109 / 145
続編/高宮過去編
3
しおりを挟む
いつも一方的に送られてくる父親からのメールに初めて自分から投げた。
【母と連絡がとりたいから連絡先を知りたい】
色々迷って何回も文面を書き直してどれも納得できなくて、結局送ったメール文がこれだった。彼女や結婚のこと、いろんなことを書いてもどれもなんだか宙に浮くような感じがして文字に出来なかった。
文面は自分の気持ちを必ず相手が同じように受け取ってもらえるものでもない、勝手に独り歩きされるのは困る、だから伝えたい一番の内容だけを送った。
打ち合わせが長引いて定時を過ぎていた。事務所に戻る前に喫煙ルームに寄ってタバコを咥えてなんとなく携帯を取り出したら知らない番号から着信がある。
(え、もう?)
しかもいきなり着信がかかってきている、気持ちが全然追い付きそうにない。
(え、え、いきなりかけてくんの?怖いな、これがあの人の番号ってこと?)
受信メールを見ても父親から返信がない。
(えー、返信ないとかなに、おかしいだろー、てか番号教えてくれるだけでいいのになんで向こうからかけてくんだ、こっちに主導権を握らせろ)
銜えタバコのまま携帯に夢中だった俺に声をかけてきたのは和泉だった。
「火、ついてないけど」
「あ、あー、あぁ……」
「なに?火ないの?」
「あるけど、それどころじゃなかった」
そう言ったら自分の分と一緒に俺のにも火をつけてくれる和泉。友達が多い方ではないけれど、職場で気の合うヤツらと知り合えたのはラッキーだったと思う。
無駄なことは言わず、一定の距離があるのに分かり合える仲、それはなかなか手にいれたくても縁がないと得られない。
「結局どーなった?家族会議」
「あー、まだ半逃げ」
「久世とか佐藤ってさー、家族とこじれた経験が絶対なさそー」
それはなんとなく思う。
「俺も家族とかマジめんどーって思うから高宮の気持ちよくわかるしなおさら結婚興味なくなった」
「親とこじれてんの?」
「俺は親って言うより兄貴かなー、マジ無理」
「へぇ、和泉って弟なんだ」
でもなんかそんな感じ。世渡り上手だし下特有の甘え方と器用さを持っている気がする。
「兄弟ってすげーうざいわ」
和泉の言葉に颯を思い浮かべる。俺の記憶の中にいる颯はもうずっと幼くて子供のころのまま。弱弱しくて、いつも咳き込んで母親にごめんねと泣いて謝っていた。
「ぼくのせいでごめんね、いつもごめんね」
そうやって母親に謝り続ける弟がやたら鼻について俺を苛つかせた。その言葉を言ったところで誰も救われない、事態が変わるわけでもないし、お前の咳は止まらない。
(気休めみたいな言葉を吐くな)
いつも俺は咳き込む弟にそんな乱暴な気持ちを抱いて見つめていた。
ぜぇぜぇ吐き出す息の中で見つめる弟の瞳は潤んでいた、幼い弟はその瞳でまっすぐ俺を見つめながら純粋な声で問いかけてきた。
「お兄ちゃんは、僕のことが嫌いなんでしょ」
嫌いになれたら楽だった、なのに弟は俺にそう言ったのだ。
【母と連絡がとりたいから連絡先を知りたい】
色々迷って何回も文面を書き直してどれも納得できなくて、結局送ったメール文がこれだった。彼女や結婚のこと、いろんなことを書いてもどれもなんだか宙に浮くような感じがして文字に出来なかった。
文面は自分の気持ちを必ず相手が同じように受け取ってもらえるものでもない、勝手に独り歩きされるのは困る、だから伝えたい一番の内容だけを送った。
打ち合わせが長引いて定時を過ぎていた。事務所に戻る前に喫煙ルームに寄ってタバコを咥えてなんとなく携帯を取り出したら知らない番号から着信がある。
(え、もう?)
しかもいきなり着信がかかってきている、気持ちが全然追い付きそうにない。
(え、え、いきなりかけてくんの?怖いな、これがあの人の番号ってこと?)
受信メールを見ても父親から返信がない。
(えー、返信ないとかなに、おかしいだろー、てか番号教えてくれるだけでいいのになんで向こうからかけてくんだ、こっちに主導権を握らせろ)
銜えタバコのまま携帯に夢中だった俺に声をかけてきたのは和泉だった。
「火、ついてないけど」
「あ、あー、あぁ……」
「なに?火ないの?」
「あるけど、それどころじゃなかった」
そう言ったら自分の分と一緒に俺のにも火をつけてくれる和泉。友達が多い方ではないけれど、職場で気の合うヤツらと知り合えたのはラッキーだったと思う。
無駄なことは言わず、一定の距離があるのに分かり合える仲、それはなかなか手にいれたくても縁がないと得られない。
「結局どーなった?家族会議」
「あー、まだ半逃げ」
「久世とか佐藤ってさー、家族とこじれた経験が絶対なさそー」
それはなんとなく思う。
「俺も家族とかマジめんどーって思うから高宮の気持ちよくわかるしなおさら結婚興味なくなった」
「親とこじれてんの?」
「俺は親って言うより兄貴かなー、マジ無理」
「へぇ、和泉って弟なんだ」
でもなんかそんな感じ。世渡り上手だし下特有の甘え方と器用さを持っている気がする。
「兄弟ってすげーうざいわ」
和泉の言葉に颯を思い浮かべる。俺の記憶の中にいる颯はもうずっと幼くて子供のころのまま。弱弱しくて、いつも咳き込んで母親にごめんねと泣いて謝っていた。
「ぼくのせいでごめんね、いつもごめんね」
そうやって母親に謝り続ける弟がやたら鼻について俺を苛つかせた。その言葉を言ったところで誰も救われない、事態が変わるわけでもないし、お前の咳は止まらない。
(気休めみたいな言葉を吐くな)
いつも俺は咳き込む弟にそんな乱暴な気持ちを抱いて見つめていた。
ぜぇぜぇ吐き出す息の中で見つめる弟の瞳は潤んでいた、幼い弟はその瞳でまっすぐ俺を見つめながら純粋な声で問いかけてきた。
「お兄ちゃんは、僕のことが嫌いなんでしょ」
嫌いになれたら楽だった、なのに弟は俺にそう言ったのだ。
11
お気に入りに追加
190
あなたにおすすめの小説
ヤンデレエリートの執愛婚で懐妊させられます
沖田弥子
恋愛
職場の後輩に恋人を略奪された澪。終業後に堪えきれず泣いていたところを、営業部のエリート社員、天王寺明夜に見つかってしまう。彼に優しく慰められながら居酒屋で事の顛末を話していたが、なぜか明夜と一夜を過ごすことに――!? 明夜は傷心した自分を慰めてくれただけだ、と考える澪だったが、翌朝「責任をとってほしい」と明夜に迫られ、婚姻届にサインしてしまった。突如始まった新婚生活。明夜は澪の心と身体を幸せで満たしてくれていたが、徐々に明夜のヤンデレな一面が見えてきて――執着強めな旦那様との極上溺愛ラブストーリー!
腹黒上司が実は激甘だった件について。
あさの紅茶
恋愛
私の上司、坪内さん。
彼はヤバいです。
サラサラヘアに甘いマスクで笑った顔はまさに王子様。
まわりからキャーキャー言われてるけど、仕事中の彼は腹黒悪魔だよ。
本当に厳しいんだから。
ことごとく女子を振って泣かせてきたくせに、ここにきて何故か私のことを好きだと言う。
マジで?
意味不明なんだけど。
めっちゃ意地悪なのに、かいま見える優しさにいつしか胸がぎゅっとなってしまうようになった。
素直に甘えたいとさえ思った。
だけど、私はその想いに応えられないよ。
どうしたらいいかわからない…。
**********
この作品は、他のサイトにも掲載しています。


【R18】幼馴染がイケメン過ぎる
ケセラセラ
恋愛
双子の兄弟、陽介と宗介は一卵性の双子でイケメンのお隣さん一つ上。真斗もお隣さんの同級生でイケメン。
幼稚園の頃からずっと仲良しで4人で遊んでいたけど、大学生にもなり他にもお友達や彼氏が欲しいと思うようになった主人公の吉本 華。
幼馴染の関係は壊したくないのに、3人はそうは思ってないようで。
関係が変わる時、歯車が大きく動き出す。

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される
奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。
けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。
そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。
2人の出会いを描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630
2人の誓約の儀を描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

独占欲強めな極上エリートに甘く抱き尽くされました
紡木さぼ
恋愛
旧題:婚約破棄されたワケアリ物件だと思っていた会社の先輩が、実は超優良物件でどろどろに溺愛されてしまう社畜の話
平凡な社畜OLの藤井由奈(ふじいゆな)が残業に勤しんでいると、5年付き合った婚約者と破談になったとの噂があるハイスペ先輩柚木紘人(ゆのきひろと)に声をかけられた。
サシ飲みを経て「会社の先輩後輩」から「飲み仲間」へと昇格し、飲み会中に甘い空気が漂い始める。
恋愛がご無沙汰だった由奈は次第に紘人に心惹かれていき、紘人もまた由奈を可愛がっているようで……
元カノとはどうして別れたの?社内恋愛は面倒?紘人は私のことどう思ってる?
社会人ならではのじれったい片思いの果てに晴れて恋人同士になった2人。
「俺、めちゃくちゃ独占欲強いし、ずっと由奈のこと抱き尽くしたいって思ってた」
ハイスペなのは仕事だけではなく、彼のお家で、オフィスで、旅行先で、どろどろに愛されてしまう。
仕事中はあんなに冷静なのに、由奈のことになると少し甘えん坊になってしまう、紘人とらぶらぶ、元カノの登場でハラハラ。
ざまぁ相手は紘人の元カノです。
ウブな政略妻は、ケダモノ御曹司の執愛に堕とされる
Adria
恋愛
旧題:紳士だと思っていた初恋の人は私への恋心を拗らせた執着系ドSなケダモノでした
ある日、父から持ちかけられた政略結婚の相手は、学生時代からずっと好きだった初恋の人だった。
でも彼は来る縁談の全てを断っている。初恋を実らせたい私は副社長である彼の秘書として働くことを決めた。けれど、何の進展もない日々が過ぎていく。だが、ある日会社に忘れ物をして、それを取りに会社に戻ったことから私たちの関係は急速に変わっていった。
彼を知れば知るほどに、彼が私への恋心を拗らせていることを知って戸惑う反面嬉しさもあり、私への執着を隠さない彼のペースに翻弄されていく……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる