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第一章

合流

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「────父上、母上!助けに来ました!ここから先のことは、俺達に任せてください!」

 『もう大丈夫です!』と叫び、リエート卿は胸を張った。
と同時に、強風を巻き起こし討伐隊を包み込む。
台風や竜巻と似た要領で風を動かし、ちょっとした結界を張った。
おかげで、魔物達は無闇に私達へ近づけなくなる。
だって、下手に突っ込んだら体をバラバラにされてしまうから。

 風って、こういうことも出来るのね。

 『凄いわ』と素直に感心する私は、リエート卿に頼まれて魔力譲渡を行う。
『この結界を維持するのに、かなり魔力が要るのね』と予想しつつ、あっという間に作業を終えた。
その瞬間、リエート卿が『うわっ……!?なんだ、この量!』と目を剥く。
やはり数字で見るのと、実際に体感するのでは違うようで、かなり驚いていた。
────と、ここで兄がクライン公爵夫妻に向き直る。

「要請を受け、先発隊として来ました。ニクス・ネージュ・グレンジャーです。こちらは妹のリディア・ルース・グレンジャー」

 先程と同じ要領で挨拶する兄は、軽くお辞儀して魔物達に目を向けた。

「次期にグレンジャー公爵家から、応援が来ます。それまで、もうしばらくお待ちください」

 そう言うが早いか、兄は結界外に向かって氷結魔法を放つ。それも、かなり強力な。
慌てて魔力譲渡の準備に取り掛かる私を他所に、周辺の魔物は一様に凍りついた。
時が止まったかのような錯覚を覚えるほど、一瞬で。反撃する暇もなく。

「に、ニクスくんの魔法には毎回驚かされるな……」

「ええ……将来が楽しみね」

 大人顔負けどころの実力じゃないのか、クライン公爵夫妻は顔を引き攣らせている。
『強すぎて、何も言えない……』と苦笑いする彼らの前で、私はいそいそと魔力譲渡を終えた。
と同時に、兄が再び大技を放つ。
討伐隊と合流したことで巻き込む心配後顧の憂い無くなった絶たれたからか、彼の勢いは止まらない。
地面を凍らせるだけじゃ飽き足らず、天候まで変え始めた。
あくまで一時的なものとはいえ……雪や雹を降らせるなんて、普通じゃない。

 すっかり、雪景色ね。まだ秋になったばかりなのに。

 などと考えながら、私はひたすら魔力譲渡を行う。
気分はバレー部の顧問に、次々とボールを渡すマネージャーである。
ほら、練習で顧問の先生がよく選手に向かって取りづらい球を打っているでしょう?あれの補助。
────と、何かのドラマで見たシチュエーションを思い返す中、グレンジャー公爵家から援軍が来た。
積もりに積もった雪と魔物の氷像を掻き分けながら。

「おい、これは……いや、もういい。とにかく、怪我人を連れていきなさい。治療するから」

 結界越しにこちらを見つめる父は、早く出てくるよう促す。
それに従い、リエート卿は風を散り散りにした。
『よろしくお願いします』と父に頭を下げ、彼は討伐隊の対応を任せる。

 ────その後、討伐隊はクライン公爵家へ帰され、休養を取ることになった。
たとえ、傷が癒えても疲労困憊状態であることに変わりはないから。
まあ、クライン公爵夫妻は最後まで残ると言って聞かなかったが。
でも、息子のリエート卿に『頼むから休んでくれ』と懇願され、結局折れてくれた。

 という訳で、魔物の駆逐はグレンジャー公爵家に一任されたのだが……兄の無双により、もうほとんど残っていない。
そのため、屋敷や街の警備と残党の処理に分かれて行動することになり……私達は討伐隊の後を追う形になった。
そして、現在────私と兄とリエート卿は屋敷の大広間にて、大説教を食らっている。

「お前達の言い分は、よく分かった。だが、もう少し考えて行動しろ。危険にも程がある」

「リエート、友人を巻き込むなんて何を考えているんだ」

「もし万が一のことがあったら、どうするつもりだったの」

「「「はい、すみません」」」

 グレンジャー公爵とクライン公爵夫妻の厳しい言葉に、私達はただシュンとした。
一応、自分なりに考えて行動したつもりだが……危ない橋を渡った自覚はある。

 魔物の大群に正面から突っ込むなんて、よく考えたら無謀だものね……。

 『叱られてもしょうがない』と考え、私は一つ息を吐いた。
────と、ここでグレンジャー公爵がふと天井を見上げる。
何かを悩むように指で膝を叩き沈黙すると、彼はおもむろにこちらを見つめた。

「だが、まあ────誰一人欠けることなく、生還出来たのはお前達のおかげだ。お手柄だったな」

「正直、リエート達が駆けつけてくれなかったら危なかったよ。助けてくれて、ありがとう」

「子供三人で、不安だっただろうに……偉かったわね」

 『結果良ければ全て良し』という訳にはいかないものの、きちんと私達の頑張りを称えてくれた。
『よくやった』と口を揃えて言う三人に、私達は少し目が潤む。
事が起こっている最中はそれどころじゃなかったため、大して気にならなかったが────やっぱり、怖かったのだ。
魔物と対峙するのが、人の命を任されたのが、最悪の事態に直面するのが。
どんなに凄い力を持っていても、所詮は子供。
不安にならない筈がない。

「ぅ……っ……ひっぐ……」

 緊張の糸が解けて、私は思わず泣き出してしまった。
それを皮切りに、兄とリエート卿も静かに涙を流す。
そんな私達を、父とクライン公爵夫妻は優しく抱き締めてくれた。
『もう何も心配しなくていいんだよ』と態度で示すように。

 温かい……。

 父の胸に抱かれながら、私は肩の力を抜いた。
心の底から安心したからか、ようやく『生きて帰ってきた』という実感が湧く。
室内に居る討伐隊の人達やリエート卿を見つめ、私は笑みを零した。

 ────嗚呼、勇気を出して良かった。
あの時、もし行動していなかったら……不安で自分の殻に閉じこもっていたら、こんな未来はきっと有り得なかった。
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