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断章Ⅱ〜最終兵器にアイの花を〜
追憶ノ回想〜アイのカタチ〜
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「……最近、ある男の子を育て始めたんです」
ある、月明かりが眩しい———夜更けのことだった。
「おとこ……のこ……?」
「ええ。その子にも言ったんですが、特に貴方にも言っておいた方がいいかな、と」
「何、を……?」
「……アテナ。貴方は、どんな世界が好きですか?」
「どんな……世界……?」
宗呪羅の質問は不可解だった。
どんな世界。
生まれてこのかた、ただただひたすら、大気圏で月使徒———天使を葬るだけの生活しか送っていなかった私にとって、そもそも自分自身が生きる「世界」など、考えたことがなかったのだ。
そこで、男は口を開いた。
「……私はね、もう誰も傷つくことのない、優しい世界を望んでいます。……アテナ、貴方は……どう思いますか?」
私の生活は、常に「死」に溢れていた。
ヒトの形を成した月使徒を、ただただ殺すだけの生活。
ひたすら戦って、誰の為かも分からないけど戦って、「お父様」の命令のまま戦って。
だからこそだろうか、少しばかり……それはいいなと、手を伸ばしてしまった。
「…………私、も、そんな世界……が、いい…………かも」
「そう言ってくれると思ってました。……貴方は、きっとあの子と……白郎と気が合う。そんな気がします」
白郎。
その名前には、聞き覚えはなかったが、妙な既視感が存在していた。
なぜか、理由は分からない。けれど、絶対に私は、その人に会わなくちゃいけない、と、聞いているだけでそんな焦燥感に駆られる名前だった。
———そして、この偽りの身体がトクンと跳ねる。
「…………平和って、素晴らしいんですよ」
男は微笑みながら、そう告げる。
「誰も、何不自由なく遊べて、楽しく暮らせて。もうそれだけで、その世界は素晴らしいと、そう言えるでしょう?
貴方の、常に殺戮に塗れた世界よりも、その世界の方が……よっぽど理想だと……私はそう思います」
「………………でも、そんな世界は、来ない」
アテナの発言だった。
それは、既に実証済みだった。
1000年前。大戦末期。
ある1人の少年が叶えた「願い」によって、その大戦は終わりを告げた。
その少年は、人間だった。
大戦時、ただただひたすら蹂躙されることしかされなかった人類の願いは———少年の願いはただ1つ、「恒久的な世界平和」しかないだろうと、私は仮定付けた。
……そこによほどの誤差が絡まないことには、人間の———人類たちの叶える願いはそれくらいしかない、とそう……考察した。
……だが現状はどうだ。先程の考察が正しいと仮定するのなら……それ以外考えられないのだが、その少年が「恒久的な世界平和」を願ったのなら、今の現状は?
西大陸では、魔王軍と人界軍が争い。
こちらの大陸では、トランスフィールドにて最悪の戦争が繰り広げられているこの現状は、「恒久的な世界平和」と言えるのだろうか?
結論::100%、言えはしないだろう。
ならばなぜ、世界平和は実現されていないのか?
それはきっと、万能の願望機『アースリアクター』にも、叶えられない願いがあった、という事だろう。
具体的に言うとすれば、「恒久的な世界平和」のような、あまりにもな抽象的な願い。
だからこそ私は、「そのような世界は来ない」と、そう告げた。
だがしかし、その男は諦めてはいなかったのだ。
「…………来ないことはありません。全ての生命体が、全てを愛せば、それで全ては救われます」
「…………あ、い……?」
愛? アイ? あい?
愛、とは。
その問いが、回路を駆け巡る。
「……愛、を知りませんでしたか。愛というのは、人間の一種の感情です」
「感情……」
「愛は、一言で表すのなら、誰かを慈しむ、誰かを親しむ、または誰かを慕う心です」
「………ひとこと、じゃない」
「……突っ込まないでください…………愛は、さまざまな形を取ります。愛す、愛される…目上の人や……立場上は下の人……はたまた、同じ立場の人を愛することだって」
「…………それは、アテナ、も、感じとれる……?」
「ええ。感じれます。感情が、心があるのなら、きっと貴方にも、愛しあえる人ができるはずです」
「アイ……は、有限?」
「…………有限……でもありますし、そうであると言えば無限でもあります。愛そうと思えば、人はどこまででも他人を愛せます」
「…………アテナ、は、ほとんど、無限。だけど、人は……人の、命は……有限……それは、無限と言える……?」
「愛が無限かどうかは、時間が決めることではありません。それは……想いが決めることです。
どれだけ、その人の……運命の人のことを思えるか。それが愛の本質です。そこに行為など関係ない、距離も、時間も、全く意味を成しません」
「運命の……人……?」
「…………ええ。……アテナ、自分が大事だと、自分にとっての運命の人を見つけたのなら、その人を無限に愛しなさい。
世界は愛から生まれたように、世界は愛で平和になる、最終的に全てが『愛』に帰結するはずです。
……きっと、貴方の愛が、世界の平和に繋がるはず、……だから、運命の人が現れるその時まで、その気持ちは心の奥底でとっておいてください」
「運命の人、は、宗呪羅じゃ……ダメ……?」
「……ええ。私は既に、この世界を呪いました。
だから、私が愛を享受することは……許されません。だからせめて、愛を与えることに…………私は精一杯なんです。
……それは貴女にも、ゴルゴダ機関の皆さんにもそうですが、あの子———白郎に対してもそうしてるのです」
「だったら……とっておく。この気持ちは、胸が熱いこの気持ちは、きっと……アイだから、私はこれを……」
「……違います。その気持ちは……きっと、恋にもなりえます。ですが、恋も今はとっておいてください。
恋も、実がなれば愛へと変わります。だからそれも、運命の人が現れるまで、楽しみにとっておいてください」
ある、月明かりが眩しい———夜更けのことだった。
「おとこ……のこ……?」
「ええ。その子にも言ったんですが、特に貴方にも言っておいた方がいいかな、と」
「何、を……?」
「……アテナ。貴方は、どんな世界が好きですか?」
「どんな……世界……?」
宗呪羅の質問は不可解だった。
どんな世界。
生まれてこのかた、ただただひたすら、大気圏で月使徒———天使を葬るだけの生活しか送っていなかった私にとって、そもそも自分自身が生きる「世界」など、考えたことがなかったのだ。
そこで、男は口を開いた。
「……私はね、もう誰も傷つくことのない、優しい世界を望んでいます。……アテナ、貴方は……どう思いますか?」
私の生活は、常に「死」に溢れていた。
ヒトの形を成した月使徒を、ただただ殺すだけの生活。
ひたすら戦って、誰の為かも分からないけど戦って、「お父様」の命令のまま戦って。
だからこそだろうか、少しばかり……それはいいなと、手を伸ばしてしまった。
「…………私、も、そんな世界……が、いい…………かも」
「そう言ってくれると思ってました。……貴方は、きっとあの子と……白郎と気が合う。そんな気がします」
白郎。
その名前には、聞き覚えはなかったが、妙な既視感が存在していた。
なぜか、理由は分からない。けれど、絶対に私は、その人に会わなくちゃいけない、と、聞いているだけでそんな焦燥感に駆られる名前だった。
———そして、この偽りの身体がトクンと跳ねる。
「…………平和って、素晴らしいんですよ」
男は微笑みながら、そう告げる。
「誰も、何不自由なく遊べて、楽しく暮らせて。もうそれだけで、その世界は素晴らしいと、そう言えるでしょう?
貴方の、常に殺戮に塗れた世界よりも、その世界の方が……よっぽど理想だと……私はそう思います」
「………………でも、そんな世界は、来ない」
アテナの発言だった。
それは、既に実証済みだった。
1000年前。大戦末期。
ある1人の少年が叶えた「願い」によって、その大戦は終わりを告げた。
その少年は、人間だった。
大戦時、ただただひたすら蹂躙されることしかされなかった人類の願いは———少年の願いはただ1つ、「恒久的な世界平和」しかないだろうと、私は仮定付けた。
……そこによほどの誤差が絡まないことには、人間の———人類たちの叶える願いはそれくらいしかない、とそう……考察した。
……だが現状はどうだ。先程の考察が正しいと仮定するのなら……それ以外考えられないのだが、その少年が「恒久的な世界平和」を願ったのなら、今の現状は?
西大陸では、魔王軍と人界軍が争い。
こちらの大陸では、トランスフィールドにて最悪の戦争が繰り広げられているこの現状は、「恒久的な世界平和」と言えるのだろうか?
結論::100%、言えはしないだろう。
ならばなぜ、世界平和は実現されていないのか?
それはきっと、万能の願望機『アースリアクター』にも、叶えられない願いがあった、という事だろう。
具体的に言うとすれば、「恒久的な世界平和」のような、あまりにもな抽象的な願い。
だからこそ私は、「そのような世界は来ない」と、そう告げた。
だがしかし、その男は諦めてはいなかったのだ。
「…………来ないことはありません。全ての生命体が、全てを愛せば、それで全ては救われます」
「…………あ、い……?」
愛? アイ? あい?
愛、とは。
その問いが、回路を駆け巡る。
「……愛、を知りませんでしたか。愛というのは、人間の一種の感情です」
「感情……」
「愛は、一言で表すのなら、誰かを慈しむ、誰かを親しむ、または誰かを慕う心です」
「………ひとこと、じゃない」
「……突っ込まないでください…………愛は、さまざまな形を取ります。愛す、愛される…目上の人や……立場上は下の人……はたまた、同じ立場の人を愛することだって」
「…………それは、アテナ、も、感じとれる……?」
「ええ。感じれます。感情が、心があるのなら、きっと貴方にも、愛しあえる人ができるはずです」
「アイ……は、有限?」
「…………有限……でもありますし、そうであると言えば無限でもあります。愛そうと思えば、人はどこまででも他人を愛せます」
「…………アテナ、は、ほとんど、無限。だけど、人は……人の、命は……有限……それは、無限と言える……?」
「愛が無限かどうかは、時間が決めることではありません。それは……想いが決めることです。
どれだけ、その人の……運命の人のことを思えるか。それが愛の本質です。そこに行為など関係ない、距離も、時間も、全く意味を成しません」
「運命の……人……?」
「…………ええ。……アテナ、自分が大事だと、自分にとっての運命の人を見つけたのなら、その人を無限に愛しなさい。
世界は愛から生まれたように、世界は愛で平和になる、最終的に全てが『愛』に帰結するはずです。
……きっと、貴方の愛が、世界の平和に繋がるはず、……だから、運命の人が現れるその時まで、その気持ちは心の奥底でとっておいてください」
「運命の人、は、宗呪羅じゃ……ダメ……?」
「……ええ。私は既に、この世界を呪いました。
だから、私が愛を享受することは……許されません。だからせめて、愛を与えることに…………私は精一杯なんです。
……それは貴女にも、ゴルゴダ機関の皆さんにもそうですが、あの子———白郎に対してもそうしてるのです」
「だったら……とっておく。この気持ちは、胸が熱いこの気持ちは、きっと……アイだから、私はこれを……」
「……違います。その気持ちは……きっと、恋にもなりえます。ですが、恋も今はとっておいてください。
恋も、実がなれば愛へと変わります。だからそれも、運命の人が現れるまで、楽しみにとっておいてください」
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