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断章Ⅱ〜最終兵器にアイの花を〜
失意にて
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*◇*◇*◇*◇
「……は……ぁっ、はあっ、とりあえず……逃げ切った……」
「……どうやらそのようだな、追手もいなさそうだし———っ?!」
「よくも……よくもまあ、そんな口聞けたもんっすね……っ!!」
「安心しろ、そこのカーオ……だとかいうヤツに食らわせた斬撃は峰打ちだ、あまり戦意もなさそうだったから、そこまで殺す気では撃ってない」
レイラは、その鬼気迫る表情を以てイデアの胸ぐらに掴みかかるが、イデアは一切平静を崩すことはない。
……と言っても、もはやそんな事で争っている場合ではないのだ。
「…………っ……」
「お前たちはどうする?……ここでオリュンポスから降り、この先の戦いには一切関与しないか、それとも———」
「……言われなくても、分かる……はず」
「そうか…………俺も、アイツの……お前らが言う『隊長』の眼差しを見せてもらった。……あの目は———確実に、今から死にに行く者の目だった」
「……だからこそ、私たちは———第3は、もう引くには引けないんすよ。……だから一刻も早く、ディルを見つけないと」
アルファポイントへの地下入り口から這い出た瞬間、俺たちの視界を襲ったのは———破壊活動の行われた、地上だった。
「……ゴルゴダ機関、トランスフィールド、カーネイジ、人界軍。……その全てが動き出した…………か」
「トランスフィールド……まさか、エターナルを阻止する為だけに……」
「当たり前だ、ゴルゴダ機関———この世界でも有数の化け物揃いの軍団。……こうでもしなければ、勝てはしないのさ」
———と。
ふと、目をやった廃墟の瓦礫の隅には。
「……ディル」
体育座りをして、うずくまったままのディルが、ただただそこにいた———。
「……ディル。…………ディル、聞こえてる?」
「……………………俺は、戦わない」
「は……??」
自らの足にさらに顔を埋め、その男———ディルは、そう発した。
その震えて掠れた声からは……おそらく恐怖や畏怖の感情が込められているかのような———そんな感情を感じ取る事ができた。
「……だから、俺は……戦わない」
「下で…………アルファポイントで、何が起こったか……知ってるんすか……?」
「……知らない、知らない。俺が知るわけないだろう」
「………………隊長が———」
「……っ!!」
レイラが言いかけた瞬間、ディルは何かを察したように固唾を飲み込む。
「でも……でも、だから何だって言うんだよ、それでも俺は戦わない」
「…………隊長が、何をしたか———いいや、何をしてくれたか、分かる……?」
「レイラがここにいるって事は、おそらく———」
「分かるのなら……何の為に隊長が死んだか、それが分かるってなら、何でディルは……戦おうとしないわけ……!」
「無理なんだ、俺には結局……何もできやしなかった。……ギルと———カーネイジのヤツらと会った時、俺は———逃げたんだ。……だから」
「だから、だから何?……だからディルは———この大事な局面にして、戦う事を諦めたってわけなの?!
…………なら、ならば、第3が結成された理由は何……私たちが今日まで頑張ってきた理由は何なの?!……隊長が繋いでくれたこの時間は、一体何だって言うの……っ!」
レイラは、壁にもたれかかったままのディルを、手で押してなんとか動かそうとするも、何をしようとも、ディルは項垂れるようにその場に倒れ込むだけであり。
何よりその姿から、本当に戦意が無い事が察せられる事こそが、レイラが怒っている原因だった。
「……死にたく、ないんだ」
必死になったレイラの吐息のみが木霊していた空間に、ようやく声が響き渡る。
「俺は……死にたく、ないんだ。死ぬのは、嫌、死ぬのは嫌なんだ、悪意を持って殺される事だけは……絶対に嫌なんだよ……っ!」
「そう、それは多分……真っ当な感情、だけど、ディルは……普通の人間じゃない。わたしたちは……ゴルゴダ機関、ヒトならざるモノの討伐の為選ばれた、特別な集団のはず。
……ねえ、そうでしょ、ディルだって……ゴルゴダ機関の一員のはずでしょ、なら何で……何でこんなところまで来て、日和ったりするんすか……!」
「だから何度も言ってるだろ……死にたく、ないんだよ……お前らは地上を見たか?!
……地上を見ろ、闊歩するは汎用人型機動兵器サイドツー、至る所にてゴルゴダ機関と人界軍やらその他諸々の軍の戦いが始まってやがる……
……だから俺は見ちまった、ヤツらの戦いを……見捨てちまった、ツバサとニトイを、だから俺は…………」
「…………隊長は、隊長は生きてって言ってくれた、私たちに生きてくれって、最後にそう命令した……だけど、じゃあ戦わない?……ここで戦う事を……『永遠』に抗う事をやめる?
……わたしは……許さないから。今まで……今までずっと逃げ続けてきた貴方が、そんな判断を下すなんて……絶対に許さないから……ここで何もしないのなら……わたしは貴方を……絶対に許さない……!」
********
ずっと逃げ続けてきた。
耳の痛い言葉だ。
どこまでも、弱い俺の心を抉ってくる。
「……は……ぁっ、はあっ、とりあえず……逃げ切った……」
「……どうやらそのようだな、追手もいなさそうだし———っ?!」
「よくも……よくもまあ、そんな口聞けたもんっすね……っ!!」
「安心しろ、そこのカーオ……だとかいうヤツに食らわせた斬撃は峰打ちだ、あまり戦意もなさそうだったから、そこまで殺す気では撃ってない」
レイラは、その鬼気迫る表情を以てイデアの胸ぐらに掴みかかるが、イデアは一切平静を崩すことはない。
……と言っても、もはやそんな事で争っている場合ではないのだ。
「…………っ……」
「お前たちはどうする?……ここでオリュンポスから降り、この先の戦いには一切関与しないか、それとも———」
「……言われなくても、分かる……はず」
「そうか…………俺も、アイツの……お前らが言う『隊長』の眼差しを見せてもらった。……あの目は———確実に、今から死にに行く者の目だった」
「……だからこそ、私たちは———第3は、もう引くには引けないんすよ。……だから一刻も早く、ディルを見つけないと」
アルファポイントへの地下入り口から這い出た瞬間、俺たちの視界を襲ったのは———破壊活動の行われた、地上だった。
「……ゴルゴダ機関、トランスフィールド、カーネイジ、人界軍。……その全てが動き出した…………か」
「トランスフィールド……まさか、エターナルを阻止する為だけに……」
「当たり前だ、ゴルゴダ機関———この世界でも有数の化け物揃いの軍団。……こうでもしなければ、勝てはしないのさ」
———と。
ふと、目をやった廃墟の瓦礫の隅には。
「……ディル」
体育座りをして、うずくまったままのディルが、ただただそこにいた———。
「……ディル。…………ディル、聞こえてる?」
「……………………俺は、戦わない」
「は……??」
自らの足にさらに顔を埋め、その男———ディルは、そう発した。
その震えて掠れた声からは……おそらく恐怖や畏怖の感情が込められているかのような———そんな感情を感じ取る事ができた。
「……だから、俺は……戦わない」
「下で…………アルファポイントで、何が起こったか……知ってるんすか……?」
「……知らない、知らない。俺が知るわけないだろう」
「………………隊長が———」
「……っ!!」
レイラが言いかけた瞬間、ディルは何かを察したように固唾を飲み込む。
「でも……でも、だから何だって言うんだよ、それでも俺は戦わない」
「…………隊長が、何をしたか———いいや、何をしてくれたか、分かる……?」
「レイラがここにいるって事は、おそらく———」
「分かるのなら……何の為に隊長が死んだか、それが分かるってなら、何でディルは……戦おうとしないわけ……!」
「無理なんだ、俺には結局……何もできやしなかった。……ギルと———カーネイジのヤツらと会った時、俺は———逃げたんだ。……だから」
「だから、だから何?……だからディルは———この大事な局面にして、戦う事を諦めたってわけなの?!
…………なら、ならば、第3が結成された理由は何……私たちが今日まで頑張ってきた理由は何なの?!……隊長が繋いでくれたこの時間は、一体何だって言うの……っ!」
レイラは、壁にもたれかかったままのディルを、手で押してなんとか動かそうとするも、何をしようとも、ディルは項垂れるようにその場に倒れ込むだけであり。
何よりその姿から、本当に戦意が無い事が察せられる事こそが、レイラが怒っている原因だった。
「……死にたく、ないんだ」
必死になったレイラの吐息のみが木霊していた空間に、ようやく声が響き渡る。
「俺は……死にたく、ないんだ。死ぬのは、嫌、死ぬのは嫌なんだ、悪意を持って殺される事だけは……絶対に嫌なんだよ……っ!」
「そう、それは多分……真っ当な感情、だけど、ディルは……普通の人間じゃない。わたしたちは……ゴルゴダ機関、ヒトならざるモノの討伐の為選ばれた、特別な集団のはず。
……ねえ、そうでしょ、ディルだって……ゴルゴダ機関の一員のはずでしょ、なら何で……何でこんなところまで来て、日和ったりするんすか……!」
「だから何度も言ってるだろ……死にたく、ないんだよ……お前らは地上を見たか?!
……地上を見ろ、闊歩するは汎用人型機動兵器サイドツー、至る所にてゴルゴダ機関と人界軍やらその他諸々の軍の戦いが始まってやがる……
……だから俺は見ちまった、ヤツらの戦いを……見捨てちまった、ツバサとニトイを、だから俺は…………」
「…………隊長は、隊長は生きてって言ってくれた、私たちに生きてくれって、最後にそう命令した……だけど、じゃあ戦わない?……ここで戦う事を……『永遠』に抗う事をやめる?
……わたしは……許さないから。今まで……今までずっと逃げ続けてきた貴方が、そんな判断を下すなんて……絶対に許さないから……ここで何もしないのなら……わたしは貴方を……絶対に許さない……!」
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ずっと逃げ続けてきた。
耳の痛い言葉だ。
どこまでも、弱い俺の心を抉ってくる。
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