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断章Ⅱ〜最終兵器にアイの花を〜
存在覚醒
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*◇*◇*◇*◇
同時刻。
白たちの入った入り口は、昨日サナが指したオリュンポス北西側の入り口だが。
アテナの「神罰」のような一撃が降った瞬間。
それがイデアただ1人の、第二機動部隊の、突入の合図だった。
第二機動部隊の突入口は、白たちがいつも通っていたあの場所で。
であるからにして……3番隊……ディルたちと会うのも、もちろん必然だった。
……イチゴ隊長のみ、その場にはいなかったが。
「……おい、さっさとそこをどけ。でなければ……」
真っ先に口を開いたのは、既にディルの方角に腕を翳し、今にも魔力弾を発射せんと待機するイデアであった。
「殺すつもりか、俺たちのことを……!」
「どけと言っているんだ、聞こえなかったか……?」
「どどどどどうするっすか?! 勝てるわけないっすよあんな化け物に! 見てるだけでも神気の格が違いすぎるっす!!!!」
「でもあの男の子……とってもいい顔してるわよ……まるでツバサちゃんのような……」
「……………どうするも何もないだろ、隊長もニトイもツバサもいない今、俺たちにできることはたった1つだ……」
……と言いかけたところで、ディルの思考は停止する。
『……また、降伏するのか?』
『また投げ出すのか?』
『自分の、自分たちの命運を、他人に握らせるのか?』
そうだその通りだと、そのくだらない、臆病な思考を肯定する。
今までの自分はそうやって生きてきただろ、と。
そうやって、ニトイもツバサも犠牲にしただろ、と。
もはや今更戻れはしないだろ、と。
何度も、何度も。
自らの幼稚な頭が理解できるその時まで、自分自身に言い聞かせて。
「……ディルさん……ここで引くっすか……?」
緊迫し始めたディルの鼓動を元に戻したのは、レイラの口より放たれた一言だった。
「ここで引いて、何もかもを相手に委ねる……つもりっすか……?」
でも、それがディルの生き方で———、
「……もちろんわたしも……戦うわよ?……引いたところで助かるとも決まった訳じゃないんだから……」
「…………そうっすね、あっしもカーオに賛成っす。ここで引いたら、ツバサ君にだって……見せる顔がないっすからね……!」
「そうか…来るか。ならば………貴様らには死んでもらう」
瞬間、イデアの手のひらより高密度の魔弾が数十発、5秒もの時間をかけながら継続的に発射される。
爆煙に場が包まれた後、カーオとレイラは二手に分かれ、左右の方向からイデアを襲撃しようとする。
レイラは自慢のパイルバンカーを掲げ、カーオは自らの鍛え上げられた腕力を用いて。
……しかし。
「……やめておけ、これが最後のチャンスだ」
その攻撃は、全てイデアを覆ったドーム状の魔力障壁によって防がれていた。
そして、イデアは、その刀を一振り。
たった一振り、刀を左から横に振るだけで、イメージに対応した事象が文字通り巻き起こる。
風のような辻斬り。
今の斬撃こそが魔術なのかと、カーオが西大陸の技術に感心した時だった。
もう一発放たれた辻斬りが、カーオのその肉体を貫いた。
違った。
その辻斬りに呆気に取られていたレイラを、カーオが庇ってくれたのだ。
「……カーオ……何して……っ!」
「泣くのはやめて………ちょうだい、かわいい顔が……台無しよ」
********
もう一度俺は、刀を振ろうとする。
敵に同情はいらない。敵に情けはいらない。
例えどれだけ涙を流していたとしても、例えどれだけ悲痛な運命を嘆いていたとしても。
それでも、俺の前に立ったからには、それは敵であり。
俺が処理しなければならない障害だと、父からも教えられ、そうであるならと、決意を固めたその時。
俺は、なぜか……少しばかり、躊躇ってしまった。
かつての……センの姿に似ていたからだろうか、殺すのは……どこか、本能的に自身の身体がその行動を嫌がっていると、妙な違和感を覚えた直後だった。
「ん……っ!!」
「な……にっ……っ?!」
その時だった、最後まで抵抗した、杭打ち機を持った華奢な少女。
その少女が、今までにないほど殺意をたぎらせ、確実にこの俺の臓腑を抉らんと襲いかかってきたのだから。
だからこそ、この俺も刀をもってして、この神威のレプリカを持ってして相手を務めるべきだと、この少女を認めるかのような……不可解な心情に襲われた。
「……っ、お前、お前……はっ……!
再起するには、その言葉のみで十分だったっす……!
一度折れかけた心を、『私を踏み台にして』と押し出してくれた人がいたのだから……っ、
……その想いにかけても。
私はここで引くことなど、できるはずもないんすよっ!
お前は……あたしの、大事な人を……大事な人を……っ!!」
イデアには、既視感があった。
その力、誰かの犠牲によって成り立つ、その『火事場の馬鹿力』とも呼べる奇妙な力には。
……それは、センの『鬼血覚醒』もそうだった。
あの時センは、『自身』という境地に達し、通常では考えられない、常軌を逸した力を発揮していた。
……それが、今この少女に起こっているのだとしたら、と。
『存在覚醒』
自らの存在の真髄に達した者のみに起こる、境地の覚醒状態。
……魔術世界において、では、このような不可解な現象をこう呼称する。
……しかし、その覚醒のトリガーが、怒りや悲しみなどの感情なのだとしたら……?
それが、センにも起こったそれが存在覚醒なのだとしたら……?
「……この俺も、本気でやるべき時が来たと言うことか……!」
敵は何度も。
何度も、何度も、幾度となく俺の臓腑を抉り取ってやろうと、その杭打ち機を打ち付けにくる。
その威力は凄まじく、その一突きだけにも「殺す」との言葉が込められているかのようなものであった。
同時刻。
白たちの入った入り口は、昨日サナが指したオリュンポス北西側の入り口だが。
アテナの「神罰」のような一撃が降った瞬間。
それがイデアただ1人の、第二機動部隊の、突入の合図だった。
第二機動部隊の突入口は、白たちがいつも通っていたあの場所で。
であるからにして……3番隊……ディルたちと会うのも、もちろん必然だった。
……イチゴ隊長のみ、その場にはいなかったが。
「……おい、さっさとそこをどけ。でなければ……」
真っ先に口を開いたのは、既にディルの方角に腕を翳し、今にも魔力弾を発射せんと待機するイデアであった。
「殺すつもりか、俺たちのことを……!」
「どけと言っているんだ、聞こえなかったか……?」
「どどどどどうするっすか?! 勝てるわけないっすよあんな化け物に! 見てるだけでも神気の格が違いすぎるっす!!!!」
「でもあの男の子……とってもいい顔してるわよ……まるでツバサちゃんのような……」
「……………どうするも何もないだろ、隊長もニトイもツバサもいない今、俺たちにできることはたった1つだ……」
……と言いかけたところで、ディルの思考は停止する。
『……また、降伏するのか?』
『また投げ出すのか?』
『自分の、自分たちの命運を、他人に握らせるのか?』
そうだその通りだと、そのくだらない、臆病な思考を肯定する。
今までの自分はそうやって生きてきただろ、と。
そうやって、ニトイもツバサも犠牲にしただろ、と。
もはや今更戻れはしないだろ、と。
何度も、何度も。
自らの幼稚な頭が理解できるその時まで、自分自身に言い聞かせて。
「……ディルさん……ここで引くっすか……?」
緊迫し始めたディルの鼓動を元に戻したのは、レイラの口より放たれた一言だった。
「ここで引いて、何もかもを相手に委ねる……つもりっすか……?」
でも、それがディルの生き方で———、
「……もちろんわたしも……戦うわよ?……引いたところで助かるとも決まった訳じゃないんだから……」
「…………そうっすね、あっしもカーオに賛成っす。ここで引いたら、ツバサ君にだって……見せる顔がないっすからね……!」
「そうか…来るか。ならば………貴様らには死んでもらう」
瞬間、イデアの手のひらより高密度の魔弾が数十発、5秒もの時間をかけながら継続的に発射される。
爆煙に場が包まれた後、カーオとレイラは二手に分かれ、左右の方向からイデアを襲撃しようとする。
レイラは自慢のパイルバンカーを掲げ、カーオは自らの鍛え上げられた腕力を用いて。
……しかし。
「……やめておけ、これが最後のチャンスだ」
その攻撃は、全てイデアを覆ったドーム状の魔力障壁によって防がれていた。
そして、イデアは、その刀を一振り。
たった一振り、刀を左から横に振るだけで、イメージに対応した事象が文字通り巻き起こる。
風のような辻斬り。
今の斬撃こそが魔術なのかと、カーオが西大陸の技術に感心した時だった。
もう一発放たれた辻斬りが、カーオのその肉体を貫いた。
違った。
その辻斬りに呆気に取られていたレイラを、カーオが庇ってくれたのだ。
「……カーオ……何して……っ!」
「泣くのはやめて………ちょうだい、かわいい顔が……台無しよ」
********
もう一度俺は、刀を振ろうとする。
敵に同情はいらない。敵に情けはいらない。
例えどれだけ涙を流していたとしても、例えどれだけ悲痛な運命を嘆いていたとしても。
それでも、俺の前に立ったからには、それは敵であり。
俺が処理しなければならない障害だと、父からも教えられ、そうであるならと、決意を固めたその時。
俺は、なぜか……少しばかり、躊躇ってしまった。
かつての……センの姿に似ていたからだろうか、殺すのは……どこか、本能的に自身の身体がその行動を嫌がっていると、妙な違和感を覚えた直後だった。
「ん……っ!!」
「な……にっ……っ?!」
その時だった、最後まで抵抗した、杭打ち機を持った華奢な少女。
その少女が、今までにないほど殺意をたぎらせ、確実にこの俺の臓腑を抉らんと襲いかかってきたのだから。
だからこそ、この俺も刀をもってして、この神威のレプリカを持ってして相手を務めるべきだと、この少女を認めるかのような……不可解な心情に襲われた。
「……っ、お前、お前……はっ……!
再起するには、その言葉のみで十分だったっす……!
一度折れかけた心を、『私を踏み台にして』と押し出してくれた人がいたのだから……っ、
……その想いにかけても。
私はここで引くことなど、できるはずもないんすよっ!
お前は……あたしの、大事な人を……大事な人を……っ!!」
イデアには、既視感があった。
その力、誰かの犠牲によって成り立つ、その『火事場の馬鹿力』とも呼べる奇妙な力には。
……それは、センの『鬼血覚醒』もそうだった。
あの時センは、『自身』という境地に達し、通常では考えられない、常軌を逸した力を発揮していた。
……それが、今この少女に起こっているのだとしたら、と。
『存在覚醒』
自らの存在の真髄に達した者のみに起こる、境地の覚醒状態。
……魔術世界において、では、このような不可解な現象をこう呼称する。
……しかし、その覚醒のトリガーが、怒りや悲しみなどの感情なのだとしたら……?
それが、センにも起こったそれが存在覚醒なのだとしたら……?
「……この俺も、本気でやるべき時が来たと言うことか……!」
敵は何度も。
何度も、何度も、幾度となく俺の臓腑を抉り取ってやろうと、その杭打ち機を打ち付けにくる。
その威力は凄まじく、その一突きだけにも「殺す」との言葉が込められているかのようなものであった。
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