57 / 208
第一章
身を守る術①
しおりを挟む
「分かった。じゃあ、早速なんだけど────これからもその部下をここに置いてもいいかな?」
そっと私の手を取り、ヴィンセントは『お願い』と弱々しい声で頼み込んできた。
心配という感情を前面に出す彼の前で、私は唇に力を入れる。
気を抜いたら、『いいよ』と言ってしまいそうで。
「あ、有り難い申し出だけど、そんなに優秀な方を貸していただいていいの?」
「もちろん。セシリアのためなら、何を差し出しても惜しくないからね」
一切言い淀むことなく答えるヴィンセントに、私はもう何も言えなくなった。
正直、とても助かるから。
警備強化のために新たな騎士を雇うとなると、間者の入る隙を与えてしまうのよね。
だからと言って、今居る人員だけで厳戒態勢を敷き続けるのも無理があるわ。
短期ならまだしも、いつ終わるかも分からない状況だから。
「じゃあ、お言葉に甘えて」
「ああ、そうしてくれると助かるよ」
『僕も安心出来るから』と語り、ヴィンセントはホッとしたように表情を和らげた。
かと思えば、不意にアイリスの方を見つめる。
「ところで────アイリス嬢は何か、自分の身を守る術を持っているかい?もちろん、君を守り切れるよう最善は尽くすけど、万が一に備えて魔法なり武術なり覚えておいた方がいい」
『備えあれば憂いなし』という異国の諺を唱えるヴィンセントに、アイリスは悩ましげな表情を浮かべた。
「自分を守る術は今のところ、ありません。私の守護精霊の属性は光で……あまり役に立ちそうにないので。体術に関しては、習ったこともありませんし」
「なるほど。光魔法も使い方次第で役に立ちそうだけど……直接攻撃は出来ないから、厳しいか」
『せいぜい、目くらまし程度』と呟き、ヴィンセントは自身の顎を撫でる。
「じゃあ、とりあえず体術を習ってみよう。もしかしたら、案外身につくかもしれない」
『何もしないより、マシだろう』と主張するヴィンセントに、アイリスは首を縦に振った。
元々体を動かすのは好きなので、やってみたい気持ちが強いのだろう。
でも、ここで問題が一つ……。
「ねぇ────さすがに私じゃ、体術を教えられないわよ?」
そっと私の手を取り、ヴィンセントは『お願い』と弱々しい声で頼み込んできた。
心配という感情を前面に出す彼の前で、私は唇に力を入れる。
気を抜いたら、『いいよ』と言ってしまいそうで。
「あ、有り難い申し出だけど、そんなに優秀な方を貸していただいていいの?」
「もちろん。セシリアのためなら、何を差し出しても惜しくないからね」
一切言い淀むことなく答えるヴィンセントに、私はもう何も言えなくなった。
正直、とても助かるから。
警備強化のために新たな騎士を雇うとなると、間者の入る隙を与えてしまうのよね。
だからと言って、今居る人員だけで厳戒態勢を敷き続けるのも無理があるわ。
短期ならまだしも、いつ終わるかも分からない状況だから。
「じゃあ、お言葉に甘えて」
「ああ、そうしてくれると助かるよ」
『僕も安心出来るから』と語り、ヴィンセントはホッとしたように表情を和らげた。
かと思えば、不意にアイリスの方を見つめる。
「ところで────アイリス嬢は何か、自分の身を守る術を持っているかい?もちろん、君を守り切れるよう最善は尽くすけど、万が一に備えて魔法なり武術なり覚えておいた方がいい」
『備えあれば憂いなし』という異国の諺を唱えるヴィンセントに、アイリスは悩ましげな表情を浮かべた。
「自分を守る術は今のところ、ありません。私の守護精霊の属性は光で……あまり役に立ちそうにないので。体術に関しては、習ったこともありませんし」
「なるほど。光魔法も使い方次第で役に立ちそうだけど……直接攻撃は出来ないから、厳しいか」
『せいぜい、目くらまし程度』と呟き、ヴィンセントは自身の顎を撫でる。
「じゃあ、とりあえず体術を習ってみよう。もしかしたら、案外身につくかもしれない」
『何もしないより、マシだろう』と主張するヴィンセントに、アイリスは首を縦に振った。
元々体を動かすのは好きなので、やってみたい気持ちが強いのだろう。
でも、ここで問題が一つ……。
「ねぇ────さすがに私じゃ、体術を教えられないわよ?」
79
お気に入りに追加
1,730
あなたにおすすめの小説
元侯爵令嬢は冷遇を満喫する
cyaru
恋愛
第三王子の不貞による婚約解消で王様に拝み倒され、渋々嫁いだ侯爵令嬢のエレイン。
しかし教会で結婚式を挙げた後、夫の口から開口一番に出た言葉は
「王命だから君を娶っただけだ。愛してもらえるとは思わないでくれ」
夫となったパトリックの側には長年の恋人であるリリシア。
自分もだけど、向こうだってわたくしの事は見たくも無いはず!っと早々の別居宣言。
お互いで交わす契約書にほっとするパトリックとエレイン。ほくそ笑む愛人リリシア。
本宅からは屋根すら見えない別邸に引きこもりお1人様生活を満喫する予定が・・。
※専門用語は出来るだけ注釈をつけますが、作者が専門用語だと思ってない専門用語がある場合があります
※作者都合のご都合主義です。
※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。
※架空のお話です。現実世界の話ではありません。
※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります)
※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。
うたた寝している間に運命が変わりました。
gacchi
恋愛
優柔不断な第三王子フレディ様の婚約者として、幼いころから色々と苦労してきたけど、最近はもう呆れてしまって放置気味。そんな中、お義姉様がフレディ様の子を身ごもった?私との婚約は解消?私は学園を卒業したら修道院へ入れられることに。…だったはずなのに、カフェテリアでうたた寝していたら、私の運命は変わってしまったようです。
【完結】私はいてもいなくても同じなのですね ~三人姉妹の中でハズレの私~
紺青
恋愛
マルティナはスコールズ伯爵家の三姉妹の中でハズレの存在だ。才媛で美人な姉と愛嬌があり可愛い妹に挟まれた地味で不器用な次女として、家族の世話やフォローに振り回される生活を送っている。そんな自分を諦めて受け入れているマルティナの前に、マルティナの思い込みや常識を覆す存在が現れて―――家族にめぐまれなかったマルティナが、強引だけど優しいブラッドリーと出会って、少しずつ成長し、別離を経て、再生していく物語。
※三章まで上げて落とされる鬱展開続きます。
※因果応報はありますが、痛快爽快なざまぁはありません。
※なろうにも掲載しています。
政略より愛を選んだ結婚。~後悔は十年後にやってきた。~
つくも茄子
恋愛
幼い頃からの婚約者であった侯爵令嬢との婚約を解消して、学生時代からの恋人と結婚した王太子殿下。
政略よりも愛を選んだ生活は思っていたのとは違っていた。「お幸せに」と微笑んだ元婚約者。結婚によって去っていた側近達。愛する妻の妃教育がままならない中での出産。世継ぎの王子の誕生を望んだものの産まれたのは王女だった。妻に瓜二つの娘は可愛い。無邪気な娘は欲望のままに動く。断罪の時、全てが明らかになった。王太子の思い描いていた未来は元から無かったものだった。後悔は続く。どこから間違っていたのか。
他サイトにも公開中。
「君の為の時間は取れない」と告げた旦那様の意図を私はちゃんと理解しています。
あおくん
恋愛
憧れの人であった旦那様は初夜が終わったあと私にこう告げた。
「君の為の時間は取れない」と。
それでも私は幸せだった。だから、旦那様を支えられるような妻になりたいと願った。
そして騎士団長でもある旦那様は次の日から家を空け、旦那様と入れ違いにやって来たのは旦那様の母親と見知らぬ女性。
旦那様の告げた「君の為の時間は取れない」という言葉はお二人には別の意味で伝わったようだ。
あなたは愛されていない。愛してもらうためには必要なことだと過度な労働を強いた結果、過労で倒れた私は記憶喪失になる。
そして帰ってきた旦那様は、全てを忘れていた私に困惑する。
※35〜37話くらいで終わります。
王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!
gacchi
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ?
王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。
国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから!
12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。
[完結] 私を嫌いな婚約者は交代します
シマ
恋愛
私、ハリエットには婚約者がいる。初めての顔合わせの時に暴言を吐いた婚約者のクロード様。
両親から叱られていたが、彼は反省なんてしていなかった。
その後の交流には不参加もしくは当日のキャンセル。繰り返される不誠実な態度に、もう我慢の限界です。婚約者を交代させて頂きます。
好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】
皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」
「っ――――!!」
「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」
クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。
******
・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる