Wit:1/もしも願いが叶うなら〜No pain, no live〜

月影弧夜見(つきかげこよみ)

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断章Ⅱ〜最終兵器にアイの花を〜

「ディル・アインガ」

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 弱かった、弱かったさ。
 華奢な身体でも、身の丈に似合わないほどのパイルバンカーを振り回す女の子より。
 ひたすらオカマっぽくて、(色)男好きで、ハゲで……マッチョな、爆剣オタクのおっさんより。
 ただただ冷静に物事に対処する、俺たちの隊長よりもさ。
 

 そうだ、俺は誰よりも弱い。
 身体だけじゃない、心だって……俺には誇れるものなどない。

 そのくせ逃げ足と言い訳だけは一丁前で、なぜか心に「死にたくない」だとか言う、一見まともな芯を持って、俺は今まで生きてきた。
 


 ……じゃあ、その結果はどうなった?
 俺が「死にたくない」などとぼやいたせいで、俺が眼前の敵に立ち向かわなかったせいで———。


 既に、もう3人も死んでるじゃないか。

 俺のせいで。
 俺のせいで。


 俺の、せいだ。



 俺は……いない方がいいんだ。
 俺がいただけで———周りの人を傷つけてしまう。

 もう殺した。
 俺が殺したんだ。
 俺が惨めにも足掻いたせいで、俺が殺したんだ。


 隊長は———さぞカッコいい死に方でもしたのだろうか。

 その隊長に倣って、自らの命を顧みずにレイラとカーオを逃して。
 それで、自分はそこらで野垂れ死んで、退場。

 俺にできるか?
 そんな事、今の俺にできるのか?
 


 多分、無理だ。
 俺自身が死にそうになった瞬間———どうせ俺は、また誰かを盾にする。
 そうしてまた媚びへつらい、またみっともなくひざまずくのだ。



 だから、行かない方がいいんだ。
 戦わない方がいいんだ。
 誰かと一緒なんて、いない方がいいんだ。
 そもそもそれ自体が、俺にとっては罪だったんだ。





 

「…………無理、なんだ。………………俺は生きてていい人間じゃない、俺は強い人間じゃないんだ。

 ……隊長みたいに、自分が他人を傷つけてしまう事を恐れていても、それでもと手を取り合えるような人間になんて……きっと俺は、なれはしないんだ」


「…………じゃあ、逃げるんすか……せっかく隊長が作ってくれたチャンスを、傷付くかもって思ってても、それでも手を取るチャンスなんて……たった今、目の前にあるじゃないっすか……!!!!」

「…………もう、行ってくれ。………………無理なんだ、俺には」



「ならば、第3番隊は……今日で解散……っすよね」
「……」
「それでも……いいの……!」

「……………………………………ああ」









********


 その会話が終わる事は、即ち彼らの全てが途切れる事を意味していたのだろう。

 ……この俺には関係のない話だった、ゴルゴダ機関の仲間内の話なのだから。 

 だからこそ、目の前にて少女がどれだけ憤慨していようと、かつてのアレンのように苦悩する少年がいようと、結局は彼らの問題なのだから、俺は絶対に———口を出すべきではなかったのだ。

 この少年———ディルがついてこないと言うのなら、俺はそれでも構わない。

 ただ……もし俺が、何か声をかけるとするならば。



********


「………………ディル、と言ったか」

 静寂を突き破ったその声は、イデアのものだった。

「…………」
「貴様がどう生きようと、どう戦おうと貴様の勝手だ。…………だが」






「……後悔は、しないように、少年」






「部外者さん……」

「……女、俺の名前は部外者じゃない。イデアだ。
 イデア・セイバー、それが俺の名前だ」

「そっちだって女って言ったじゃないっすか……わたしの名前はレイラっすよ……」







『後悔をしないように生きろ』


 自身が俯きながらも見送ったその背中に、その言葉が残響する。
 後悔は……してないだろう。

 ……していない、はずだ。
 これが正しい判断なのだから、そこに後悔する要素など何一つ……あるわけないんだ。

 そんな…………後悔、なんて———。





「……ディル?……ディル、なのか……?」


 聞き覚えのある声が、横にて歓喜に打ち震える。
 ……そこにいたのは、もう既に———いなくなってしまったと、そう勝手に思い込んでしまっていた……人だった。





 刀を携え、和風の着物を見に纏った———白髪の少年。


「ツバサ、お前……生きていたのか……」

「それはこっちのセリフだ。……で、お前どうした?……カーオは? レイラと隊長は……どこ行った……?」

「レイラとカーオは一緒にいたさ……でも、でもイチゴ隊長は…………」


「…………おい、まさか……な、なあ、流石に嘘だろ?……それとも……俺の勘違い……だったりするかな、流石に隊長が死ぬなんて…………」






「そう、隊長は………………殺された」

 自らの考察の答えを半笑いで述べるツバサを突き刺すように、その事実が襲いかかる。





「な……なん、で、どうしてそんな……」

「…………俺にも、分からない、けど…………レイラがそう、口にした」

「ちくしょう、一体全体、何がどうなってる?!……何が起きた、何で第3は、まとまって行動していないんだよ!!」




「人界軍、トランスフィールド諸国軍……そいつらと、ゴルゴダ機関のヤツらがやり合ってる……地上は地獄だ、東の空を見てみろ、見渡す限り———地の果てまで瓦礫だらけ、火の海と化した地獄だよ」

「レイラとカーオは……どこ行った」

「戦いに行ったさ、『エターナル』を阻止するために」

「何言ってんだ、ゴルゴダ機関はエターナルを完遂するためにある組織なんだろ?!」

「…………!……そう、だが、俺たち第3は……阻止の為に戦ってきた。……だからこそ、今がその最高のタイミングなんだ、だからアイツらは……謎の男と共に行っちまった」

「なら、お前が……ここにいる理由はなんだ。なんでお前は……ディルは、………………戦わないのか?」





「………………俺は、俺は逃げたんだ。死にたくないから、殺されるのが嫌だから。……もうレイラにもそれは言ったさ、そしたら……第3は今日で解散、だと……」

「そっ、か…………そうか、死にたく、ないからか…………」

「…………それに、俺がいたら……また誰かを盾にしちまう。…………クラッシャーだとかいう男と会った際———お前らが連れ去られた後、俺は———お前ら2人を、売ったんだ!」


「売った……?」

「ああ、そうさ、『お前らはどうなってもいいから俺だけは生かしてください』って、媚び諂いながら、土下座までして、必死に許しを乞いながら!」

「……」

「そんな……そんな俺に、戦う価値なんてあるか?!……あるわけ、ないだろう、どうせまた…………他人を足蹴にして、他人を盾にするだけなんだ、その役割がレイラやカーオに変わるだけなんだよ、だから……!」






「…………見損なったぜ、ディル」
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