Wit:1/もしも願いが叶うなら〜No pain, no live〜

月影弧夜見(つきかげこよみ)

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断章Ⅰ〜アローサル:ラークシャサ・ラージャー〜

アウェイキング

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「………たかが人間の分際で、この僕に勝てると思ったのか?……いいや、もはや、人でなしか」


 何度再生しようと、怒り狂ったセンの餌食にされるだけであり、その行動は全て虚しく終わる。


 ……だが。



「…………ふふふはははははは、お前の……負けだぁ……コイツがどうなっても……いいのか?」


 未だに原型を留めていない、その肉塊が包み込んでいるのは、今なお起きぬ———イデアだった。


「……何をする気だ、そんなもので僕は殺せない」

「貴様を殺す事が目的ではない、貴様の大事なものを、壊すのが、目的だともぉ……っ!」

 ヴォレイは卑しくにやけ笑う。
 その肉塊だけの、人の肉体なぞ留めていない状態で、イデアの亡骸を包みながら。


「はっ、キサマ、本当に……」
「さらばだ……!!」



 包み込まれたイデアの身体から、赤い血が滴り落ちる。

 それは即ち、イデアの身体に危害が加えられた、という事だった。
 ……それは即ち。








 完全……新生。
「素晴らしい、とても清々しいぃ……気分だとも、センよ」



 包み込んでいたその肉塊は、イデアの身体に吸い込まれるようにして消え去り。



「今は最高の気分さぁ……身体の性能はっ………前の、本来の身体よりも悪い、か……だがまあ、許容範囲だろう……!」

「あ、あ…………あ……!」


「貴様の大事な人はどうだ、貴様の、身勝手で、軽率で、自己満足でしかない無駄な行動によって、今、この場で……殺されたぁ……!」
「あ……あああっ……!!」


「そしてこの身体はぁ……が有効に活用してやろう……!」


 強力の悪魔、再臨———。


 イデアの姿をした……


 ……悪魔だった。





「どう、すればいいんだ、どうすれば、白さんも、みんな起きやしない……!」

「どうした? この私を殺せば、このイデアも死ぬぅ、それが怖いか! ははははははは!!」


********


 暴風が吹き荒れる。
 雷が轟き鳴り響く。

 絶望的な状況を表すかの如く、天候は次第に悪くなる。

「……いくらか私も、知的になったな……力任せにしか戦っていないように見えて、コイツも実は頭を使っていたか……!」

「……返せ、その身体を……!」


「ふははははは、断る! 断じて断る、そして貴様らを、一匹残さず嬲り殺すっ!」 


 瞬間、敵から無数の魔弾が放たれる。
 ……が、失意に呑まれ、立ち尽くすセンに止められるはずもなく。

「死ぬがいい……敗者には死、あるのみだぁっ!」



 あれだけ高まった魔力が、何事もなかったかのように落ちてゆく。
 昂った意識も徐々に萎え落ちてゆく。



 ……僕は、僕はどうすればいい……?

 イデアさんを、殺すのか……僕が……?

 でも、そうしなきゃ、みんなが死ぬ……
 白さんも、サナさんも、王都のみんなも、そしてコックも、全員……


 でも、殺さなきゃいけないのか、イデアさんを……



 僕をあんなに気にかけてくれたイデアさんを、僕が。



「……イデアさん……僕、どうすれば……?」


「もっともっと、この私を楽しませておくれよぉ……」
「……!!」


 足が動かない。
 ……どうしてだ、いくらイデアさんの身体を使おうと、僕にとってアイツを殺すことは造作もないはずだ。

「足が……動かない、か……くだらんっ!」

 その手がこちらへとかざされ、掌から魔弾が数発発射される。


 ……もちろん、覚醒した僕にとっては虫に噛まれた、くらいの痛さでしかなかった。……が。



「…………まさか、自分にとっての大切な人を殺す、だなどと、そんなくだらん理由で足がすくむとは———つまらんヤツだなぁ、貴様は!」


「…………あ……う……」



「無駄だったなあ……仲間の死も、大切なの死も……!

 ……結局キサマは、全てを無駄にした、ということだよ……! ふふふははははははは……!」 



「無駄、だった、のか、全部……!」

「さて、お遊びはここまで……この一撃で終わりだぁ……いくら貴様とはいえ、人間の身体……この『真空砲空撃』には耐えられまい……貴様も、貴様の仲間もみんな、みぃんな死ぬぅ!」

「僕は……僕はどうすれば……」


 吹き荒れる風が、一気にあちらに集まってゆく。
 砂埃が舞い、服も髪も逆立つ。
 そして……鳥肌も。


 もう、眠ってしまいたかった。
 折角のチャンスも、棒に振った。
 こんなもの、全て夢だと、白さんなんて、イデアさんなんて、全部夢だったと、切り捨てて、この場から全てを投げ出して逃げてしまいたかった。


『大切なの死』

 確かに、ヴォレイはそう言った。
 イデアさんにとって、僕は弟子……だった……?



 ……そんな中で、声を聞いた。


「自分を信じろ、自分の力を信じろ」






 ……そうだ、導き出すは最適解。
 逃げちゃ、ダメだ。
 投げ出しちゃ、ダメだ。
 責任は取るべきだ、この僕が……




「吹き飛べええええええっ!!」

 前に押し出された腕より放たれる圧倒的な風の刃。
 迫り来る衝撃波。
 音速を超え、超スピードで迫り来る。


「そうだ、信じてみるべきだ、自分の力を……!」

 瞬間、身体から光が放たれる。

「イデアさんが言ってたじゃないか———絶対に、許すなと!」



 自然と、力が湧き上がってくるような、勇気をもらえるような、憧れていた人のような、そんな暖かさがあった。

 浮かんだ涙が上に押し上げられる。

 ……まるで、僕が見るべき場所、つまり上を指しているように。
「そうだ……もう一度、もう一度だって、奇跡は起こるはずだ……!」





 ……後ろから、聞き覚えのある、あの人の声が———したような、そんな気がして。




 そうだ、出し尽くす。
 守ってみせる、みんな……!
 失ったものは戻ってはこない。だけど、今からだって、みんなは守れるだろう……!!

「はああああああっ!!」

 光の魔力障壁を身に纏う。
 黄金の光が、身体を包み込む。
 圧倒的な、絶対的な、絶望的なその衝撃波、風の壁に立ち向かう。

 ゆっくりと、そして確実に歩み出し、衝撃波を押し退ける。

「立ち直った……押されている、この私が……?」

「……負けない、絶対に……!」

「ようやく楽しめるようになってきたじゃないか!!」

「ぐ……ぐっう……諦めない、絶対に……!」


 そうだ、今思えば、圧倒的な力で叩きのめすなんて、僕らしくない。


 こうして、こうやって、泥臭く、どこまでも諦めず、何をしてでも絶対に勝ってみせる方が……僕らしくて、一番カッコよくて、一番の理想じゃないか……!!


「ふははははは、力が落ちているぞ!!
 やはり貴様には無理なんだ、どうあがいたって、この私に勝つのは———どだい無理な話だったんだよ、はははははっ!!!!」

「ちく……しょう、何で、押し切れないんだ……!」


「残念だったなあっ! やはり貴様には情が残っている! 終わりだ、そして私の、勝ちだぁ…………っ!!」



 地を抉りながら、接地した足が後退してゆく。
 両腕でその空気の断裂層をも抑えるが、それでもなお後退は止まらず。


 着実に。一歩一歩。後ろへと。
 血管がちぎれる感覚。

 限界など、とうの昔に超えている……はずなのに、どうして……!






『…………セン』
「は……はい……」

 ———イデアさん?

のことなど、気にするな……今のお前の全てを、今のお前の力を、ヤツに見せつけてやれ……!!』

「……でも、僕にはもう、何も……」




「ふははははは! 怖気付いたか、戦いの間際に独り言とは、観念して命乞いでもし始めたか……センよ!」






「僕には、もう、何も残ってません。結局、僕には何もできなかった……ヤツにも勝てない……みんな、みんな死ぬ……僕は、僕は……!」


『……俺は、弱音が聞きたくて来たと思うか?』

「それは……っ、でも、僕はもう……!」


『……ならば俺が保証してやろう。今のお前なら、確実にヤツを倒せる。見せてくれ、お前の力を。そして、運命を変えろ、お前の力で……!』





 今の会話は———全てただの妄想だろう、と一蹴する。

 それでも、ただの妄想でも、あの人に背中を押されていると、そう思えるのなら……!!

 ———あの人は僕に丸投げしたんじゃない、僕、僕にのだから———!






 駆け出す。
 この、今にも押しつぶされそうな重圧の中、それでもなおと、一歩一歩、着実に足を進める。



「……何、押されて……いる……だと?

 ええいっ、無駄だ無駄だ無駄だ、この私に勝つ事などできん! 絶対に!!」


「…………違う!」
「んおっ……?!」



「僕は……勝ってみせる! みんなを守るために……!!」


 
 もう、弱音は吐かない。
 何が起きても、何をされても、僕は僕のもてる最善を、最高を尽くす———ただただそれだけだ……!!!!

 大丈夫、僕の後ろには———みんなと、そして……イデアさんがついてくれているんだ。




 ……だからこそ今の僕は、負ける気が———しないっ!!!!


「そんな……馬鹿な……そんな馬鹿なああああっ!
 私が、私が負けるはずがないんだ、貴様にはまだくだらん情が残っている、全力なぞ出せるはずが、この身体を攻撃できるはずが、そんな馬鹿なことがあるはずが……!!!!」

「あああああああああああっ!!」


 僕だって、負けるわけにはいかない……
 だからこそ……!
 一瞬の輝きに、全てをかける!!!!






「僕は負けない、絶対に———!!!!」




 走り抜けた。

 走って、走って、まるで誰かを追い越すように、負けない為に走った。

 そして、その拳で貫いた。その身体を。その球体を。
 全てを賭した一撃は、今この時をもって勝利を確定させた。



『魔力障壁、破損。セン選手、脱落です』
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