上 下
35 / 37
第二章

終戦

しおりを挟む
「さて────そろそろ、この茶番にも飽きたし、終わりにしましょうか」

 誰に言うでもなくそう呟けば、二人はビクッと肩を震わせる。
終わりの時が近付いているのを、彼らも理解しているのだろう。
私は一旦剣を下ろすと、手元に魔法陣を呼び寄せる。

「安心してくださいませ。最後の慈悲として、苦痛なく死なせてあげますから」

「「っ……!!」」

 『そういう話じゃない!』とでも言うように、二人はこちらを睨みつけてきた。
焦りを滲ませる彼らの前で、私は魔法陣の構築に専念する。
────と、ここで予想外の事態が発生した。

「────お逃げ下さい、お兄様!この芋女は、何とか足止めしますわ!ですから、早くっ……!」

「なっ……!?リナ……!!」

 突然ソファから立ち上がったリナさんは、こちらに掴みかかってきた。
無謀だと分かり切っていながら、彼女は最愛の人を逃がすために立ち向かってくる。
魔法陣の構築を阻止しようとする彼女の背後で、カーティス様は出口へ向かった。

 リナさんは、本当にカーティス様のことを愛していたのね。自分の命を投げ出しても、後悔しないくらいに……。
正直、ここまでとは思っていなかったから、感動したわ。でも────。

「─────愛だけじゃ、想い人は救えませんよ」

 私は思い切り剣を振り上げると、情け容赦なくリナさんの首を切り落とした。
そして、自由になった左手で魔法陣を完成させ、カーティス様に向けて放つ。
魔法により顕現した風の刃は、逃げ惑うカーティス様の首を吹き飛ばした。
ゴトッ……ゴトッと、順番に二人の首が床に落ちる。

 ────リナさんの命を張った足止めも、カーティス様の逃亡も全て無駄に終わった。

 血で染まったカーペットをぼんやり眺めながら、私は複雑な心境に陥る。

「これは私が望んだ結果なのに……どうも気持ちが晴れないわね」

 決して誰の耳にも入ることがない独白は、静寂の中に虚しく消えた。

 立て続けに五人も殺した私は精神的に疲弊ながら、リナさんとカーティス様の首を回収する。
民達を説得するためには、『王族を殺した』という証明が必要不可欠だった。

 ────それから、私は国全体にかけた魔法を解き、眠りから覚めた国民たちに王族の首を見せた。
王の死を悟った国民たちは一切抵抗することなく、降伏を受け入れ、エスポワール王国の庇護下に入ることに……。
こうして、カラミタ王国とエスポワール王国の激しい戦争は、幕を閉じた。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

32今日は、私の結婚式。幸せになれると思ったのに、、、

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:28,394pt お気に入り:933

【完結】私ではなく義妹を選んだ婚約者様

恋愛 / 完結 24h.ポイント:347pt お気に入り:4,832

元王女で転生者な竜の愛娘

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:14pt お気に入り:786

誰の代わりに愛されているのか知った私は優しい嘘に溺れていく

恋愛 / 完結 24h.ポイント:454pt お気に入り:6,291

この国に私はいらないようなので、隣国の王子のところへ嫁ぎます

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:624pt お気に入り:1,379

悪魔に祈るとき

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:22,202pt お気に入り:1,652

〖完結〗では、婚約解消いたしましょう。

恋愛 / 完結 24h.ポイント:887pt お気に入り:4,529

処理中です...