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悲しき別れ
しおりを挟む身なりを整えたバハムートとフィアとフィルのところに、幾人もの国民が来た。
皆ボロボロだった。竜人は驚異的な耐久力がある。だからそんなに多くの竜人が死亡したというわけではないのだろう。
だが無傷というわけではない。流石に。それに建物の被害は甚大だ。建築物、それから多くの施設。財産。そういったものに対する被害は逃れられなかった。それに関しても甚大な被害である。
バハムートは表情を歪める。
「なんと申せばいいのかわからぬ。守るべき民を傷つけた罪、どう謝ればいいか」
「バハムート様が謝る必要はない。バハムート様は敵に操られていただけ! 卑劣な手段で!」
「皆聞いてよ! バハムート様は卑劣な敵に操られていただけ! バハムート様は悪くないの! 悪いのは敵なの! 魔王の手下に操られていただけで!」
「わかっているんだ。何となく、バハムート様がああなったのには何か理由があるんだって」
竜人の男は言う。
「……だったら」
「怖いんだ!」
竜人の男は叫ぶ。
「え?」
「怖くて怖くてどうしようもないんだよ! バハムート様の姿を見ると!」
「バハムート様は国を今まで守ってきた! 治めてきた! バハムート様がいたからこの国は持ってきたようなもの!」
フィアとフィルは必死に主張をする。しかし、竜人は頭では理解する事ができても本能に刻まれた恐怖をぬぐう事はできなかった。
最強の矛に守られていた竜人の国。その矛が自分達に襲い掛かってきたのだ。強大な力であるが故に、自分へと向かった際に被害も甚大であったというわけだ。
「ひいっ……怖いよ。お母さん」
小さな少年の竜人が母親にしがみついている。その表情は国王を見る目ではなかった。完全に恐怖に支配されている。
「もうよい」
「バハムート様」
「そんな! バハムート様が悪者扱いなんて! そんなのあんまりです!」
フィアとフィルは叫ぶ。
「もうよい。竜人を責めるな。あいつ等とてわしを悪者にしたいわけではない。ただあれだけ強大な力を目の前で見せつけられたら誰だってトラウマになる。わしを見てその時の恐怖を思い出してしまうのも仕方がない事じゃ」
「そんな! 今までバハムート様がこの国の為にしてきた事を思えばこんな扱いあんまりです!」
「こんなのってないです! バハムート様がしてきた事がこんな一瞬で! しかもバハムート様に非はないっていうのに!」
フィアとフィルは涙を流していた。
「だからもういい。わしが消えれば済む事じゃ。そうすればこやつ等の気も済むだろう。フィアとフィル。こやつ等と共にこの国を再建させてくれ。遠くからその事を祈っているぞ」
「バハムート様! そんなっ!」
「バハムート様! うっ、ううっ!」
竜人の双子姉妹は大泣きしていた。
「それでは邪魔者はどこか遠くへ行くとするかの。最後に一言だけ。竜人国の民達よ。愛しておったぞ。最後まで守ってやれなくてすまなかった」
竜人達は皆泣いていた。皆バハムートがしてくれた事は覚えている。今まで国を守ってくれた事。そして皆を愛していた事。だが、あの時の破壊行動による心の傷は深かった。怖いのだ。バハムートの存在が。
「さて……邪魔者はどこかへ消えるとするかの」
「「バハムート様!」」
大泣きしているフィアとフィルを背に、バハムートは竜人の国を去った。
「とはいえ、これからどうすればいいのかのぉ」
竜人の国を王である自分が去る事になるとは思ってもみなかった。竜人の国を去ってしばらくしたところでバハムートは考える。
「考えてもみなかったの。国を去った後の事など」
バハムートは悩んでいた。自らの手を見やる。
「こんな力がなければよかったのかもしれないのぉ」
バハムートには永遠に近い命と膨大なHPがある。殺すのは困難だ。だが、殺すのが比較的容易な人物が一人だけいる。それはバハムート自身だ。
「そろそろ潮時かもしれぬ。人間に比べたら十分長い事生きた。勇者アレクもそのパーティーも既に死んでおる。2000年も前に。わしも旅立つ時が来たのかもしれぬ」
バハムートは手に力を籠める。心臓を突けば死ねるだろう。
「……最後に力を使う相手が自分自身というのも皮肉な話だがの」
バハムートの目が見開かれる。決死の覚悟が決まったようだった。
――と、その時だった。
「死んじゃだめです!」
声が響いた。リーネの声だった。
「ん? なんじゃ。あの時の娘っ子か。エルク殿も」
「不安に思って後を着いて来てみれば、やはりろくでもない事を考えていたのですね」
エルクは嘆いていた。
「わしの命をどう使おうがわしの勝手であろう。強すぎる力は危険なのじゃ。今回の件で思い知ったわ」
「あなたの言っている事には一理あります。ですが世界はまだ混沌に包まれています。あなたの力を世界は必要としています。混乱を治める為にあなたの力が必要なのです。2000年前の時と同じように」
「2000年前と同じように」
「失ったものがあるのなら取り戻せばいい。あなたの力があれば失った以上のものをこの世界に与えられるはずなんです。それだけの力があなたにはある。竜王バハムート」
「わしにもできる事があるか……しかしこれから何をするというのだ」
「あなたを襲った四天王はまだ生きております。そして魔王の復活も残念ながら近い。竜王の力は絶対に必要になってくる。そしてこの娘達にももっと強くなってもらわなければならない」
「……そうか。わしの力が。だがどうすればいいのかわからぬ。敵の居場所もわからなければ暴れようにもどうしようもないだろう。途方に暮れるのみだ。逃げられたら力の振るいようもない」
「私達と来てください、竜王バハムート」
「貴様達と」
「ええ。私達と行動を共にすればいずれは四天王とも相まみえる。そして魔王とも。あなたの力を存分に発揮する場面も絶対に来るはずです」
「わしに貴様達の仲間になれというのか」
「はい。自害をするくらいなら、その力、世界の平和の為に役立ててください」
「いいのか? 貴様達は?」
バハムートは三人娘に聞く。
「はい! 勿論! 恋愛のライバルとしては勿論即刻退場して欲しいくらいです! 先生の正妻は私ですから! もう私以外の女性はいらないくらいです! ですが、バハムートさんの力はきっとこれから必要になると思うんです」
「リーネ、本音が駄々洩れ。リーネらしいけど。私も戦力としては必要だと思います」
「私も異議はないです」
「貴様等……雌犬のくせに良い奴らじゃの。ううっ」
バハムートは泣いていた。
「い、今この人、これから仲間になるパーティーメンバーを雌犬って言いました」
「人間相手だし仕方ないんじゃない?」
「それでバハムートさん。いかがですか? 仲間にならずとも自害はしないで貰いたい。竜人の国民だってあなたの帰りを本当は待っているはずです。今は心の傷が癒えてないというだけで」
「わかった! 仲間になろう! 貴様等の――ただ」
竜王バハムートは余裕のある笑みを浮かべた。
「竜王バハムートを飼いならすのは簡単な事ではないぞ」
その時のバハムートの顔は、前の時と同じ、活気や自信に満ち溢れた表情だった。
こうして竜王バハムートが『黄金の原石』のパーティーメンバーになったのである。
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