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「鳴」を取る一人
46.
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鐘搗麗慈が手元にあると言ったデータが、いま中空でスクリーンになって出ている。
仮想の画面である。仮想現実?
青みの強い、ネオンのような。
麗慈は、更に指で示しながら。
「黒いな」
と、釆原凰介。
青いスクリーンが宙を浮いて、輪を描いて飛び交っている中の、その二つ。
なんだか黒い。
「IDロック盤が破壊されていたって、言っていたでしょう」
と麗慈。
「その映像なんです。いまの黒いのは」
「要するに、映像自体ダメになっている。っていうことか」
「そういうことです。見るのが無理」
「侵入かなにか? システム?」
釆原が言う脇で、杵屋依杏はあっけに取られていた。
麗慈がシステムに侵入して、勝手に監視カメラ映像にアクセスしていたのだとしても。
それよりも、「宙に浮くスクリーン」のほうが、有り得ないと彼女は思った。
場所も、畳の和室であり。寺である。
普通と仮想。
慈満寺の地下入口。
そこの監視カメラが、破壊されていたという釆原の話題。
地下では死人が出た。
「さっきまでは一つ黒いだけだった。でも、今は二つになっている」
と麗慈。
「監視カメラの画面ともう一つ、IDロック盤用のシステムにも侵入してたんです。そっちは、本堂裏で見た時は正常でした。でも今は黒い。つまり、人為的に破壊されたのは違いないですね」
少し考えて。
「件のIDロック盤が壊される前に、監視カメラが壊れたのか。それで、地下に人が入ったか。それとも、IDロック盤が壊れたあとに、地下へ無理に人が入ったか、って考えると……」
「考えるとって、考えなくてもいいんじゃないのか? 地下の防犯カメラだって、やっぱり」
と釆原。
「それがね、出来ないんですよ。侵入が」
「システム的に?」
「そう。だからぼくが管轄出来る場所は地上のみ。ってことになります。まあ、侵入だから、管轄ってのは語弊は大いにありますけれど」
と麗慈。
「あと、侵入が普通だみたいに、言わないで下さいよ。ぼくだって、珊牙さんの手伝いとか調査目的なんですから」
依杏には、システム侵入あたりで難しいし、もう何の話? という感じではあったが。
件のIDロック盤の破壊。
専用のIDカードを通して、入口を開閉するという仕組みの、ロック盤。
破壊して、人が入ったのか。
破壊される前に、人が入ったのか。
夕方。
目立つ外の色。
黄色と紅色と色味。
「地下入口の扉が、破壊された時刻は」
数登珊牙は麗慈に尋ねる。
「時刻ですか……。困ったな」
と、麗慈。
「率直に言うと。そういうのは、やっぱり。ぼくじゃなくて普通のセキュリティ担当側に、問い合わせた方がいいですよね」
「なんで」
と釆原。
「あくまで、珊牙さんに協力する用にしか。作っていないんですよ。正式なシステム構築じゃあないので、時間まで把握っていうのは逆に。時刻を狂わせていた場合もあるって言ったら、正確なのを知るんなら。岩撫さんとか、円山さんとかのほうが大いに、いいです」
「円山さん」
と依杏。
鐘搗深記子との話に出た、あの眼鏡のお坊さんか。
地下入口で一悶着ほどでもないが、あったのを依杏と釆原は見ていた。
この場にいないが、杝寧唯も。
「要するに不正ってわけ」
と釆原。
「だから、まあ。皆さんの解釈で言えば、そういうことになりますけれど。あくまで珊牙さんへの協力なんで」
と、麗慈。
「破壊された時間とかは、今は刑事さんとかの方が。詳しいかもしれないし。あと」
「あと?」
「釆原さん、ぼくにとっては酷ですよ。いいですか。セキュリティ担当に問い合わせして、まず捕まるのは誰ですか。ぼくなんですよ。不正なんだから」
と、麗慈は顔を赤らめて言った。
「大げさじゃない? 地下で死人が出たのとは、関係ないじゃないか」
「いや、関係あるじゃないですか! 十分! 不正とか言ったら、無闇に疑われるのはぼくですよ」
「心配しすぎじゃない?」
「とにかく、ぼくは正確な時刻を把握できない立場です。他のところで情報お願いします」
麗慈は拗ねて言った。
「ついでに、ぼくの不正の話を真面目に聞いていた貴方がたも、警察にとっては危い対象かもね」
「要するに正式な担当者に、尋ねる術がないってことだな」
と釆原。
「危機回避したければ、そうしてください。円山さんを迂回して、なんとか情報を集めるんなら。いいと思いますけれど」
杵屋依杏。
「いずれにしても……。麗慈くんの推測を整理するのであれば、地下で亡くなった人。地下入口の扉を破壊して、中へ入った可能性があるっていうことでしょうか」
仮想の画面である。仮想現実?
青みの強い、ネオンのような。
麗慈は、更に指で示しながら。
「黒いな」
と、釆原凰介。
青いスクリーンが宙を浮いて、輪を描いて飛び交っている中の、その二つ。
なんだか黒い。
「IDロック盤が破壊されていたって、言っていたでしょう」
と麗慈。
「その映像なんです。いまの黒いのは」
「要するに、映像自体ダメになっている。っていうことか」
「そういうことです。見るのが無理」
「侵入かなにか? システム?」
釆原が言う脇で、杵屋依杏はあっけに取られていた。
麗慈がシステムに侵入して、勝手に監視カメラ映像にアクセスしていたのだとしても。
それよりも、「宙に浮くスクリーン」のほうが、有り得ないと彼女は思った。
場所も、畳の和室であり。寺である。
普通と仮想。
慈満寺の地下入口。
そこの監視カメラが、破壊されていたという釆原の話題。
地下では死人が出た。
「さっきまでは一つ黒いだけだった。でも、今は二つになっている」
と麗慈。
「監視カメラの画面ともう一つ、IDロック盤用のシステムにも侵入してたんです。そっちは、本堂裏で見た時は正常でした。でも今は黒い。つまり、人為的に破壊されたのは違いないですね」
少し考えて。
「件のIDロック盤が壊される前に、監視カメラが壊れたのか。それで、地下に人が入ったか。それとも、IDロック盤が壊れたあとに、地下へ無理に人が入ったか、って考えると……」
「考えるとって、考えなくてもいいんじゃないのか? 地下の防犯カメラだって、やっぱり」
と釆原。
「それがね、出来ないんですよ。侵入が」
「システム的に?」
「そう。だからぼくが管轄出来る場所は地上のみ。ってことになります。まあ、侵入だから、管轄ってのは語弊は大いにありますけれど」
と麗慈。
「あと、侵入が普通だみたいに、言わないで下さいよ。ぼくだって、珊牙さんの手伝いとか調査目的なんですから」
依杏には、システム侵入あたりで難しいし、もう何の話? という感じではあったが。
件のIDロック盤の破壊。
専用のIDカードを通して、入口を開閉するという仕組みの、ロック盤。
破壊して、人が入ったのか。
破壊される前に、人が入ったのか。
夕方。
目立つ外の色。
黄色と紅色と色味。
「地下入口の扉が、破壊された時刻は」
数登珊牙は麗慈に尋ねる。
「時刻ですか……。困ったな」
と、麗慈。
「率直に言うと。そういうのは、やっぱり。ぼくじゃなくて普通のセキュリティ担当側に、問い合わせた方がいいですよね」
「なんで」
と釆原。
「あくまで、珊牙さんに協力する用にしか。作っていないんですよ。正式なシステム構築じゃあないので、時間まで把握っていうのは逆に。時刻を狂わせていた場合もあるって言ったら、正確なのを知るんなら。岩撫さんとか、円山さんとかのほうが大いに、いいです」
「円山さん」
と依杏。
鐘搗深記子との話に出た、あの眼鏡のお坊さんか。
地下入口で一悶着ほどでもないが、あったのを依杏と釆原は見ていた。
この場にいないが、杝寧唯も。
「要するに不正ってわけ」
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「だから、まあ。皆さんの解釈で言えば、そういうことになりますけれど。あくまで珊牙さんへの協力なんで」
と、麗慈。
「破壊された時間とかは、今は刑事さんとかの方が。詳しいかもしれないし。あと」
「あと?」
「釆原さん、ぼくにとっては酷ですよ。いいですか。セキュリティ担当に問い合わせして、まず捕まるのは誰ですか。ぼくなんですよ。不正なんだから」
と、麗慈は顔を赤らめて言った。
「大げさじゃない? 地下で死人が出たのとは、関係ないじゃないか」
「いや、関係あるじゃないですか! 十分! 不正とか言ったら、無闇に疑われるのはぼくですよ」
「心配しすぎじゃない?」
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「要するに正式な担当者に、尋ねる術がないってことだな」
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