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【番外編】ちょうだい、なんて言えない。

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ただ、何も考えずに
都合のいいゆるゆる
おばか丸出しのお話書きたくて。

出て来るひと

楓(の旦那)⬅︎旦那ってつけたいだけ。
杏ひと筋で生きてる。
何だかんだ言いつつゲロ甘で
最優先事項の杏の為に
何かと甲斐甲斐しく動く。
時代に反して?刀を持って歩いてるよ?

杏(きょう)
ぽんぽこりーん、な
半妖?半獣の元商人。
のらーりくらりと
気ままに暮らしてるけど
心の底から楓を慕い
想っているのに、
いざとなると、頼れない
甘ちゃんに思われがちだけど
実際は胆力もかなりある。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「なぁんか、体がジメジメする…」
梅雨時の憂鬱が、杏の
心をモヤモヤと かげらせている。

一雨くるか。

『梅雨時の事は、仕方ない。』

そっけない気のする返事。
いつもの事だけど、
杏を見つめる視線は
限りなく柔らかなのを
承知している。

杏が帰る先は、楓の元。
そこしか、ない。

楓は、杏にとって
唯一無二の存在で
命を守る為に
何度救われたか知れない。

冷ややかな雰囲気のせいで
誤解をされやすいけど
杏に対する態度を見れば
どうしようもない
断つこともできない
縁を確かに感じてしまう。

「髪、ペタッてなる…楓、髪そんなにも長くてさ?鬱陶しくないの?」

楓の長く艶やかな黒髪は
腰の辺りまで延びていて
今時分は、耳の辺りで
結わえてある。

杏は、楓の長い黒髪が
とても好きで
時おり編み込んだり
結って遊んでいた。

楓の髪は、穏やかな気を
含んでいて。
杏からすれば、とても
心地良く、満たされるのだ。

『連絡もよこさずに、急にこっちに来るなんて、余程の事かと思えば。』
「おめおめと、帰って…楓に、神力分けて下さい。って、言えば良いんだろうけど。そうもいかなくってさ。」

杏は、神力の半分を
生まれた時から、楓に
分けて貰ったせいで
一生、楓の神力をもらい続けなければ、人の身を保つ事の出来ない
特殊な体だった。

『言えないか?』
楓は、書き物をしながら
クスッ、と笑う。

「言えないね…、今までどのくらいお願いしたか忘れちゃったけど。この屈辱ってさ、なかなか克服だけはできないの。」

とうに、現れてしまっている
杏のタヌキのシッポ。

ゆっくりと、楓の部屋の隅に
転がってみる。
フワフワのシッポを
抱えながら、チラ、チラ、と
杏は視線を楓に送る。

精一杯の服従。

無防備な腹部を見せて
楓の挙動を見つめていた。

ねぇ、まだ?
まだ?
とでも、言いたげな。

しばらくして、
楓のため息が聞こえた。

静かに立ち上がって、
楓は、杏の元へとやって来て
すぐ側に、しゃがみ込んだ。

大きな楓の手のひらが
伸びてきた。
瞬きもせずに、杏が
その手のひらを見ている。

『あ…っ、』

杏は、人の姿を保てなくなり
ただのタヌキの姿に変わった。

『相変わらず、強情な奴だな。』

楓が、杏を抱き上げて
寝室へと寝かせに行く。

寝台に寝かしつけられて
杏は、半日ほど
起きられなかった。
気を失っていた間に、
杏は記憶していないが
楓は、何度も愛情を持って
触れていた。

楓の気に触れていれば
体力の回復は早い。
ようやく、半分ほどまで
人の姿を取り戻した頃、
楓が、寝室を訪れた。

手には食事の膳を持って
『起きたか。食事にするか?』

杏は、この後の言葉も知っていた。

『それとも…、』

「…なんだよ、いちいち聞かなくても、どうせいつもの事なんだろ?」

頬を真っ赤にして、杏は体を起こし
着替えさせられていた
衣の帯を解く。

『杏…、』
「もう、ホント…なんでこんな面倒くさい体なんだろ…っ!」

『だが、俺は…面倒だとも思わないし、むしろ好ましいと思う。』
「楓は、変態なんだから、仕方ないよ。こんな奴を、もうどのくらい抱いて来た?」

『投げやりになる事じゃない。俺には、生涯大切にする相手がいる。嬉しい事だ。』

楓の言葉は飾り気も無いが
いつも、信じるに値する
誠実さを杏に感じさせていた。

「もぉ…っ、そういうトコだよ。ばかぁ…っ」

敵いはしないのに、時々
噛み付きたくて
杏は、やっとの思いで
「…ご飯は後にする。だから、…楓と一緒に」

今にも、のの字を書きそうに
なりながら、杏が観念した。

「…えちえち、する。」

『…全く、またどこで変な言葉を覚えて来るのか。』

「お刺身とかより、良くない?」
『情緒がな…どちらにしても、だ。』

楓は、一旦手にしていた
膳を厨に下げに行き
部屋に戻った。

「シッポ、消そうか?邪魔でしょ。」
『…あっても支障は無いが』
「えっ?そうなの?…ん~でも、痛いとヤだから、消す。」

戻り始めた妖力で、杏は
タヌキのシッポを消し
寝台に上がった、楓を見て
ふるっ、と耳を震わせた。

『良いのか?』
「…ぅん。妖力も使えるようになり始めたけど、俺、神力は楓から貰わないと…駄目だもん。」

『あぁ、そこが愛おしい…。』

杏は、頭の中が真っ白になる
感覚、高揚感、浮遊感などを
楓から行為を通して教わった。

大人になるまでは、心を
通わせる方での神力の回復を
はかっていたが、
大人になってからの
杏の神力消費が以前にも増した為
楓との話し合いを繰り返し

元々が恋人同士でもあった
二人には、適した方法で
回復出来るようになっていた。

「ぁう…っ、」
押し寄せる楓からの
気に気圧されそうになりながら
杏は、全身で受け止める。

『杏…、』
名前を呼ばれるだけで
耳の奥がフワフワして、
自分が今どこで、何をしてるのかも
分からなくなりそうで
意識があやしく
なっていた。




「はぁ…っ、ん…」
苦しい?
いや、そうじゃない。
心地良すぎて
おかしくなりそうで。

息さえ上手くできなくなっていた。

熱い、衝動を受け止めた
杏の体には、いくつもの
紅い印が浮かび上がっていた。

ごしごし、と杏は涙を
手の甲で拭っては
まだ細かに震える体で
横に寝息を立てている
楓の頬に口づけた。

楓も、杏へと神力を分ければ
消耗するのは当たり前だった。

「楓、いつも…ありがとう。もっと、ちゃんと素直に言えたら良いのになぁ。」
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