47 / 75
エピソード・瑠衣編
11
しおりを挟む
そんなことを思っていた時だ。かけられた声に太刀川はハッとした。
「今日ランチご一緒しません?」
入江の誘いに思考が現実に引き戻される。書類を渡されたままぼんやりしていた太刀川の傍で甘い声で誘ってくる。
時計はもうランチタイムになろうとしていた。事務所内もそんな空気感で席を立つ人間も増えだしている。部署内がざわつき出す、同時にランチタイムのベルが鳴った。わらわらと人が動き出したとき、太刀川の耳に聞きなれた声が事務所内に響いた。
「離れてください!」
太刀川はその声を探すように人ごみの中に目を凝らした。
ざわっとした室内、叫んだ人物を周りの人間が興味深そうに見つめている。人の波を掻き分けると息を乱した瑠衣が立っていた。
「太刀川さんから離れてっ……太刀川さんは、私のです!」
入江は瑠衣の言葉に目を見開いたが、その言葉に驚いたのはむしろ太刀川の方だ。
「私のだからっ……!入江さんにも、誰にもあげない!」
泣きそうになりながら叫ぶ瑠衣。
「な、によ……あの子、うそでしょ?」
瑠衣がこんな行動をとるとは予測していなかったのか。隠れて泣いて太刀川を思って身を引くと踏んでいた。いつまでも別れないなら米田を使って追い詰めさせてやろうとまで思っていた。なのに、こんな事務所の人がいる中で気持ちをぶつけてくるとは。
「……おもしれーな、あいつ」
「……は?」
「見えないところで虐めてないで、あいつくらい堂々と喧嘩売って来いよ」
太刀川は驚愕している入江を見下ろすように見つめてそう言うと、入江はカッとしたように頬を染めた。
「へぇー、太刀川って若槻さんと付き合ってたの?」
ワザとらしくも大げさに声を上げた人物に太刀川は視線を向けた。同期の白鹿が楽しそうに微笑んでいる。
「拡散しとこうか?」
「フッ……スピーカーつけて歩けよ?」
太刀川の返しに白鹿はクスッと笑った。白鹿が言うまでもなく、多分社内中に広がる。営業部の事務所、人はたくさんいたし社内で繋がる人間が山ほどいる。情報を拾ってくる人間も多い分、広める人間も当然多い。
――黒王子は特別な誰かは作らない。
この噂はこの日で一瞬で消滅した。
「今日ランチご一緒しません?」
入江の誘いに思考が現実に引き戻される。書類を渡されたままぼんやりしていた太刀川の傍で甘い声で誘ってくる。
時計はもうランチタイムになろうとしていた。事務所内もそんな空気感で席を立つ人間も増えだしている。部署内がざわつき出す、同時にランチタイムのベルが鳴った。わらわらと人が動き出したとき、太刀川の耳に聞きなれた声が事務所内に響いた。
「離れてください!」
太刀川はその声を探すように人ごみの中に目を凝らした。
ざわっとした室内、叫んだ人物を周りの人間が興味深そうに見つめている。人の波を掻き分けると息を乱した瑠衣が立っていた。
「太刀川さんから離れてっ……太刀川さんは、私のです!」
入江は瑠衣の言葉に目を見開いたが、その言葉に驚いたのはむしろ太刀川の方だ。
「私のだからっ……!入江さんにも、誰にもあげない!」
泣きそうになりながら叫ぶ瑠衣。
「な、によ……あの子、うそでしょ?」
瑠衣がこんな行動をとるとは予測していなかったのか。隠れて泣いて太刀川を思って身を引くと踏んでいた。いつまでも別れないなら米田を使って追い詰めさせてやろうとまで思っていた。なのに、こんな事務所の人がいる中で気持ちをぶつけてくるとは。
「……おもしれーな、あいつ」
「……は?」
「見えないところで虐めてないで、あいつくらい堂々と喧嘩売って来いよ」
太刀川は驚愕している入江を見下ろすように見つめてそう言うと、入江はカッとしたように頬を染めた。
「へぇー、太刀川って若槻さんと付き合ってたの?」
ワザとらしくも大げさに声を上げた人物に太刀川は視線を向けた。同期の白鹿が楽しそうに微笑んでいる。
「拡散しとこうか?」
「フッ……スピーカーつけて歩けよ?」
太刀川の返しに白鹿はクスッと笑った。白鹿が言うまでもなく、多分社内中に広がる。営業部の事務所、人はたくさんいたし社内で繋がる人間が山ほどいる。情報を拾ってくる人間も多い分、広める人間も当然多い。
――黒王子は特別な誰かは作らない。
この噂はこの日で一瞬で消滅した。
42
あなたにおすすめの小説
17歳男子高生と32歳主婦の境界線
MisakiNonagase
恋愛
32歳の主婦・加恋。冷え切った家庭で孤独に苛まれる彼女を救い出したのは、ネットの向こう側にいた二十歳(はたち)と偽っていた17歳の少年・晴人だった。
「未成年との不倫」という、社会から断罪されるべき背徳。それでも二人は、震える手で未来への約束を交わす。少年が大学生になり、社会人となり、守られる存在から「守る男」へと成長していく中で、加恋は自らの手で「妻」という仮面を脱ぎ捨てていく…
【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜
来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、
疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。
無愛想で冷静な上司・東條崇雅。
その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、
仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。
けれど――
そこから、彼の態度は変わり始めた。
苦手な仕事から外され、
負担を減らされ、
静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。
「辞めるのは認めない」
そんな言葉すらないのに、
無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。
これは愛?
それともただの執着?
じれじれと、甘く、不器用に。
二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。
無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
甘い束縛
はるきりょう
恋愛
今日こそは言う。そう心に決め、伊達優菜は拳を握りしめた。私には時間がないのだと。もう、気づけば、歳は27を数えるほどになっていた。人並みに結婚し、子どもを産みたい。それを思えば、「若い」なんて言葉はもうすぐ使えなくなる。このあたりが潮時だった。
※小説家なろうサイト様にも載せています。
還暦の性 若い彼との恋愛模様
MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。
そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。
その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。
全7話
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる