Wit:1/もしも願いが叶うなら〜No pain, no live〜

月影弧夜見(つきかげこよみ)

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断章Ⅱ〜最終兵器にアイの花を〜

最終兵器は恋をする

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「あー……あー、ちょっと……入っても、いいかしら?」

 俺もアテナも、互いに黙り込んだ空間に割り込んだのはサナだった。

「……どうしたんだ、何か不安なことでも———」

 戸惑う俺に向けて、サナはそっと耳打ちする。

「もっと他に、言うべきことあるんじゃないの?……これが最後かも……しれないんだからさ」
「お……ああ、そうだな。すまん、ありがとう」

 他に言うべきこと———か。
 他に……他に………………



 ———そうか、ソレがあった。


「アテナ!……ちょっと……いいか。……みんなのいないところで話をしたい、一回……来てくれないか」

◇◇◇◇◇◇◇◇


「…………アテナ、その……俺、な……」

 人のいないところ———崩れ去ったオリュンポス外壁、その影にアテナを連れ出す。
 それでも、そこまでしてでも言いたいことがあった———んだが。

「お……おお、俺……な、な……」

 ここに来てまで。言いたいことは、俺の口から出はしない。

「?」
「ああ…………言うさ、言う、言う……言ってやる……!

 俺は———お前のことが好きだ! 好きで好きでたまらないんだ、大好き……なんだよ!……っはあはあ、言った、言ったぞ……!」

「……うん、知ってる。…………アテナ、も……しろ、の……ことが、すき。
 
 だいすき、だから……アイしたい。この、恋を……アイに、変えてしまいたい」

 アテナは少しばかり頬を染めはにかみながらも、俺との会話を続けてくれていた。


「だ……から、さ……コレは提案なんだが……

 もしゼウスと……お前のお父さんと和解できたら……お前と、けっ、けけけけけけけっ……!」


 ダメだ、足が……緊張して、震えて……!


 ———いいや、そんなんじゃダメなんだ。
 俺が……のは———正真正銘、神様の娘……っつーかコイツも神!

 ここで言えないなら、俺は一生……踏み出せない……!

「お前と、結婚……したい!……しよう! そうするって、お前のお父さんに……ゼウスに言いつけてやるんだ、どうだ! どうだ!!!!」

 目を瞑って、その答えを待つ。
 

「…………しよう! 結婚!! な!!!!」

 10秒経過。答え無し。……まさかここにまで来て無視か?!?!……いいやいやいやそんなことはない……ない、ない……はずだ……!


「……じゃあ、証……見せ、て?」

「あか……し?」

 ようやく口を開いた……はいいものの、証……とは……?


「いれる。……いれ、て……まじわって……」

「お…………おおう?」

 おいおい、それじゃまるで……
 入れて……交わる……って、さあ……ここで?!

「トロトロ……に、ドロドロになって……そして、赤ちゃんを産むの」

「おい待って待て待てまさかお前ここでするつもりか?! 流石にんなことやってる時間ねえっての! 一体俺が何を入れなきゃなんないって……」

「………………舌、入れて……」

「舌かーいっ……ああすまん、めっちゃくちゃ誤解した」

「だって……お父様、言ってた。……舌、入れたら…………できる……って」

 舌を入れたら子供ができる……って何でそんな誤解を解いてやらなかったんだよお父様?!?!


 ……あ、じゃあさっきの『抱いて』宣言、別に隠語でも何でもなくただフツーに抱いてほしかっただけ…………あーまたまた俺自身の後悔ポイントが増えていく~っ!


「………………だめ?」

「ダメも何も……今まで何回かした……だろ。……やっていいよな?」

「今まで……何回、か……してきた、じゃん」

「お前がソレ言うか……」


 息を落ち着かせて。昂る心臓を抑えて。
 安らいだ気持ちで、その顔を手に取る。

「…………いいよな?」

「……」

「いいよな…………??」
「うるさい」
「っ?!」

 逆にあっちに両手で頬を掴まれ、強引にも口は重なってしまった。

「…………ん……んんぅ……っ」

 しばらくの間口と口は重なり続け、そしてその時間は静かに幕を閉じた。

 互いの吐息……のみしか聞こえない、この場において。
 そうしてる間の声……にもならない音というのは、何とも……濃密で味わい深いものだった……と思う。

 ……と、アテナは人差し指を俺の唇にそっと置いて一言。

「へたくそ」

「あぁっ?!」

「へたくそ、へたくそへたくそへたくそ。しろのキス……いつ、も……へたくそ」

「下手くそで悪かったな…………っああクソッ、たった1人の女の子にさえ、満足にしてやれないのか……」

「そういうところ」

「へ?」

「そういう……気負いすぎる、ところ。……しろにとっては、欠点……かも、だけど……そうやって……相手の、ことを考えられるのは……すごい」

「うぐ……っ」


「……でも、もう。

 もう、何も———せおわなくて、いい。



 しろは、もう———しろじゃ、ない。
 ツバサ、だから」


 ———そっか。
 そう言えば、前にもそんなことを言っていた。俺の思うようにしてほしいって、アテナは前にも言っていた。


 ずっと、そのスタンスだったのか。
 どこまでも、俺優先なのか、お前は。


 ……でも、そうか。その俺優先の在り方が、コイツにとっては最高の幸せなんだ、きっと。

 だったら、それに応えるためには———。




「やめて、いいのかな」

「うい?」




「俺は———俺の、贖罪を。

 この身に帯びた、罪の……贖いきれぬ罪の、精算を」



「……それで、しろが……幸せに、なるのなら、アテナは……それ、で……いい!

 いっしょ、に、たのしく……生きよ?」



「———ああ、そのために……終わらせなきゃならないからな」
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