私に成り代わって嫁ごうとした妹ですが、即行で婚約者にバレました

あーもんど

文字の大きさ
130 / 208
第二章

教皇聖下の捕獲《ヴィンセント side》②

しおりを挟む
「その代表格が、今ここに居るルパート・ロイ・イセリアル第三皇子殿下とゲレル神官だ」

 きちんと民衆に覚えてもらえるよう正式名称で紹介すると、人々は大きく息を呑む。
多分、『神官』という単語に反応したんだと思う。

「皇室と一部の神殿関係者が手を組んで行ったのなら、先程の話は恐らく真実じゃないかしら?」

「神殿関係者がわざわざ、こんな嘘つく必要ないものね……自分の首を絞めるようなものだから」

「つまり、ゲレル神官は子供達を助けるために皇室の手を借りたのか」

「神殿の体裁より、命を優先するなんて……さすがだな。これこそ、神の信徒のあるべき姿だ」

 これでもかというほどゲレル神官を持ち上げ、民衆は態度を軟化させる。
『悪いのは神殿全体じゃなくて、一部の人間だけ』と分かって、ホッとしているのだろう。
彼らにとって、神殿は心の拠り所なので。
それを悪だと断定して、自分の人生から切り離すのはかなりの苦行だ。

「ゲレル神官、彼らに何か一言でもいいので言葉を掛けてあげてください」

 小声で茶髪の男性に話し掛け、僕は『ほら』と促す。
ここでそれっぽいことを言っておけば、次期教皇は確実になるだろうから。
『そうなったら、協力者であるルパート殿下の株も上がる』と思案する中、彼は小さく深呼吸した。
かと思えば、真っ直ぐ前を見据える。

「身内の恥を晒すようで申し訳ないが、今の神殿の上層部は腐り切っている。でも、私はそれを変えたい。いや、取り戻したい。正義と平和を重んじる神殿の姿を。今回の騒動はその序章になれば、と思っている」

 飾らない言葉で思いを伝え、ゲレル神官は少しばかり身を乗り出した。

「まだまだ不安も混乱も大きいだろうが、どうか見守っていてほしい」

 『よろしく頼む』と言って、ゲレル神官は深々と頭を下げる。
愚直とも言うべき誠実な態度に、民衆はすっかり心を持って行かれた。
瞬く間に大きくなる歓声を前に、僕は『予想以上の効果だね』と内心苦笑する。
これではルパート殿下の出番がない、と肩を竦めて。
『まあ、最後に一言くらいもらおうか』と考えつつ、僕は隣に立つ紫髪の美青年を見上げた。

「ルパート殿下も、何かコメントを」

「ああ」

 事前に演説の打ち合わせをしていたからか、ルパート殿下はすんなり応じる。
と同時に、口を開いた。

「私、ルパート・ロイ・イセリアルは神殿の再生に協力を惜しまないことを誓おう。ゲレル神官、何か困ったことがあれば連絡してくれ」
しおりを挟む
感想 29

あなたにおすすめの小説

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

【完結】私はいてもいなくても同じなのですね ~三人姉妹の中でハズレの私~

紺青
恋愛
マルティナはスコールズ伯爵家の三姉妹の中でハズレの存在だ。才媛で美人な姉と愛嬌があり可愛い妹に挟まれた地味で不器用な次女として、家族の世話やフォローに振り回される生活を送っている。そんな自分を諦めて受け入れているマルティナの前に、マルティナの思い込みや常識を覆す存在が現れて―――家族にめぐまれなかったマルティナが、強引だけど優しいブラッドリーと出会って、少しずつ成長し、別離を経て、再生していく物語。 ※三章まで上げて落とされる鬱展開続きます。 ※因果応報はありますが、痛快爽快なざまぁはありません。 ※なろうにも掲載しています。

(完結)私より妹を優先する夫

青空一夏
恋愛
私はキャロル・トゥー。トゥー伯爵との間に3歳の娘がいる。私達は愛し合っていたし、子煩悩の夫とはずっと幸せが続く、そう思っていた。 ところが、夫の妹が離婚して同じく3歳の息子を連れて出戻ってきてから夫は変わってしまった。 ショートショートですが、途中タグの追加や変更がある場合があります。

幼馴染の生徒会長にポンコツ扱いされてフラれたので生徒会活動を手伝うのをやめたら全てがうまくいかなくなり幼馴染も病んだ

猫カレーฅ^•ω•^ฅ
恋愛
ずっと付き合っていると思っていた、幼馴染にある日別れを告げられた。 そこで気づいた主人公の幼馴染への依存ぶり。 たった一つボタンを掛け違えてしまったために、 最終的に学校を巻き込む大事件に発展していく。 主人公は幼馴染を取り戻すことが出来るのか!?

偽聖女として私を処刑したこの世界を救おうと思うはずがなくて

奏千歌
恋愛
【とある大陸の話①:月と星の大陸】 ※ヒロインがアンハッピーエンドです。  痛めつけられた足がもつれて、前には進まない。  爪を剥がされた足に、力など入るはずもなく、その足取りは重い。  執行官は、苛立たしげに私の首に繋がれた縄を引いた。  だから前のめりに倒れても、後ろ手に拘束されているから、手で庇うこともできずに、処刑台の床板に顔を打ち付けるだけだ。  ドッと、群衆が笑い声を上げ、それが地鳴りのように響いていた。  広場を埋め尽くす、人。  ギラギラとした視線をこちらに向けて、惨たらしく殺される私を待ち望んでいる。  この中には、誰も、私の死を嘆く者はいない。  そして、高みの見物を決め込むかのような、貴族達。  わずかに視線を上に向けると、城のテラスから私を見下ろす王太子。  国王夫妻もいるけど、王太子の隣には、王太子妃となったあの人はいない。  今日は、二人の婚姻の日だったはず。  婚姻の禍を祓う為に、私の処刑が今日になったと聞かされた。  王太子と彼女の最も幸せな日が、私が死ぬ日であり、この大陸に破滅が決定づけられる日だ。 『ごめんなさい』  歓声をあげたはずの群衆の声が掻き消え、誰かの声が聞こえた気がした。  無機質で無感情な斧が無慈悲に振り下ろされ、私の首が落とされた時、大きく地面が揺れた。

[完結]いらない子と思われていた令嬢は・・・・・・

青空一夏
恋愛
私は両親の目には映らない。それは妹が生まれてから、ずっとだ。弟が生まれてからは、もう私は存在しない。 婚約者は妹を選び、両親は当然のようにそれを喜ぶ。 「取られる方が悪いんじゃないの? 魅力がないほうが負け」 妹の言葉を肯定する家族達。 そうですか・・・・・・私は邪魔者ですよね、だから私はいなくなります。 ※以前投稿していたものを引き下げ、大幅に改稿したものになります。

夫の妹に財産を勝手に使われているらしいので、第三王子に全財産を寄付してみた

今川幸乃
恋愛
ローザン公爵家の跡継ぎオリバーの元に嫁いだレイラは若くして父が死んだため、実家の財産をすでにある程度相続していた。 レイラとオリバーは穏やかな新婚生活を送っていたが、なぜかオリバーは妹のエミリーが欲しがるものを何でも買ってあげている。 不審に思ったレイラが調べてみると、何とオリバーはレイラの財産を勝手に売り払ってそのお金でエミリーの欲しいものを買っていた。 レイラは実家を継いだ兄に相談し、自分に敵対する者には容赦しない”冷血王子”と恐れられるクルス第三王子に全財産を寄付することにする。 それでもオリバーはレイラの財産でエミリーに物を買い与え続けたが、自分に寄付された財産を勝手に売り払われたクルスは激怒し…… ※短め

不貞の子を身籠ったと夫に追い出されました。生まれた子供は『精霊のいとし子』のようです。

桧山 紗綺
恋愛
【完結】嫁いで5年。子供を身籠ったら追い出されました。不貞なんてしていないと言っても聞く耳をもちません。生まれた子は間違いなく夫の子です。夫の子……ですが。 私、離婚された方が良いのではないでしょうか。 戻ってきた実家で子供たちと幸せに暮らしていきます。 『精霊のいとし子』と呼ばれる存在を授かった主人公の、可愛い子供たちとの暮らしと新しい恋とか愛とかのお話です。 ※※番外編も完結しました。番外編は色々な視点で書いてます。 時系列も結構バラバラに本編の間の話や本編後の色々な出来事を書きました。 一通り主人公の周りの視点で書けたかな、と。 番外編の方が本編よりも長いです。 気がついたら10万文字を超えていました。 随分と長くなりましたが、お付き合いくださってありがとうございました!

処理中です...