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第一章
後悔《ルーナ side》
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◇◆◇◆
────時は少し遡り、リディアが部屋を去った直後のこと。
私とアイリスはただ呆然と扉を眺めることしか、出来なかった。
だって、まだ六歳の子供が……あんなことを言うだなんて、思いもよらなかったから。
いや、違うわね……私達大人のせいで、あんなことを言わせてしまったのよ。
ただ無邪気に笑って、過ごしていればいいだけの子供に。
『嗚呼、なんてことを……』と絶望する私は、手で顔を覆った。
『後悔先に立たず』とはまさにこのことで、過去の自分を責め立てる。
私は逃げてばかりで、リディアを引き取った責任も義務も果たさなかった……。
結局のところ、自分の弱さに打ち勝つことが出来ず……体調不良を理由に、ひたすら放置していただけ。
周囲の『命を助けてあげただけで充分』という言葉に甘え、一番苦しんでいるであろうあの子に寄り添うことが出来なかった。
嗚呼、なんて無責任な保護者なのだろう……。
現実と向き合うことから逃げたツケが今回ってきているのだと知り、私は顔を歪める。
もっとも……そのツケを払っているのは、主にリディアだが。
親の因果が子に報い、とはよく言ったものだ。
親のせいで不幸になる事態を避けたくて、引き取ったのに……何という有様かしら。
失態なんて言葉じゃ到底言い表せない状況に、私は奥歯を噛み締める。
愚かな自分が許せなくて……後悔の念で押し潰されそうになった。
『成人したら出ていきます』と言ったリディアの顔が上手く思い出せず、震える体をギュッと抱き締める。
どうにかしてあの子を繋ぎ止めたい気持ちでいっぱいになる中、アイリスがこちらを振り向いた。
「申し訳ございません、奥様……お恥ずかしながら、自分の感情を制御することが出来ませんでした」
『もういい大人なのに……』と悔やむアイリスは、深々と頭を下げる。
さすがの彼女も、『やり過ぎた』と自覚しているらしい。
憎き人物の血脈とはいえ、子供にあんなことを言わせてしまったら目も覚めるわよね。
「アイリスが反省しているのは、よく分かったわ。とりあえず、本件の処遇は後で決める。まずは────リディアに謝らないと」
今頃泣いているかもしれないあの子の姿を脳裏に思い浮かべ、私はそろそろと立ち上がる。
『日を改める』という選択肢は、最初からなかった。
こういったことは、時間を置けば置くほど悪化するから。
何より────もうこれ以上、逃げたくなかった。
「それなら、私も同行致します。元はと言えば、私の短慮が招いた事態ですから」
『一番の加害者は自分だ』と主張するアイリスに、私は首を左右に振った。
「まずは私だけで行ってみるわ。急に複数人で押し掛けたら、あの子も驚くでしょう?何より、アイリスのことを怖がっているかもしれないし……」
凄まじい剣幕で怒鳴りつけていたことを引き合いに出し、私はアイリスの同行を断る。
普通の子供なら、トラウマになっていてもおかしくないから。
落ち着いて話をするためにも、今回は遠慮してもらいたかった。
「貴方はここで頭を冷やしておいて」
「……分かりました」
リディアの精神状態を考え、アイリスは渋々といった様子で頷いた。
『体調が悪化したら、直ぐに呼んでくださいね』と述べる彼女に、私は首を縦に振る。
『アイリスは相変わらず、心配性ね』と思いながら。
まあ、体調は物凄くいいけど。
現実と向き合う覚悟を固めたからかしら?
自身の手を見下ろし、パチパチと瞬きを繰り返す私は『これからもっと良くなりそう』と考える。
何となく……本当に何となく、そういう予感がしたのだ。
「それじゃあ、行ってくるわね」
ギュッと手を握り締め、おもむろに顔を上げると、私は扉へ足を向けた。
────時は少し遡り、リディアが部屋を去った直後のこと。
私とアイリスはただ呆然と扉を眺めることしか、出来なかった。
だって、まだ六歳の子供が……あんなことを言うだなんて、思いもよらなかったから。
いや、違うわね……私達大人のせいで、あんなことを言わせてしまったのよ。
ただ無邪気に笑って、過ごしていればいいだけの子供に。
『嗚呼、なんてことを……』と絶望する私は、手で顔を覆った。
『後悔先に立たず』とはまさにこのことで、過去の自分を責め立てる。
私は逃げてばかりで、リディアを引き取った責任も義務も果たさなかった……。
結局のところ、自分の弱さに打ち勝つことが出来ず……体調不良を理由に、ひたすら放置していただけ。
周囲の『命を助けてあげただけで充分』という言葉に甘え、一番苦しんでいるであろうあの子に寄り添うことが出来なかった。
嗚呼、なんて無責任な保護者なのだろう……。
現実と向き合うことから逃げたツケが今回ってきているのだと知り、私は顔を歪める。
もっとも……そのツケを払っているのは、主にリディアだが。
親の因果が子に報い、とはよく言ったものだ。
親のせいで不幸になる事態を避けたくて、引き取ったのに……何という有様かしら。
失態なんて言葉じゃ到底言い表せない状況に、私は奥歯を噛み締める。
愚かな自分が許せなくて……後悔の念で押し潰されそうになった。
『成人したら出ていきます』と言ったリディアの顔が上手く思い出せず、震える体をギュッと抱き締める。
どうにかしてあの子を繋ぎ止めたい気持ちでいっぱいになる中、アイリスがこちらを振り向いた。
「申し訳ございません、奥様……お恥ずかしながら、自分の感情を制御することが出来ませんでした」
『もういい大人なのに……』と悔やむアイリスは、深々と頭を下げる。
さすがの彼女も、『やり過ぎた』と自覚しているらしい。
憎き人物の血脈とはいえ、子供にあんなことを言わせてしまったら目も覚めるわよね。
「アイリスが反省しているのは、よく分かったわ。とりあえず、本件の処遇は後で決める。まずは────リディアに謝らないと」
今頃泣いているかもしれないあの子の姿を脳裏に思い浮かべ、私はそろそろと立ち上がる。
『日を改める』という選択肢は、最初からなかった。
こういったことは、時間を置けば置くほど悪化するから。
何より────もうこれ以上、逃げたくなかった。
「それなら、私も同行致します。元はと言えば、私の短慮が招いた事態ですから」
『一番の加害者は自分だ』と主張するアイリスに、私は首を左右に振った。
「まずは私だけで行ってみるわ。急に複数人で押し掛けたら、あの子も驚くでしょう?何より、アイリスのことを怖がっているかもしれないし……」
凄まじい剣幕で怒鳴りつけていたことを引き合いに出し、私はアイリスの同行を断る。
普通の子供なら、トラウマになっていてもおかしくないから。
落ち着いて話をするためにも、今回は遠慮してもらいたかった。
「貴方はここで頭を冷やしておいて」
「……分かりました」
リディアの精神状態を考え、アイリスは渋々といった様子で頷いた。
『体調が悪化したら、直ぐに呼んでくださいね』と述べる彼女に、私は首を縦に振る。
『アイリスは相変わらず、心配性ね』と思いながら。
まあ、体調は物凄くいいけど。
現実と向き合う覚悟を固めたからかしら?
自身の手を見下ろし、パチパチと瞬きを繰り返す私は『これからもっと良くなりそう』と考える。
何となく……本当に何となく、そういう予感がしたのだ。
「それじゃあ、行ってくるわね」
ギュッと手を握り締め、おもむろに顔を上げると、私は扉へ足を向けた。
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