Wit:1/もしも願いが叶うなら〜No pain, no live〜

月影弧夜見(つきかげこよみ)

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断章Ⅱ〜最終兵器にアイの花を〜

崩壊領域

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「多重幻覚境界面……現実侵食、縮小開始……!」

 星々を映し出す宙さえも、足をつけた地でさえもその領域世界の前には、ただただ飲まれゆくのみ。

「……何、コレ」

 頭に血が昇っていた少女も、その異常事態には思わずその動きを止める。

「説明する必要はない。……貴様はここで、確実に葬らなければならなくなりそうだ…………っ?!」

 言いかけたところで、今までに味わったことのない……まるで「最悪」を体現したかのような存在が近寄ってくる……そんな悪寒が、俺の背骨を伝う。


「………………レイラ……は、カーオの応急処置。……任せた」

「イチゴ………たい……ちょう……」



 そうか、コイツは……唐突に現れたこの女が、この部隊の隊長……!
 そうだ、通りで嫌な予感がすると思ったわけだ……



 広がりつつあった魔術領域は、魔術領域維持の魔力の節約のために収縮してゆく、が。

 俺は未だに、目の前に立った、フードのもう1人の女に対する、畏怖の感情を拭いきれていなかった。
 ……と。

「……暑いから、……フードは脱がせてもらう…………」

 その女がフードを脱ぎ捨てた瞬間。



 既に俺の背後は取られていた。

 同時に、音を立ててヒビ割れ、完全に崩壊しゆく魔術領域。コイツ相手に、領域は通じないってことか……!

「……っ?!」

 すかさず刀を背後に回し、その極限の速さで繰り出された斬撃を受け止める。
 あまりにも早すぎた。あのアレンにも匹敵するほど。

 


 ……だが、『アレンに匹敵』する程度では、この俺は倒せない。

 一時後退し、女の武器を確認しておくと……使い捨ての十字剣……のようなものだった。

「…………ふ」

 刀を構え、棒立ちの状態から、腰も落とさずに戦う体制へと突入する。


 そして。
 ノーモーションの一閃。

 極限まで無駄な動きを省き、相手に全くの隙を見せず、いつ、どのタイミングで、そしてどこに攻撃するかすら見分けることのできない『完璧残刀』。

 確実に決まる技だった。……むしろ、今の俺の動きには寸分の狂いはなかったからこそ、この技が決まっていないとおかしい……のだが。


「……」

 女は、未だそこに立ち続けていた。

 その光景を半ば信じられない俺は、もう一度技の発動に踏み切る……が。

 吹き抜けた風と共に、女の血が飛び散る……はずだったが。

 
 完全に、避けられた。
 まるでその動きを読まれているかの如く。
 寸分の迷いもない動作で、女は俺の動きを避けてみせた。

 ……ならば。
 女は、最初の一撃以降攻めて来る気配がないため。

 その事実から予測される事象が、俺の中で先程中断された技の再開を可能にした。

『ホロウ・ミラーディメンジョン』

 避けられる? 何度やっても、まるで見切られているかのように?

 ……ならば、物量で押し通す。
 ヴォレイにも見せた、あの技のお披露目だ。

「奇跡ってものは、自分の手で起こしてみせるものだ……っ!!!!」

「…………魔術領域か……中々の、使い手だ……」


 収縮された現実と対照的に、どこまでも拡大した俺の『世界』の、俺の位置に全く並行になるように、その空中に複製された『銃』が並べられる。


 そう、描き出すは弾幕。

 避けられるのならば、避けさせなければいいじゃないかと考案した、最強の物理攻撃。


「……………流石にコレは……免れようのない……」

 ……だが、躊躇はしない。
 ここで確実に殺さなければと、速くなる一方の鼓動を秘めた胸が囁いている。


 弾幕が海嘯を描き出した瞬間、女の姿は既にそこから消えており。
 避ける事を諦めた女は、ようやく攻めに走った。

「……っ……!!」

 振りかざされた十字剣を刀で受け止める。……が、いかんせんどこか締まりがない。

 まるで、何か最悪の切り札を隠してる……かのような、どこか不完全燃焼気味のその攻撃を奇妙に思った瞬間。


 その空間自体に、亀裂が走る。
 ……まさか、まさかだが……いつの間にか……


 俺の魔力領域が上書きされていた…………??


 ……違う、コレは……上書きじゃない。
 俺の魔力領域が……その存在ごと……抹消されていっている……?

 ……だが、どうしてだ? 魔力切れ……ではない、ならば、この女の神技能力。

 それがこの領域崩壊の鍵、という訳か……!




********



 ゴルゴダ機関にて分かった、イチゴの能力……神技は、2つ。

 ……普通の人間ならば、神技を2つも持つことなどあるはずもない……のだが、私は特例だったらしい。

 1つは……先読み。
 神力を消費し、敵の行動を———を先読みできる能力。

 もう1つは……『崩壊領域』。

 神力制御装置となっているフードを脱ぐ事で、自動的に発生する領域。

 私の半径500mに存在するものは何であれ、確実に『崩壊』へと向かう、という能力。特に、神力や魔力で編まれた領域には、特攻とも呼べるものまで付いている。

 それに例外はない。ヒトの細胞も、大気中の魔素や神力も、機神の神核でさえも。

 例えなんであれ、私の周りにいたものは、時間経過にてその存在規模が収縮し、確実にその存在が『崩壊』する。

 存在の完全崩壊までは、僅か1時間しか要さない。逆に言えば、私の周りにいたものは、僅か1時間でその存在が抹消される、ということだ。


 この領域から出た直後に、対象の『崩壊』の進行度はリセットされる。だが、1時間継続してこの領域に入っていた場合は……消えるのだ。

 この男がこの領域に入っていた時間は……30分。


 もう少しで、その右手から徐々に崩れ去って行く。

 まるで浜に形作られた黄土の城のように、少し手を加えるだけで、全てが砂と化し崩れ落ちるような……そんな状態に。

 だからせめてそれまで、この場を保たせて……そして、あの化け物を……殺す。


 もとより、私にはそれしかできなかった。
 このいわくつきの力をどこで活用するか……?

 ここ以外、あり得るわけがない……!




********


「何が……起こって……いる、俺様の魔術領域が……世界を維持できなくなった……?」
「……」

「どこまでも時間稼ぎをする気か、ずっとそうして守ってばかりで……っ!!」

 イデアは再度詰め寄り、刀を2、3回振りきるが、やはりそれらは全て回避されている。

 ……なぜ。
 思い浮かんだのは、全て疑問だった。

 なぜ、魔術領域は崩壊した?
 なぜ、ヤツは攻めてこない?
 なぜ、攻撃は全て避けられる?
 なぜ、攻撃は全て、例外なく避けられ———例外、なく?




 違う。
 そこにはたった一つだけだが、それらの法則———とも呼べるようなものから外れた例外が存在した。
 

 それは、先程範囲攻撃を繰り出そうとイメージを巡らせた刹那。
 女は避けるどころか、おそらく———攻撃の中断を狙いとして、こちらへと詰め寄ってきた。

 ……ここまでの事実から割り出せる敵の特徴としては、

 ・刀などの近接攻撃は全て避けられる。
 ・範囲攻撃———広範囲に渡る攻撃には、攻撃の中断を主として反撃するしかない。
 ・攻めの姿勢を見せない。

 の、おおよそ3つ。
 ……考えろ、考えろ、イデア。

 考えを巡らせ、今の状況を鋭く鑑た時の『最適解』を導き出せ。
  


 ……そうだ、敵は攻めの姿勢を見せないんだ、

 なぜなのかは分からないが、敵が行っているのは間違いなくだ。


 そう、おそらく敵は、俺の刀の斬撃を全て回避できる。
 刀や刃物に対する概念的加護が敵に付与されているのか……? とも考えたが、それに関しては断定できる証拠などない。

 だが、不可解な現象が一つだけあった。

 それは、魔術領域展開時の敵の行動だ。


 敵の算段は、時間を稼いで、体力もしくは魔力切れから決着に持っていくこと———と、そう仮定したとしよう。

 ……ならば、なぜ敵はその攻撃ののか?

 別に、魔力及び神力が尽きないのなら、障壁を作って守るだけでよかったはずだ、魔術領域を作っているのだから、何もしなくてもこちらの魔力は減る一方であるというのに。

 なのに、なのになぜ、敵は魔術領域の維持ではなく、攻撃の中断を図ったのか……?



 ……攻撃の中断が為された後、魔術領域はひとりでに瓦解していった。
 俺の魔力切れ……でもない、ならばなぜ、魔術領域は瓦解したのか。


 ……いいや、敵が魔術領域の瓦解を知っていて、あの場でその場凌ぎの攻撃の中断を選んだのだとしたら……?


「やはり時間稼ぎだろうが……ただのソレじゃない事は……明白か……!!!!」
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