Wit:1/もしも願いが叶うなら〜No pain, no live〜

月影弧夜見(つきかげこよみ)

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断章Ⅱ〜最終兵器にアイの花を〜

第3番隊

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◆◆◆◆◆◆◆◆

「ん? 鍵空いてんじゃねーか、ツバサ、ほら行くぞーっ!」


 ……はい?
 ドアの奥から、絶えることのない光が差し込んでくる。


 ———が、そこにいたのは……間違いなく昨日の男だった。

 ……名前を知ってるのは昨日教えたからだが、何でそんな易々と呼べるんだよ…………って、あ。


「なあ、そこのかわいい子……誰だ?」
「…………うぃ?」

「ニトイーーーーーっ!!」




 早速バレました。



「って待てよ、まだ朝6時じゃねえか! 出勤時間は8時じゃなかったのかよ! しかも俺の家なんて教えてないだろ?!」

「いやー昨日さ、お前が家帰った頃着いていっちゃってさー」



「バカやろう気持ち悪いだろ、ストーカーじゃねえか!!」

「……あー、あと1つ言いたいことがあるんだが……そこのかわいい女の子……めちゃくちゃ弱ってんぞ」

「はい??」




 ……と、その男も一緒に上がり込んで話をすることにしたんだが……

「なあ、ニトイ、お前どこか体調悪いのか?」
「ニトイ、正常。いへん、なし……!」
「だってよ、なあ、何で弱ってるだなんて嘘ついたんだ?」



「神力反応が弱いから、だな」


 神力……ヒトの身体にて作られる、生活する為には欠かせないエネルギーだ。

 ……俺にはヒトの神力を測る、だなんて芸当はできやしないが、どうやらこの男によれば、ニトイの神力はめちゃくちゃ弱ってるらしい。



「なんたって、常人の4分の1しか神気がない。まるで身体の一部が機械でできてるみたいだ」

「ニトイ……だいじょう……ぶっ……!」

「お、おう? ならいいんだが……

 んでツバサ、俺の用件なんだが———」

「ああ、早く来たってことは何か用件があるってことか、にしても早過ぎじゃね?」

「……………………あー、俺の名前を伝えに来た!」






 はい?
 それだけ?
 用件って、それだけ?

「俺の名前はディル! ディル・アインガだ、よろしく!」

「ああ、よろしく……それだけ?」

「それと、お前の上の名前も聞きに来たんだ、名前的に日ノ國出身だろ?」




「日ノ……國……?……う……っ……ああっ……」


 日ノ國。
 どうしても、どこか聞き覚えのあるフレーズだった。

「ど、どうしたツバサ? どっか具合でも悪……」




雪斬せつぎ

 発言したのは、俺でもディルでもなく、

「……ああ、そうだ、俺の名前は……雪斬ツバサ……だったな、そうだ」



「なあ、それ仮名だろ? よりにもよってかつてのなんて、縁起でもないからやめた方がいいぜ?」

……?」

「そう、日ノ國最強の人斬り、雪斬。まさか知らないのかよ? 刀なんて物騒なもん持っといてか?」


「……ああ、俺には……その記憶がない。その……日ノ國の記憶が」


「……そっか、だったら仕方ないわな、さ、行こうぜ! 帝都中心部へ!」
「切り替え早いな……」
「はやいなー」



◇◇◇◇◇◇◇◇


「で、なんでニトイも着いてきてるんだよ」
「いいじゃねえか、人は多い方がいいだろ? 人は、な」
「ニトイも……ついてく、アイしてー」

「なんだよ、コイツお前にメロメロじゃねえか! おい、何なんだよ愛してってよ! 馴れ初めの距離感も分からないカップルか?!」

「はいはい、愛します愛しますよ~だ。

 ……おい、コイツとの関係とか聞くなよ、色々ややこしくなるから。俺にも分からないんだよ、コイツが一体何なのか」





◇◇◇◇◇◇◇◇


 そして着いたのが、窮屈な地下施設。
 一見、つたが生えていて、廃れた地下鉄……と思しきものがその入り口だった。

「なあ、ここ、どこなんだ?」

 その地下施設の、暗がりの一本道を何分か歩いていった先に、その目的地は存在した。
 錆きった鉄の赤き扉。

 しかし、この扉を開けた後には。




 先程までの通路とは似ても似つかぬ、綺麗に掃除された鉄の通路と、飛び込んできた照明の明かり。

「あ、おはようございます、ディルさん。ところで、そのお二人方は……?」

 そして、これでもかと言うほどの母性を放つ、シスターらしき服を着た赤髪のお姉さんが立っていた。

「あ、こんにちは……俺、ツバサって言います、そしてこっちがニトイです、今日から……なんだかんだあってゴルゴダ機関に入ることになりました……」

「そーいうことだ、シスター・カレン。俺が許可したんだからいいだろ?」

 カレンさん。それがこの人の名前らしい。

「ええ、正式に手続きを済ませるというのなら、奥の方にてお願いします。……して、今日はやたら…………早いですね?」



「ああ、まあな、コイツの戦闘スキルを見せたくてな」

 ……何気ない会話だったためか、そのような不自然なタイミングで終わってしまったが。






「……なあ、カレンはどうだったよ? めちゃくちゃ美人だったろう?」

「あ、ああ、あそこまで満遍なく美人だと、どうも好きになる事自体がおこがましいくらいには……」



「ニトイ、も……びじん……っ!」
「はいはい、お前はかわいいよ」

 ……なぜニトイが対抗心を燃やしていたかについては、俺も全くもってわからないのだが。




 そして、なんだかんだで受付をすることになった。



「……ほい、こいつが書類だ、これにサインすれば、お前はゴルゴダ機関の掟を守ってもらう事になる」

「掟……?」

「この本の最初の部分だな、教典、聖書……だか言うらしいが、俺にはさっぱり分からん。『新約部』とされる『一つ~』だかって書かれてるとこだけ読めばいい」



『一つ、他人を愛せよ。世界は愛より始まった。

 二つ、主神███、全能神ゼウスを崇めよ。

 三つ、全能神ゼウス、及び他の機神の命令は絶対である。

 四つ、我らはヒトならざるものを鎮魂する部隊である。故に、無辜の民に武力を振るうことは許されない。

 五つ、我らが目指すものは「何人も傷付かぬ世界」である。




 主が言われる。汝愛を捨てるな。汝らの既に捨て去ったその行為がどれほどに愚かなものであるかを知れ。


 我らゴルゴダ機関、我らは神の代理人、神罰の地上執行者。
 その武は主の為に。その意志は主の意向に沿りて。
 我らの使命、宿命はただ一つ。
 神の移行に背く愚者どもを、その肉塊を、その身体諸共、一片たりとも残さず殲滅する事。
 天罰のありきところに我ら信徒はありき。

 原罪に穢れた生命をとこしえに映し出す、罪と罰の現世に我ら信徒はありき~~~~~~~~』




 ……その後も、その本は延々と続いていた。

「……なんか、ところどころ分かんねえ……変な掟だな……おい、まさかここって、宗教的な組織だったりするのか?」

「当たり前だろ、完璧に宗教だよ。……まあ、崇める対象である主神のゼウスが、実際に顕現してるのはおかしいけど。

 ……ああでも、巡礼とかしなくていいからな? 『新約』の守るべき掟はそんな堅苦しいもんじゃない」




「じゅんれー、ニトイ、したい……!」

 目をキラキラと輝かせて、なぜだか分からないがニトイはそう口にした。

「おう、聖地はあるから、巡礼したいならするといい、ところで、ニトイ……ちゃんは所属しないんだよな?」
「ああ、ニトイは戦闘なんておそらく……できやしないからな」


「それじゃあサインしたら、それをカレンさんに出しに行ってくれ、お前の場合、テキトーな部隊に区分けされるだろうからな、場合によっちゃここで俺ともお別れだ」

「ああ、じゃあなディル」




◇◇◇◇◇◇◇◇

「はいコレ、お願いします」

 ……ということで、加入書的なものをカレンさんに出しに行く。

「はい! 雪斬ツバサさん……ですね、日ノ國出身……でしょうか、珍しいですね、雪斬だなんて苗字」

 カレンさんのその反応を聞いた時、どことなく既視感がしたような気がしたが、そんなこと気にも留めず話を進める。





「……まあ、誰に付けてもらったかは覚えてないですけどね……」

「……それじゃあ……3番隊に所属してもらいますが、よろしいですか?」


「ああ、はい、…………で、俺はどうすれば……」
「とりあえず実戦ですね」



 ……はい………??
 実戦……って、あのロスト……とかいう液体を倒すってことか?!


「最近、ここ1年くらい、ロストの出現率が異様に高くなっているんですよ、それで被害に遭われて命を落とされる方も多くいらっしゃって……

 ゴルゴダ機関も人手不足、貴方のような人材が入ってくるのはありがたいですが、どうしても手が回らないが故に、最初から実戦をお願いしています」



「マジですか……どこに行けばいいですかね?」
「あちらの方に……」


 そう言ってカレンさんが指差したのは、3と書かれた札が吊るされている、教室くらいの大きさの部屋だった。

「あの部屋にて、8時まで待っておいてください。

 8時より勤務開始、その隊ごとに浄化したロストに応じて報酬金が支払われます。

 で、でも……くれぐれも、無理はなさらずに……!」

「分かりました、ありがとうございます。ほら行くぞニトイ、あっちが控え……」

「そのお嬢さん、こちらで預かっておきましょうか? 所属もしないようですし、だからってここまで来させないわけにもいかない様子でしょうし」

「……あ、ならお願いします、こいつを戦闘には……巻き込みたくないので」

「やだー、ツバサと一緒にいるー」

「こっちですよ~、ふふ、かわいいですね」


 何も聞かずに気遣いができる美人って、とても素敵だなと思う今日この頃だった。
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