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「鳴」を取る一人
47.
しおりを挟む「ええと。地下での発見はたぶん、すぐじゃなかったんですよね」
杵屋依杏は、釆原凰介に尋ねた。
地下内部で発見された遺体の話へ。三人目。
釆原。
「そう」
すぐじゃない。ということは、少し時間が経っていた。
「外傷は」
数登珊牙は尋ねる。
釆原は、かぶりを振る。分からない、というふうに。
「直接見せてもらえないよ。写真とかでなら、他というか別かもしれないが」
「じゃあ、聞いた話でなら、どうですか……」
恐々。
急くように尋ねる鐘搗麗慈。
釆原。
「聞いたところによれば」
説明だと遺体はまだ、慈満寺内にあるそうで。
「珊牙の云うような外傷は、何もないとかで」
慈満寺の地下で亡くなったのは、過去に二人。
どちらとも死因に関しては、自然死で処理されている。
今回の三人目。自然死になるのか?
そして何故、また?
麗慈。
「地下に一人だったってことですよね。倒れていたのは」
「正確には分からない。他にも、別の人は居たかもしれないけれど、せっかくの情報は、大方。見せてもらえないからな。参拝客として来ているし」
と釆原。
「システムへ侵入も無理なんだろう?」
「ですね……もう刑事さん居るんじゃ、普通に無理でしょうね」
と麗慈。
「たぶん」
と釆原。
「傷痕がないんじゃあさ。人と接触があったっていうのは、ちょっと考えにくい気がするけれど」
「誰かと地下で会っていたかもしれないけれど。それだけで、直後に死ぬっていうのも」
と依杏。
「口論になった証拠とかもないってことですよね。少なくとも。あと、普通に人に会って喋って死ぬっていう事態は、まずないですよね」
と麗慈がツッコむ。
依杏は考え込む。
「じゃあ、三人目も自然死になるんでしょうか」
「自然死だと思いますか?」
と数登珊牙。
寝そべっていた姿勢から、いきなり起きている。
依杏は返答に詰まった。
自然死だと思いますか?
思わない。
というのが率直な答えだ。
でも?
思わないからどうなる?
他の考えがないだけの、ただの一意見だ。
「え、ええと」
数登。
「では自然死だと決めてしまいますか」
「え」
依杏は眼をぱちくり。
「あの、それってなんか」
「決めるのには惜しい、ですか?」
「いやその、普通……」
「いやその?」
「いや、ええと。そういうんじゃなくてですね。率直に言います。惜しいというか。自然死とか言われて三回も立て続けで、それってどうなんだろうっていう。単純な……」
「まあ、思わないほうが少ないと、思いたいけれど」
と釆原。
「今の状況では。こう、説得性が皆無だからな」
「古美術建物研究会でも、話題になっていたんです。寧唯は、普段から新聞も沢山見ていて。別の資料も集めていたし」
「なるほど」
と数登。
「では、杝さんに訊いてみては」
訊いてみては?
依杏は眼をぱちくり。
その考えはなかった。
というか、なんで数登さんが、寧唯へ訊いてみてはって云うのだろう?
とか思いつつ、スマホを取り出す依杏。
「数登さんが寧唯を、駅まで送ってくれたって聞いてさ」
「その通り。ちょっと、具合悪くなっちゃって。二人といつの間にか、はぐれちゃったみたい」
と寧唯。
依杏。
「今は大丈夫?」
「だから電話に出たよ」
寧唯は先の、ファイルの件を尋ねる。
無事に数登への受け渡しが済んだということで、ホッとした様子。
寧唯。
「数登さんはちゃんと、釆原さんに会ったんですね」
「会いました」
と数登。
「具合は?」
「まあ、まずまずってとこですかね」
と苦笑ぎみに聞こえる。
これだと、地下の今の状況を、寧唯に話題として出すのには早いのかもしれない。
という空気が流れる。
ので依杏も、少し間を置いた。
ただ、地下について何か知っていることがあれば、微妙なことでも教えて欲しいと。
それだけ訊く。
「知っていることねえ……。知っているというかあたしで勝手に調べて、研究会で共有しようと、思っていたことが一つある。ただ完全に予想」
「どんな?」
「亡くなった過去二人の死因は、自然死ってなっていたの。そうじゃないだろって思っていたから。ただ、あくまで予想だからね」
「ほう」
と数登。
「あくまで予想ですからね」
念を押す寧唯。
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