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続編/高宮過去編
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細身で鎖骨当たりのふわっとした髪の毛を緩くハーフアップでまとめている。美しい落ち感と適度な張りをあわせもち、肉感を拾わないようなしなやかな生地のネイビーのセットアップ。シンプルでありながらナチュラルな光沢感と、スラリとしたシルエットバランスで凛とした印象がより目を引いた。
(さすが……駿くんのお母さん!!めちゃくちゃ綺麗な人!!!)
キャメル色の革のバッグにストールが巻かれていてそのアクセントがまたお洒落だ。そのバッグから携帯を取り出して落ち着かない様子のその人に、私はあわてて駆け寄った。
「遅れてすみません!高宮さんでいらっしゃいますか?」
「あ、はい。美山さん?私が勝手に早く着いただけで急かせましたね……ごめんなさいね」
「いえ、お待たせしてすみません、今日はお時間作っていただいて本当にありがとうございます。初めまして、美山燈子と申します」
「駿の母の高宮美羽です、こちらこそこんな機会をどうもありがとうございます。お会いできて嬉しいです」
そう言って笑ってくれた顔が目を奪われるほど綺麗で――。
(駿くんって、お母さん似……)
髪の色素は違うけどふわんとした髪質はきっと同じ。スラッとした体型も柔らかい目元もよく似ている。醸し出される穏やかな雰囲気も同性なのにドキドキするのはきっと彼と似ているからだ。
予約されていた個室に案内されて二人席に着く。掘りごたつの部屋でゆっくりできそうな静かなお店だった。
「予約まで任せてしまって……本当にありがとう、お忙しいのにごめんなさいね」
「いいえ、むしろ遠いところからこちらまで来ていただいて恐縮してます。ありがとうございます」
頭を下げると笑われた。
「こんなしっかりしたお嬢さんと一緒にいて……心配するようなことはもうなにもないですね」
「え?」
「結構雑でしょう?あの子……大変じゃないですか?」
「――た、大変です!!もうそれは大変で……お母様もご存じですよね?駿くんが実はとんでもなくめんどくさがり屋とか、基本だらだらした感じの人だって!」
勢い込んで言ったらまた笑われた。
「そんなに大変なんですか?きっともう美山さんの前では気を許してしまってるんでしょうね……あの子は昔からしっかりした子で我儘なんか本当に言わない子だったんですけど……生活面が少し鈍いと言うか」
「お母さんの知っている駿くんの話を聞きたくてお会いしたかったんです」
「え?」
「お話し聞かせていただけませんか?どんな話でもいいんです、小さい頃のこと、お母さんが知っている駿くんを私に教えてくださいませんか?」
「……私が知っているあの子のことなんか本当に少しで」
「それでもいいんです、お母さんの知っている駿くんが知りたいんです、お願いします」
そう頭を下げたら目の前で小さく息を吐く声がした。顔を上げたら困ったように眉を下げているお母さんの寂しそうな瞳とぶつかった。
「美山さんは……どこまでうちの家庭の話をご存じなのかしら。あの子はあなたにどれだけの話をしていますか?」
「……たいして聞いていません。颯くん……弟さんが体が弱かったこととお母さんが看病につきっきりだったこと、お父さんが忙しい人だったこと、本当にそれくらいです」
伏せめがちな瞳は憂いを帯びていて、話すのが苦しそうなほど綺麗な顔が歪み始めるが、それでもどこか吐き出したい気持ちも感じた。
お母さんの気持ちの蓋はもうずっと開いているのではないか、そんな気がする。でもそれをどこにも吐けずにいた、きっと伝えたかった相手は私にじゃないだろう。
「――母親らしいことはなにも出来ないまま、あの子は家を出ました。それから一度も連絡を取らず、私はもうあの子にとって何者でもない存在なのだと思います。その責任は私にあるし受け入れているつもりです。それでも時が経つほどあの子の真っ直ぐな瞳が胸を刺すのです。私をずっと責め続ける……でもそれをどうしようもできなくて気づくと十三年も時間が経っていました」
伏せていた瞳が私を見つめてきた。
優しい、そして寂しそうな瞳は静かに波打っていて、お母さんの気持ちを映すように一滴の涙が零れ落ちた。
「あの子は元気で暮らしていますか?今、幸せにいますか?あの子をひとりにせず、傍にいてくれてありがとう」
涙をこぼしてそう言ったお母さんを見て思う。
――彼が愛されていないわけがない、この涙から愛以外感じないと。
(さすが……駿くんのお母さん!!めちゃくちゃ綺麗な人!!!)
キャメル色の革のバッグにストールが巻かれていてそのアクセントがまたお洒落だ。そのバッグから携帯を取り出して落ち着かない様子のその人に、私はあわてて駆け寄った。
「遅れてすみません!高宮さんでいらっしゃいますか?」
「あ、はい。美山さん?私が勝手に早く着いただけで急かせましたね……ごめんなさいね」
「いえ、お待たせしてすみません、今日はお時間作っていただいて本当にありがとうございます。初めまして、美山燈子と申します」
「駿の母の高宮美羽です、こちらこそこんな機会をどうもありがとうございます。お会いできて嬉しいです」
そう言って笑ってくれた顔が目を奪われるほど綺麗で――。
(駿くんって、お母さん似……)
髪の色素は違うけどふわんとした髪質はきっと同じ。スラッとした体型も柔らかい目元もよく似ている。醸し出される穏やかな雰囲気も同性なのにドキドキするのはきっと彼と似ているからだ。
予約されていた個室に案内されて二人席に着く。掘りごたつの部屋でゆっくりできそうな静かなお店だった。
「予約まで任せてしまって……本当にありがとう、お忙しいのにごめんなさいね」
「いいえ、むしろ遠いところからこちらまで来ていただいて恐縮してます。ありがとうございます」
頭を下げると笑われた。
「こんなしっかりしたお嬢さんと一緒にいて……心配するようなことはもうなにもないですね」
「え?」
「結構雑でしょう?あの子……大変じゃないですか?」
「――た、大変です!!もうそれは大変で……お母様もご存じですよね?駿くんが実はとんでもなくめんどくさがり屋とか、基本だらだらした感じの人だって!」
勢い込んで言ったらまた笑われた。
「そんなに大変なんですか?きっともう美山さんの前では気を許してしまってるんでしょうね……あの子は昔からしっかりした子で我儘なんか本当に言わない子だったんですけど……生活面が少し鈍いと言うか」
「お母さんの知っている駿くんの話を聞きたくてお会いしたかったんです」
「え?」
「お話し聞かせていただけませんか?どんな話でもいいんです、小さい頃のこと、お母さんが知っている駿くんを私に教えてくださいませんか?」
「……私が知っているあの子のことなんか本当に少しで」
「それでもいいんです、お母さんの知っている駿くんが知りたいんです、お願いします」
そう頭を下げたら目の前で小さく息を吐く声がした。顔を上げたら困ったように眉を下げているお母さんの寂しそうな瞳とぶつかった。
「美山さんは……どこまでうちの家庭の話をご存じなのかしら。あの子はあなたにどれだけの話をしていますか?」
「……たいして聞いていません。颯くん……弟さんが体が弱かったこととお母さんが看病につきっきりだったこと、お父さんが忙しい人だったこと、本当にそれくらいです」
伏せめがちな瞳は憂いを帯びていて、話すのが苦しそうなほど綺麗な顔が歪み始めるが、それでもどこか吐き出したい気持ちも感じた。
お母さんの気持ちの蓋はもうずっと開いているのではないか、そんな気がする。でもそれをどこにも吐けずにいた、きっと伝えたかった相手は私にじゃないだろう。
「――母親らしいことはなにも出来ないまま、あの子は家を出ました。それから一度も連絡を取らず、私はもうあの子にとって何者でもない存在なのだと思います。その責任は私にあるし受け入れているつもりです。それでも時が経つほどあの子の真っ直ぐな瞳が胸を刺すのです。私をずっと責め続ける……でもそれをどうしようもできなくて気づくと十三年も時間が経っていました」
伏せていた瞳が私を見つめてきた。
優しい、そして寂しそうな瞳は静かに波打っていて、お母さんの気持ちを映すように一滴の涙が零れ落ちた。
「あの子は元気で暮らしていますか?今、幸せにいますか?あの子をひとりにせず、傍にいてくれてありがとう」
涙をこぼしてそう言ったお母さんを見て思う。
――彼が愛されていないわけがない、この涙から愛以外感じないと。
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