86 / 145
続編/燈子過去編
2
しおりを挟む
”ごめんなさい”そんな言葉しか言えない私に彼もまた謝ってくるから――。
「いや、気を使わせてたのかなって……俺もごめんね」
彼が謝ることなんかなんにもない。
「黙ってたのは……言いたくなかったから」
「うん」
頭の上で響く優しい声が胸を震わせていく。抱きしめてくれる腕の中があったかくてそれだけでホッとしてきてまた涙が溢れる。
「ごめんね……」
(言えなくて。内緒にしてて……知られたくなかった)
「聞いてもいい?織田さんとのこと。言いたくないなら無理には聞かないけど」
――気になっていました。
そう言われてなんと答えていいかわからなくて困ったというのが本音だった。たった一回しかも雨の中ピアスを探させた女の泣き顔を気にかける意味。愛想にしても理解できなくて、単純に申し訳ない気持ちでいっぱいになった。
「……すみません、不快な思いをさせて」
「そうじゃないです、そうじゃない。なんて言えばいいのか……ただ、本当に気になってたとしか言えなくて。心配……心配という気持ちが大きいかな。溜め込んでいたなにかを吐き出すみたいに泣いていたあなたが心配でした」
「初めて会う方の前であんなに泣くなんて本当にどうかしてますよね。いい大人が情けないです」
「初めて会ったから泣けたんじゃないんですか?僕が知らない相手だから……そんな気がしていたけど」
「違う?」
そう聞かれて戸惑った。
「クライアントでもたくさんいます。親しい人にしか泣けない人も多いけど、見ず知らずの人にだからこぼせることも。美山さんは後者の人なんじゃないかな」
穏やかな声はそう言ってまた私の耳を甘くくすぐり始める。織田さんの声は耳に心地よかった。
とても安心できた。好きだと、単純に思える声だった。
「仕事柄話を聞くのは得意なんです。良かったら聞かせてください。溜め込んでることがあるなら力になれるかもしれないし」
「そんな……私なんかの話なんか……それに、その……お金を支払ったりもできません」
正直にそう言ったら笑われてしまった。
「ごめんなさい、仕事を盾にしたらそうなっちゃうのか。そんな重く受け止めないでください。ただの世間話くらいの気持ちで、これも何かの縁だと思って」
「……縁?」
「僕は美山さんと縁を感じたけどな。ピアスを見つけられたのもそう思いました」
「私も……」
「え?」
「感じました……縁を」
失くしたピアスが戻るのは運命めいた再会を示す。
ブルートパーズには、引き寄せの意味が込められた、引き寄せのパワーが強い石。
――縁を引き寄せるスピリチュアル効果。
母が、私に引き合わせてくれた人かもしれない。その時私はそう思ってしまっていた。
「いや、気を使わせてたのかなって……俺もごめんね」
彼が謝ることなんかなんにもない。
「黙ってたのは……言いたくなかったから」
「うん」
頭の上で響く優しい声が胸を震わせていく。抱きしめてくれる腕の中があったかくてそれだけでホッとしてきてまた涙が溢れる。
「ごめんね……」
(言えなくて。内緒にしてて……知られたくなかった)
「聞いてもいい?織田さんとのこと。言いたくないなら無理には聞かないけど」
――気になっていました。
そう言われてなんと答えていいかわからなくて困ったというのが本音だった。たった一回しかも雨の中ピアスを探させた女の泣き顔を気にかける意味。愛想にしても理解できなくて、単純に申し訳ない気持ちでいっぱいになった。
「……すみません、不快な思いをさせて」
「そうじゃないです、そうじゃない。なんて言えばいいのか……ただ、本当に気になってたとしか言えなくて。心配……心配という気持ちが大きいかな。溜め込んでいたなにかを吐き出すみたいに泣いていたあなたが心配でした」
「初めて会う方の前であんなに泣くなんて本当にどうかしてますよね。いい大人が情けないです」
「初めて会ったから泣けたんじゃないんですか?僕が知らない相手だから……そんな気がしていたけど」
「違う?」
そう聞かれて戸惑った。
「クライアントでもたくさんいます。親しい人にしか泣けない人も多いけど、見ず知らずの人にだからこぼせることも。美山さんは後者の人なんじゃないかな」
穏やかな声はそう言ってまた私の耳を甘くくすぐり始める。織田さんの声は耳に心地よかった。
とても安心できた。好きだと、単純に思える声だった。
「仕事柄話を聞くのは得意なんです。良かったら聞かせてください。溜め込んでることがあるなら力になれるかもしれないし」
「そんな……私なんかの話なんか……それに、その……お金を支払ったりもできません」
正直にそう言ったら笑われてしまった。
「ごめんなさい、仕事を盾にしたらそうなっちゃうのか。そんな重く受け止めないでください。ただの世間話くらいの気持ちで、これも何かの縁だと思って」
「……縁?」
「僕は美山さんと縁を感じたけどな。ピアスを見つけられたのもそう思いました」
「私も……」
「え?」
「感じました……縁を」
失くしたピアスが戻るのは運命めいた再会を示す。
ブルートパーズには、引き寄せの意味が込められた、引き寄せのパワーが強い石。
――縁を引き寄せるスピリチュアル効果。
母が、私に引き合わせてくれた人かもしれない。その時私はそう思ってしまっていた。
11
お気に入りに追加
190
あなたにおすすめの小説
ヤンデレエリートの執愛婚で懐妊させられます
沖田弥子
恋愛
職場の後輩に恋人を略奪された澪。終業後に堪えきれず泣いていたところを、営業部のエリート社員、天王寺明夜に見つかってしまう。彼に優しく慰められながら居酒屋で事の顛末を話していたが、なぜか明夜と一夜を過ごすことに――!? 明夜は傷心した自分を慰めてくれただけだ、と考える澪だったが、翌朝「責任をとってほしい」と明夜に迫られ、婚姻届にサインしてしまった。突如始まった新婚生活。明夜は澪の心と身体を幸せで満たしてくれていたが、徐々に明夜のヤンデレな一面が見えてきて――執着強めな旦那様との極上溺愛ラブストーリー!
腹黒上司が実は激甘だった件について。
あさの紅茶
恋愛
私の上司、坪内さん。
彼はヤバいです。
サラサラヘアに甘いマスクで笑った顔はまさに王子様。
まわりからキャーキャー言われてるけど、仕事中の彼は腹黒悪魔だよ。
本当に厳しいんだから。
ことごとく女子を振って泣かせてきたくせに、ここにきて何故か私のことを好きだと言う。
マジで?
意味不明なんだけど。
めっちゃ意地悪なのに、かいま見える優しさにいつしか胸がぎゅっとなってしまうようになった。
素直に甘えたいとさえ思った。
だけど、私はその想いに応えられないよ。
どうしたらいいかわからない…。
**********
この作品は、他のサイトにも掲載しています。


【R18】幼馴染がイケメン過ぎる
ケセラセラ
恋愛
双子の兄弟、陽介と宗介は一卵性の双子でイケメンのお隣さん一つ上。真斗もお隣さんの同級生でイケメン。
幼稚園の頃からずっと仲良しで4人で遊んでいたけど、大学生にもなり他にもお友達や彼氏が欲しいと思うようになった主人公の吉本 華。
幼馴染の関係は壊したくないのに、3人はそうは思ってないようで。
関係が変わる時、歯車が大きく動き出す。

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される
奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。
けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。
そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。
2人の出会いを描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630
2人の誓約の儀を描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

ウブな政略妻は、ケダモノ御曹司の執愛に堕とされる
Adria
恋愛
旧題:紳士だと思っていた初恋の人は私への恋心を拗らせた執着系ドSなケダモノでした
ある日、父から持ちかけられた政略結婚の相手は、学生時代からずっと好きだった初恋の人だった。
でも彼は来る縁談の全てを断っている。初恋を実らせたい私は副社長である彼の秘書として働くことを決めた。けれど、何の進展もない日々が過ぎていく。だが、ある日会社に忘れ物をして、それを取りに会社に戻ったことから私たちの関係は急速に変わっていった。
彼を知れば知るほどに、彼が私への恋心を拗らせていることを知って戸惑う反面嬉しさもあり、私への執着を隠さない彼のペースに翻弄されていく……。
独占欲強めな極上エリートに甘く抱き尽くされました
紡木さぼ
恋愛
旧題:婚約破棄されたワケアリ物件だと思っていた会社の先輩が、実は超優良物件でどろどろに溺愛されてしまう社畜の話
平凡な社畜OLの藤井由奈(ふじいゆな)が残業に勤しんでいると、5年付き合った婚約者と破談になったとの噂があるハイスペ先輩柚木紘人(ゆのきひろと)に声をかけられた。
サシ飲みを経て「会社の先輩後輩」から「飲み仲間」へと昇格し、飲み会中に甘い空気が漂い始める。
恋愛がご無沙汰だった由奈は次第に紘人に心惹かれていき、紘人もまた由奈を可愛がっているようで……
元カノとはどうして別れたの?社内恋愛は面倒?紘人は私のことどう思ってる?
社会人ならではのじれったい片思いの果てに晴れて恋人同士になった2人。
「俺、めちゃくちゃ独占欲強いし、ずっと由奈のこと抱き尽くしたいって思ってた」
ハイスペなのは仕事だけではなく、彼のお家で、オフィスで、旅行先で、どろどろに愛されてしまう。
仕事中はあんなに冷静なのに、由奈のことになると少し甘えん坊になってしまう、紘人とらぶらぶ、元カノの登場でハラハラ。
ざまぁ相手は紘人の元カノです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる