狐と狸の昔語り。

あきすと

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真っ白に染まる(女装表現ご注意ください)

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ずっと、昔から
一緒に生きてきた。
大切であたたかな命を、
胸に抱いて。
それは、何世紀もの
時を重ねて来た二人だけの
特別な、輝き。

『こうして、正装をした姿は…見ものだな。』

煌龍殿に住まう、時の呪縛から解放された
世話人が、杏の部屋から数人出て行った。

「一世紀に、一回だけの特別だから。」

そうだ、これは大切な
楓との契りを交わすための
儀式。
もしかしたら、異様な光景なのかもしれない。
が、楔がある以上は
続けて行くべき事らしく。

『綺麗だ。まるで、どこぞの姫にも勝る。』
純白、いや
まるで雪のように真っ白な
着物を着せられ
それは、花嫁が袖を通すような意味合いさえも感じさせた。

「この着物だけは、袖を通す度に緊張する。どうしてかな?」

『仕方ないな。それにしても…化粧も映えて、紅も申し分無い。』

まるで、男女の婚姻を表すような儀式だ。
楓の正装も、幾度と無く見てきたけれど
やっぱり胸をうつ。
目を奪われて、言葉さえ掛けにくい。
それくらいの雰囲気は
元来持ち合わせていたけれど、今日は特に…だ。

「…指輪の代わりに、鈴を交換する。なんて、でも…ちょっと素敵かも。鈴は浄めの作用もあるし。」

『これで、いくつ交換してきたか。朱色の組紐に、金の鈴。』

儀式と言っても、楓と杏にしてみれば内容など
いつもと変わりが無く
寝台で行なわれる蜜時に
ついては、衣装が違うだけ。

「する事は、変わらないからね。」
『そう、言うな。』
真っさらな打ち掛けを眺める楓の視線がいつもより
穏やかで、杏は気恥ずかしい気持ちを隠すように
目を伏せた。

目尻に入れた、赤が
妖艶さを際立たせている。
『いつもの、垂れ目が…赤が入るだけで、こんなにも変わるのか。』

「そんな…。でも、緊張解してくれるのはいつも楓だったね。」

寝所に焚かれた羅廉香られんこうという、香がある。
それは、人の嗅覚に作用する催淫効果のある香らしく
こうしている間にも、その香りは確実に
吸ってしまっているのだと
思うと、つい弱気になってしまう杏だった。

『そんなに、構えるな。何も…違う相手とする訳じゃあるまいし。』

大丈夫だ、と優しく額に口づけられてしまうと
後は、ただ流されてしまうだけなのを杏は自分で誰より分かっていた。

「うん。平気…。楓しか、俺は知らないから。」

そういって、いつもの
朗らかな笑顔を浮かべる杏を寝台に沈める。

『部屋中に、この羅廉香がいき渡ったようだな。さぁー…杏、どうする?』

優しい言葉で、簡単に追い詰めたような錯覚を覚える。
「あー…。ん、」
うっすらと開けた口に楓は
自らの指を挿し入れる。

『柔らかい…熱いな』

頬を赤く染めながら
口内を蹂躙されている
杏を見て、楓の支配欲は
徐々に満たされていく。
「ん…ふっ…」
柔らかく、少し厚みがある
舌に指が触れる。

『どこもかしこも…お前のは物欲しげだな。』

とろっ、と唾液が絡んだ指が口内から引き上げられる。

「やだぁ…っ、」
『嫌じゃ、ない。まだ何もしてないだろうが…。』

苦笑して、指に絡んだ唾液を楓は当たり前みたいな顔で舐め取った。

「馬鹿…恥ずかしいから。」
『これくらいでか?じゃあ今からする事は、恥ずかしくは無いのか?』

意地悪な表情で、楓が着物の裾部分に手を忍ばせる。

「だって…、楓が変な事するから」
滑らかな肌触りの脚をゆっくり形どるように楓が
手のひら全体で撫で上げる。

『怖いことはしないが、変な事はしていく…。』

「ぅわ、わ…ぞくぞくするよぉっ」
『…?あれ、お前腰巻きしてるのか』
「えっ…、ぁ…そうだよ。さすがに恥ずかしいから。」

『…奥ゆかしいな、杏は。』
「……ゃ、どこ触ってんの…っ、楓ってば。」

抵抗するように、杏が楓の手首を捕まえようとする。
『杏の心を掻き乱したい。勿論、身体もだ。』

「真顔で何言ってんの…っ、やだぁ…っ!」

これ以上無いくらいに、赤くなった頬で杏は
楓に臀部を触られた。




『……』
「へっ、くしん!」
『大丈夫か、羽織ってろ。』
楓は、杏の隣で煙管をくゆらせている。
ばさっ、と杏の肩に羽織りを掛ける。
「ね…、まだ疼いてる。」
『お前、布団汚すなよ?』
「分かってるよ。…はぁ、でもちょっとフワフワして気持ちよかった。」

余韻に浸る杏を一瞥して、
ふぅっ、と楓が煙を吐く。

『そうか。』
「楓は…気持ちよかった?」
『まぁ…お前と同じくらいには、な。』

曖昧な表現だったが、
無垢さを失わない杏の
頬に楓が口づける。

「くすぐったいよ」
煙管を盆に置き、しっかり
杏を抱きすくめる。

『ん…。お前を抱くとやはり気が満ちるな。』
「楓、寒くない?」

一つの布団の中、
身を寄せる杏の腰を抱く。
こんなにも近い距離。
杏の瞳が、くりくりと愛らしい。元は、タヌキで幼い顔立ちが余計にそれを助長している。

「ん…くっつくの大好きだなぁ。だって、こんなに自然で、しっくりするんだから。」
『ずっと、離れずにいたら…そうなるのかもしれないな。それは、これから先も続くだろう?』

「うん。ずっとだよ。これからも、一世紀に一度はこの姿で…」
『こう。ふと…思う。こんなに想いが通じ合って、事もしている。しかも互いに神だ。実は、子供がいたらどうする?』

思ってもみない楓の言葉に杏も、目を丸くする。

「えっ、その言い方だったら…もしかして本当に?」

『葵に昔聞いた話では、できる事は滅多に無いが、できない事も無いと。しかし産まれたりしても、目に見えない小さな小さな自然界の精霊ほどのものらしい。』

「わぁ…知らなかった。ちょっと感動じゃない?もし産まれてたら。だって、何かを残せるんだよね。」

『もしかしたら、この儀式も…それを予測してできたのかもしれないな。』

「でも、妊娠ってわけじゃないんでしょ?」
『人のとは違うな。詳しくは俺も分からない。という事だから、おそらく杏はまだそれは無いんだろう。』

「まぁ、半妖だしね…これ以上複雑な体になられたらちょっと困っちゃうかも。」
『そうだな、まぁこればっかりは…拍子だから。』

「本当だね。でも、そう聞くと…少しは営みが役に立つんだったら、ちょっと頑張っちゃおうかなぁって思う。」

耳を疑うような発言に
楓が、口をポカンとあけている。

それは、そうだろう。

なにしろ、あの杏の口から
営みを頑張るなどという言葉が聞けるとは。

『頑張るのか?』
「まぁ、…少しは?」
『どう頑張るつもりだ。』

えっ、と頬を赤くしながら視線を外す杏に
これで、そんな大口叩いてるのがなぁ。
と、思いながらも聞いてみる。

「できるだけ…素直になる、とか?」
『そっちか。』
「でも、結局はそこなんだよね。」
『俺が言うのも何だが…ちゃんと、気持ち良さそうだけどな?杏。お前の我慢が限界な時の顔とかこえは本当、応える。』

「もぉっ、何思い出してるんだよ。だって、楓がしつこいし…長い時間だからそりゃあそうなるよ。」

杏が、楓と手を握って自分の方へと寄せる。

『これで、しばらくは神力はもつだろうな。』

「…本当。でもさ、こうするのが交身の儀なのは分かるよ?一体何が神力の元になってるんだろね。」

不思議そうにしている杏に
楓が視線を合わせ

『お前…まさか今まで知らずにしていたのか』

「?へ、そうだよ。楓分かってるんなら教えて。」

流石に、今更言いづらいだろう。
まさか、大切なのは行為自体では無くて
中身にあるという事は…。
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