Wit:1/もしも願いが叶うなら〜No pain, no live〜

月影弧夜見(つきかげこよみ)

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断章Ⅱ〜最終兵器にアイの花を〜

もしも願いが叶うなら。

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 ———そして、たたかいはおわった。

さいごまであらがった、きゅうせいしゅが、

     そのいのちを、ちらすことで。




  いまここに、ねがいはかなえられる。

えいえんをいきて。
      えいえんにくるしんだおとこの。




        願いが。


********



『……邪魔者は、いない。

 もう何も、この計画を邪魔するものは存在しない。

 …………願いを叶える時だ———アースリアクター。

 呼応せよ、我がジルに———ザ・オールマイティ・ミラージュに!』



 先程まで勇敢に戦っていた男は、既にその体ごと塵と化した。

 血みどろの戦場の中、ただ1人最後まで立ち尽くしていたのは、刹那の方であった。


 ———世界は、終末へ向かう。

 誰もが白の帰りを信じ、誰もがアテナの笑顔を待ち続ける中。

 あまりにも呆気なく。あまりにもひっそりと。終末の願いは、叶えられようとしていた。


 アースリアクター———その鉄の扉が開き、中にある水晶球体———この星そのものの『核』が姿を現す。

 そう、これこそが概念生命体。この星全ての概念を統括し、その情報により成り立っている超超高密圧度情報体。

 …………そして、ヒトの。なんらかの生命の願いを叶えることのできる、唯一にして万能の願望器であった。


『私の……勝ちだ、これでようやく———……!』

 男の願いは———何も死ぬことを願うわけではなかった。

 願うのは、そう。全ての人類を、皆等しくロストに変えること。

 ……だが、願いには対価が伴う。どんな願いを叶えるにしろ、対価が伴うものだ。
 ———そう、を対価として。

『これで……ようやく……! よう…………やく………………?』

 刹那はその場に立ち尽くし、己が異常に恐怖し始める。

『…………!……から、だの……制御、が、効かない…………っ、宗呪羅……!』

 しゃがみ、うずくまり、そして地を這う。
 頂点を見たと確信した男が。この世界の最強に立ったと思い込んだ男が見た、最後の光景であった。

『きさ……ま、何をする気だ、今更願いなぞ……叶えてっ!

 貴様の大事な弟子は殺した、あの通りな! もう終わりだ、貴様には、生きる理由も何もない! 今更、今更出しゃばったところで……!』


『……今更———ですか。……どれもこれも、白郎のおかげです。貴方の力をここまで削いでくれたおかげで、私が出て来れたのですから』

『だが今更だ! その白郎の無様な死体を見ろ! 塵芥のみの亡骸! アレのどこに、価値があるっ!』


『価値など———見た目が決めるものではありませんよ。

 白郎の生きた時間。白郎の生きた世界、白郎の生きた経験、白郎の生きた、その人生の全て。

 その価値を、貴方に理解できましょうか。

 アイし、アイされるために生き、罪を償うために生き、それでも幸せを追い求め、必死になって頑張った。その価値を、その意味を———無かったものとは、言わせません。

 それがないのなら———私は今、ここにはいませんから』


『やめろ……やめろ! 私を殺すな……いいのか?! 人間共に、私の受けた永遠の苦しみを与えるのではなかったのか、宗呪羅っ!』

『それは無理な願いです。なぜなら、私にも———、





 この私にも、


 それを最後に。『刹那』と呼ばれた、宗呪羅のもう一つの人格は———その声は、聞こえなくなった。

 代わりに、その体に成り代わって残ったのは、雪斬宗呪羅———白の、師匠であった。


『……さて…………見るも———無惨な……』

 宗呪羅は、そっと———『白』だった灰色の粉を抱える。……その中には———、


『そう———ですか。も、白郎に託した……と。貴女が唯一、アイした人間が———白郎だったのですね。

 ……よかった。私の読みは、合っていました。

 幸せ……でしたか、?』

 その中に埋もれていた、蒼色の輝きは———呼応するように点滅する。

『……ならばよかったです。私の弟子です、悪い人間であるはずがなかった。



 さて……それじゃあ行きましょうか、

 男はその粉を抱え、ゆっくりと水晶球体に向けて歩き出す。

『白郎———貴方に、託しましたよ。私の夢。もう2度と誰も苦しむことのない、みんなが楽しく生きられる世界を。

 貴方に———託します。貴方にならば、ソレを為せるはずです。



 だからこそ、もう一度。貴方に、やり直すチャンスをあげなければなりません。
 もう一度やり直して、今度こそは———、』

 その結晶体の足元まで歩んだ刹那は、ソレを見上げ、その先に祈りと願いを馳せる。



 
『よく…………頑張りましたね。…………だから今度こそ…………幸せになってください。ソレが、私のです。

 願うのは———ただ一つ、でしょう。





 ……そうそう———呪文が必要でしたね、を使って、願いを叶えるためには』

 アースリアクター。星の中枢たるソレに向け、刹那はただ一言———言い放った。

『そう、コレ……でしたね……1000年ぶりですよ、この言葉を聞くのは。




































 もしも、願いが叶うなら』
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