私に成り代わって嫁ごうとした妹ですが、即行で婚約者にバレました

あーもんど

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第一章

身を守る術②

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「ねぇ────さすがに私じゃ、体術を教えられないわよ?」

 『私自身、習ったことないし』と言い、二人の顔色を窺った。
すると、ヴィンセントが考え込むような動作を見せる。

「エーデル公爵家の騎士に習う……のは、ちょっと難しいか。警備強化に伴って、これから忙しくなるだろうし」

「だからと言って、外部の人間を呼び寄せるのは抵抗があるのよね」

「運悪く、敵の手下を引き当てたら一巻の終わりだからね。本末転倒もいいところ……我が家の騎士を派遣出来ればいいんだけど、今はほとんど出払っているし」

 国境や屋敷の警備で手一杯と思われるクライン公爵家の騎士達を選択肢から外し、彼は嘆息した。
本当に任せられる人物が居なくて、頭を抱えているのだろう。

「ごめんなさい、ヴィンセント。困らせちゃったわね。この問題はエーデル公爵家の方で解決するべきだから、気にしなくていいわ」

「いや、体術を習うよう提案したのは僕なんだから講師の紹介くらいさせて」

 『言うだけ言って、丸投げなんて格好がつかない』と述べ、ヴィンセントは再び考え込む。
右へ左へ視線をさまよわせ、誰か居ないか探す中……彼は不意に顔を上げた。

「そうだ────ルパート殿下に頼もう」

 ────という有り得ない言葉を聞いた、翌日。
本当に第三皇子が我が家を訪れた。アイリスに体術を教えるためだけに。

「今日はよろしく頼む」

 突然の要請に文句を言うでもなく、ルパート殿下は開口一番にそう言った。
何の感情も窺えない青い瞳を前に、私は震え上がる。
あまりにも恐れ多くて。

「こ、こちらこそよろしくお願いします!」

「お願いします」

「ああ」

 『そう畏まらなくていい』と言いつつ、ルパート殿下は訓練場所として用意した裏庭を眺める。
急遽花壇を撤去し作った空間のため、あまり見映えはよくないが、騎士達の練習場を占拠する訳にもいかないのでこうなった。
『広さは充分だな』と呟く彼を前に、私はおずおずと口を開く。

「あ、あの……ここまでご足労いただいた段階で言うのもなんですが、本当によろしかったんですか?アイリスの講師を引き受けて」

 長年戦場に身を置いていたルパート殿下は、今まさに勢力を伸ばしている状況。
講義なんかよりも、パーティーやお茶会に参加するべきだろう。

 『エーデル公爵家は今、悪目立ちしている家門だし……』と思案し、ルパート殿下の進退を案じる。
皇位継承権争いの真っ只中で、こんなにゆっくりしていていいのか?と。

「ああ、問題ない。ちょうど、社交界のマナーや慣習に飽き飽きしていたところなんだ。それに、無理に勢力を拡大する必要はないと言われている。自分の存在さえ、アピール出来れば」

「は、はあ……それなら、いいんですが」

 『それって、誰からのアドバイス?』と頭を捻りながらも、私は相槌を打った。
あまり深入りしない方がいいかと思って。

「じゃあ、あとのことは任せました。私は少し離れた場所から、見ていますので」
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