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第一章

勘違い

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 無知すぎて話にならないカーティス様に呆れていれば、不意に彼と目が合った。
虚ろな目が縋るようにこちらを見つめている。

 何かしら?まだ何か言いたいことでも?

「なあ、ニーナは僕のことを愛しているよな……?だから、あんなに親切にしてくれたんだろう?なら、僕を助けてくれよ……そしたら、お前にも少しくらい愛情を与えてやっても……」

「────はい?私がカーティス様のことを愛している?一体何のことですか?」

「……えっ?」

 突然何を言い出すのかと思えば……随分と面白い勘違いをしているようね?
私がカーティス様を愛してるなんて……そんな訳ないじゃない。
確かにカーティス様の容姿は格好いいと思うけど、別に好きという訳じゃないし……何より、腹違いの妹に手を出している時点でアウトよ。好きとかそれ以前の問題だわ。

 内心げんなりする私は、父にアイコンタクトを送る。
すると、父は『言ってやれ』とばかりに大きく頷いた。

「何かとんでもない勘違いをしているようなのでハッキリ言わせてもらいますが、カーティス様を愛したことは一度もありません」

「なん、だと……!?じゃあ、何であんなに親切にしてくれたんだ!?好いてもいない相手に優しくする奴なんて居ないだろう!?」

「私がカーティス様に優しくしていたのは────人質として・・・・・、嫁いできた貴方を哀れに思ったからです」

「へっ……?人質……?一体、何のことだ!?」

 ダンッ!とテーブルに拳を叩きつけたカーティス様は、意味が分からないと言わんばかりに目を白黒させた。

 やはりと言うべきか……カーティス様は結婚の目的や自分の役割をこれっぽっちも理解していなかったようね……だとしたら、哀れを通り越して無様だわ。

「カーティス様は何も知らないようなので言わせてもらいますが、私と貴方の結婚は平和条約を結ぶためだけのものではありませんわ。表向きはそうなっていますが、裏の目的は人質として、貴方を我が国へ嫁がせること。表面上は和解していますが、いつ・どこで裏切られるか分かりませんから……だから、人質の貴方が必要だったのです」

「な、なっ……!?僕が人質だと……!?」

「はい。カラミタ王国が裏切れば、人質の貴方は見せしめの意味も兼ねて、真っ先に処刑されるでしょう。だから、私は貴方の境遇を哀れみ、親切にしていたのです。まあ、カーティス様に人質の自覚はなかったようですが……」

 最後に嫌味を零すが、カーティス様はそれどころじゃないようで、目を見開いて固まった。
まさか、人質として嫁がされたとは思わなかったのだろう。

 よく考えてみれば分かりそうなことだけどね……。
だって、本当に平和条約を結ぶためだけなら、リナさんを始めとする未婚の王女をお父様の側室に迎え入れれば、いいだけの話だから……。
それなのに次期国王の補佐に当たる第二王子を嫁がせた。別の目的があるのは、明らかでしょう……。

 呆然とする婚約者様を前に、私は思わず苦笑を漏らす────と、ここで部屋の扉が勢いよく開け放たれた。

「─────私抜きでお話を進めるなんて、有り得ないわ!何故、話し合いに呼んで下さらなかったの!?」

 そう言って、扉の向こうから現れたのは────全ての元凶であるリナさんだった。
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