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第二章

居てはならない存在①

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◇◆◇◆

 ────父やサンクチュエール騎士団が屋敷を後にしてから、早一ヶ月。
タビアとの対面以降、これと言って大きな騒ぎや変化もなく、私は普通に過ごしていた。
強いて言うなら、グランツ殿下が家庭教師をお休みしていることくらい。
何でも、調べたいことがあるんだとか。

 皇室主催のパーティーを終えてから随分と根を詰めている様子だけど、大丈夫かしら?
無理をしていないといいな。

 手紙の返信も遅れるほど忙しいグランツ殿下を思い浮かべ、私はイージス卿に向かって矢を射る。
が、例の如く避けられてしまった。
『大分よくなってきましたよ!』と励ます彼を前に、私はまた武器型魔道具の弓を引く。
────と、ここで父の執務室からユリウスがひょっこり顔を出した。

「ベアトリスお嬢様、そろそろ休憩にしましょう。一生懸命練習に励むのはいいことですが、最近日差しも強くなってきましたし、こまめに体を休めなくては」

 『体調を崩したら、大変です』と言い聞かせ、ユリウスは家の中へ入るよう促す。
すると、私の隣に立つルカがふと空を見上げた。

「そういやぁ、もうすぐ夏だもんな。熱中症には、気をつけねぇーと」

 『ベアトリスの健康=世界平和だからな』と語り、ルカはユリウスの意見に同意した。

 正直、まだ全然大丈夫だけど……無茶をして皆に迷惑を掛けたら困るから、素直に従おう。
練習相手のイージス卿だって、疲れているかもしれないし。

 『まあ、相変わらず汗一つ掻いてないけど』と苦笑しつつ、私はイージス卿に休憩を言い渡す。
そして、隅っこに待機していたバハルを抱っこして玄関へ向かおうとした。
が、突然イージス卿に手を引かれる。

「この気配、まさか……」

 半ば独り言のようにそう呟き、イージス卿は厳しい顔つきで周囲を見回した。
すると、ルカやバハルも何か異変を感じ取ったのか表情を硬くしている。
この場に緊迫した空気が流れる中────何かに日の光を遮られた。
反射的に顔を上げる私達は、その“何か”を見て青ざめる。
だって、それはここに居ない筈の……居てはならない筈の存在だったから。

「チッ……!今と言い、パーティーの時と言い……一体、何がどうなっているんだ!?他人ひとん家の敷地内に────魔物・・が現れるなんて!」
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