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第一章
魔力譲渡
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「お兄様、私は全員で助かりたいのです。もし、その一助となるのなら私の魔力を思う存分使ってください。お願いします」
『これは私自身も望んでいることだ』と主張し、兄の決定を覆そうと躍起になる。
魔力切れの事態を回避出来れば、彼の生存率も大幅に上がるから。
何としてでも、同行を許可してもらわなければいけなかった。
魔物と対峙するのは怖いけど、でも────大切な家族を失う方がずっと嫌。
それに屋敷や街を守るため、今も必死に戦っている討伐隊の人達を一人でも多く助けたかった。
まあ、私が加わったからといって討伐隊と早く合流出来る訳ではないのだけど。
でも、お兄様が私の魔力を使って多くの魔物を倒せば、たとえ合流出来ずとも討伐隊の助けになるかもしれない。
『自分でも誰かの役に立てるなら』と奮起し、私は月の瞳を見つめ返す。
己の覚悟を表すかのように、決して逸らさずに。
『お願い、お兄様』と祈るような気持ちで返事を待っていると、彼はやれやれと頭を振った。
「はぁ……筋肉バカと妹に言い負かされるなんて、僕もまだまだだな」
独り言のようにそう呟き、兄はフッと笑みを漏らす。
月の瞳に呆れを滲ませながらこちらに手を伸ばし、ちょっと乱暴に私の頭を撫でた。
「よし、いいだろう。同行を許可する。ただし、僕の命令には必ず従うこと。いいな?」
「「はい!」」
ようやく降りた同行許可に、私とリエート卿は目を輝かせた。
弾けるような笑顔を見せて『やりましたね!』と言い合い、ハイタッチする。
すっかり大はしゃぎする私達を前に、兄はふと後ろを振り返った。
「アレン小公爵も、それでよろしいですね?」
「本音を言うと、行かせたくないけど……しょうがないな。これ以上にいい策は思いつきそうにない」
『降参だ』と言って両手を上げるアレン小公爵は、リエート卿の同行を渋々認めた。
『嫌だ』と突っぱねた結果、苦しむのは自分だけじゃないと分かっているから。
リエート卿をはじめ、この場に居る人達が被害を受ける羽目になる。
ならば、自分の感情を押し殺して送り出すしかないと判断したようだ。
「リエートをよろしく頼む」
「はい」
リエート卿を託された兄は、『絶対に死なせません』と誓う。
すると、アレン小公爵がホッとしたように表情を和らげた。
『気をつけて行ってこい』と促す彼に一つ頷き、兄は私達の横を通り過ぎようとする。
────が、先程屋敷を氷漬けにしたことを思い出し、クルリと方向転換した。
『こっちから出るぞ』と私達に声を掛け、窓へ近づくとロックを解除する。
そして、一も二もなく飛び降りた。
と言っても、リエート卿が慌てて風魔法を使ってくれたため、落下スピードは非常にゆっくりだったが。
『お前、死ぬ気か……?』と零すリエート卿は、半ば呆れながらも一先ず私を抱き上げる。
『しっかり掴まってろよ』と声を掛けてから浮遊し、そのまま窓から出た。
ふよふよと漂うように宙を舞い、地上へ降り立つ。
と同時に、兄がリエート卿の腕の中から私を取り上げた。
「はぁ……お前さ、先に言うことあるだろ」
「ご苦労」
「いや、そこは普通に『ありがとう』って言えよ!?」
「お前が魔法を使わなくても、普通に着地出来た。リディアのことも、下から抱き止めようと思っていたんだ。まあ、お前の魔法で運ぶ方が安全だから多少なりとも感謝はしているが」
言い負かされたことを根に持っているのか、兄はちょっと意地悪な態度を取る。
『なんだかんだ、まだ子供なんだな』と苦笑いする私を他所に、彼は屋敷を見上げた。
かと思えば、『行ってらっしゃい』と送り出してくれるクライン公爵家一行に頭を下げる。
つられて私もお辞儀すると、兄はまだ騒ぐリエート卿を置いて走り出した。
アレン小公爵から聞き出した情報をもとに、彼は魔物の大群が居る方向へ足を運ぶ。
きっと、そこに討伐隊も居る筈だから。
「おい!置いていくなよ!?」
十秒ほど遅れて駆け出したにも拘わらず、リエート卿は早々に追いつき、文句を言う。
────が、兄は華麗にスルーした。
「いいか?リディア。他人に魔力を譲渡する際はまず、相手の体に触れること。これが絶対条件だ」
時間がないからか、兄はさっさと魔力譲渡の説明を始める。
すると、さすがのリエート卿も口を噤んだ。
魔物の大群に遭遇してから説明、では遅すぎると
思ったのだろう。
「相手の体に触れている箇所へ魔力を集めて、肌越しに押し込む。注射するようなイメージと言えば、分かるか?」
「はい」
「じゃあ────」
そこで一旦言葉を切ると、兄はふと前へ視線を向けた。
と同時に、ニヤリと笑う。
何故なら、目の前に────魔物の大群が居たから。
数は……分からない。とにかく、いっぱいとしか。
『何これ……?』と唖然とする私を他所に、兄はスッと目を細めた。
「────ちょうどいいところに来たな。よし、リディア今ここで魔力譲渡を行え。リエートは俺達の護衛」
「は、はい!」
「おう!任せとけ!」
リエート卿は元気よく先頭へ躍り出ると、手に持った剣で魔物を切り裂いた。
数に圧倒されることなく、きちんと役目を果たす彼の姿に、私は感銘を受ける。
しっかりしなきゃ。『一緒に行く』って言ったのは、私自身なんだから。
ここまで来て、『怖くて何も出来ません』じゃ話にならないわ。
『お荷物になる訳にはいかない』と己を奮い立たせ、兄の手を握った。
敵のことはリエート卿に任せて、私は私のやるべきことをしよう。
魔物の断末魔や飛び散る血痕から意識を逸らし、私は魔力譲渡に集中する。
魔力の動きに注目しながら言われた通りの手順をこなし、一先ず少量の魔力を譲渡した。
────が、成功したのかイマイチよく分からない。
体から魔力を追い出したのは確実だが……兄に分けられたか、どうかは自信なかった。
『手順は間違っていないと思うけど……』と思案する中、兄が急に笑い出す。
「多いのは知っていたが、これは……くくっ。予想以上だ」
楽しそうに声を弾ませ、兄は私の額に自身の額をくっつけた。
「よくやった、リディア。成功だ。これからも、この調子で頼むぞ」
「はい」
兄に頼れるにされていると知り、私は頬を緩める。
少しばかり誇らしい気持ちになっていると、彼が顔を上げた。
「リエート、下がれ。ここら一帯の魔物を一掃する」
『これは私自身も望んでいることだ』と主張し、兄の決定を覆そうと躍起になる。
魔力切れの事態を回避出来れば、彼の生存率も大幅に上がるから。
何としてでも、同行を許可してもらわなければいけなかった。
魔物と対峙するのは怖いけど、でも────大切な家族を失う方がずっと嫌。
それに屋敷や街を守るため、今も必死に戦っている討伐隊の人達を一人でも多く助けたかった。
まあ、私が加わったからといって討伐隊と早く合流出来る訳ではないのだけど。
でも、お兄様が私の魔力を使って多くの魔物を倒せば、たとえ合流出来ずとも討伐隊の助けになるかもしれない。
『自分でも誰かの役に立てるなら』と奮起し、私は月の瞳を見つめ返す。
己の覚悟を表すかのように、決して逸らさずに。
『お願い、お兄様』と祈るような気持ちで返事を待っていると、彼はやれやれと頭を振った。
「はぁ……筋肉バカと妹に言い負かされるなんて、僕もまだまだだな」
独り言のようにそう呟き、兄はフッと笑みを漏らす。
月の瞳に呆れを滲ませながらこちらに手を伸ばし、ちょっと乱暴に私の頭を撫でた。
「よし、いいだろう。同行を許可する。ただし、僕の命令には必ず従うこと。いいな?」
「「はい!」」
ようやく降りた同行許可に、私とリエート卿は目を輝かせた。
弾けるような笑顔を見せて『やりましたね!』と言い合い、ハイタッチする。
すっかり大はしゃぎする私達を前に、兄はふと後ろを振り返った。
「アレン小公爵も、それでよろしいですね?」
「本音を言うと、行かせたくないけど……しょうがないな。これ以上にいい策は思いつきそうにない」
『降参だ』と言って両手を上げるアレン小公爵は、リエート卿の同行を渋々認めた。
『嫌だ』と突っぱねた結果、苦しむのは自分だけじゃないと分かっているから。
リエート卿をはじめ、この場に居る人達が被害を受ける羽目になる。
ならば、自分の感情を押し殺して送り出すしかないと判断したようだ。
「リエートをよろしく頼む」
「はい」
リエート卿を託された兄は、『絶対に死なせません』と誓う。
すると、アレン小公爵がホッとしたように表情を和らげた。
『気をつけて行ってこい』と促す彼に一つ頷き、兄は私達の横を通り過ぎようとする。
────が、先程屋敷を氷漬けにしたことを思い出し、クルリと方向転換した。
『こっちから出るぞ』と私達に声を掛け、窓へ近づくとロックを解除する。
そして、一も二もなく飛び降りた。
と言っても、リエート卿が慌てて風魔法を使ってくれたため、落下スピードは非常にゆっくりだったが。
『お前、死ぬ気か……?』と零すリエート卿は、半ば呆れながらも一先ず私を抱き上げる。
『しっかり掴まってろよ』と声を掛けてから浮遊し、そのまま窓から出た。
ふよふよと漂うように宙を舞い、地上へ降り立つ。
と同時に、兄がリエート卿の腕の中から私を取り上げた。
「はぁ……お前さ、先に言うことあるだろ」
「ご苦労」
「いや、そこは普通に『ありがとう』って言えよ!?」
「お前が魔法を使わなくても、普通に着地出来た。リディアのことも、下から抱き止めようと思っていたんだ。まあ、お前の魔法で運ぶ方が安全だから多少なりとも感謝はしているが」
言い負かされたことを根に持っているのか、兄はちょっと意地悪な態度を取る。
『なんだかんだ、まだ子供なんだな』と苦笑いする私を他所に、彼は屋敷を見上げた。
かと思えば、『行ってらっしゃい』と送り出してくれるクライン公爵家一行に頭を下げる。
つられて私もお辞儀すると、兄はまだ騒ぐリエート卿を置いて走り出した。
アレン小公爵から聞き出した情報をもとに、彼は魔物の大群が居る方向へ足を運ぶ。
きっと、そこに討伐隊も居る筈だから。
「おい!置いていくなよ!?」
十秒ほど遅れて駆け出したにも拘わらず、リエート卿は早々に追いつき、文句を言う。
────が、兄は華麗にスルーした。
「いいか?リディア。他人に魔力を譲渡する際はまず、相手の体に触れること。これが絶対条件だ」
時間がないからか、兄はさっさと魔力譲渡の説明を始める。
すると、さすがのリエート卿も口を噤んだ。
魔物の大群に遭遇してから説明、では遅すぎると
思ったのだろう。
「相手の体に触れている箇所へ魔力を集めて、肌越しに押し込む。注射するようなイメージと言えば、分かるか?」
「はい」
「じゃあ────」
そこで一旦言葉を切ると、兄はふと前へ視線を向けた。
と同時に、ニヤリと笑う。
何故なら、目の前に────魔物の大群が居たから。
数は……分からない。とにかく、いっぱいとしか。
『何これ……?』と唖然とする私を他所に、兄はスッと目を細めた。
「────ちょうどいいところに来たな。よし、リディア今ここで魔力譲渡を行え。リエートは俺達の護衛」
「は、はい!」
「おう!任せとけ!」
リエート卿は元気よく先頭へ躍り出ると、手に持った剣で魔物を切り裂いた。
数に圧倒されることなく、きちんと役目を果たす彼の姿に、私は感銘を受ける。
しっかりしなきゃ。『一緒に行く』って言ったのは、私自身なんだから。
ここまで来て、『怖くて何も出来ません』じゃ話にならないわ。
『お荷物になる訳にはいかない』と己を奮い立たせ、兄の手を握った。
敵のことはリエート卿に任せて、私は私のやるべきことをしよう。
魔物の断末魔や飛び散る血痕から意識を逸らし、私は魔力譲渡に集中する。
魔力の動きに注目しながら言われた通りの手順をこなし、一先ず少量の魔力を譲渡した。
────が、成功したのかイマイチよく分からない。
体から魔力を追い出したのは確実だが……兄に分けられたか、どうかは自信なかった。
『手順は間違っていないと思うけど……』と思案する中、兄が急に笑い出す。
「多いのは知っていたが、これは……くくっ。予想以上だ」
楽しそうに声を弾ませ、兄は私の額に自身の額をくっつけた。
「よくやった、リディア。成功だ。これからも、この調子で頼むぞ」
「はい」
兄に頼れるにされていると知り、私は頬を緩める。
少しばかり誇らしい気持ちになっていると、彼が顔を上げた。
「リエート、下がれ。ここら一帯の魔物を一掃する」
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