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第一章

身を守る術①

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「分かった。じゃあ、早速なんだけど────これからもその部下をここに置いてもいいかな?」

 そっと私の手を取り、ヴィンセントは『お願い』と弱々しい声で頼み込んできた。
心配という感情を前面に出す彼の前で、私は唇に力を入れる。
気を抜いたら、『いいよ』と言ってしまいそうで。

「あ、有り難い申し出だけど、そんなに優秀な方を貸していただいていいの?」

「もちろん。セシリアのためなら、何を差し出しても惜しくないからね」

 一切言い淀むことなく答えるヴィンセントに、私はもう何も言えなくなった。
正直、とても助かるから。

 警備強化のために新たな騎士を雇うとなると、間者の入る隙を与えてしまうのよね。
だからと言って、今居る人員だけで厳戒態勢を敷き続けるのも無理があるわ。
短期ならまだしも、いつ終わるかも分からない状況だから。

「じゃあ、お言葉に甘えて」

「ああ、そうしてくれると助かるよ」

 『僕も安心出来るから』と語り、ヴィンセントはホッとしたように表情を和らげた。
かと思えば、不意にアイリスの方を見つめる。

「ところで────アイリス嬢は何か、自分の身を守る術を持っているかい?もちろん、君を守り切れるよう最善は尽くすけど、万が一に備えて魔法なり武術なり覚えておいた方がいい」

 『備えあれば憂いなし』という異国の諺を唱えるヴィンセントに、アイリスは悩ましげな表情を浮かべた。

「自分を守る術は今のところ、ありません。私の守護精霊の属性は光で……あまり役に立ちそうにないので。体術に関しては、習ったこともありませんし」

「なるほど。光魔法も使い方次第で役に立ちそうだけど……直接攻撃は出来ないから、厳しいか」

 『せいぜい、目くらまし程度』と呟き、ヴィンセントは自身の顎を撫でる。

「じゃあ、とりあえず体術を習ってみよう。もしかしたら、案外身につくかもしれない」

 『何もしないより、マシだろう』と主張するヴィンセントに、アイリスは首を縦に振った。
元々体を動かすのは好きなので、やってみたい気持ちが強いのだろう。
でも、ここで問題が一つ……。

「ねぇ────さすがに私じゃ、体術を教えられないわよ?」
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