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第3巻第3章 キサラギ亜人王国の危機

ベルフェゴールの罠

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 時は少し戻って、マヤがラッセルとハミルトン打倒計画を立てている頃。

 いつものようにファムランドと同じベッドで眠っていたレオノルは、突然目を覚ました。

(……何でしょう? なんでこんな時間に……)

 目を開けたレオノルは、眼球だけ動かして周りを確認する。

 そこには、いつもどおりの寝室が広がっており、目を覚ましたのが真夜中な以外は特に変わったところはなかった。

 自分でも目を覚ました理由がわからないレオノルは、特段異常がないことを確認し、再び眠りに着こうとしたところで、せっかくだからファムランドの寝顔を見ながら寝ようと思いたち、ファムランドの方へ体を向ける。

「…………っ!?」

 ファムランドの寝顔を想像しながらファムランドの方へ体を向けたレオノルは、闇に光るファムランドの瞳を目にし、弾かれたようにベッドから飛び出すと、ファムランドから距離をとった。

「何者です!」

『何者とは、随分なご挨拶じゃないですか、レオノル?』

「まさか……」

『久しぶりですね。あなたがキサラギの王の力を借りて私を裏切って以来ですか』

「ベルフェゴール……さま……」

 思わず「さま」をつけてしまったレオノルに、ベルフェゴールは不思議そうな声で話し始める。

『おや? まだ私を様づけで呼んでくれるのですか? それなら――』

「黙って! もう私はあなたのおもちゃじゃない!」

『……そうですか。それならそれでもいいでしょう。なにせ、どちらにせよあなたは私に従うしかないのですからね』

「どういう、こと……」

『難しい話じゃありませんよ、私は少しの間ですが、この男、ファムランドとか言いましたか、を操ることができます。後は、あなたならわかるでしょう?』

「従わなければ彼を殺す、ということですか」

『ご明察。流石は元我が腹心です』

「卑劣な!」

『なんとでも。それに今更でしょう、私が卑劣なのはね』

「…………わかりました、従います。ですから彼には手を出さないで下さい」

 レオノルはしばらく悩んだが、やがてベルフェゴールの要求を受け入れた。

 今のレオノルにとって、ファムランドは世界の全てと言ってもいい。

 それを切り捨てることなどできるはずがなかった。

『賢明な判断ですね。それではまずは――』

 ベルフェゴールはいくつかの命令をレオノルに下していく。

 レオノルはそのことごとくにおいて、その裏に隠れているベルフェゴールの悪意にまみれた意図を理解した。

 いや、理解できてしまった、といったほうがいいだろう。

 なぜなら、それがわからなければ、この後レオノルが苦しむことはなかったかもしれないのだから。

「わかりました。ベルフェゴールさま、最後に1つ、教えていただけないでしょうか」

『いいでしょう。なんです?』

「どうしてベルフェゴールさまがファムランドさんを操れているのですか?」

 レオノルは最初からずっと気になっていたことを質問する。

 自分が再び操られるならわかるが、ベルフェゴールと関係がないファムランドが操られているのは謎だった。

『最もな疑問ですね。答えはそこですよ』

 ベルフェゴールが操るファムランドは、レオノルの下腹部を指さした。 

「私、ですか?」

『ええ。というより、このファムランドという男と私の接点はあなたしかないじゃないですか。早い話が、あなたの身体に残しておいた仕掛けが、今の結果を生み出しているということです』

「どういう………………まさか!」

 レオノルは自らの下腹部に両手を当てると、両手から魔力を放出した。

 次の瞬間、レオノルは自身の体内で、魔法が壊れるのを感じた。

『流石です。自らの体内、しかもそんな大切なところに魔力をぶつけて私の魔法を壊すとは。一歩間違えば子供が作れなくなるところでしたよ?』

「…………見下げた男だと思っていましたが、まさかここまでだったとは」

『なんとでも。それよりレオノルあなた、惚れた男には随分と奥手なんですね。今日ようやく3回目だったということでしょう? 私のところにいた頃は、ターゲットに会って1週間もあれば3回目だった気がしますが』

 レオノルの心の底からの罵倒もどこ吹く風で、ベルフェゴールはからかうようにそんなことを言った。

「なっ!」

 絶句したレオノルは知る由もないが、ベルフェゴールがレオノルに仕組んだ仕掛けは、対象がレオノルと3回体を重ねることで発動条件を満たすのだ。

『まあいいでしょう。こうして無事魔法も発動しましたし』

 ぱくぱくと声にならない声をあげているレオノルを無視して、ベルフェゴールはファムランドから離れようとしていた。

『そうでした。もしあなたがこのことを他言したら、この男は股間が爆発して死にますから、くれぐれも気をつけて下さい』

 最後に恐ろしいことを言い残して、ベルフェゴールの気配は完全に消え去る。

 これから自分がさせられることを思い、レオノルが立ち尽くしていると、ファムランドが目を覚ました。

「……ん? レオノル? お前さんなんで起きてんだ?」

 ファムランドが眠そうに声をかけると、レオノルは思わずその胸元に飛び込んだ。

「ファムランドさん……っ!」

「おいおい、本当にどうしたんだ?」

「なんでも……なんでもないんです……ただちょっと、その、不安になって」

 思わず胸元に飛び込んだレオノルだったが、ベルフェゴールの最後の言葉を思い出し、とっさにごまかした。

「なんだ、最近はましになってたと思ったが、また不安になっちまったのか?」

 幸い、レオノルは以前から、ベルフェゴールの配下だった頃のことを思い出してしまい、時々こうやって感情が不安定になることがあった。

 その症状だと誤解したファムランドは、レオノルをそっと抱きしめると、ぽんぽんとその頭を叩く。

 レオノルはファムランドの腕の中で、その暖かさを感じながら、この温もりを守るために悲壮な決意を固める。

(ごめんなさい、陛下。私はあなたの国を……)

 そう、キサラギ亜人王国をベルフェゴールの魔の手に落とす手助けをする、その決意を。
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