5 / 18
第5話 地上への通路
しおりを挟む
地上へと続く地下道は暗い。電気は通っているとは言っても整備されているわけではない。ポケットに入るサイズの懐中電灯を頼りに、僕たちはひたすら歩く。
武器になるものは、アサトのサバイバルナイフと、ベッドの材料にも使われた鉄パイプくらいで、あと持っているものと言えば水と食料を入れる袋だけだ。なんとも心許ないが仕方ない。
お互いの足音だけが闇に響く。湿った地下道に他の気配はない。
この辺には生き残りがいないのだろうか。僕が地上へ出るこの道を通るのは、一体どれくらいぶりだったろう。以前はもっと人の気配を感じられた気がする。
地下道の途中にある非常にわかりにくい扉を開くと、別の地下道に繋がっている。そこからまた数分歩いたら、やがて光が見えてきた。
「これを被ってな」
地上に出る前にアサトはフード付きの上着を渡してきた。
「俺と違って、ミチルは紫外線に慣れてないだろうからな。しっかりフードも被っとけよ」
言われてみれば確かに地下にこもりきりで、急な紫外線は刺激が強いかもしれない。それにモノアイを誰かが見たらびっくりだろう。アサトの言に大人しく従うと、地上に出た。
太陽の光だ。
僕はその光を久しく見ていなかった。人工の明かりとはまた違う輝きに、モノアイの視界がハレーションを起こして思わず顔を背ける。それが特別まばゆく感じられたのは、あまりにも久しぶりだったからなのだろう。実際に地上に出てしばらくすると、空は大して晴れ間があるわけでもなく、薄曇りでどんよりとしていることに気づいた。
高く聳えるビル群には鬱蒼と植物がまとわりつき、入り口を探すのも一苦労だった。僕の知っている世界とは違う。人の手が入らない文明はこうも荒廃するのか。
「凄いだろう」
「……前に見た景色と違う」
「あっけないもんだぜ、人の力なんてものは。けど俺はそれに流される気はない。何故世界は終わったのか。俺はそこが知りたい」
「Dのせいだろ? 薬品汚染とか、突然変異とか? そのへんは想像でしかないけど」
Dの見た目は人間とほとんど変わらない。ただ顔の美しさは際立っていた。アサトが解凍したDの生首も、美しかった。そして基本的に同じような顔をしていた。
何故存在するのか? そんな疑問を抱くのはもしかしたら、「人間は何故存在するのか」というのと同じくらい、愚問なのかもしれない。
──ふと、アサトがDに何をしたのかが気になった。
静かな地上を踏みしめながら、僕は思い切ってアサトに尋ねる。
「Dをヤったって……その……犯したの?」
「合意の上だから犯したという表現は間違っているな」
「合意って? 意思の疎通があったということ?」
「意思の疎通は出来る。……ミチル、今日ここを生きて戻れたら、あの生首を交えて楽しもうじゃないか。さっき物欲しそうに見てたろう。ミチルの股間が文句を言ってたのを、俺は知っているぞ」
「──は!?」
生首を交えるなんてとんでもない異常行為に思えて、僕は思わずアサトから距離を取った。しかもあの時僕のことを冷静に観察していたとでも言うのか。
アサトは僕の不機嫌と羞恥などまるで気にかけることもせず、植物に覆われたビルの入り口を見つけると、かつて自動ドアだったそれを無理やりこじ開けた。
「食品会社だったんだ、ここは。商品化する予定のものとか、サンプルとかが、いろいろ置いてある。一度に持ち帰ることは難しかったからな。今日ミチルを連れてきたのは実はこの為だ」
長い階段をこつこつと上り三階まで行くと、何かの気配がした。
「先客かな」
食料の存在を嗅ぎつけた誰かが、僕たちより先に来ているのかもしれない。
武器になるものは、アサトのサバイバルナイフと、ベッドの材料にも使われた鉄パイプくらいで、あと持っているものと言えば水と食料を入れる袋だけだ。なんとも心許ないが仕方ない。
お互いの足音だけが闇に響く。湿った地下道に他の気配はない。
この辺には生き残りがいないのだろうか。僕が地上へ出るこの道を通るのは、一体どれくらいぶりだったろう。以前はもっと人の気配を感じられた気がする。
地下道の途中にある非常にわかりにくい扉を開くと、別の地下道に繋がっている。そこからまた数分歩いたら、やがて光が見えてきた。
「これを被ってな」
地上に出る前にアサトはフード付きの上着を渡してきた。
「俺と違って、ミチルは紫外線に慣れてないだろうからな。しっかりフードも被っとけよ」
言われてみれば確かに地下にこもりきりで、急な紫外線は刺激が強いかもしれない。それにモノアイを誰かが見たらびっくりだろう。アサトの言に大人しく従うと、地上に出た。
太陽の光だ。
僕はその光を久しく見ていなかった。人工の明かりとはまた違う輝きに、モノアイの視界がハレーションを起こして思わず顔を背ける。それが特別まばゆく感じられたのは、あまりにも久しぶりだったからなのだろう。実際に地上に出てしばらくすると、空は大して晴れ間があるわけでもなく、薄曇りでどんよりとしていることに気づいた。
高く聳えるビル群には鬱蒼と植物がまとわりつき、入り口を探すのも一苦労だった。僕の知っている世界とは違う。人の手が入らない文明はこうも荒廃するのか。
「凄いだろう」
「……前に見た景色と違う」
「あっけないもんだぜ、人の力なんてものは。けど俺はそれに流される気はない。何故世界は終わったのか。俺はそこが知りたい」
「Dのせいだろ? 薬品汚染とか、突然変異とか? そのへんは想像でしかないけど」
Dの見た目は人間とほとんど変わらない。ただ顔の美しさは際立っていた。アサトが解凍したDの生首も、美しかった。そして基本的に同じような顔をしていた。
何故存在するのか? そんな疑問を抱くのはもしかしたら、「人間は何故存在するのか」というのと同じくらい、愚問なのかもしれない。
──ふと、アサトがDに何をしたのかが気になった。
静かな地上を踏みしめながら、僕は思い切ってアサトに尋ねる。
「Dをヤったって……その……犯したの?」
「合意の上だから犯したという表現は間違っているな」
「合意って? 意思の疎通があったということ?」
「意思の疎通は出来る。……ミチル、今日ここを生きて戻れたら、あの生首を交えて楽しもうじゃないか。さっき物欲しそうに見てたろう。ミチルの股間が文句を言ってたのを、俺は知っているぞ」
「──は!?」
生首を交えるなんてとんでもない異常行為に思えて、僕は思わずアサトから距離を取った。しかもあの時僕のことを冷静に観察していたとでも言うのか。
アサトは僕の不機嫌と羞恥などまるで気にかけることもせず、植物に覆われたビルの入り口を見つけると、かつて自動ドアだったそれを無理やりこじ開けた。
「食品会社だったんだ、ここは。商品化する予定のものとか、サンプルとかが、いろいろ置いてある。一度に持ち帰ることは難しかったからな。今日ミチルを連れてきたのは実はこの為だ」
長い階段をこつこつと上り三階まで行くと、何かの気配がした。
「先客かな」
食料の存在を嗅ぎつけた誰かが、僕たちより先に来ているのかもしれない。
0
あなたにおすすめの小説
平凡ワンコ系が憧れの幼なじみにめちゃくちゃにされちゃう話(小説版)
優狗レエス
BL
Ultra∞maniacの続きです。短編連作になっています。
本編とちがってキャラクターそれぞれ一人称の小説です。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
君に望むは僕の弔辞
爺誤
BL
僕は生まれつき身体が弱かった。父の期待に応えられなかった僕は屋敷のなかで打ち捨てられて、早く死んでしまいたいばかりだった。姉の成人で賑わう屋敷のなか、鍵のかけられた部屋で悲しみに押しつぶされかけた僕は、迷い込んだ客人に外に出してもらった。そこで自分の可能性を知り、希望を抱いた……。
全9話
匂わせBL(エ◻︎なし)。死ネタ注意
表紙はあいえだ様!!
小説家になろうにも投稿
ブラコンすぎて面倒な男を演じていた平凡兄、やめたら押し倒されました
あと
BL
「お兄ちゃん!人肌脱ぎます!」
完璧公爵跡取り息子許嫁攻め×ブラコン兄鈍感受け
可愛い弟と攻めの幸せのために、平凡なのに面倒な男を演じることにした受け。毎日の告白、束縛発言などを繰り広げ、上手くいきそうになったため、やめたら、なんと…?
攻め:ヴィクター・ローレンツ
受け:リアム・グレイソン
弟:リチャード・グレイソン
pixivにも投稿しています。
ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
また、内容もサイレント修正する時もあります。
定期的にタグも整理します。
批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。
毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。
そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。
彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。
「これでやっと安心して退場できる」
これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる