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第一章
事実確認
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「神の名のもとに誓いの儀式は終了致しました。これより、両家の話し合いを始めます。まずは─────事実確認から」
仰々しい仕草で誓いの締結を宣言すると、神官長は資料の束に手を伸ばした。
恐らく、あの資料の中に話し合いに必要な情報や話し合うべき議題が書き記されているのだろう。
ポケットからモノクルを取り出した神官長は、文章に目を通した。
「えー……では、まずリナ王女がエスポワール王国に不正入国したことは、事実ですか?」
「はい、事実です。その件については、誠に申し訳ありませんでした。深くお詫び申し上げます」
キャンベル王家の人間は、一斉に席から立ち上がると、深々と頭を下げた。
リナさんの不正入国については、言い逃れ出来ないものね。彼女が結婚式に乱入したせいで、目撃者は大勢居るし……。
ここは素直に非を認めて、謝罪した方が身のためだ。
キャンベル王家三人の旋毛を見つめながら、父はスッと手を挙げる。
発言許可を求める父に、神官長は静かに頷いた。
「一つ聞きたい。リナ王女の不正入国について、そちらはどうやって責任を取るつもりだ?さすがに謝罪だけ……という訳ではないだろう?」
父のご尤もな言い分に、カイル陛下は頭を下げたまま僅かに顔を顰める。
角度的に彼の顰めっ面は、私にしか見えなかっただろう。
こちらが責任問題について言及しなければ、有耶無耶にするつもりだったみたいね。とんだ、たぬきだわ。
白けた目をカイル陛下に向ければ、彼はゆっくりと顔を上げる。
顰めっ面だった表情は当然ながら、変わっていた。
「もちろん、謝罪だけで終わらせるつもりはありません。ホールデン王家が望む分だけの賠償金をお支払い致します。が、こちらも何分懐が寂しいもので……直ぐに完済とは……」
「戦後だから何かと出費も嵩むだろう。賠償金の支払いについては、分割でも構わん」
「おお!ネイト陛下の寛大なお心に感謝致します」
まるで神を前にした信徒のように父を崇めるカイル陛下は、全身全霊で感謝の意を表す。
その姿は一国の王と言うより、権力者に媚びを売る商人のようだった。品なんて、あったものじゃない。
父はカイル陛下の態度に呆れたように溜め息を零すと、『続けてくれ』と言うように神官長に目配せした。
「で、では、次に結婚式のことについてお聞きします。リナ王女が結婚式に乱入し、ニーナ王女やオリヴァー様に暴言を吐いたことは事実ですか?」
「はい、事実です。私はその場に居ませんでしたが……ほら、カーティス」
「は、はい!誓いのキスの場面で、リナが結婚式に乱入し……ニーナを芋女呼ばわりした挙句、オリヴァー様に無礼な態度を……誠に申し訳ありません」
再度頭を下げるカーティス様は私に……と言うより、オリヴァー様に謝罪していた。
オリヴァー様は大国の皇太子だから、対応に差が出るのも仕方ないけど……ここまで存外に扱われると、頭に来るわね。
「────あの、一つよろしいかしら?」
ここに来て、ずっと沈黙を貫いてきた母ナタリーが動き出した。
片手を挙げ、ニッコリ微笑む母に、神官長とカーティス様はおずおずと頷く。
「カーティス王子は何故────ニーナを庇って下さらなかったの?」
仰々しい仕草で誓いの締結を宣言すると、神官長は資料の束に手を伸ばした。
恐らく、あの資料の中に話し合いに必要な情報や話し合うべき議題が書き記されているのだろう。
ポケットからモノクルを取り出した神官長は、文章に目を通した。
「えー……では、まずリナ王女がエスポワール王国に不正入国したことは、事実ですか?」
「はい、事実です。その件については、誠に申し訳ありませんでした。深くお詫び申し上げます」
キャンベル王家の人間は、一斉に席から立ち上がると、深々と頭を下げた。
リナさんの不正入国については、言い逃れ出来ないものね。彼女が結婚式に乱入したせいで、目撃者は大勢居るし……。
ここは素直に非を認めて、謝罪した方が身のためだ。
キャンベル王家三人の旋毛を見つめながら、父はスッと手を挙げる。
発言許可を求める父に、神官長は静かに頷いた。
「一つ聞きたい。リナ王女の不正入国について、そちらはどうやって責任を取るつもりだ?さすがに謝罪だけ……という訳ではないだろう?」
父のご尤もな言い分に、カイル陛下は頭を下げたまま僅かに顔を顰める。
角度的に彼の顰めっ面は、私にしか見えなかっただろう。
こちらが責任問題について言及しなければ、有耶無耶にするつもりだったみたいね。とんだ、たぬきだわ。
白けた目をカイル陛下に向ければ、彼はゆっくりと顔を上げる。
顰めっ面だった表情は当然ながら、変わっていた。
「もちろん、謝罪だけで終わらせるつもりはありません。ホールデン王家が望む分だけの賠償金をお支払い致します。が、こちらも何分懐が寂しいもので……直ぐに完済とは……」
「戦後だから何かと出費も嵩むだろう。賠償金の支払いについては、分割でも構わん」
「おお!ネイト陛下の寛大なお心に感謝致します」
まるで神を前にした信徒のように父を崇めるカイル陛下は、全身全霊で感謝の意を表す。
その姿は一国の王と言うより、権力者に媚びを売る商人のようだった。品なんて、あったものじゃない。
父はカイル陛下の態度に呆れたように溜め息を零すと、『続けてくれ』と言うように神官長に目配せした。
「で、では、次に結婚式のことについてお聞きします。リナ王女が結婚式に乱入し、ニーナ王女やオリヴァー様に暴言を吐いたことは事実ですか?」
「はい、事実です。私はその場に居ませんでしたが……ほら、カーティス」
「は、はい!誓いのキスの場面で、リナが結婚式に乱入し……ニーナを芋女呼ばわりした挙句、オリヴァー様に無礼な態度を……誠に申し訳ありません」
再度頭を下げるカーティス様は私に……と言うより、オリヴァー様に謝罪していた。
オリヴァー様は大国の皇太子だから、対応に差が出るのも仕方ないけど……ここまで存外に扱われると、頭に来るわね。
「────あの、一つよろしいかしら?」
ここに来て、ずっと沈黙を貫いてきた母ナタリーが動き出した。
片手を挙げ、ニッコリ微笑む母に、神官長とカーティス様はおずおずと頷く。
「カーティス王子は何故────ニーナを庇って下さらなかったの?」
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