食べて欲しいの

夏芽玉

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本編

2.宝物の名前*

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 いつ、その牙が僕の肌を食い破ってくれるのだろうか。
 ずっとその時を待っているのに、大狼は僕の肌を舐めるだけでなかなか噛り付いてくれない。舐められるたびに、擽ったいだけじゃなくて、なんかヘンな気分になってきてしまう。
 もしかして、この姿だから食べにくいのだろうか。

「……ええと、小鳥の姿のほうがいいですか?」
「そのままでいい」
「そうですか」

 小鳥の姿のほうがきっと柔らかくて美味しいと思うけれど、食べる量が減ってしまうもんね。僕はそう納得した。

 大狼は、その後も僕の身体中を舐め回した。擽ったいのを我慢していたら、ハァハァと変に息が上がってしまう。妙に気分が高揚している。早く食べてもらいたい。

 全身をたっぷり舐めた後、大狼の身体がぐにゃりと歪んだ。

「えっ……!?」

 驚いて目を見開いていると、大狼は人間の姿になった。
 チビで不細工な僕とは違って、大柄でカッコイイ男性が僕の前に居る。精悍な顔立ちに、筋肉質な身体。裸体の彼は、まるで生きている芸術品のようだった。

「……あなたも獣人なんですか?」

 自分以外の獣人に出会ったのは初めてだ。
 見るからに強そうな彼は、ひ弱で無力な僕とは正反対の存在だ。

「おまえ、名前は?」
「ええと……名前、ですか?」

 最近は「金の涙を流す少年」と呼ばれていた。うーん、これは名前じゃない気がする。演目名というか、商品名というか……

「親や兄弟からは何と呼ばれていた?」

 悩んでしまった僕に、彼が助け舟を出してくれた。
 大昔の記憶をひっくり返して、同じ巣に居た小鳥たちに呼ばれた名前を思い出す。

「……クズとか、バケモノとか?」
「そりゃ、名前じゃねーだろ」

 僕が答えたら、呆れた声で言われてしまった。

「おまえのことを好きな人がつけてくれた名前はねーのか?」

 僕が好きな人……
 それはもちろん、おじいさんとおばあさんだった。
 彼らが僕を呼ぶときの名前は……

「……リュミエール」
「いい名前じゃねーか」

 たった二人にしか呼ばれたことのない名を口に出したら、笑顔を向けてもらえた。それだけで心がポカポカと温かくなる。

「あの……貴方は?」
「ああ?」
「貴方の名前……」

 今まで人の名前なんて知っても意味がないと思っていたけれど、今だけは、僕を食べてくれる大狼ヒトの名前を知りたいと思った。

「ヴァンだ」
「ヴァン……」

 口の中で小さく呟いただけで、宝物を手に入れたような気持ちになる。

「ねぇ、ヴァン」
「なんだ?」
「早く僕を食べてください」
「……チビの癖に、煽ってんじゃねーよ」

 テーブルクロスの上に寝ている僕に伸し掛かってきたヴァンは、ペロペロと胸を舐め始めた。

「ふ……ふぁっ……、僕は雌じゃないので、おっぱいを舐めても……んんっ、何も出ませんよ」
「そんなことは知ってる」

 さっきまでは大きな舌で全身を撫でるみたいにベロリベロリと舐め回されていたけれど、今は僕より一回りか二回りくらい大きな舌が、僕の胸の飾りを集中してチロチロと舐めてくる。
 舐められているのはおっぱいなのに、何故か腰回りがゾワゾワしてきた。なんだか落ち着かなくて、お尻をモゾモゾとさせてしまう。

「しっかり感じてるな」
「んん……な、にを?」

 乳首をチュウチュウと吸われながら股間に触れられて、僕は気付いた。いつの間にか、おちんちんがガチガチに勃ち上がっていたのだ。
 ヴァンの大きな手で撫でまわされると、脳が痺れるような気持ち良さに支配される。頭がクラクラする。

 ああ、このまま全部食べられちゃいたいな。

「ああぁんっ……はぁ、んん……ま、まだ食べないのですか?」

 自分の口からこんなに甘い声が出るなんて知らなかった。
 この気持ち良さの中、逝けたら幸せなのに……
 早く食べて欲しい。

「ああ、今から食うぜ」

 ペロリと舌なめずりをしたヴァンがそう言った。
 ああ、ヴァンは僕のことをどこから食べてくれるのだろうか。
 やっぱり、最初は喉元を噛み千切られるのだろうか。
 できれば手足から食べてくれたほうが、ヴァンが僕を味わってくれている様子がわかっていいんだけど……

 そんなことを考えていたら、ヴァンは僕のおちんちんをパクリと口に含んだ。

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