Wit:1/もしも願いが叶うなら〜No pain, no live〜

月影弧夜見(つきかげこよみ)

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断章Ⅱ〜最終兵器にアイの花を〜

笑顔

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「ここまで終わってるとは予想外ね……なんでこんなのが機神に好かれるわけよ」

「こ……ここに来て、ここまでボロクソに言われることも予想外だった……全部俺の失言のせいだけどさ?!」


「私の……ことを、『激重機械装甲付きゴシックツインテ若作りロリババア』……と、呼んだ罪は……重い」

「いいいい言ってない言ってないからな、あとお前のその髪型はツインテつってもいいのか……?!」




『サイドツーの整備、もう少しぐらいで終わります!』

 ……変哲なノリは、センの声を以て終わりを告げた。

 息抜きは終わった。これからはいよいよ、最後の戦いの時間だ。


「そう言えばさ、俺はどうやってゼウスのとこまで行けばいいんだ?」

 ふと疑問に思ったことを口に出す。

「アテナちゃんに……乗せてってもらうとか?」
「なるほど。行けるか、アテナ?」

「ダメ。…………しろ、は……、から」

「なんだソレ。俺に対する当てつけか」
「嫌われちゃったわね」

『機神ゼウス内部までならば、僕が送り届けますから、白さんたちは最後の準備をしておいてください!』

 センの声が響く。あっちはあっちで色々と物音がしてるため、まあ色々とやってくれてるんだろう。




「…………どうして」

 サナがここから離れて、気が抜けた一瞬。不意に出た声にアテナが反応する。

「ほん……とに、どうしてだろうね」
「皮肉かよ……まあ、今のはお前のことじゃない。…………宗呪羅の……俺の師匠のことだ」

 そう言った瞬間、アテナが興味深そうにこちらを見つめ始める。……それはそうか、コイツだって師匠と少なからず関わりがある。

 ……言っておくべきだな、刹那のことは。

「アテナ、『刹那』……ってヤツ、知ってるか?」
「…………『お父様』のとこに……行く時、に……見かけた」

「———ソイツがな、その……実は、宗呪羅だったんだよ。

 そんなことはないって信じたかった。だって、宗呪羅は……人を殺すはずがないって。

 あの人は前に、俺に言ってくれたんだ。自分の理想。師匠が叶えたい、本当の夢。

『もう誰も苦しむことのない、みんなが楽しく生きられる世界』……それを、人の愛で実現させるのが、元々のあの人の夢だったんだ」

「…………確か、に。宗呪羅は…………そんなこと、言ってた」

「だよな。……やっぱり、お前にも言ってると思ってた。それだけ前の宗呪羅にとって、その夢は大事だったはずなんだ。

 …………でも今のヤツは———目的の為ならば平気で人を殺す。イチゴ隊長も、ディルも……アイツに殺された。俺は2人を、そして宗呪羅を、救うことができなかったんだ」

「………………だか、ら……戦うの?……だから、宗呪羅と……決着を、付けるの?」

「そう……だな。宗呪羅と、そして俺が抱いた幻想に———決着を付ける。コレはその為の戦いなんだ、だから俺は……今ここにいる。

 アテナ、お前はお前のお父さんと……ゼウスの説得に集中しろ。宗呪羅とは俺がやる。……異論、ないよな?」

「もちろん……ない、よ。……負けない……でね、しろ」
「ああ。負けるわけにはいかない。アイツはここで止めてみせる。和解まで持っていけたら万々歳だよ」

 
 もうこの際、俺はどんな顔をすればいいか分からなくなった。

 アテナに対してどんなことを言えばいいのかも。何を言って接すればいいのかも。

 前は溢れるぐらいに思いついたはずなのに、今となっては———まるで魂が抜け落ちたように、心の中まで虚だった。

 今思えば、今日は…………もう夜が明けたので厳密に言えば昨日からだが、色々と起こりすぎた。

 何人も何人も、俺にとって大事な人を失って。何個も何個も、俺を絶望させる事実が発覚した。

 ———多分、疲れてるんだ、俺。
 

「…………しろ。ちょっと……わがまま、聞いて?」

「わがまま……?……ああ、いいさ。帰れないかもしれないんだ、何でも聞いて———」
「抱いて」
「ダメだ」

 あまりの言葉に驚愕しながらも、俺は即答で断ることができた。

「な~ん~で~……」

 ジタバタしながら駄々をこねるアテナ。

「ダメに決まってるだろ、今から戦うんだぞ?! 世界の命運を握る戦いの前だってのに、そう言うのはダメだろ?!

 …………それに———俺には、そんな権利ないんだよ。

 こんな俺には———初恋の人を、最後まで愛することができなかった俺には、そんな権利はないんだ。

 俺なんか……な、幸せになっちゃいけないんだよ。……幸せになりたいし、そうなるように努力だってする、だけど……やっぱり、ダメなんだ」

 心のどこかで、幸せになろうとしている自分をも抑えつけてまで、俺はその誘いを受け取らなかった。

 せめてやるならば———全て終わってからだ、と。

「……まえと、ちがう。まえは、もっと……前向き、だった、はずなのに。また、罪に囚われて……る。

 …………たし、かに……権利は……ない、けど……わがままを聞く、義務は……あるよ?

 だって、しろは———私の、彼氏、だもん。



 しろは、私の彼氏、で……みらいの、お婿さんなの。だから、私の……言うこと、は、絶対」

「じゃあ俺は、今からお前を抱かなきゃならないってか?!……流石にソレを今からやるのは……!」


「……折れて、くれない……

 じゃあ、代わり、に…………やくそく、して?」

「約束……って、何を———」

 瞬間。アテナの顔から、その太陽みたいな笑みが完全に消え去ってしまった。……なぜかと考察する間も無く。

「じぶんの、こと……少し、は、考えて。

 まえの、しろは……まだ、笑ってた。……でも、今のしろ……は、笑って———笑えて、ないから」

 笑えてない———ソレを言われて、俺はようやくハッとした。


 俺は前に、決めたはずなんだ。コイツに———アテナに言われた言葉から。

『白の思うように生きていてほしい』。……今の俺を気遣った最大限の、コイツの言葉。

 コイツはコイツなりに、俺に幸せになってほしいと思ってくれているんだ。だったら俺は、もっと———自分のことを考えるべきなのか?

 もっと———罪なんかに囚われない生き方を、すべきなんだろうか。……いいや、前はそうやって生きるって決めたはずなんだ。

 でも、宗呪羅との戦いを経て———俺はもう一度、そう言った呪いに囚われてしまったんだな、って。


「きっぱり、折り合いは———付けるべきか」

「そう。……もっと、笑って?……しろは、どーしたら、笑える?」

「どうしたら…………分かんねえ。分かんねえけど、できるだけ笑えるように……頑張るよ」

「うん。……もっともっと、……しろの、笑顔……は、見せて……ね?」

 その言葉に俺は、微笑を以て返してみせた。
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