1 / 6
本編
1.美味しく食べてくださいね*
しおりを挟む
小さな檻の中に身体を伸ばせるスペースはなく、脚を抱えて座ることしかできない。馬車が揺れるたびに、肩や頭が檻にぶつかった。殴られた部分もズクズクと痛む。
檻には黒い布が掛けられているので、外の景色は良く見えない。不自由な体勢で狭い場所に閉じ込められて、圧迫感に息苦しさを感じた。
今からどこに連れていかれるのだろうか。
だけど、この先どこに行っても、いいことなんてひとつもないんだろうなと僕は思った。
育ててくれたおじいさんとおばあさんが死んだ後、僕は見世物小屋に売られた。僕の涙は金の粒になるのだ。おじいさんとおばあさんが死ぬまで、僕はそのことを知らなかった。
見世物小屋で、僕は殴られ続けた。僕は怖くて沢山泣いた。
泣きすぎて、最近では涙も枯れてしまったみたいだ。そしたら、食事を抜かれるようになった。
僕はここで死ぬのかな……
そう思っていたら、今度は誘拐された。
あの場所から救い出してくれるなら、誰でもいい。助けて欲しいと何度願ったことだろう。
だけど、身体を伸ばして眠ることができたぶん、まだ見世物小屋のほうが少しだけマシだったような気がする。
今度はどんな酷い目に遭うことになるのだろうか。
こんなところに閉じ込められて運ばれているんだ。まともな待遇なんて期待できない。
四角い檻の中で見た絶望は、暗闇の色をしていた。
「何を運んでいる?」
突然、凛々しい声が聞こえた。
「フェンリルだ……!!」
叫び声がして、ガダンと馬車が止まる。カシャリと僕を繋ぐ鎖が鳴った。
グルルルル……と低いうなり声が聞こえた気がした。
何だろう?
黒布の所為で外の様子は見えない。
誰かが「逃げろ」と言った。だけど、檻に鎖で繋がれていては、それも叶わない。
身体を小さくして震えていると、バサリと布が取り除かれた。
目の前に現れたのは、大きな狼だった。
銀色の毛並みが、満月の光を反射して神々しく光っている。
僕はその美しさに思わず見惚れた。
「おまえ、獣人か」
「わっ!?」
狼は何故か人の言葉を喋った。
口の中に、立派な牙があるのが見えた。
ああ、僕はこのまま食べられちゃうんだ……
不思議と恐怖は感じなかった。というより、それでもいいかなと思った。
「ええと……はい。そうです」
今は人の姿をしているけれど、僕はもともと醜い小鳥だった。
ニンゲンになれれば愛されるかもしれない。そう願って、彷徨って。辿り着いたのは、おじいさんとおばあさんの家だった。
彼らは、僕が醜い小鳥でも大切に育ててくれた。だけど無力な僕は、二人が病に倒れた時、助けてあげることができなかった。
僕は泣いた。沢山、泣いた。
そして気が付けば、人の姿になっていたんだ。
大狼は爪と牙を使って僕を檻から出してくれた。
不自然な格好で檻の中に押し込められていたので、立ち上がるとクラリとした。
僕はなんとか踏ん張って大狼の前に立った。
逃亡防止のためだと言われて、見世物小屋では服を与えられなかった。だから、今、僕が身に着けているのは、千切れた鎖がついた首輪だけだ。
みすぼらしい裸を見せるのはちょっと恥ずかしいけれど、今から食べられちゃうんだから、まぁいいかと思った。
「……美味しく食べてくださいね」
なんだか気分が高揚している。
早く食べられたくて心臓もドキドキする。
大狼は僕を背中に乗せると、木々の間を抜けて、洞窟へと走った。
洞窟の中にはちょっとした家具なんかもあって、まるで人が住む家のようだった。
大狼は、自分のねぐらに僕を連れて来てくれたみたいだ。
ということは……
道端で雑に食い散らかされるのではなく、巣の中でじっくりと味わってもらえるんだ。
そう気づいたら、僕の胸は期待に震えた。
大狼の背中から下ろされたら、ベッドに横たえられる。草の上に大きな布が被せられただけのものだったけれど、見世物小屋では藁が少しもらえただけだったから、僕にとっては十分上等なベッドだ。
しかも、なんかイイ匂いがする。僕はクンクンと匂いを嗅いだ。大狼の背中で感じたのと同じ匂い……きっとこれが大狼の匂いなんだろう。僕の大好きな匂いだ。大きく息を吸い込むと、大狼に全部満たされた気がして嬉しくなる。
今から食べられようとしているのに、こんなに幸せな気分になっちゃっていいのだろうか。
あ。そういえば。
今から大狼は僕を食べるのだから、ここはベッドじゃなくて、テーブルなのかもしれない。僕がシーツだと思ったのは、テーブルクロスだったりするのかな。
「どうぞ、召し上がれ」
僕は仰向けになって、テーブルクロスの上で身体を伸ばした。
上から大狼が僕のことをギラギラした目で覗き込む。ハァハァと息を吹きかけられて、ちょっと擽ったかったけれど、僕は動くのを我慢した。
大きな口が腹に近づいてきた。
ああ、お腹からガブリっていっちゃう感じかな。
自分が食べられる様子なんて見ていても仕方ないと思うんだけど、大狼の一挙一動から目が離せない。
真っ赤な舌が僕の肌に触れて、肉なんてほとんどついていない胸に向かってベロリと舐め上げられた。身体がゾクゾクした。鳥肌が立つ。
大型の獣に舐められて嬉しい小鳥なんて、居るはずないのに。
心臓がドキドキしているのは、恐怖心からくるものではないような気がした。
檻には黒い布が掛けられているので、外の景色は良く見えない。不自由な体勢で狭い場所に閉じ込められて、圧迫感に息苦しさを感じた。
今からどこに連れていかれるのだろうか。
だけど、この先どこに行っても、いいことなんてひとつもないんだろうなと僕は思った。
育ててくれたおじいさんとおばあさんが死んだ後、僕は見世物小屋に売られた。僕の涙は金の粒になるのだ。おじいさんとおばあさんが死ぬまで、僕はそのことを知らなかった。
見世物小屋で、僕は殴られ続けた。僕は怖くて沢山泣いた。
泣きすぎて、最近では涙も枯れてしまったみたいだ。そしたら、食事を抜かれるようになった。
僕はここで死ぬのかな……
そう思っていたら、今度は誘拐された。
あの場所から救い出してくれるなら、誰でもいい。助けて欲しいと何度願ったことだろう。
だけど、身体を伸ばして眠ることができたぶん、まだ見世物小屋のほうが少しだけマシだったような気がする。
今度はどんな酷い目に遭うことになるのだろうか。
こんなところに閉じ込められて運ばれているんだ。まともな待遇なんて期待できない。
四角い檻の中で見た絶望は、暗闇の色をしていた。
「何を運んでいる?」
突然、凛々しい声が聞こえた。
「フェンリルだ……!!」
叫び声がして、ガダンと馬車が止まる。カシャリと僕を繋ぐ鎖が鳴った。
グルルルル……と低いうなり声が聞こえた気がした。
何だろう?
黒布の所為で外の様子は見えない。
誰かが「逃げろ」と言った。だけど、檻に鎖で繋がれていては、それも叶わない。
身体を小さくして震えていると、バサリと布が取り除かれた。
目の前に現れたのは、大きな狼だった。
銀色の毛並みが、満月の光を反射して神々しく光っている。
僕はその美しさに思わず見惚れた。
「おまえ、獣人か」
「わっ!?」
狼は何故か人の言葉を喋った。
口の中に、立派な牙があるのが見えた。
ああ、僕はこのまま食べられちゃうんだ……
不思議と恐怖は感じなかった。というより、それでもいいかなと思った。
「ええと……はい。そうです」
今は人の姿をしているけれど、僕はもともと醜い小鳥だった。
ニンゲンになれれば愛されるかもしれない。そう願って、彷徨って。辿り着いたのは、おじいさんとおばあさんの家だった。
彼らは、僕が醜い小鳥でも大切に育ててくれた。だけど無力な僕は、二人が病に倒れた時、助けてあげることができなかった。
僕は泣いた。沢山、泣いた。
そして気が付けば、人の姿になっていたんだ。
大狼は爪と牙を使って僕を檻から出してくれた。
不自然な格好で檻の中に押し込められていたので、立ち上がるとクラリとした。
僕はなんとか踏ん張って大狼の前に立った。
逃亡防止のためだと言われて、見世物小屋では服を与えられなかった。だから、今、僕が身に着けているのは、千切れた鎖がついた首輪だけだ。
みすぼらしい裸を見せるのはちょっと恥ずかしいけれど、今から食べられちゃうんだから、まぁいいかと思った。
「……美味しく食べてくださいね」
なんだか気分が高揚している。
早く食べられたくて心臓もドキドキする。
大狼は僕を背中に乗せると、木々の間を抜けて、洞窟へと走った。
洞窟の中にはちょっとした家具なんかもあって、まるで人が住む家のようだった。
大狼は、自分のねぐらに僕を連れて来てくれたみたいだ。
ということは……
道端で雑に食い散らかされるのではなく、巣の中でじっくりと味わってもらえるんだ。
そう気づいたら、僕の胸は期待に震えた。
大狼の背中から下ろされたら、ベッドに横たえられる。草の上に大きな布が被せられただけのものだったけれど、見世物小屋では藁が少しもらえただけだったから、僕にとっては十分上等なベッドだ。
しかも、なんかイイ匂いがする。僕はクンクンと匂いを嗅いだ。大狼の背中で感じたのと同じ匂い……きっとこれが大狼の匂いなんだろう。僕の大好きな匂いだ。大きく息を吸い込むと、大狼に全部満たされた気がして嬉しくなる。
今から食べられようとしているのに、こんなに幸せな気分になっちゃっていいのだろうか。
あ。そういえば。
今から大狼は僕を食べるのだから、ここはベッドじゃなくて、テーブルなのかもしれない。僕がシーツだと思ったのは、テーブルクロスだったりするのかな。
「どうぞ、召し上がれ」
僕は仰向けになって、テーブルクロスの上で身体を伸ばした。
上から大狼が僕のことをギラギラした目で覗き込む。ハァハァと息を吹きかけられて、ちょっと擽ったかったけれど、僕は動くのを我慢した。
大きな口が腹に近づいてきた。
ああ、お腹からガブリっていっちゃう感じかな。
自分が食べられる様子なんて見ていても仕方ないと思うんだけど、大狼の一挙一動から目が離せない。
真っ赤な舌が僕の肌に触れて、肉なんてほとんどついていない胸に向かってベロリと舐め上げられた。身体がゾクゾクした。鳥肌が立つ。
大型の獣に舐められて嬉しい小鳥なんて、居るはずないのに。
心臓がドキドキしているのは、恐怖心からくるものではないような気がした。
24
あなたにおすすめの小説
【本編完結】転生したら、チートな僕が世界の男たちに溺愛される件
表示されませんでした
BL
ごく普通のサラリーマンだった織田悠真は、不慮の事故で命を落とし、ファンタジー世界の男爵家の三男ユウマとして生まれ変わる。
病弱だった前世のユウマとは違い、転生した彼は「創造魔法」というチート能力を手にしていた。
この魔法は、ありとあらゆるものを生み出す究極の力。
しかし、その力を使うたび、ユウマの体からは、男たちを狂おしいほどに惹きつける特殊なフェロモンが放出されるようになる。
ユウマの前に現れるのは、冷酷な魔王、忠実な騎士団長、天才魔法使い、ミステリアスな獣人族の王子、そして実の兄と弟。
強大な力と魅惑のフェロモンに翻弄されるユウマは、彼らの熱い視線と独占欲に囲まれ、愛と欲望が渦巻くハーレムの中心に立つことになる。
これは、転生した少年が、最強のチート能力と最強の愛を手に入れるまでの物語。
甘く、激しく、そして少しだけ危険な、ユウマのハーレム生活が今、始まる――。
本編完結しました。
続いて閑話などを書いているので良かったら引き続きお読みください
転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました
桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。
言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。
しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。
──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。
その一行が、彼の目に留まった。
「この文字を書いたのは、あなたですか?」
美しく、完璧で、どこか現実離れした男。
日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。
最初はただの好奇心だと思っていた。
けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。
彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。
毎日19時に更新予定です。
【完結】俺の身体の半分は糖分で出来ている!? スイーツ男子の異世界紀行
海野ことり
BL
異世界に転移しちゃってこっちの世界は甘いものなんて全然ないしもう絶望的だ……と嘆いていた甘党男子大学生の柚木一哉(ゆのきいちや)は、自分の身体から甘い匂いがすることに気付いた。
(あれ? これは俺が大好きなみよしの豆大福の匂いでは!?)
なんと一哉は気分次第で食べたことのあるスイーツの味がする身体になっていた。
甘いものなんてろくにない世界で狙われる一哉と、甘いものが嫌いなのに一哉の護衛をする黒豹獣人のロク。
二人は一哉が狙われる理由を無くす為に甘味を探す旅に出るが……。
《人物紹介》
柚木一哉(愛称チヤ、大学生19才)甘党だけど肉も好き。一人暮らしをしていたので簡単な料理は出来る。自分で作れるお菓子はクレープだけ。
女性に「ツルツルなのはちょっと引くわね。男はやっぱりモサモサしてないと」と言われてこちらの女性が苦手になった。
ベルモント・ロクサーン侯爵(通称ロク)黒豹の獣人。甘いものが嫌い。なので一哉の護衛に抜擢される。真っ黒い毛並みに見事なプルシアン・ブルーの瞳。
顔は黒豹そのものだが身体は二足歩行で、全身が天鵞絨のような毛に覆われている。爪と牙が鋭い。
※)こちらはムーンライトノベルズ様にも投稿しております。
※)Rが含まれる話はタイトルに記載されています。
冷酷無慈悲なラスボス王子はモブの従者を逃がさない
北川晶
BL
冷徹王子に殺されるモブ従者の子供時代に転生したので、死亡回避に奔走するけど、なんでか婚約者になって執着溺愛王子から逃げられない話。
ノワールは四歳のときに乙女ゲーム『花びらを恋の数だけ抱きしめて』の世界に転生したと気づいた。自分の役どころは冷酷無慈悲なラスボス王子ネロディアスの従者。従者になってしまうと十八歳でラスボス王子に殺される運命だ。
四歳である今はまだ従者ではない。
死亡回避のためネロディアスにみつからぬようにしていたが、なぜかうまくいかないし、その上婚約することにもなってしまった??
十八歳で死にたくないので、婚約も従者もごめんです。だけど家の事情で断れない。
こうなったら婚約も従者契約も撤回するよう王子を説得しよう!
そう思ったノワールはなんとか策を練るのだが、ネロディアスは撤回どころかもっと執着してきてーー!?
クールで理論派、ラスボスからなんとか逃げたいモブ従者のノワールと、そんな従者を絶対逃がさない冷酷無慈悲?なラスボス王子ネロディアスの恋愛頭脳戦。
見捨てられ勇者はオーガに溺愛されて新妻になりました
おく
BL
目を覚ましたアーネストがいたのは自分たちパーティを壊滅に追い込んだ恐ろしいオーガの家だった。アーネストはなぜか白いエプロンに身を包んだオーガに朝食をふるまわれる。
竜の生贄になった僕だけど、甘やかされて幸せすぎっ!【完結】
ぬこまる
BL
竜の獣人はスパダリの超絶イケメン!主人公は女の子と間違うほどの美少年。この物語は勘違いから始まるBLです。2人の視点が交互に読めてハラハラドキドキ!面白いと思います。ぜひご覧くださいませ。感想お待ちしております。
愛を知らない少年たちの番物語。
あゆみん
BL
親から愛されることなく育った不憫な三兄弟が異世界で番に待ち焦がれた獣たちから愛を注がれ、一途な愛に戸惑いながらも幸せになる物語。
*触れ合いシーンは★マークをつけます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる