
思わず、唇からは掠れた声が洩れ出た。
喉が乾いてヒリヒリとする。
おまけにとても汗をかいていたようだ。
髪がぴたりと顔に張り付いて気持ちが悪い。
俺は手で髪を払い除け、額の汗を拭う。
視界が悪く、辺りは酷くぼやけて見えた。
「痛っ……」
頭の奥で赤の色彩が広がった。
痛みを伴う激しい吐き気と無数のイメージが襲う。
知覚していると言う認識をする間もなく、映像の洪水が押し寄せ、呼吸することさえもできなかった。
ただただ断片的な映像が溢れ脳を犯していく。
目の奥が熱く、網膜が焼けて剥がれ落ちるような錯覚を味わう。
熱い。何もかもが熱くて痛い。苦しい。息が出来ない。怖い。もう見たくない。誰か助けてくれ。
そう叫んでいるつもりなのに声が出ない。
助けてくれる誰かなんていないと分かっているのに、俺は当てどなく手を伸ばした。
「ルカ!」
誰かが俺の手を握る。
俺はその手をじっと握り続けた。
どのくらい経っただろう。
永遠に続くかと思われた映像の奔流もおさまる。
痛みも、吐き気も、苦しさも、全て消え去り、俺は心地よい体温に包まれていた。
「母様……いや、師匠?」
すぐに誰かに抱き締められていることに気付いて俺は小さく呟いた。
「ルカ、大丈夫か?」
違う。これは男の身体だ。
父様とも違う低い声に俺は驚いて、その身体を突き飛ばす。
しなやかでしっかりとした筋肉の感触とは裏腹にその身体は簡単に俺から離れた。
俺は視界に入ってきた男を睨め付けた。
男の方は表情一つ変えず、ただ淡々と俺を見つめ返す。
なんてムカつく面をしていやがる。
俺の手を握り、身体を抱き締め続けていたのは、ずっと憎くて殺したいと思っていた相手だった。
「……魔王」
「嗚呼」
そのふてぶてしい態度に腹の奥が更に熱くなった。
まるで血液が沸騰するようだ。
ぐらぐらと、身体が震える。
そのお綺麗な顔を歪めて、楽しそうに俺の父様と母様を殺したくせに。
俺はその男の美貌に文句の一つでも言いたいような気持ちになっていた。
男の肌は、白く、透明感があって、思わず触れてしまいたくなるほどだった。
月明かりに照らされ、アメシトリンの瞳が瞬く。その淡い紫色と黄色のグラデーションは血管の色さえ判る肌に映え、何処か憂い帯びていた。
特筆するべきなのは、瞳の美しさだけではない。
鼻筋が通り、鼻先がスッキリと尖っている鼻に、切れ長型の凛とした唇。その淡い薔薇色の唇からため息が洩れた日にはどんな美女だって恋に堕ちるだろう。
輪郭一つとっても、頬には無駄な肉はなく、それでいて滑らかな曲線を描いている。
嗚呼、なんてことだ。
文句の一つも出てきやしない。
もういい。頼む。ただ死んでくれ。
俺は投げやりにそんなことを思った。
「覚えているか?」
「は? お前が俺の父様と母様を殺したことか? それならちゃんと覚えているよ」
俺は忌々しげに返す。
忘れるはずもないだろう。こんなにも苦しんでいるのはお前のせいなのに。
「それはよかった」
俺の様子とは裏腹に魔王は烏の濡れ羽色の髪を揺らし、甘く微笑んだ。
いくら憎い相手と言えど、完璧な美貌が相好を崩せば、俺だって一瞬でも胸が高鳴ってしまう。
「ルカ……」
魔王は俺の名前を呼び、抱き締めた。
抱きつかれた瞬間、怖気が走る。
「あ、ああっ、触るな!」
俺はそう叫ぶと、魔王の身体をもう一度突き放そうとした。
しかし、魔王の身体は先程とはうってかわってじっと岩のように固く、俺から離れなかった。
なんだよ、コイツ。
「離れろ! 気持ち悪いな!」
馴れ馴れしく触れられて気持ち悪いはずだった。
ましてや、それが憎くて殺したい相手ともなれば殺意以外のわきようがないはずだ。
それなのに、不思議と魔王の体温は肌に馴染むようでうっかり蕩けてしまいそうになるほど、心地よかった。
このまま、この温度に身を委ねてしまいたいとさえ感じる。
頭と体がちぐはぐで、なんだか気持ちが悪い。
「やだ……いやだって……」
俺は子どものように身を捩って抵抗することしか出来ないかった。
「ルカ」
もう一度魔王は俺の名を呼び、俺の顎に触れた。
ぐいと顎を持ち上げられ、俺は強制的に上を向かされる。
見上げた先の魔王の瞳は、それはそれは綺麗なもので淡い紫と黄色の中にキラキラと金粉が舞っていた。
そのまるで朝焼けを切り取ったような幻想的な瞳につい目を奪われながら、俺は違和感を覚えた。
記憶の中の魔王の瞳は暗く冷たい紫をしていたはずなのに、この色は一体なんだ。
「お前は……んっ!」
俺は口を開き、疑問の言葉を投げかけようとした。
しかし、俺の声は魔王の口づけによって掻き消された。
するりと生暖かいものが口内に侵入し、くちゅくちゅと水音を立てながら俺の中を蹂躙していく。
急に深いキスをされ、俺はパニックになった。
俺はとにかくこの状況を脱するために顔を背けようとしたが、魔王はそれを許さない。顎を固定し、舌で上顎をたっぷりと擦り上げる。
その行為は悍ましく到底許せるものではないはずだった。
でも、やたらと気持ちがよくて堪らない。
擽るように何度も上顎を撫で、歯列をなぞられると、もうだめだった。
俺は徐々に脱力し、その甘い愛撫を受け入れた。
「ん……んんっ……ん」
顔も身体も熱い。溶ける。
思考がどろどろに溶けて抵抗という言葉すら湧いてこない。
それどころか、俺は受け入れるように魔王の舌に自身の舌を絡めた。
「んんっ!」
魔王は絡めた俺の舌を捕え、吸いついた。
舌先を魔王の歯が撫でる感触に背筋にゾクゾクとしたものが走る。
知らず知らずのうちに目尻からは生理的な涙が溢れ、頬を濡らしていた。
何度も吸い上げては戻すその仕草はまるで肉棒を舐められているかのようで、そのいやらしい行為に俺はすっかり興奮していた。
下半身が熱く、もどかしい。自分の身体はどうしてしまったのだろう。
どうか、魔王には気付かれませんように。
そう祈りながら、俺は身悶えするようなもどかしさを耐えた。
魔王が唇を離すころにはもう、俺は頭も身体も蕩けきってベッドに横たわっていた。
「ルカ、私を憎め」
魔王はそう呟いて、愛おしそうに俺の髪に触れる。
何故だろう。魔王に柔らかく頭を撫でられるだけで胸の奥にふわふわとした知らない感情が湧いてくる。
要らない。こんなもの知らない。
俺は頭を振った。
「早く死んでくれ」
俺の言葉に魔王は嬉しそうに笑った。
まるで鉛でも詰まっているかのように頭が酷く重かった。
それでも、無理矢理頭を上げると響くような痛みがこめかみに走る。
「あ……う…」
思わず、唇からは掠れた声が洩れ出た。
喉が乾いてヒリヒリとする。
おまけにとても汗をかいていたようだ。
髪がぴたりと顔に張り付いて気持ちが悪い。
俺は手で髪を払い除け、額の汗を拭う。
視界が悪く、辺りは酷くぼやけて見えた。
「痛っ……」
頭の奥で赤の色彩が広がった。
痛みを伴う激しい吐き気と無数のイメージが襲う。
知覚していると言う認識をする間もなく、映像の洪水が押し寄せ、呼吸することさえもできなかった。
ただただ断片的な映像が溢れ脳を犯していく。
目の奥が熱く、網膜が焼けて剥がれ落ちるような錯覚を味わう。
熱い。何もかもが熱くて痛い。苦しい。息が出来ない。怖い。もう見たくない。誰か助けてくれ。
そう叫んでいるつもりなのに声が出ない。
助けてくれる誰かなんていないと分かっているのに、俺は当てどなく手を伸ばした。
「ルカ!」
誰かが俺の手を握る。
俺はその手をじっと握り続けた。
どのくらい経っただろう。
永遠に続くかと思われた映像の奔流もおさまる。
痛みも、吐き気も、苦しさも、全て消え去り、俺は心地よい体温に包まれていた。
「母様……いや、師匠?」
すぐに誰かに抱き締められていることに気付いて俺は小さく呟いた。
「ルカ、大丈夫か?」
違う。これは男の身体だ。
父様とも違う低い声に俺は驚いて、その身体を突き飛ばす。
しなやかでしっかりとした筋肉の感触とは裏腹にその身体は簡単に俺から離れた。
俺は視界に入ってきた男を睨め付けた。
男の方は表情一つ変えず、ただ淡々と俺を見つめ返す。
なんてムカつく面をしていやがる。
俺の手を握り、身体を抱き締め続けていたのは、ずっと憎くて殺したいと思っていた相手だった。
「……魔王」
「嗚呼」
そのふてぶてしい態度に腹の奥が更に熱くなった。
まるで血液が沸騰するようだ。
ぐらぐらと、身体が震える。
そのお綺麗な顔を歪めて、楽しそうに俺の父様と母様を殺したくせに。
俺はその男の美貌に文句の一つでも言いたいような気持ちになっていた。
男の肌は、白く、透明感があって、思わず触れてしまいたくなるほどだった。
月明かりに照らされ、アメシトリンの瞳が瞬く。その淡い紫色と黄色のグラデーションは血管の色さえ判る肌に映え、何処か憂い帯びていた。
特筆するべきなのは、瞳の美しさだけではない。
鼻筋が通り、鼻先がスッキリと尖っている鼻に、切れ長型の凛とした唇。その淡い薔薇色の唇からため息が洩れた日にはどんな美女だって恋に堕ちるだろう。
輪郭一つとっても、頬には無駄な肉はなく、それでいて滑らかな曲線を描いている。
嗚呼、なんてことだ。
文句の一つも出てきやしない。
もういい。頼む。ただ死んでくれ。
俺は投げやりにそんなことを思った。
「覚えているか?」
「は? お前が俺の父様と母様を殺したことか? それならちゃんと覚えているよ」
俺は忌々しげに返す。
忘れるはずもないだろう。こんなにも苦しんでいるのはお前のせいなのに。
「それはよかった」
俺の様子とは裏腹に魔王は烏の濡れ羽色の髪を揺らし、甘く微笑んだ。
いくら憎い相手と言えど、完璧な美貌が相好を崩せば、俺だって一瞬でも胸が高鳴ってしまう。
「ルカ……」
魔王は俺の名前を呼び、抱き締めた。
抱きつかれた瞬間、怖気が走る。
「あ、ああっ、触るな!」
俺はそう叫ぶと、魔王の身体をもう一度突き放そうとした。
しかし、魔王の身体は先程とはうってかわってじっと岩のように固く、俺から離れなかった。
なんだよ、コイツ。
「離れろ! 気持ち悪いな!」
馴れ馴れしく触れられて気持ち悪いはずだった。
ましてや、それが憎くて殺したい相手ともなれば殺意以外のわきようがないはずだ。
それなのに、不思議と魔王の体温は肌に馴染むようでうっかり蕩けてしまいそうになるほど、心地よかった。
このまま、この温度に身を委ねてしまいたいとさえ感じる。
頭と体がちぐはぐで、なんだか気持ちが悪い。
「やだ……いやだって……」
俺は子どものように身を捩って抵抗することしか出来ないかった。
「ルカ」
もう一度魔王は俺の名を呼び、俺の顎に触れた。
ぐいと顎を持ち上げられ、俺は強制的に上を向かされる。
見上げた先の魔王の瞳は、それはそれは綺麗なもので淡い紫と黄色の中にキラキラと金粉が舞っていた。
そのまるで朝焼けを切り取ったような幻想的な瞳につい目を奪われながら、俺は違和感を覚えた。
記憶の中の魔王の瞳は暗く冷たい紫をしていたはずなのに、この色は一体なんだ。
「お前は……んっ!」
俺は口を開き、疑問の言葉を投げかけようとした。
しかし、俺の声は魔王の口づけによって掻き消された。
するりと生暖かいものが口内に侵入し、くちゅくちゅと水音を立てながら俺の中を蹂躙していく。
急に深いキスをされ、俺はパニックになった。
俺はとにかくこの状況を脱するために顔を背けようとしたが、魔王はそれを許さない。顎を固定し、舌で上顎をたっぷりと擦り上げる。
その行為は悍ましく到底許せるものではないはずだった。
でも、やたらと気持ちがよくて堪らない。
擽るように何度も上顎を撫で、歯列をなぞられると、もうだめだった。
俺は徐々に脱力し、その甘い愛撫を受け入れた。
「ん……んんっ……ん」
顔も身体も熱い。溶ける。
思考がどろどろに溶けて抵抗という言葉すら湧いてこない。
それどころか、俺は受け入れるように魔王の舌に自身の舌を絡めた。
「んんっ!」
魔王は絡めた俺の舌を捕え、吸いついた。
舌先を魔王の歯が撫でる感触に背筋にゾクゾクとしたものが走る。
知らず知らずのうちに目尻からは生理的な涙が溢れ、頬を濡らしていた。
何度も吸い上げては戻すその仕草はまるで肉棒を舐められているかのようで、そのいやらしい行為に俺はすっかり興奮していた。
下半身が熱く、もどかしい。自分の身体はどうしてしまったのだろう。
どうか、魔王には気付かれませんように。
そう祈りながら、俺は身悶えするようなもどかしさを耐えた。
魔王が唇を離すころにはもう、俺は頭も身体も蕩けきってベッドに横たわっていた。
「ルカ、私を憎め」
魔王はそう呟いて、愛おしそうに俺の髪に触れる。
何故だろう。魔王に柔らかく頭を撫でられるだけで胸の奥にふわふわとした知らない感情が湧いてくる。
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