Wit:1/もしも願いが叶うなら〜No pain, no live〜

月影弧夜見(つきかげこよみ)

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激震!勇魔最終戦争…!

終末の針

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「兄さん、それは一体……!」
「私も感じた。来るわ、もう1基。おそらくここに」





 もちろんその予感は、センたちも感じ取っていた。

********

「じいちゃん、これって……」

「言われんくても分かっとる。しかし、王都が沈んだともなれば……」

「打つ手無し、ですね……」


「……いいや、サンさん。まだあります、とっておきの概念武装が。白さんたちには届ける事なく、説明もし損ねたこれですが、今から使うとしたら、この誰かが……」

 僕が右手に持っていた黒のバッグからは、何か形容し難い質の魔力が流れ出していた。





 ———それは、僕とじいちゃんの家に伝わる概念武装、アンチバレル。
 打つ手無しと言われたこの状況を、巻き返す一手。



「しかし……概念弾は残り2つ……できるのか?」

 しかし、その弾数はたったの2つ。
 その2つのうちどれかを、確実に、あの魔槍に当てなければならない。


 ……無論、僕には無理だ。ここは若いし実践経験もあるとか言ってたサンさんがや———、


「お前が行け、セン」

「じいちゃん……? 僕には無理だ、僕にそんなの……できるわけ……」

「えっと……私がしましょうか? その方が……」



 割って入ったサンの説得をものともせず、スザクは未だにセンを推す。
「セン。お前は、勇者になりたかったんだろう? 世界を救ってみせる、勇者に」


「だけど、……僕には、こんなの……」
「もちろん、わしとしてはサンに頼みたい。じゃがな、やってみる気はないか。本当にないのか、世界を救いたくは」


「今更僕に、責任を押し付けられたって……!」

「勝っても負けても、これが最後だ。負けたとて、お前の責任を責める奴はおらん。どうじゃ。やってみるか、一世一代の大博打」









「…………分かったよ、じいちゃん。表に出よう。射角調整はお願い」

 浮かび上がった王都の地面の形は、横から見たら扇型に見えるような不安定な形であった。
 それゆえに、地に落ち傾いたその地面こそが、最後の希望を生み出した。








「悔しいけど、私にもどうしようもない。この状況を覆せる概念武装でもない限りは、どうしても……」

「……終わりか。ここまで来て、ここまで来といて、それはないだろう、神様……?」


 白もサナも、誰もが。
 皆が完全に諦め切った時。
 最後の希望。







 黒のバッグは展開し、ひとりでに狙撃銃の形を成す。


 赤黒い砲身が、その姿を現す。
 僕はただ1人、その『戦場』に立つ。

「アンチバレル、展開起動。射角調整……大丈夫、ありがとうじいちゃん」


 ほぼ真上に位置する魔槍を撃ち抜くことになるのは、直径5メートルの狙撃銃。

「僕の魔力……全部、持ってけ……!」

 神経や肺なども、一時的な魔力回路及び器官として置換する。



 何がなんでも、この体がぶっ壊れてでも、ここで撃ち落とす……!
 感覚を研ぎ澄ます。
 魔力の流動によって擦り切れそうな神経を研ぎ澄ます。
 眼前が赤く染まり、目より赤い液体が零れ落ちる。

 気にしない。
 今僕が集中するべきなのは、目の前の魔槍のみ……!
 落ちてくる前に、今ここで、撃ち落とす!



 舞い上がる虹の閃光。
 人類が報いた一矢は、最後の光の矢は———。



「反応が、起こらない……外し……た……??」

 1発目は、確かに放たれた。
 砲身が音を鳴らす。
 僕はこんなの知らない。

「……いや、でも僕は、ちゃんと狙って……!」

 周りから失意の目を向けられる。
 僕はこんなの知らない。

「でも、でも……僕は、できることをやって……!それで、それで……!」

 高揚し熱くなる体とは裏腹に、冷たい視線が突き刺さる。

 僕はこんなの知らない。

「やっぱり、ダメだった……僕には……ダメだった……僕は……!」


 残り2分。


「セン、諦めるか? チャンスは残っているぞ?」

 後ろから響いたのはじいちゃんの声。
 僕はこんなの知らない。

「装填は完了した。撃鉄は、既に落ちたぞ。お前は、どうする、それでいいのか? それが、自分の夢見た姿か?」

 僕は、こんなの……

「いつもお前が、寝る前に話したあの話はどこへ行った? わしがしつこいと一蹴した、あの希望の話はどこへ行った?」


 こんなの……知らない……!

「お前が話した『白』の話は、どこへ行った? お前が目指した、憧れた勇者はどこへ消えた? お前は、勇者じゃなくて、いいのか、他の誰かに任せるか? それとも……」


 残り1分30秒。


 違った。
 僕はこんなの知らない。
 僕に向けられていた視線は、失意や失望からくるものじゃなかった。


 皆は、僕に、最後の一筋の希望を見つめる目でいた。
 こんな僕だからとか、関係ない。
 ただただ、目の前の希望を、一心に信じる目だった。
 奥で見ていた白さんも、そうだった。

 ……いや、イデアさんだけは……まるで勝ち誇った表情で。

 僕は……僕は……

「そうだ、僕は、勇者だ…!」

 希望を、期待を一身に背負う。
 ここで負けたらおしまいだ。
 みんなの想いは僕が継ぐ。
 ここで終わらせはしない。
 白さんが、サナさんが、イデアさんが、コックさんが、みんなが繋いだ世界を、ここで終わらせるわけには、いかない!



 守り通してみせる。
『誰が何と言おうと、漢には、必ずやらなくちゃならない時があるんだ。例え負けると知っていても、無理だと分かっていても、それでもやらなくちゃならない時があるんだよ』



 やり切ってみせる。
 全て、全て思い出す。
 この思い出が。この想いが。

 勝つんだ、導くんだ、勝ち筋を……!

 今までの旅が。経験が。人生こそが、僕の原動力だ……!


 残り1分。


 元より銃の撃ち方、など分かりもしなかった。
 キカイ、などというものに馴染みはなかった。

 それでも、感覚で、直感でどう動けばいいかを導き出す。
「スコープ」なるものでその水色の光を覗き。
 堕ちゆく光を照準を合わせ、そして撃ち込む。


 残り30秒。
 身を焦がす激突。
 不安を加速させる焦燥。


「……や……やっぱり、やっぱり、ダメかもしれ……」


 言いかけた時。




 背後から、コエがした。




「……いいか、セン。お前が本気を出せば、必ず勝てる。いいな……!」

 同時に後ろより送られてくる膨大な魔力。
 ほとばしる魔力に驚きながらも。
 それでも、そのコエに僕は耳を傾け続けていた。



「覚醒せよ———。見せてやれ、お前の真の力を、センっ!!」



「———はい……っ!…………イデアさん……!!」

 後ろから聞こえたコエは、じいちゃんでも白さんでもなく。
 既に勝ち誇った表情をしていた、イデアさんだった。





『自分が弱いなどと言う固定観念はすぐに捨て去れ。そして想像しろ、勝者の自分を。綿密に、徹底的に。そして勝った姿から、今の自分の最適解を導き出せ』

 あの時の言葉を思い出す。

 やってみせる。
 今の僕にできる最適解。それは……!!





「セン……あいつ、魔力が……」
「きっと、イデアが与えたんだわ。……でも、セン君は一体何をする気で……」

「……アレ、なんだ……?」



 赤黒き砲身より伸びたのは、魔力で形作られた、青白い光のレール。
 真っ直ぐに、何かを見据える眼光のように鋭く。

 その鋭さは、今のセンの決意そのものを表しているようで。


 残り10秒。



「魔力浮遊法式発射口固定、終了。イデアさん、射口にズレはないですか?」

「……ああ、ないさ。後はぶつけてやるだけだ、貴様の全てを。

 この一撃に、すべてを込めてやれっ!!!!」

「…………はい、やってみせます、この僕が!」

 目眩がした。
 同時に巻き起こる頭痛にも、僕は気を向けない。
 意識するのは———集中するのは、今の自分の使命だけ。


 くだらない、自分の事なんて考えるな……!
 僕は引き受けた、引き受けたんだ、みんなを守るって。
 だから……だからこそ、ここで僕が終わらせる。


 何があっても、何としてでも、確実に、そして冷静に、狙い澄ます。
 そして、まるで巨弓を放つかの如く力強く、確実に命中させる。


「これでいいのかな」
「間違ってないのかな」
「どこかおかしくて、上手く命中しないんじゃないのか」

 残り5秒……!


 ……違う。そんな事は考えるな。
 考えるのは……勝利のみ。

 勝って、勝って、勝ち誇った顔をしてその場に立ち尽くす自分だ。


 だからこそ、そんなくだらない感情に、囚われちゃいられないんだ……!
 託された想いを、願いを、ここで終わらせるわけにはいかないんだ———!!

「僕のありったけ……持ってけーーーーーっ!!!!」








 全てを魔力生成炉として使用した結果、全てが壊れた。
 もはや視界も、黒か白か、何が起きているかは全く分からない状態。
 感覚も、触覚も、聴覚も全てが失われた世界で。


『常人』なら、確実に死に至る死幻想領域に、僕は立っていた。

 ……それでも、そこには意志があった。
 身体はなくとも、絶対に諦めないという鋼の意志が。

 その意志が、いまだ不可能だったものを、可能にした。



 終末の魔槍は、たった今…………穿たれた。
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