あの夜をもう一度~不器用なイケメンの重すぎる拗らせ愛~

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続編/高宮過去編

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 目が覚めて驚いた。彼女に起こされる前に目が覚めたのは初めてで、それこそ目覚ましやアラームがないのに起きれたことなんか記憶の限りあまりない。
 カチャっと寝室の扉が開いて振り向いた先の彼女は目を真ん丸にして驚いている。


「しゅ、駿くん?!大丈夫?体調悪いの?」
 もう彼女にとって俺が一人で起きていることは病人扱いになるようだ。実際俺自身も驚いてはいるけれど。


「熱?どっかしんどい?大丈夫?」
 明らかに慌てて心配する彼女、その手が顔や額や体をさするから胸が締め付けられた。


 ――あなたのことがかわいくてたまらないの


 前に彼女が言ってくれた言葉は胸に染みた。その染みは一緒にいるほど広がって、暮らしだしたらもう簡単に染まっていく。
 そして俺の冷えて色のなかった心は、彼女があたたかく柔らかい色に染めていってしまった。


 ぎゅっと近づいてきた彼女の体を抱きしめて胸の中に身を沈めるととまどいながらも抱き締め返してくれてまた胸が締め付けられる。


「なんでさ……そんなに親に会いたいわけ?」
「え?」
「燈子さんはなにをそんなにこだわってるの?」
「……こだわってるっていうか……単純に会いたいだけだよ。駿くんのご両親だよ?会いたいじゃない?」
「会ってメリットある?」
 そう聞いたら体を離そうと身をよじり、両腕が俺の腕の中から抜き取られると頬を両手で包まれた。

「損得じゃない、そんな風に考えてないし、考える必要ないと思うんだけど」
「……じゃあどう考えたらいいの」
「生きてるうちしか会えないよ?」
 
 それを言われると辛い、彼女はもう両親にどんなに願っても会えないから。そういう風に言われたら自分がいかに子供じみた我儘を言っているのか思い知らされる。


「いや……ごめん」
「ちがうよ?謝らせたいんじゃない、ただ……会えるから。会えないんじゃなくて会わないだけなら会えるから……それにひとりで会うんじゃないよ?私も一緒だよ?それでもダメなの?」
「……」
「電話でもいい、私がお母さんと話すチャンスもらえない?」
「え?」
 彼女からの意外な提案だった。


「駿くんって一人でも起きれるんだね」
 コーヒーを飲んでいる俺を感慨深そうに見つめながらそう言われるが明日も起きれるかと聞かれても自信はない。


「いや、超レアだよね。夢見が悪かったせいだと思う」
「夢見たの?怖い夢?」
「怖い……かな。母親の夢だった」
「……どんな、って聞いていい?って、朝にする話じゃないよね、もう駿くん出る時間」
 時計を見ながら席を立とうとする彼女の腕を掴まえたら彼女が振り向いて首を傾げる。


「ん?なに?」
「帰ってきたら……話す、夢のことは。あと、電話……」
 しどろもどろな喋りしかできない俺に彼女は静かに傍に立って言葉を待っていてくれる。バツが悪いわけではないけれど、俺は俯いているから彼女の表情は見ることはできないけれどきっと優しい瞳で見つめられているのだと思う。彼女はそういう人だ。


「とりあえず、連絡だけは、する……」
「うん、ありがとう」
 顔を上げた俺をまっすぐ見つめる彼女の表情が溶けるように柔らかく微笑んでいて胸が痛くなるほどだった。


「ありがと、駿くん」

 彼女の望むことをしたい、彼女の願いだけを聞いて生きていきたい。
 俺はそう思って彼女を手に入れたことを思いだした。


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