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本章
Episode21/哀傷
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不破の大きな手があかりの身体に触れる。不破の熱い息が首筋を撫でると全身が震えた。心地よくてもっとと擦り寄ってしまう自分が恥ずかしかった。
抱きしめられたいと思う。
抱きしめて……そう思ってしまうあかりの手がそっと不破の腕に伸びた。
不破の掌が徐々に上へと伸びてくる。まさぐるように不破の手があかりの身体の上を這いまわるからどんどん胸の鼓動が速まっていく。
そこでようやくハッとする。触れられる心地よさに流されていた。あかりには伝えねばならないことがある。
(あ……言わないと……)
頭の中ではそう思った。もしかしたら今自分が妊娠している可能性があるかもしれないと。それなのに触れられたら途端に体が悦んで疼きだしたから、抱き締められたい欲求に負けてなかなか言葉に出来ずにいる。
「なぁ、今夜ホテル行こ」
「――え?」
てっきりこのまま抱かれると思ったあかりは不破のセリフに驚いた声を上げた。甘く囁くように耳元でそう言われて思わず固まってしまった。
オフィスでするのに慣れたわけではないけれど、人もいない深夜のオフィス、不破がそれを求めているならもうそのままの流れでするのだと。
「えってなに?」
「え、だって……」
「なに?ここがいいの?会社でする方が好きとか?」
「ち、違います!そんなわざわざって……」
「なんでだよ。こんなところのがわざわざだろ。もっとちゃんとゆっくり抱きたい。最近忙しくて構ってないし、あかりのこと」
そう言ってくちびるを塞いでくる。
いつもの甘い、深いくちづけだ。溶かされるような熱いキス、あかりの脳を狂わせる魅惑のキス――。
(やだ……そんな風に優しい言葉、言わないでほしい)
勘違いが止められない。部屋に誘われた時と同じだ。自分が不破にとって特別ななにかになったような気持ちを抱いてしまう。また、そう思う自分が嫌だった。こんな不破の気持ちを利用している女に優しくなんかする必要ない、大事に扱われると余計胸が苦しくなる。何度も何度も言い聞かせてそれも無意味だと思い知らされている。
「ここで、いい、です――」
「え?」
「そんな……疲れてるのに、私を構うとかそんな……そんなの不要です、もうここでしてください」
あかりは胸が詰まる思いでそう言った。ハッキリ言って胸の中では泣きそうだった。
「――なにそれ」
はぁ――、と不破がため息をこぼしたら抱きしめられていた腕の拘束が解かれてトンッーと身体を離された。
「……」
そんな風に身体を離されたのは初めてだった。突き放すとは違う、手が離れた。軽く……冷たく。
「いい、もう遅いし帰れ」
「――え」
「俺はまだやることあるから。お疲れ」
砂糖もまだ入れていないコーヒーを手に取って、不破はデスクに戻っていった。あかりはそこに独り残されて動けずにいる。
振り向かない不破の背中からは明らかに不機嫌なオーラが出て空気が張りつめている。
(怒らせた……)
でも怒る理由がわからない。
優しくされてそれを素直に受け止めて喜べと言うのだろうか?そんなことまで頼んでいない、不破がそこまであかりに尽くす必要こそない。
あかりは不破に何も返せない、この身体しか捧げられない、なのに――。
拒んでいないのに拒まれた、不破の求めたときに応えられなかった、それがあかりの心をまた締め付けていく。
(どうしたらいいかわからない……どうしたらよかったの?わかんない)
会えてうれしかった気持ちが嘘のようにしぼんで泣きそうになった。この関係が終わるときは、お腹に子を宿したとき、あかりはそう思っていた。
(でもそうじゃないかもしれない……)
案外いつでも終わるものなのか、あかりはそう思った。
不破が抱きたくないと思えば終わる。不破がもういいと突き放せばそれだけのことだ。
今さらだ、今になってやっと気づく。
あかりはもう不破が好きだ。
あなたの子供が欲しいです、産ませてください、認知もしてください。
そしてあなたも好きなんです。
そんなことが言えるわけがない。
そんな女を孕ませたくはないだろう。不破はそんな女はきっと求めていないはずだ。
結婚も考えていない、都合のいい女が欲しいと言ってたじゃないか。
だから関係が続いた、関係が始まった。
自分たちの中で気持ちを通わせる関係性なんか初めからなかったし、それこそ不要なものだ。
なぜ気づけなかったのだろう。
不破を好きになるかもしれないと、好きになると、なぜ考えることもしなかったのだろう。
(馬鹿だ、私――)
気持ちを確信したらいてもたってもいられなくなり、あかりはそのまま逃げるように黙ってオフィスをあとにした。小走りで廊下を抜けるとドロッとした不快感を感じて下腹部の異変に気付く。
(――あ……)
自分の意志では止められない流れ出てくるモノ、それを感じたら途端に湧き上がってくるお腹の鈍い痛み。滲んでいた瞳からぽろりと涙が零れ落ちて、あかりは静かな廊下で立ちすくんで泣いてしまった。
抱きしめられたいと思う。
抱きしめて……そう思ってしまうあかりの手がそっと不破の腕に伸びた。
不破の掌が徐々に上へと伸びてくる。まさぐるように不破の手があかりの身体の上を這いまわるからどんどん胸の鼓動が速まっていく。
そこでようやくハッとする。触れられる心地よさに流されていた。あかりには伝えねばならないことがある。
(あ……言わないと……)
頭の中ではそう思った。もしかしたら今自分が妊娠している可能性があるかもしれないと。それなのに触れられたら途端に体が悦んで疼きだしたから、抱き締められたい欲求に負けてなかなか言葉に出来ずにいる。
「なぁ、今夜ホテル行こ」
「――え?」
てっきりこのまま抱かれると思ったあかりは不破のセリフに驚いた声を上げた。甘く囁くように耳元でそう言われて思わず固まってしまった。
オフィスでするのに慣れたわけではないけれど、人もいない深夜のオフィス、不破がそれを求めているならもうそのままの流れでするのだと。
「えってなに?」
「え、だって……」
「なに?ここがいいの?会社でする方が好きとか?」
「ち、違います!そんなわざわざって……」
「なんでだよ。こんなところのがわざわざだろ。もっとちゃんとゆっくり抱きたい。最近忙しくて構ってないし、あかりのこと」
そう言ってくちびるを塞いでくる。
いつもの甘い、深いくちづけだ。溶かされるような熱いキス、あかりの脳を狂わせる魅惑のキス――。
(やだ……そんな風に優しい言葉、言わないでほしい)
勘違いが止められない。部屋に誘われた時と同じだ。自分が不破にとって特別ななにかになったような気持ちを抱いてしまう。また、そう思う自分が嫌だった。こんな不破の気持ちを利用している女に優しくなんかする必要ない、大事に扱われると余計胸が苦しくなる。何度も何度も言い聞かせてそれも無意味だと思い知らされている。
「ここで、いい、です――」
「え?」
「そんな……疲れてるのに、私を構うとかそんな……そんなの不要です、もうここでしてください」
あかりは胸が詰まる思いでそう言った。ハッキリ言って胸の中では泣きそうだった。
「――なにそれ」
はぁ――、と不破がため息をこぼしたら抱きしめられていた腕の拘束が解かれてトンッーと身体を離された。
「……」
そんな風に身体を離されたのは初めてだった。突き放すとは違う、手が離れた。軽く……冷たく。
「いい、もう遅いし帰れ」
「――え」
「俺はまだやることあるから。お疲れ」
砂糖もまだ入れていないコーヒーを手に取って、不破はデスクに戻っていった。あかりはそこに独り残されて動けずにいる。
振り向かない不破の背中からは明らかに不機嫌なオーラが出て空気が張りつめている。
(怒らせた……)
でも怒る理由がわからない。
優しくされてそれを素直に受け止めて喜べと言うのだろうか?そんなことまで頼んでいない、不破がそこまであかりに尽くす必要こそない。
あかりは不破に何も返せない、この身体しか捧げられない、なのに――。
拒んでいないのに拒まれた、不破の求めたときに応えられなかった、それがあかりの心をまた締め付けていく。
(どうしたらいいかわからない……どうしたらよかったの?わかんない)
会えてうれしかった気持ちが嘘のようにしぼんで泣きそうになった。この関係が終わるときは、お腹に子を宿したとき、あかりはそう思っていた。
(でもそうじゃないかもしれない……)
案外いつでも終わるものなのか、あかりはそう思った。
不破が抱きたくないと思えば終わる。不破がもういいと突き放せばそれだけのことだ。
今さらだ、今になってやっと気づく。
あかりはもう不破が好きだ。
あなたの子供が欲しいです、産ませてください、認知もしてください。
そしてあなたも好きなんです。
そんなことが言えるわけがない。
そんな女を孕ませたくはないだろう。不破はそんな女はきっと求めていないはずだ。
結婚も考えていない、都合のいい女が欲しいと言ってたじゃないか。
だから関係が続いた、関係が始まった。
自分たちの中で気持ちを通わせる関係性なんか初めからなかったし、それこそ不要なものだ。
なぜ気づけなかったのだろう。
不破を好きになるかもしれないと、好きになると、なぜ考えることもしなかったのだろう。
(馬鹿だ、私――)
気持ちを確信したらいてもたってもいられなくなり、あかりはそのまま逃げるように黙ってオフィスをあとにした。小走りで廊下を抜けるとドロッとした不快感を感じて下腹部の異変に気付く。
(――あ……)
自分の意志では止められない流れ出てくるモノ、それを感じたら途端に湧き上がってくるお腹の鈍い痛み。滲んでいた瞳からぽろりと涙が零れ落ちて、あかりは静かな廊下で立ちすくんで泣いてしまった。
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