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エピソード・瑠衣編

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 入江を見つめる太刀川がいる、しかしその瞳に優しさの色は感じない。それでも入江はそれを真っ直ぐ見つめ返すのだからなかなか逞しい。

「言いたいこと何?」
 取り繕うのも面倒になってきた。感情の波が起きて太刀川の声はとてつもなく低い。

「いいなぁ、若槻さん。そんなに守りたいんだ」
 入江はつまらなそうにそう言って視線を床に落とした。その感じが諦めてる風にはとても見えない太刀川は瞬間で不快感を得た。エレベーターが止まって人が降りてきたことでその場の空気が乱れた。入江はそのまま人の流れに乗って去ってしまい中途半端に会話は終わってしまった。

 入江は米田を使って瑠衣に何か危害を加えるつもりかもしれない。守るために黙っていた関係だ、太刀川に好意を寄せるタイプの女はどちらかというと自信のある攻撃的な雰囲気が多い。言葉や態度で露骨に責めてくる、それに泣いている女子社員は各部署にいた。
 瑠衣の様子がおかしかった。なにかあったのは明白だった。それでも自分にこぼしてくることはない、相談もしない。抱いているときはあんなに自分を求めるように手を伸ばしてくるのになぜ自分の心の内を話すときはふさぎ込むのか。

 瑠衣の気持ちがちゃんと掴めない、太刀川はそれに苛ついていた。
 自分を好きだと言った瑠衣を疑うわけじゃない、でも関係の始め方がおかしかった。流されるように自分を好きにならせた、その罪悪感が太刀川をずっと責めている。だから抱くときは必要以上に甘やかした、自分なしじゃいれないように、ほかの誰でも足りないように、好きだと囁いて自惚れさせるほど甘く抱いた。

 でも瑠衣はまだ……太刀川に心の底にある気持ちを素直に吐き出せずにいる、それが無性に太刀川を歯がゆくさせていた。

 言わせたかった、瑠衣の気持ちを、心の中を。なにも隠さず、なんでも吐けばいいのに、太刀川はただずっとそう思っているのだ。

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