Wit:1/もしも願いが叶うなら〜No pain, no live〜

月影弧夜見(つきかげこよみ)

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最終章・前編〜間隙〜(三人称)

255話-AGE18608(太陽暦2808年):12月27日

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「…………コーラスリーダー了解。……それは本当か?……未確認飛行物体……サイドツーの可能性は」

『さあ……紅い機体だ、って言ってたけど……サイドツーつっても、Mark.3以上の性能の機体を、あっちが密かに作ってる……とか?』

「なるほど…………消えたヴェンデッタ、ってのもありそうな線ではあるけど……どうだろうね。

 いずれにせよ、今回が初陣だ。まずはここをしっかりこなさないと」

『おいおいよ、初陣はねえだろ初陣は……俺たちゃあんだけ、命張ってでもオリュンポスと戦ったんだぜ?』

「それは5年前の話だろう。……それに、人相手は———ほぼ……」

『ほぼ、じゃねえだろ。5年前の人界軍クーデター、その時だって人とはやり合ったはずだ。

 ……なんだ隊長、まさか今更、人を殺すのが怖いってか?……そんなケイみたいなことをさ……』


「………………コーラス3、次にその話題を出そうなら、僕が君を———、


 …………ケイは人を殺すのが怖かったんじゃない、殺したくなかったんだ。その辺、あまり誤解しないでもらいたいものだが」

『へ~いへい……あ、ドア開きそうっすよ』

 格納庫の前方のドアが開き、外より眩しい光が漏れ出す。

「発進許可は降りた。……行こう。レイス・ヴェルグ隊———発進」

 

 岩肌の中。切り立った崖の穴の中より、サイドツーが5機発進する。

 その中にて、一番先頭に位置する、青と黄色に塗られたサイドツー……それに乗るのが、コーラス1……レイス・ヴェルグ隊の隊長を務める、センであった。


「目的地……既にレーダーに出ているな、とりあえず直進だ。まだ第4基地は攻撃されていない。


 ……しかし、戦争の在り方も、随分変わってしまったな……」

『戦争の在り方ぁ?……俺ぁそんなの分かんないね、日ノ國からトランスフィールドの移民だからさ』

「……元々、僕たちは全員生身で戦ってた。サイドツーなんて人形機動兵器……ロボットなんて使わずともよかったのに」

『でも、もう今はよほど強いやつ以外はサイドツーの使用がほぼ必須だろ?……生身で使い物になる人間なんて、ほとんどいやしねえだろうが』

「……そうだね、サナさんとか……レイさんとか…………イデア、さん……とか、



 ———白さん、とか。


 その辺の人ぐらいしか、今は生身じゃやっていけない。……もちろん僕もだけどね……

 サイドツーの操縦技術がないとやっていけないなんて、まさかこんなことになるとは思ってもいなかったよ」

『ああ俺も、全く思ってなかったことが起きやがった。…………オリュンポスとの戦争が終わったと思ったら、なぁんで人類同士で戦争が始まっちゃうかねえ』

「……話が逸れすぎていないか?」

『気にすんなよ~~、どうせ暇なんだし———』





『コーラス3。無駄口を叩いてる暇は、ないかもしれない』

 こちらも落ち着いた声だったが、もう1人の男の声が聞こえ始める。

『おおっブラン! ようやく喋り始めたか!』

秀徳ひでのり、コールサインで呼ぶ。……当たり前だろう、コーラス3』

『でも今秀徳つったじゃんよぉっ!』



『……それよりも隊長、1時の方向、距離36000より、未確認熱源体、及び魔力反応点が———接近中です』

『俺の話聞いてぇっ?!』

『マーカーはあるものの、リンクはされていない……とならば……』


「まさか、アレは敵機?!……でも、単騎じゃないか、単騎で……単騎で?!」

 敵のマーカー。隊全員のレーダー状に赤く表示されたその点は、徐々に隊に向けて向かいつつあった。

「ちょっと待って……まずい、確実にここを目的にしてる!

 全機散開、正面からは僕が受ける!」

『『『『了解っ!』』』』


「行くぞ……サイドツー・フリートウィングス、魔力翼展開っ!」

 センがそう口にした瞬間、センのサイドツーの両側に、緑色の魔力の翼が、一瞬にして形成される。

 翼———と言っても簡易的なものであり、鳥のソレのような羽を模した複雑な形状はしていなかったのだが。

『……アレか……噂に聞いた、紅い機体……?!』

「迎撃開始っ!」

 センの合図に合わせ、そちらに飛んでくる紅い機体に向け、銃弾の弾幕が浴びせられる。小銃を使う者もいれば、ブランの乗るこれまた赤いサイドツーは、スナイパーライフルによる狙撃を実行していた。

 ———が。

『敵機、魔力濃霧を散布!
 同時にミサイルも飛んできました!』

「即座に撃ち落とせ! 全機後退しながらだ、濃霧との距離を近寄らせるな!』

『ミサイル、迎撃成功!……ってえ、ミサイルからも魔力濃霧が!』

「そっちは気にするな、どうせ前方の濃霧とは混ざり合わない!

 以前後退しろ! 濃霧の中から何が飛んでくるか分からない、魔力障壁の展開準備は怠るな!」


 ……一通り銃声が鳴り止んだ後。その戦場は、静寂に包まれた。

『………………出てこない?』

「出てくれば蜂の巣にされるだけだからな……出てこなくても、いずれそうなるだろうが」

『レーダーにも、後退していくような様子は映っていません。引き続き、監視を行います』


 ……がしかし、1分経っても何の動きもなく。


「…………妙だ。もう少し距離を取ろう。どこか不気味だ、嫌な予感が当たる気がする」

『———っ、なんでそこっ———』
『コーラス3っ!』

 全員のレーダーから、コーラス3……秀徳機のマーカーが消え失せる。
 ……とはいえ、その方向を向くと……空にパラシュートを広げたユニットコンテナが。

『コーラス3、ベイルアウト!』
『……ちょっと待て、そりゃおかしいだろ……!』


 先程、紅い機体が入り込んだはずの、前方の魔力濃霧。
 ……だが、そこから離れた位置———紅い機体のミサイルより散布された、離れた位置の魔力濃霧から———紅い機体は出でた。

「…………まさ、か、転移…………いや、そんなことをできる人は……この世界に…………クさんぐらいしか……」

『隊長、何をボケっと!』
「……ああ、すまない———とにかく距離を取って撃ち続けろ! ヤツは今のところ、ハンドカノン以外に攻撃力のある遠隔兵装を持ち合わせていない! こちらの火力で押し切る!」

『敵機、ハンドガンを撃ってきました!』
「そんなもので……僕たちのカスタムシリーズが破れるとでも思ってぇっ!」


 センの駆るサイドツー・フリートウィングスは、その背中より刀を取り出し、一直線に紅い機体へ向かう。

 紅い機体も、その腕と思しき部分より魔力で形作られた刃を以て応戦する、が———、

「……素人か」

 フリートウィングスの方が、その反応速度の速さにより、紅い機体に先手を喰らわせた。

 甲羅の如き装甲に、深い切り傷を付けられた紅い機体は浮力を失い落下。……したはいいものの、また例の魔力濃霧を散布し———、

「待て、アレを逃がしちゃいけない! 集中砲火だ、何としてでも、堕とさなければ———、」

 ……が、その弾幕が届く前に、紅い機体は魔力濃霧の中へと到達。



「…………いや、いい。。今回は、僕たちの負けだ」

 
 センはその魔力濃霧の中を調べるまでもなく、自らの敗北を主張する。
 そんな彼の心の中は、疑問で埋め尽くされていた。……しかしそれでも。

「とりあえず、レイス・ヴェルグ隊全機は、ベイルアウトしたコーラス3を救出、保護した後、速やかに第2基地に帰投、今回の出来事を説明しろ。

 本来の作戦行動、第4基地への援軍は———僕1人で引き受ける。……それを、全て伝えておいてくれ」

『『『了解!』』』


 そうしてセンはただ1人、ここから少し遠く離れた第4基地へ向かい始める。

 ……その胸の内に、限りない疑問を抱きながら。
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